37 魔王軍の麒麟児
馬車はしばらく行って郊外の一軒家で止まった。
怖々と俺に近づいて兵士が言う。
「す、すみません、こちらで人がお待ちしてますので…どうか入っていただけますか?後で必ずお宅にお送りしますので…」
さてどうしよう。
こいつらを叩き伏して飛んで帰るのは造作もないのだが…黒幕を放っては置けないしな。
俺が狙いならともかくモンマ兄妹みんなが狙われでもするなら…それを一番恐れる。ならば迷わず殱滅してやろう。
案内されて大広間に入る。暖炉の前に男が一人。…男、だよな?…美形過ぎて戸惑ったわ。しかも若いな。そして頭に特徴的な角。彼も麒麟だ。
彼は臆する事なく爽やかに微笑んで俺に近づいて来る。
「ようこそ来てくれました。いやあ嬉しいなぁ。僕貴女の大ファンなんです。【魔王国の戦女神】よ。」
は?【魔王国の戦女神】?ナニソレ?初耳だ⁉︎
「申し遅れました、僕は魔王軍第二大隊長ジルベルト。まあ…総司令の孫に当たります。」
名乗りながら俺の手を両手でにぎにぎして来る。離さない。たまに恋人繋ぎして来る。なんなのこの人。
「いやぁ、サークライ氏の警護でギルド学院の魔術大会に行って初めて貴女を見た時からずっとお慕いしておりました。言わせて下さい。貴女が好きです。僕の妻になって頂けませんか?」
…この反応は考えてなかった。
もしもの時は男に戻るという手があるが麒麟は多分みんな強い。人間に戻ると戦闘力が相当落ちる。対処が出来なくなる。どうしよう…。
「いやぁ…私どっちかと言うと嫁が欲しい側なんで…」
何処ぞのキャリアウーマンみたいな台詞を吐いて出来るだけ早くお暇しようと後ずさる。
すると彼の身体からすごくいい匂いがして来る。たまらない匂いだ。安心する…好きな匂いだ。
次の瞬間俺は彼に抱き締められていた。
ハッと意識が戻るが身体が言う事を聞かない。麻痺系の毒か⁉︎全身にアラームが響く。こいつ超危険だ‼︎
「いい気持ちだろう? 麒麟のフェロモンは番いの相手と定めた対象をがっちり捕まえるんだ。これは僕の本気の証だよ。さあ僕と繋がろうよ。僕の子供を産んでくれ。」
俺の顎をくいっと持って唇を近づけてくる。ヤバい‼︎ ああああもう駄目だ。
どう転ぶか解らないが覚悟を決めてこの場で男になる。カミングアウトだ。
「いや俺男だから‼︎ほら男の子だから‼︎」
男が男を抱き締めるイヤな絵面だ。一瞬動きが止まるジルベルト。が、とても爽やかな笑顔と共にカミングアウトする。
「驚いた‼︎君も雌雄同体なんだね。僕ら麒麟も雌雄同体さ。パートナーの性別によって選べるんだ。君が挿入る方が好きなら僕が雌になるよ?」
ぐぐぐっと胸が膨らみウエストが窪んでキュッと締まったヒップが現れる。こいつもめっちゃナイスバディなお姉さんになった。俺を抱き締めて離さない。
「きゃあああああああ」
そこから先の記憶がない。
気が付くと翌朝ハイエルフの姿で学院寮の自分のベッドで横になってた。
どうやって戻ったか全然わからない。めっちゃ不安。この世界に来て初めて恐怖を覚えた。自分の身体を弄って調べる。うう、変化がわからない…一線を超えてしまったのだろうか?童貞?処女?どっちかを失ったのだろうか…想像するのもイヤだ…
噂では郊外の一軒家が火事で焼け落ちたとかどうとか。
何があったかまるでわからん。
怖い体験は忘れて妹達を愛でよう。久しぶりに新しいスイーツでも開発するか。
てなタイミングでサークライからの呼び出しが来た。…行きたくねえなぁ。
足取り重く魔王都庁に赴く。
サークライの部屋には魔王軍司令ミューラーさんと…ジルベルトが立っていた。ちょっと顔に焦げ跡があるぞ。…何があった⁉︎
(きゃあああああああああああ‼︎)
心の中で悲鳴を上げる。
膝がガクガク震える。しっかりしろ俺。
ミューラーさんがニコニコ笑みを浮かべ説明する。
「昨日はお疲れ様。我が軍もSクラス冒険者相手がいかに恐ろしいか思い知ったはず。同時に君という存在が我が国にとって最重要人物である事も露見したわけだ。」
なんか言ってるが頭に入って来ない。
「なので君に軍から護衛を付ける事にした。彼なら君の邪魔にならない範囲で護衛任務がこなせるだろう。」
ジルベルトが一歩前に出て爽やかな笑顔で挨拶をする。
「初めまして。ジルベルトと申します。我が国の戦女神を護衛出来る栄誉に打ち震えております。」
きゃあああああああああ。
白々しい奴めっこんな危険な奴に纏わり付かれてはたまったものじゃない‼︎ 絶対断らなければ‼︎
「む、無理です‼︎大体私学院の女子寮にいるんですよ⁉︎どうやって男の彼が護衛するんですか⁉︎」
言って気付く。あ…
彼は得意げに身体を女性に変えて行く。
「これで女子寮内の護衛もバッチリでしょ⁉︎」
「彼を始め麒麟族は雌雄同体なので意思によってどちらかの性に寄せる事が出来るのだよ。ふふん。」
ミューラーさんの雌体は想像したくないので自慢しないで下さい‼︎
ジルベルトは近づいて耳打ちする。
「昨日はつい興奮してしまって失礼したね。任務は任務、ちゃんと君を守るからね。安心して。」
「…………。」
という訳で厄介な奴を受け入れる羽目になってしまった…。




