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86 勇者の息子のスケジュール

 という訳で親父は新しい嫁と娘を連れて『アフロディア』で魔大陸に帰って行きました。

 俺だけを置いて。


 屋敷の使用人は大喜びです。世話をする主人の一人が残ったからです。いつもは随分暇してるようですね。


 宰相のムラサメ氏も大喜びです。親父が俺に後の仕事を任せたと聞きあれもこれもやらせようと画策してるようです。

 早速早朝からジュリアさんが迎えにやって来ました。魔人国防衛隊を鍛えて貰えると聞いたらしくウキウキです。そんなに訓練とかしたいかな?ドMだな。


 ジュリアさんを筆頭に五人全員が整列している。取り敢えず来ないだの巨大魔獣との戦闘で気になった点を挙げていく。


「魔人は膨大な魔力を体内に秘めているのに魔法の効果はそれ程じゃないんですよね」

「どういう事かしら?」

「元から積んでるエンジンのパワーに頼ってそのまま魔力を放出してるから…でしょうか」


 試しに基本のファイヤーボールを飛ばして貰う。

 標的を焦がす火球。うん、魔大陸の住人の放つファイヤーボールより威力が低い。俺が試しに放ってみる。体内に魔力を循環させ魔力を練る。いい感じに身体を巡っていく魔力。指先から爪程の小さいファイヤーボールを飛ばす。標的に当たると爆砕する。標的は跡形もない。

 やはり魔人達は魔力を循環させるという行為をしてない。

 五人が貼る結界の威力がイマイチ足りないのはそれなんじゃ、と指摘してみる。五人が涙を流しながら俺にお礼を言い全員が真剣に魔力循環の方法を聞いて来る。魔大陸じゃ幼児だってやってる事だから基礎の基礎だ。隠す必要などないだろう。


 五人の魔力循環を見てからその足で中央都内にある魔獣対策部に立ち寄る。ここは魔人国外周の【転移門】の管理をしている部署だ。餌を撒いてる【転移門】を管理している所だね。瘴気の為に巨大魔獣を引き寄せる為にゴミや廃棄物を積んでいる場所だ。

 大体出現の頻度は二ヵ月に一度くらいだそうで。


 じゃあしばらくは勇者の出番はないよね?ちょっとこの国の外に行きたいんだけど?いいですか?


 宰相のムラサメ氏はあまりいい顔をしないがまあ親父相手ならわかる。俺はカナコに頼んでおいた予備のスマホをムラサメ氏に渡す。これで俺や親父と連絡が取れる事を伝える。余計なアプリは全部消してるから電話だけの機械だ。充電器のアダプターはこの国の電源でも使えるようにカナコに弄ってもらった。


 宰相は魔人国の探査隊として外世界の調査を請け負ってくれるなら喜んで外に出すという。親父も名目はそうだったのだが殆ど報告が無かったようだ。ずっとあの超巨大魔獣ばかり追っていたんだな。


 堂々と仕事として出国できるのだから良かったと思おう。すると魔人国防衛隊のメンツが一緒に行く、と言い出した。ジュリアさんがカナコの開発した瘴気ドロップがあれば魔人である彼らも外世界を探検出来ると思ったらしい。正直足手まといなので全力で断る。こっちは飛んで移動するのだ。竜車で追いかけられても足手まといだ。魔人都市の守り手である君らが都市を離れてどうするんだと説教する。何とか思い直して貰ったが自分達で探検するには止めないのでいつか頑張ってもらいたい。


 という訳で外世界の視察を兼ねて【転移門】の様子を見に魔人国を旅立つ。

 まず最初は魔人国のすぐ東に広がる砂漠だ。この地域にもそれほど数は多くないが転移門レーダーに反応がある。

 さあ潰して回ろうか。


 砂漠に魔物の反応を見る為探索魔法をかける。すると驚いた事に数百人単位の生命反応を見つけた。何かの生命体の集落が砂漠に存在するようだ。そちらに向かって飛行を続ける。

 

 しばらく飛ぶと緑色に開けた土地が見えて来た。こんな砂漠のど真ん中に緑?すると中央にどでかい池がある。いわゆるオアシスというやつか。


 さてここに居る生命体は魔獣か人類か…?恐る恐るオアシスに足を踏み入れるとそこには幾つかの建築物があった。知的生命体確定ですな。柵で囲って鳥のようなものを飼っているらしい。この大陸だと小竜類か?思った通り大きめのニワトリサイズのラプトルぽい小竜が数匹見える。ほのぼのとした農村風景…なのか?

 やがて第一村人発見。なんかすごくビジュアル的には慣れ親しんだ種族に見える。尖った耳先。シュッとした華奢な森人風のルックス。エルフだ。こんな砂漠になんでエルフがいるのか?何人も出てきた。みんなエルフのようだが…肌の色が黒い。砂漠で日焼けしたのかな?

 

 ちょっと声をかけて見ようと一歩踏み出すと途端に大音量の警報が鳴り響く。と同時に足元を攫うようにワナが起動した。俺の足を空中に引きずり上げていく。あっという間に村人が駆け寄って来る。


「何者だ⁉︎」

「女、この里に何用だ⁉︎」

 

 全員ナイフや短刀を逆手持ちして構えている。隙がない。みんな何かしらの武道の心得がある人達のようだ。


「こ、こんにちは…ちょっと旅行中でして…」


 どうやら信じてはくれないようだ。後ろ手に縛られて村の一画にある石造りの建物の牢屋にぶち込まれた。ううむ可憐な少女に御無体な。


 その日のうちに尋問が始まるがどうやってこの里を知った?とか何故里に入り込めた?とかしつこく聞いて来る。どうやらこの里は普通に来たら入れない隠遁術が施してあるらしい。入って来た段階で只者でないという事だ。あーそりゃ怪しまれるか。


 外の大陸から来たとか言っても多分信用しては貰えないだろうしどうしようかな。などと思っていると月の精霊が話しかけて来た。何か彼らが自白薬を用意しているらしい。月は癒しの精霊なので身体に作用する毒物にやたら詳しい。それに彼女がいれば毒物は解毒される。ここは敢えて飲んでみようか。


 出された液体を飲み干しなんか気持ちよくなってくる。効き目が出て来たのか?さあ彼らの質問を聞こう。

 年の頃は四十代の落ち着いた趣きのおっさんエルフが現れる。エルフであのルックスだと相当の歳だ。


「白いエルフの女よ。お主どこからやって来た?」

「海の向こうの大陸。魔大陸からよ」


 取り敢えず正直に言ってみる。信じようが信じまいが嘘を言っても仕方がない。


「何をしに来た⁉︎」

「だから観光よ。この大陸の人類に会いに来たの。お友達になりましょう」

「嘘をつくな。東国連邦の回し者か⁉︎お主もエルフである以上ニンジャであろうが⁉︎」


 なんとこの大陸ではエルフはニンジャを生業にしているらしい。これはびっくり。もっと詳しく聞きたい。


「ここは何という所?オアシスがあって緑が綺麗ね」

「ここはサイラック…ダークエルフの里だ。本当に知らなかったのか⁉︎」

「ダークエルフ…初めて会ったわ」


 日焼けしたエルフじゃなかったのか。この世界のダークエルフってどういう種族なんだ?まさか地球でいうところの闇堕ちしたエルフじゃないよね。集団で存在するんだから全員闇堕ちしてるなんてこたぁないよ、うん。

 要するに彼らは『東国連邦』とやらの反対側に雇われている『ダークエルフのニンジャ集団』なのだな。


「で、東国連邦というのはどこにあるのかな?」

「砂漠の東の端に…何を聞いとるんじゃ?質問はこちらがするわ‼︎」

「貴方方は何処に所属しておられるのかな?」

「所属しておる訳ではない。此度の戦は南国連合に雇われただけじゃ…いやそうでなくてお前の所属ば何処だと聞いておるのだ‼︎」

「魔大陸の冒険者ギルドに所属するただの冒険者よ」


 ふむ、砂漠地帯は東と南に分かれて戦争をしているのか。


 俺の回答にまったく納得がいかないのか頭を抱えるおっさんダークエルフ。


「こうなったら拷問で吐かせましょう‼︎」


 隣の若いダークエルフが痺れを切らして言い出す。おいおい穏やかじゃねえなぁそんなに余裕がないのかいこの里は?

 流石に拷問はごめんこうむるので脱出を考え始めた時、里の外が急激に騒がしくなった。同時に爆破音が響き始める。

 若い女のダークエルフが牢屋に駆け込んで来た。


「頭領‼︎東国軍の強襲だ‼︎」

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