75 未知の大陸へ
「じゃあちょっと親父を呼び戻して来るわ」
モンマ邸に戻ってみんなにそう宣言する。母親組はなんだかんだ気になっていたようで俺が行くと聞いてホッとしているようだ。
妹組は我関せずで誰も危機感を持っていない。そりゃそうだ、説明してないからな。
【転移門】と【悪魔】の関係を知っているのは妹組ではアベリアとカナコだけだ。
アベリアはまだ聖王国から戻らないしカナコも新しいおもちゃを弄るのに夢中で部屋に篭っている。
俺は庭に出て作成銃を操作する。親父が最後に開いた転移門の場所をサーチ。…やな予感がすると思ったんだ。よりによって大陸の西側にある数千の光点の真ん中だ。一番避けてた場所だ。何してくれてんだよ親父。
深呼吸して覚悟を決める。銃から弾丸を放ち転移門を起動する。
光が消え転移した先はー
「なんだここ?…馬小屋?」
ふと見上げると馬…ではなく竜だった。二足歩行のラプトルサイズの竜だ。周りには柵や飼葉が積まれているのでこの竜は飼われているのだ。竜が騒ぎ出す前に小屋を出る。
どうやらここは何処かの村らしい。農地と牧場が広がる様子がわかる。空を見上げる。薄紫の瘴気が漂う。この空は見た事がある。…クトゥル◯邪神が現れた時の海上の空だ。なんてこった…
呆然と空を眺めてたら人の気配を感じた。牧場の方から荷竜車がやって来る。荷竜車には農民の親子…?
…農民⁉︎前から来る二人は凄まじい魔力量を感じる。【悪魔】並の力だ。どういう事だ?
農民の親子の瞳は赤く染まっていた。
農民は俺を見つけると話しかけて来る。
「あれあんた、魔人じゃないねえ。魔人以外の人間はこの国に外から近寄れないはずなのに珍しいこった」
ん?言葉が通じる。【転移門】の効果のせいか?それに魔人⁉︎ この人達は魔人なのか⁉︎この国だって?人間は外から近寄れない?あの紫色の瘴気のせいか?
「そうかあんた【転移門】潜って来ただな?たまにおるだよそういう【迷い人】が。しょうがない乗りな。村のお役人の所へ案内してやるべさ」
「おじさん、【転移門】知ってるの⁉︎」
「そらこの国の名物みたいなもんじゃからのう。遠い昔この国にやって来た開拓民が利用したんじゃ。そこら中に転がっとる」
開拓民⁉︎
この人達開拓民の子孫か?この人達が使った訳ではないのか?現状では情報が不足している。ここは彼らの言う【迷い人】を装って情報を集めよう。
俺は大人しく農民のおじさんに同行し村のお役人の所へ行く事にした。
荷竜車の藁束に即席の座席を作ってくれる農民の少女。マリージュくらいの年齢だろうか。赤い瞳にはまだ慣れないし肌は透き通るくらい真っ白だ。少し青味がかってるのか?中々の可愛らしさだ。俺をチラチラ見てる。
「なぁに?エルフは初めて見るの?」
「え、エルフって言うだか…こんな綺麗な人初めて見ただよ。その銀色の髪の毛本物だか…?」
「ふふ、そうだよ。ありがとう」
頰が真っ赤だ。うん可愛い。褒めてくれたのでお礼を言う。少し打ち解けて来たので牧場の事や作物の種類などを聞いて見る。騎乗竜は魔人の文化圏では常識らしい。農作物は竜の好物の牧草中心、後はキャベツ・イモ等俺らの国と変わらない。彼らも国外の状況は判らないらしいので俺に何処から来たの?と聞いて来る。
「お…あたしの住んでる大陸は獣人や亜人や人間といったいろんな人種が集まって暮らしてるよ」
「ねえ、ねえ魔人も居るの⁉︎」
「…魔人は会った事ないなあ。何処かにいるのかも知れないけど」
「ふうん…」
答えを聞いてあからさまにガッカリする少女。
「わしらはこの大気がない所に住むのは難しいからのう。お前も大人しくするんじゃぞ」
「…つまんない…行ってみたいなぁ他所の国…」
少女は足をプラプラさせて不満そうだ。
村の中央部に着いた。それなりに住人の姿を見るがみんな肌が透き通るくらい白くそして瞳が赤い。魔人の村だ。警備所…というかこのスケールは駐在所だな、中から日本の警察官のような制服を着た魔人が二人出て来た。
「どうしただ?」
「なんかこのお嬢さん【転移門】事故に巻き込まれたようでよ、保護してやっておくれな」
「そうかぁ。お嬢さん大変だったなや。お話聞かせてもろうてええだか?ま、入んなさい」
駐在所の中は10畳くらいの小部屋に机が二つ。見れば見るほど日本の交番にそっくりだな。警察官の一人がマニュアルのようなものを取り出して拡げながら俺に質問をしていく。慣れたものだ。本当に頻繁にあるんだな転移事故。
俺は素直に来た理由を言ってみる。
「転移門に巻き込まれた親父を捜してたら此処に来たんだ」
すると気の毒そうな表情でお茶とお菓子を出してくれた。親子で巻き込まれるなんて…と嘆く。なんかいい人達だなこの村の魔人。
警察官が伝書鳩のような小型飛竜に手紙を付けて飛ばす。これで中央から迎えの竜車が来るからそれまでこの駐在所で過ごしなさい、と勧められる。奥から女性の魔人が出て来て部屋に案内してくれる。どうやら年配の方の警察官の奥さんらしい。
なんだかアットホーム過ぎるな魔人。
どういう国なんだろうここは。
中央から迎えが来るのに2、3日かかるというのでその間村の駐在所にお世話になる事になった。
何かの葉っぱのお茶とお茶受けを出してくれる魔人の奥さん。隠れてレンから貰った毒物に反応する紙に付けて見る。反応無し。口にする。ほうじ茶に似てるな。お茶受けは小麦粉を練って黒糖を練り込んである…かりんとう?どちらも馴染みのある懐かしい味だ。
「マータ茶にチャべの実を粉にして黒蜜と練って焼いたお菓子だよ。黒蜜はこの村の特産なんだ」
名前はともかく作物は似たような物が採れるようだ。黒蜜は蜂蜜ではなくある植物の真っ黒な煮汁が原料らしい。貴重な糖分だとか。
日が沈むとだいぶ寒くなって来た。そうだ北半球だから季節は魔王国とは反対なんだよな。晩秋という頃か。エルフ服だと確かに寒い。【ボックス】からフリースを引っ張り出して羽織るとフリース生地にびっくりされる。うん、ユニ◯ロで買った服だからね…あんまり突っ込まないで。
なんか決死の覚悟でこの大陸に来たが…人の温もりがあったかいんですが…
なんなのここ?




