54 勇者アベリアの凱旋
春になってギルド学院も新たな入学試験を行い、無事アリエルは合格した。親父には会えたけどモンマのプライドにかけて最優秀生徒賞を獲る!と意気込んでいる。
一人だけでちょっと可哀想かと思ったが、実はレンが非常勤の魔術講師として学院に採用された。本当に優秀なのだ。非常勤なのはリィカや委員長達と結成したパーティーのクエストを優先する、という条件で受けたからだ。
レンならアリエルを見守ってくれるだろう。学院イベントは必ず見に行くぞ。心配すんな。え?過保護過ぎて嫌がられてるって?はははそんな。
カナコももう向こうの夏休みはとっくに終わって日本に帰るつもりだったのだが、マーサさんや転移門の仕事が気になり工場を仕切るミカさんだけ日本に戻った。
「まあ日本は通信だけで大卒出来るからいいよ。」
との事。天晴な妹だ。
実はカナコもドワーフなのに日本で生まれて転移門を潜ってこの世界に来た【転移者】なのでその身に膨大な魔力を秘めた存在である。他人事とは思えなくなったらしい。積極的に俺に協力する、と言った。
マリージュの所には水中活動出来る者は頻繁顔を出そう、と約束した。俺達親子やレン、リィカ、アリエルは水中に行けるという。スーツを着ればカナコも大丈夫だろう。
とにかく全員にカナコ製のスマホを持って貰ってるので臨機応変に動けるだろう。すでにリィカが二回スマホを壊して泣きついて来たが。うーむリィカには難しいテクノロジーか。連絡が必要な時はレンに頼め。な?
さて、魔王都対決以降の聖王国の様子である。セ◯ムの監視によると以前の様な大掛かりな軍の動きは見えない。『和解』の形を取ってはいるが具体的に両国間では何も決まっていない。
なので今回は『和解使節団』を結成、サークライを代表とした使節団がアベリア凱旋をプロデュースする形で聖王国に入る。
事前に聖王国には訪問する事だけを告げている。つまり相手の都合は聞いていない。受け入れ準備が出来てなかろうが勝手にこちらから動くのだ。
===聖王国の東端マービンの門番視点===
△の月1日に魔王都で行われた【聖魔決戦】は我らが勇者アベリアの勝利で終わった。勇者殿はそのまま大使として魔王国に歓待され、1ヶ月振りに凱旋帰国する、と軍から我々国境守備隊に通達があったのだ。
我々は意気揚々と勇者の帰国を待った。
先触れの連絡の後、魔王国の西端・タンザの街の方向からなんだか賑やかな音楽が聴こえてくる。聞いた事の無い音楽だがなんだか胸が躍る。
見えて来た。なんだあの乗り物は?神楽台の様な箱が動いている。我が国だと魔獣列車が当たり前だが引っ張る獣の姿が全く見えない。獣も魔獣も動力に使ってないのか⁉︎どうやって動いているのだ?
先頭の小さ目の箱からマントを羽織った男と秘書と思われる女が降りて来る。魔王国では珍しい人間種だ。
「魔王国親善使節団団長のサークライです。本日勇者アベリア様をお連れして参りました。通ってもよろしいか?」
「は、はい…」
我らがあたふたしていると王都グローザムから来ている全権大使…クライス第三王子が現れた。
「歓迎致しますサークライ殿。私が聖王国の全権大使、クライス=フォン=グローザムです。この国の第三王子になります。よろしくお願いします。」
クライス王子は魔王国の使者と共に勇者アベリアを迎えに出られた。おお、なんと神々しい勇者アベリアの出で立ちか。きらめやかなプレートメイルに純白のミニマント。腰に挿さるあの剣が聖剣か。マービンの市民からも歓声が上がる。
今晩一晩一行はマービンに滞在し、第三王子率いる護衛隊と合流し王都に向けて凱旋行脚を行うとの事。
マービンの端っこで働く俺らとしてはとにかく魔王国とのいざこざが終わってくれて万々歳だ。タンザから流れてくる酒や魔獣肉がここ暫く滞ってたからなぁ。お祭りムードも相まっていつもは国境門の手前で戻って行く獣人の商隊も今日は街の広場まで入って一緒に祝ってくれている。元々このマービンの街は多くの獣人・亜人と交流があった。何十年前かは当たり前の光景だったと聞く。俺はあいつらが嫌いじゃないが熱心な聖教徒には差別主義者が幾ばくかいるのも事実だ。元々この大陸は人間種の方が数が少ないのだからそんな事言ってもしょうがないと思うんだけどな。美味いエールも香辛料もみんなあいつらが発見してくれたんだぜ?
勇者の活躍には万々歳だけどその事で聖教会の連中が幅を利かせるのはなんだかやってらんねえ。
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俺達はクライス第三王子と合流して早速作戦会議に入った。魔王国使節団を招いたマービン大使館の一室にサークライによる音声遮断魔法がかけられる。
サークライの秘書…に変装したマーサさんがクライス王子と再会の握手をする。
「お帰りなさい。今日のこの日を心待ちにしておりました。」
「ありがとうございます。ようやく娘を抱きしめる事が出来ました。これで心置きなくこの国の仕事にかかれますね。」
「ユート君もありがとう。君のおかげで勇者が裏切り者にならずに済んだ。」
この部屋には王子と護衛の男エルフさん、サークライとマーサさんと人間の姿の俺がいる。アベリアの護衛にはカナコが付いている。
さて、これから王都に殴り込みだ。みんなで陰謀を巡らすぞ!くひひひひ。
次回更新は明日の予定です。




