56 母ちゃんの里帰り
読者が微増していて辛うじて挫けず頑張れる感じです。
相変わらず湿った空気の山の中にある陰気で閉鎖された隠れ家。
それがあたしの故郷の印象だ。
結界に近づくと見張りの兵隊エルフが何人か現れる。
「誰だ?」
「誰だだと?何処のガキだいあたしを知らないなんて」
「100年帰って来なかったら知らない坊主だっているだろうさ」
ババアだ。相変わらず元気だ。くたばりそうもない。
「悪かったねくたばってなくて。で、なんで今になって帰って来たんだい。あんなに嫌ってた里に」
「ちょっと世界樹の姉さんに聞きたい事が出来てね」
怪訝そうな顔をするババアだがあたしの入村を許した。
「ユートは元気になったかい…?あの子はこの里を救った英雄だからね。みんな近況を知りたがってる。」
ユートはまだ聖王国の傀儡だった時の勇者アベリアの進撃からこの里を守って瀕死の重症を負った。その時初めてあたしの父と母はエルフの里を出てサークライまで事情を伝えに行ったと聞く。あの人達がそんな思い切った行動が出来るなんて…
16の時に出て行って数十年。代わり映えしない里の風景。
懐かしくも憎たらしい巨大な世界樹の麓にある元我が家。家の前で二人の見覚えのあるエルフが待っていた。
「父さん、母さん…」
「グリュエラ…」
「…お帰り…」
子供の頃と変わらずあたしを抱きしめる二人。懐かしい匂い。ごめんねこんなにスレた大人になって。口にはしないけど心の中で謝っておく。
父さん母さんはユートの怪我の時からサークライと手紙をやり取りしてユートの様子は把握していたようだ。ついでにあたしの近況も聞いたという。サークライの事だから碌な事書いてないだろうがね…。
母さんがあたしの好物だったベリーのパイを作って置いてくれた。嬉しそうに笑いながら
「これ、ユートくんも好きだって言ってくれたよ」
「あー。アイツは自分で作るからねえ。ここの果物なんて大喜びだろうさ」
一息着いて目的の場所に向かう。世界樹の祠だ。ここはハイエルフでないと入れない神域。すっかり薄汚れてしまったあたしが入れるかわからない。
結界に触れると少しの反発の後、スッと中に入る事が出来た。緑の光が差し込む部屋に多くのドライアドに囲まれた中に緑色の髪をした少女を見つける。
「お久しぶり、世界樹様」
「貴女、よく私に会いに来たわね。【転移門】を使って来たあの世界の住人は例外なく大嫌いなのでしょう?」
当たり前だ。あたしを罠に嵌めマサオに一生の後悔をさせたお前ら【悪魔族】を赦してたまるか。
それでもこいつは遠い昔滅びそうだったエルフを救い土地を与え守って来た。エルフにとっては神なのだ。ただ昔からあたしに祈りを強要したり勝手に好きな時に強制的に呼び出したりするコイツが個人的に嫌いだった。
「あんたが知ってる【転移門】を潜って来た奴の事が聞きたくてね。知ってるんでしょ?聖グローザムの【転移門】を通って来た奴」
「貴女ねえ、私がこの世界に来て何万年経つと思ってるのよ。そんなポッと出の奴なんて知る訳ないじゃない」
「へえ。ソイツが勇者なんて生物兵器を放ってこの樹を切り倒そうとしたのに。あたしの息子を危険な目に遭わせといてそういう事言うんだ」
「…悪かったわよ。ユートには感謝してる。だからといってグローザムの奴が誰かなんてのは知らないわよ。…何が聞きたいの?」
「そもそもあんた達は何処から来た何者かって事よ」
切り株のひとつにどっかりと座る世界樹。ドライアドのお付きっぽい何かがお茶を入れる。
「気が利かないわねグリュ。ユートならこういう時お茶菓子を用意して来るわよ?」
「悪かったな」
あたしも対面の切り株に座る。【ボックス】から塩辛とぽたぽた焼きを取り出してテーブルに乗せる。一瞬嫌そうな顔をする世界樹だが甘じょっぱいぽたぽた焼きは気に入ったっぽい。もりもり食ってる。
「貴女達が【悪魔】と呼ぶ私達は別の次元の生命体。それはわかるわよね?」
違う世界の違う生命体。ただ普通に生きていた生命体。その世界が突然消滅した、という。
そこの生物は魔力に特化し、魔力操作に優れた者は【転移門】を開く事が出来、幾ばくかの生命体が【転移門】により消滅した世界から逃がれた。
そのまた幾ばくかの者がこの世界に扉を開いたのだ。
ただ、次元を超えてやって来るので時間軸がバラバラなんだという。
世界樹がこの世界に辿り着いたのは数万年前。人類が影も形もない時代だ。サークライのお師匠様が辿り着いたのが千年程前。その間に有象無象の異次元の住人がこの世界を訪れ、去って行った。その彼らが開いていった時限爆弾が【転移門】だ。
そして当然だがどの世界の住人であろうが善人もいれば悪人もいる。悪意をばら撒く奴は必ずいるのだ。【転移門】を罠にする奴。新しい世界で好き勝手に暴れる奴。新しい世界の生命体を蹂躙する奴。
聖グローザムに現れた奴は策略を巡らし異種属同士を争わせ生命を奪う事を喜びにしている。
「問題はどうやったら排除出来るかって事さ」
そこまで知能が高い【悪魔】は魔力も増大だ。勇者はおろか、魔王を凌ぐかも知れない。
「わからないわよ。でも勇者二人と魔王三人で攻めるなら勝てるでしょ。心配しなくてもいいんじゃない?」
「…勇者二人は判るけど魔王三人?」
「忘れたの?【転移門】を潜って来た人間は例外なく【魔王】よ?」
「マサオとユート…はもう【魔王】と呼ばれても仕方ないとは思うけど。あと一人は?」
「産まれて魔力の存在も自分が何者かも知らないうちに【転移門】を潜った子がもう一人いるでしょ。その子も立派な【魔王】よ」
「…カナコちゃん⁉︎」
幾ら強大な【悪魔】相手でもアベリアやカナコちゃんは戦わせたくない。それは親としての最低限の行持だ。
無理を言うようだがユート、お前が何とかしろ。手に負えないようならあたしとマサオもすぐに向かう。…息子は危険な目に合ってもいいって訳じゃないけどさ。信用してるよ、お前を。
「でさ。折角ハイエルフがここまで来たんだからついでに世界樹にお祈りして行ってよ。祝福貯金て言うのかな?2、3回して行ったらあと500年は保つよ」
誰がするかこのヤロウ、と思ったが100年毎にあたしかユートが呼ばれる事になると思うとうんざりするので祝福貯金に乗っかっといてやろう。軽〜く軽〜くお祈りしといた。
「ちょっと、適当なお祈りしないでよー」
「うるさいお前にはこれで充分だ」




