80 現地妻と隠し子
「初めましてましてユートさん。私はカトレア。この子の名はミーユです。…今はマサオさんとこの家で生活を共にしています」
粛々と俺に挨拶をする親娘。頭を撫でられ笑顔で返す魔人の幼女。うん可愛い。可愛いが…俺は俺で目眩で倒れそうだ。妊娠中のグリュエラさんが頭に浮かぶ。しかしモンマ家長男としての責任がある。確認はしなくてはならない。
「カトレアさん…貴女とマサオは結婚をしている…という事ですか?」
「…はい」
「そのお嬢さんはマサオの娘…だと」
「…その通りです」
ふわああああああああああ
俺は思わず膝から崩れ落ちた。やってくれたな親父。
いやしかしこの人は真実を知っているのだろうか⁉︎本国に七人の嫁がいる事を。子供が七人いる事を。
「…申し訳ないが貴女はマサオの奥さんの数をご存知か?」
執事のヨハンソンさん始め使用人一同が騒つく。彼らには初耳かも知れない。辛い事実で主人を幻滅させてしまうかも知れないが仕方ないマサオの自業自得だ。するとカトレアさんが静かに答える。
「旦那様にお聞きいたしました。ご自分の国元に七人の妻がおられる、という事は」
話していたのか。ならばこの人は親父に相当信頼されているという事だ。
対照的に使用人達の騒めきが凄いことになってる。
「な…七人…‼︎」
「あっちの方も勇者だったのですね…‼︎」
「俺達の出来ない事を平然とやってのける…‼︎」
「そこに痺れる憧れるうー‼︎」
なんか失望した者は誰もいないようだ。皆新たな勇者伝説に打ち震えている。
「…私の話を聞いていただけますでしょうか?どうぞリビングへ」
中央間からリビングに通されるとそこは華美にならない落ち着いた調度品に囲まれた過ごしやすそうな暖炉を囲む部屋だった。ソファの上にはミーユちゃんの遊んでいたと思われる騎竜のぬいぐるみや絵本が置かれている。眺めていると慌ててカトレアさんが片付けようとするのでかまいませんよそのままで、という。
お母さん達はお話があるのでここで大人しく待ってて、とミーユちゃんに言い聞かせるカトレアさん。不安げな表情で俯いているミーユちゃんに俺は【ボックス】から甘いもの…マカロンを取り出す。色とりどりのマカロンを10個ほど並べるとミーユちゃんの表情が驚きに変わる。
「これはお菓子だからミーユちゃん食べていいよ」
そう言うとミーユちゃんはカトレアさんを見る。カトレアさんは戸惑っているようだ。
「私妹が六人いて料理作るのが得意なんですよ。特に甘いもの好きが多くていつも【ボックス】に入れて持ち歩いているんです」
カトレアさんはそれを聞いてミーユちゃんに
「二つだけご馳走になりなさい。お母さんにも一つちょうだい?残りは取って置きましょうね」
と言い聞かせた。ミーユちゃんはきゃっきゃいいながら選べないーとはしゃいでいる。うん可愛い。カトレアさんの躾けも行き届いているようだ。ちゃっかりカトレアさんも一つ確保してるし抜け目ない。
「すみません、あのような珍しいお菓子初めて見たものであの子ったら…」
「勝手にお菓子をあげてすみませんでした。小さい子にはつい甘くなるタチで」
お茶を入れて一息ついた後カトレアさんが話し始める。
「…実は私共は表向きは妻子を名乗っておりますが…私はマサオとは婚姻関係ではありませんしこの子もマサオとは血の繋がりはありません。マサオはただ私達を保護して下さっているだけなのです」
詳しく話を聞くとミーユちゃんのお父さん、カトレアさんの旦那さんは親父がこの国に来てからずっと片腕役をしてくれていた魔人国政府の武官だったそうだ。親父とは喧嘩をしながらも一番の理解者で戦闘の補助から生活の面倒まで一手に引き受けていたという。親父のこの国での盟友と言っていい。カトレアさんとの恋愛・そして結婚も親父は常に喜んで見守っていたらしい。どうせニヤニヤして先輩ヅラしてアドバイスなんかしちゃったりしたんだろうな想像つくわ。
そんな旦那さんはミーユちゃんが産まれる直前に現れた超巨大魔獣戦の犠牲になった。運悪く親父が居なかった時期で親父が戻って来た時は超巨大魔獣が暴れ飽きて【転移門】で移動する直前だった。魔獣は倒せずこの国の大切な友人は生命を落とした。
まただいぶ後悔したんだろうな想像が付く。親父の性格だと自分が許せないはずだ。
妊娠中で不安定だったカトレアさんの保護を申し入れて自分があてがわれた屋敷に住まわせ世話をする事にしたという。やがてミーユちゃんが産まれたのだがその時に魔人のメディアにスクープされスキャンダル化したのだと。勇者が人知れず結婚をしていたと大騒ぎになったそうな。
親父は言い訳もせずメディアを無視し続けていたが
追い立てられて屋敷を人知れず出て行こうとしたカトレアさん達を見て偽装結婚を持ちかけた。その時に国に七人の妻がいる事も自分が王をやっている事も話したと言う。そして亡き友に誓って君達親娘を守るとまるでプロポーズみたいな事を言ってのけたそうだ。
それ以来親父の留守を守るのが自分の仕事だと決めてこの屋敷を預かっているのだと言う。
ええ、何も文句はございません。だってこの人達覚悟はとうに決めているのですもの。
ついでに自分は長女ではなく長男だと言ってみる。たいそう驚かれ魔大陸では性転換の文化があるのかとまで聞かれたがエルフの種族特性という事で納得してもらう。
【エルフ石のペンダント】を閉まって久々に男に戻って見せた。やはりというかカトレアさんもミーユちゃんも俺の顔を見て息を飲む。
「「パパ‼︎」」
ミーユちゃんが思わず駆け出して抱きついて来る。
「パパ、お帰りなさい‼︎いつ帰って来たの⁉︎」
「ごめん、パパじゃないんだ。僕はユート。君のお兄ちゃんだよ」
「ふえ⁉︎」
4歳児には中々難しいだろうけど見て納得してもらうしかなかろう。ミーユちゃんを膝に抱いたままエルフに戻る。
「‼︎お姉ちゃんになった‼︎」
まじまじと俺を見つめるミーユちゃんを撫でながら
「本当はお兄ちゃんなんだ。よろしくね」
と改めて挨拶をする。俺の他に六人の姉がいると話すとすごいすごい、会ってみたいと大興奮だ。落ち着きなさい、とカトレアさんが嗜める。
それからみんなが豪華な夕食で歓迎してくれた。こんな突然現れた娘を名乗る異種族の人間を歓迎してくれるなんて。ゆっくりお風呂に入って暖かいベッドでその日は眠った。
翌朝。スマホからの呼び出し音で目を覚ます。知らない天井を見上げる。
魔大陸は春から夏の気候だったが魔人国は秋から初冬にかけての季節だろう、少々肌寒い気候だ。
ん?呼び出し音? スマホを見るとカナコから電話が入っている。なんだこんな早朝に。
「カナコ?なんだこんな時間に」
「こんな時間?そっちは朝なの?あ、もうじき着くから着陸のナビして!お願い‼︎」
はあ⁉︎
まだ頭がぼーっとしていると屋敷の表がなんだか騒がしい。メイドの悲鳴も上がっているようだ。着替えて急いで外に出る。
すると魔人国の上空にヤバいものが浮いていた。
異世界で見た空中戦艦だ。




