60 ギルド学院の新しい春
魔王都。
この春、また新しい生徒達がギルド学院に入学していた。特に昨年度一年でSクラス冒険者にまで登り詰めた伝説の生徒の存在が猛烈なギルド学院フィーバーを巻き起こし本年度の入学希望者数が例年の数十倍に跳ね上がり真剣に入学試験で振り落とす羽目になったしまった。
例年ほぼスルーで入学出来たのに今年は違った。
この為に我が妹天使族のアリエルが実に割を食った。
ギルド学院入学はアリエルの生きる目標の一つだった。大元は親父に会う事だったが自分の殱滅天使としての実績を積む為にギルド学院を最優秀で出てエリート冒険者としてデビューすると言うのが大きな目標だったのだ。
彼女は実技は鍛えた。鍛えに鍛えた。
だが座学はほぼノータッチだった。
運の悪い事に学院は本年度からふるいにかける為に急に座学を重視し始め試験での合否の割合を座学寄りに増やしたのだ。
アリエルは試験一週間前にそれを知る事になった。
元々殱滅天使は頭脳労働に向いていない。母のガブリールに頼ってももちろんどうにもならなかった。
「レンお姉ちゃん、助けてええええええええ‼︎」
魔王都に借り上げたモンマ家に駆け込んで来たアリエルが学院の新学期準備で忙しいレンに泣き付いた。
なんたって前年の最優秀生徒だ。いやしかし。
いやもう学院関係者に助けを求める段階でアウトなんだが。大体入学試験の座学の問題を作ったのはレンである。聞いたら完全にアウトだろ。
しかし妹の夢を潰したくない。なのでレンは頭を捻ってリィカを呼んだ。
リィカにわかるように座学の基礎の基礎を復習させる。隣にアリエルを座らせて。
リィカは見事にこの一年習った事が頭から抜けていたので分かーりやすく分かーりやすくリンが丁寧に教える。
リィカが理解出来るという事は大抵の人間が理解出来るという事なのだ。
おかげでアリエルは座学の入学試験を何とか無事通過した。
リィカが間違えてもう一度学院の入学試験を受けそうになったのはご愛嬌というところか。
新学期を前にした女子寮。新しい生徒達の喧騒で一杯だ。微笑ましい風景である。俊敏そうな猫獣人と魔法特化した人間の女の子が寮の一部屋にいた。
その部屋に勢いよく入って来る少女。髪は金髪ロングストレートヘアー、焦げ茶色の瞳、背中に白い羽根が生えている。
「アハハハハ‼︎私は殱滅天使アリエル‼︎ この学院の最優秀を目指す者よ‼︎ 愚民どもよ膝間付きなさい‼︎」
呆気に取られる同室の新入生。すかさず後ろにいた黒い人影がアリエルの頭をぶん殴る。
「御学友にその様な口の聞き方なさるんじゃありません‼︎モンマ家の御息女らしく振る舞って下さいまし‼︎」
黒い衣装に黒い髪、黒い瞳のイカした猫耳メイドさん。黒い尻尾が印象的。そう、ミヤマさんだ。昨年に続いて我が家の問題児の監視役を請け負って貰ったのだ。これはありがたい。
「痛いぞーミヤマ‼︎」
「何言ってるんです!ほら御学友に改めてご挨拶を」
大人しく羽根を畳んでおしとやかに改めてご挨拶。
「私はアリエル=モンマ。天使族で13歳。お兄とお姉が伝説を作ってしまったのでプレッシャー半端なくてほんとしんどいです。仲良くしてね」
とぺこり。プレッシャーがキツいのは本音だろう。在学中にいい友達ができますように、とお兄は影ながら祈る。
冒険者ギルドは今日も大賑わいだ。素材採掘・魔物討伐クエストは相変わらず大人気である。故に近隣のクエストは大抵受注されまくっていた。
リィカは春になってからは眼鏡のウサ耳獣人の少女…昨年度の冒険者クラスの委員長達とパーティーを組んでいた。五人組で全員が女性パーティーなのでパーティー名は『深紅の淑女』と言った。レッドドラゴンがいるのでそう改名したそうだ。
この日、彼女らのパーティーは出遅れた。リィカが間違えてギルド学院に足を運んだりしたせいで時間を取られたのだ。
「あー何やってたのよリィカ‼︎もうろくな依頼ないよー‼︎」
「すまぬーミミカ!今まで付いておったミヤマがアリエルのお付きになってしもうてのう、妾は自己管理になってしもうたのじゃ」
「で、自己管理能力は皆無だ、と」
「うむ」
「認めるな‼︎」
委員長…ミミカはそのままギルドに入って依頼を漁るが時すでに遅し。日帰り距離で割りのいい依頼などすでに消えていた。
何日もこんな感じである。こうなると遠征覚悟で稼げるでっかい依頼を受けるしかない。このままではパーティーの拠点の家賃の支払いも滞るのだ。
「おちんぎん…ほしいよう…」
項垂れるミミカにリィカが何かを思いついたように提案する。
「ちょっとDクラスだとキツいかもしれんが妾の故郷の近くで亜竜狩りでもするかの?」
「あ、亜竜って…」
リィカのいう亜竜とはワイバーンやバジリスクのような龍に姿が似てると言うだけで竜種を名乗る魔獣どもの事である。龍族にしたらほんと鬱陶しいらしい。
常時討伐や採集のクエスト対象なので時間など気にしなくてよいのが利点なのだが…
「あたしら上空の敵なんか届かないよ」
「妾がドラゴンになってバッタバタと」
「…それ冒険者としてどうかなと思うよ…」
楽やズルをするといつか手痛いしっぺ返しが来る。ミミカはそう信じている。委員長らしい行持だ。
結局近場の森で薬草類を採取してギルドに納品、微々たる稼ぎでとても夕食にお金が出せないので申し訳ないと思いつつリィカの家…モンマ邸に行って夕食をゴチになるのだった。
「すいませんほんとすいません」
住人の眼を気にしつつ食事を摂るミミカ達に家に帰って来たレンが話を切り出す。
「ねえ委員長、貴女達のパーティーにお仕事依頼したいんだけど」
なんですとー⁉︎




