52 パパのお願い聞いたげて?
ひとつ目の失敗が身に染みて後は慎重に対処出来た、と思う。厄介だったのは見つけた【転移門】には極力魔力を通さないで対処する、というところだ。
今まで俺は豊富な魔力で気の向くままに魔法を使いまくって来た。本当生意気だね。
愛用の剣も弓等飛び道具も魔力を込めて使用する物ばかりだ。
いわば無属性の攻撃手段がないのだ。
親父がオリハルコン銃の片方を実体弾にしているのはその為だったのか。
カナコに取り扱いしやすいサブマシンガンでも調達してもらった方がいいのかな…?
っていやいや‼︎ やんないよ‼︎ 親父の仕事なんて手伝わないよ⁉︎
「この仕事を手伝うなら俺の持っている『どこでも開ける簡易転移門(転移門トレーサー付き)』がもれなく付いて来るぞ‼︎」
うっすっごい魅力的‼︎
しかし、いやしかし気軽に妹達に会えなくなるのは絶対に嫌だ‼︎
「ちなみにこの『簡易転移門』は一度行った場所と他の転移門が仕掛けてある場所に行ける。どこでも◯アほどは万能じゃないがかなり使えるぞ。好きな時に妹に会いにいけるぞ?」
マジか⁉︎いや、それならなぜ10年も息子娘に会いに来なかった?疑心暗鬼になる。
「…いや、だから…実はマメに子供達の様子は見に来てた」
意外なカミングアウト。そっと覗いては黙って帰ったって?なんで⁉︎
「…奥さんに見つかると面倒だから」
バカ‼︎バカ親父‼︎7人も嫁いて面倒って何?会う前はチャラ男かと思ってたが実はコミュ症なんじゃねえの⁉︎自由過ぎんのか⁉︎
うむ、そうか。じゃあ条件を出そう。
「まったく帰って来ないってのはやめて親父が奥さん達と生活基盤を共にする事。そうするなら俺も親父の仕事を手伝う」
グッと息を飲む親父。しばらく考えて…答える。
「この話はまた後にしよう」
「そんなに嫁が怖いのかよ⁉︎」
やっぱコミュ症なんじゃねえの⁉︎
ちゃんと女子寮の庭に戻って来た俺と親父を見て家族一同がホッとしてるのがわかる。そうだよな。心配だよな。マリージュが親父のコートの裾を掴んで離さない。反対側にはリィカがくっついている。甘えんぼ二人組だ。二人に連行されるようにすごすごとリビングに入って行く。目尻が下がってるので多分嬉しいんだろう。
すると俺の側にグリュエラ母ちゃんとトーカさん、ドレスティアさんが近づいて来る。
「ユートは別にあの仕事に付き合うこたあないよ。あいつがムキになるのはあいつが勝手に背負った責任からだ」
トーカさんが言う。どうやら親父のあの仕事の内容をこの人達は承知しているらしい。
「それにな。グリュエラがマサオの知らぬ所でマサオの仕事を手伝っておる。サークライに頼まれてな。元々マサオをこの世界に呼んで家族と会えなくしたのは自分のせいだと言ってな」
母ちゃんの仕事ってそれか。俺はそうやって育てられたのか。
「ドレスティア‼︎」
「言わせろグリュ。お前は未だに負い目だと思っておるのだろうがヤツに優し過ぎる。他の嫁に遠慮し過ぎるのじゃ」
「そうよね正妻のくせにね」
「ヤツを自由にし過ぎた挙句の七人の嫁じゃからのう」
「私の隙をついたアンタらがそれを言うか‼︎」
ケラケラ笑いを交えながら応酬する母ちゃんがなんか楽しそうだ。
「親父に条件を出した。後は親父次第だから」
「そうかい…。お前はソツがないからその辺は上手くやるだろうさ」
それ以上母ちゃんは何も言わない。俺の判断に任せると言う事か。信頼なのか放置なのか未だにわかんねえなこの人。
さて、俺はサークライに報告と卒業後の拠点の話をするのだ。卒業したらこの寮から出なければいけないし。用意してくれるなら全員が集まれる広い家を、してくれないなら自分で魔王都を駆けずり回らないといけない。時間がないぞ。
サークライを見つけて家の事を相談してみる。少し怪訝そうな顔をして
「そうだな…皆が集まれる拠点作りと思えばいいか。常に皆がいなくても維持していけるように使用人等も検討して…」
おお。用意してくれるなら自分で維持費の心配はしなくても良さそうだ。だが…
「? 何かあったんすか?神妙な顔して」
「…うん。実はね」
サークライが切り出す。
「マーサがアベリアを連れて聖王国に戻ると言うんだ」
何だって⁉︎ 折角聖教会から取り戻したのに‼︎
俺はマーサさんとアベリアを探す。いた。二人でゆっくりとお茶を飲んでる。だけどその二人の瞳は既に何か覚悟を背負ったような真剣な眼差しだ。俺が入って行ってはいけない空気を感じる。だが。
「聖王国に戻るって本当ですか?」
直球で聞いた。俺は空気を読まないのだごめんなさい。マーサさんは少し驚くが、優しい眼でしかしキッパリと言った。
「ええ。私達【勇者】の本当の役割はまだ終わってないから。ユートくんにはこんな夢見たいな時間をくれてとても感謝してるの。ありがとう」
アベリアもしっかり俺を見て言う。
「兄様本当にありがとう。母様に合わせてくれて。でも…兄様との対戦の時の台詞…あれはシナリオに言わされた訳でなく本当の気持ちでもあるのだ。私と母様は…聖王国の国民の為に働きたいのだ。【勇者】である限り」
気持ちはわかる。マーサさんは反乱軍を組織し対聖教会勢力としてやり残した事はあるだろう。しかしアベリアを帰すのは危険ではないのか? 洗脳して利用して来た本拠地に戻したら何をされる事やら…俺はそれが一番心配だ。生命に関わるかもしれないじゃないか、と。
「兄様の不安はわかる。でも私は母様の役に立ちたい。今なら私は国民の英雄で通るはずだ。魔王国との戦争を収めた英雄をそう簡単に殺したりしないと思う」
「表のアベリアと裏の私。二人でゆっくりと聖王国を開けていけたら、と思っているの」
二人の決意は硬い。なら兄として出来る事を考えよう。
勇者アベリアの凱旋帰国をどうプロデュースするかだ。
次回更新は水曜日の予定です。




