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85 瘴気ドロップ

 俺達一家はしばらく魔人国に居座って瘴気の研究をする事にした。

 カトレアさん達を魔大陸に招待出来る様にするためだ。

 中央都庁の中を俺とカナコとレンが魔人防衛隊のジュリアさんの案内で闊歩する。瘴気計測班の説明を聞く為だ。 

 ジュリアさんはエルフとドワーフと鬼が勇者の娘と聞いてまだ多少混乱しているのか説明が辿々しい。


 瘴気に関しては魔大陸に住む住人にとってはあまり身体にいい物ではなく、地球で言うところのタバコやCO2みたいなものだ。不快と言えば不快だが猛毒…という程ではない。

 空気含有量の何%が適切だとか巨大魔獣が現れる前兆とかデータ的な数値をカナコが聴き取っていく。


 俺は俺で気になっていた事があった。この国の生物は家畜も含めて全て魔石を腹に抱えた魔獣だ。恐らく瘴気のある大気で暮らしている内に変質して行ったんだろう。


「家畜とか食肉に回した魔獣から魔石が獲れるでしょう?魔人国では魔石をどうしてるんですか?」

「魔力発電の原料にしてますね。魔人国の機械を動かす動力は電気なんですよ」


 魔大陸では魔石は魔力の素として粉にしたり媒介にしたり通貨の替わりにしたりしてるがこの国では炉で燃やして水を沸かして蒸気にして発電タービンを回してエネルギーにしているそうだ。身体の中に魔石を持っている魔人は魔力には苦労していないらしい。どおりで一般市民が相当な魔力持ちなはずだ。その代わり身体の魔力炉を回す為に常に空気中に瘴気が必要なのだ。

 そういえば俺達は魔力を身体に巡らして練って増やしたり使い果たしても一晩眠れば元に戻ったりしてるがどういう仕組みなのかな?空気中の魔素を吸収してるのかな?それにしては魔素のほとんど感じない地球でも魔法は使えるしな。


 カナコが何となく言う。


「こっちの魔石と魔大陸の魔石って同じ物よね?どちらも大気中の魔素が体内で固まった物という認識で合ってる?」

「ああ、多分」


 俺もそんなに魔大陸の状態に詳しい訳じゃないので曖昧な返事になる。

 ずっと思考を重ねていたレンが俺に言う。


「兄様よ、魔石ドロップって知ってるかな?」

「?」

「魔大陸の住人の病気の一つにですな、体内の魔力循環が上手くいかず魔力不足で倒れるというのがあるのですが…その治療法で魔石を砕いて飴に練り込んで舐めさせるというのがあるのですよ。それが魔石ドロップ。子供が具合悪くなくても欲しがるってので有名な薬です」

「…‼︎もしかしてそれが応用出来る⁉︎」


 おお、そんな方法があったか‼︎さすがモンマ家の頭脳‼︎


「かも知れません。適量な含有率を探り当てなければなりませんが」

「魔人さんに協力して貰って治験を繰り返さないといけないってわけか」


 俺達は側にいるジュリアさんを見た。ジュリアさんは会話の内容を理解していない様子だ。うん、このまま連れていこう。


 ジュリアさんを連れてモンマ屋敷に戻る。リィカと遊んでいるミーユちゃんが駆け寄って来る。


「ユートお姉ちゃん‼︎お菓子作り教えて‼︎お姉ちゃんが一番作るの上手だってリィカお姉ちゃんが言うの‼︎」


 うん、可愛い。すぐにでも一緒に厨房へ…と思ったがレン達の視線が痛いので約束だけして『アフロディア』に乗り込む。


「ちょっと実験しに行ってきます‼︎」


 と屋敷の人間に告げ『アフロディア』が飛び立つ。目指すは魔人国領土の外。大気に瘴気が混ざらない地域だ。


 魔人国の東部には広大な砂漠地帯が広がる。魔人国の人間は生命の危険に関わるので瘴気のないこの土地まで足を伸ばした者はいないらしい。

 カナコは自分が持っている魔大陸の魔石と魔人国で購入した魔石を分けて砕いている。俺は魔導コンロで飴を煮詰める。レンは試しに自分の【ボックス】から作り置きの魔石ドロップを取り出してジュリアさんに舐めさせて砂漠地帯に立たせる。


「体調が悪かったら言ってくださいね」

「あ、あたし実験台…」


 大丈夫死なないように気をつけるから。あ、みるみる顔色が悪くなる。苦しそうだ。『アフロディア』にジュリアさんを収納する。『アフロディア』には瘴気充満した特別区域を設けている。

 

「し、死ぬかと思いましたよ…」


 瘴気部屋で息を整えるジュリアさん。魔大陸の魔石ドロップでは瘴気が薄すぎるらしい。魔石ドロップは3%くらいしか成分が入ってないらしいからな。今度は15%くらいで行ってみよう。


 繰り返し繰り返しジュリアさんに飴を舐めさせて確認していった所、魔大陸の魔石では含有率50%が魔人の身体にちょうど合う事がわかった。凄まじい濃度だ。魔大陸の人間が舐めたら逆に魔力過多で障害を起こす。

 続けて魔人国の魔石で実験を繰り返す。

 どうやら魔人国の魔石の方が魔人の身体に馴染みがいいらしく15%くらいの含有量で快適に過ごせる事がわかった。

 ヘトヘトになりながら最後まで実験に付き合ってくれたジュリアさんにはスイーツ三昧でお礼をしたい。

 これでどうにか魔人であるカトレアさんとミーユを魔大陸に連れていく事が出来そうだ。うちの家族が大挙して魔人国までやって来るのでもよかったが妊婦であるグリュエラさんには瘴気は毒だろうという事で取り止めになったのだ。


 モンマ屋敷でミーユとリィカを両脇に添えてスイーツ製作講座を開く。楽しいひと時だ。

 ミーユはカトレアさんと親父に、俺は約束通りジュリアに振る舞う。パンケーキ、スフレ、ショコラ、マカロン、カステラ、プリンアラモード…


「美味うま、魔大陸ってこんなにも甘い物のレパートリーが豊富なんですねえ。あたしもいつか行ってみたいわぁ」


 うん、地球のスイーツなんだけどね、大半は。


 魔大陸製の魔石50%ドロップと魔人国製の魔石15%ドロップを大量に作り飽きないようにいろんなフルーツ味を付けていく。大抵は魔大陸で取れた果実で作ったジャムを練り込んでいる。ジュリアさんに聞いてミーユが好きな果物もジャムにして練り込んでいく。この作業もみんなで楽しくやる。


 一日中これを舐めていれば魔大陸でも活動出来るはずだ。寝る時は『アフロディア』の寝室を瘴気部屋に改造して対処する事にした。

 こうして新しい家族ご対面の準備は整った。すでに魔大陸のモンマ邸の住人には八人目の奥さんと娘の事は報告済みである。

 正直グリュエラさんにどう伝えようか迷ったがトーカさんとドレスティアさんが伝えてくれたようだ…大丈夫かな…?ちゃんと伝わっているのだろうか心配だな。

 親父には針のむしろかも知れないが子供達は大まか新しい家族が増えて喜んでいる。アリエルやマリージュ、アベリアにも早く会わせてあげたい。


「あ、ユート。お前は魔人国で留守番な」


は?何を言っているかな親父?


「お前俺の仕事を引き継いでくれると言ったよな。この国で巨大魔獣に備えつつこの国の外の【転移門】を調べて危険ならば潰して行ってくれ。俺が魔人国に戻るまで頼む。あ、防衛隊を鍛えるのも勇者の仕事な。忘れるなよ」


 マジか。がっつり自分の【勇者】の仕事まで押し付けるか。(【転移門】潰しだけだと思ってた!)


 ちょっとそれは仕事多過ぎるんじゃないの⁉︎


 親父はニヤリと笑いながらミーユとリィカに手を引かれカトレアさんと共に『アフロディア』に乗り込んだ。


「いってらっしゃいませ」


 見送る屋敷の使用人に紛れて立ち尽くす俺。

 こうして俺だけ魔人国に残されてしまった。

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