35 1vs500…&1
かくして俺と魔王軍500人の模擬戦が始まった。
鍛えられた魔王軍の兵は侮る事なくセオリー通り鶴翼の陣を取って俺を囲むように進軍して来る。
俺も五大精霊を呼び降ろし全魔法を使える準備を施す。水の精霊に頼んで修練場の湿度を上げ、深い霧を発生させる。視界を遮り足を止めさせる。
その上で俺の得意魔法…土魔法で地面を泥沼に変える。騎兵は馬ごと沈み、重装歩兵はその自重でよく沈む。
霧の向こうのあちこちから人の悲鳴、馬のいななきが上がる。
すると当てずっぽうながら弓と魔法弾が連続してこちらに飛んで来る。風の精霊のバリアが働いているので俺には届かないが。
霧と同時に上空に雲を発生させている。死なないように死なないように、微弱な雷を落とす。沼を通じて向こうの分隊全てを電流が包む。
悲鳴、呻めきと共に攻撃が止む。あらかた片付いたようだ。
次の瞬間、巨大な雷鳴が轟き俺に直撃する‼︎
ガラガラピシャーン‼︎‼︎
「雷まで操れるとは思わなんだがそれが出来るのが自分だけとは思わぬ事だな。」
霧が薄くなって見えて来たのはこちらと同じ様に空中に浮いているミューラーさんの姿だ。
麒麟やっぱ凄えな。獣人じゃ最強クラスじゃないか?雲が使えるだろうから雷もお手の物だろう。
だが、俺も雷を得意技としてるハイエルフ。雷対策は既にしている。
【真・魔王の眷族】との対戦での反省を生かした対策だ。
風魔法で身体の周辺にチャフを撒いているのだ。
このチャフは電波撹乱用をカナコに頼んで逆に電気伝導率を上げる改造を施した特製品である。雷を散らす事も出来るし光学兵器も拡散する事が出来る。
平気で浮かんでる俺を見てミューラーさんが驚いているのがわかる。
地面を見ると500人がほぼ泥の中で電流にやられ意識を失くしているようだ。泥沼を固めて拘束しておく。さあミューラーさんと一対一だ。
俺はダッシュで近づく。【ボックス】からショートソードを取り出し接近戦に持ち込む。
しかしミューラーさんの動きが尋常じゃない。足に小さな雲が纏わり付いていて自由自在に空中を飛び回れるようだ。麒麟恐るべし。
動き回りながらミューラーさんの身体に次第に燐光が溜まって行く。彼は帯電して電撃を放射するスタイルの様だ。という事は何度雷を受けても平気だろう。こちらはチャフの総量に限界がある。不利だな。
取っておきの隠し球を使う。風の精霊と金の精霊の力だ。この二つの力を借りる事で…光速移動が可能になる‼︎なぜなら昔の特撮で見た‼︎
突如の光速移動でミューラーさんの動きに喰らいつく‼︎驚くミューラーさんようやく武器を取り構える。杖だ。魔力を吸って虹色に輝く。アレもオリハルコン製だな。ショートソードで斬り結ぶ。全ての斬撃を杖で尽く受け流す。格闘術も相当な腕前だなこのおっさん。
なんか打開策はないかな。麒麟の弱点なんか思い浮かばない。…まてよ?向こうの一狩り行こうぜ的なゲームにハマってた時、キリンっていたな…アイツの弱点なら判る。
俺は火の精霊に頼んでショートソードを火属性剣にする。ギョッとするミューラーさん。
俺は首元と頭の角目掛けて光速で連撃を加える。訓練を重ねて20撃ほどなら息継ぎ無しで連撃を叩き込められるようになった。連撃と共に炎の剣跡が空中に残留しミューラーさんの頭部に纏わり付く。明らかに嫌がる様子だ。やはり炎が弱点なのかこちらの麒麟も。
集中力が散漫になり二度目の連撃で杖を手から離してしまったミューラーさん。連撃の最後のひとつが角に掠る。ミューラーさんの動きが止まった。
「…ふう、まいった。私の負けだ。」
いや、違うな。これ以上やると本気になって俺の生命を奪いかねないから止めたんだ。本当に恐ろしいなこの人は…。
「噂に違わぬ実力だな。この広大な規模で土魔法を制御しながら放つ。そんな魔道士すら稀有な存在なのに光速で剣戟を放つ剣士でもあるとは。」
「貴方の様な方に褒めて貰えると素直に嬉しいですね。稽古に励んだかいがあります。」
俺は素直に頭を下げた。
俺の強さは言わば精霊の力を借りた紛い物だからな。正直全く勝った気はしない。
「では申し訳ないが地面に埋まった兵士達を救い出してくれないかね?」
微笑みを浮かべながらそう言うミューラーさん。
さて、面倒臭いがやるしかないよな。
埋まった馬や兵士の周りの土を再び泥沼に変えて風魔法で救い上げる。ちまちまこれを繰り返す。500人でよかった。万単位だったら絶対逃げてる。
泥の中から救出された兵士達からは殺気は消えた様だが恐怖と困惑の色は隠せない。コワクナイヨ?優しいお姉ちゃんダヨ?
魔王軍庁に戻ると打って変わって晩餐が用意されていた。歓迎されているのかケンカを売られたのか全くわからない。俺困惑。
ミューラーさんは上機嫌だ。
「悪く思わんでくれ。うちの軍にしてもSクラスの冒険者と戦えるチャンスなどまずないからね。この機会を逃したくなかった。」
浴びる様に酒を飲んでいる。あ、僕はいいです未成年ですから。え?こちらは15歳で成人でしたっけ…
「力を試す様な真似をして済まなかった。サークライは君に任せろと言ったが私とジンギ翁は己の目で見ないと納得しない主義でね。」
「はあ…」
「一つ聞いておきたいのだが、君達は魔王に会ってどうするつもりなんだね?」
…妹達は会って甘えてみたかったり怒っている子もいるしそれぞれやりたい事があるだろう。俺は妹達の望みを叶えてやりたいだけだ。
では俺は?俺自身はどうなのだろうか?
正直どうでもいいと思っている。元々いないものと思っていた所に降って湧いた話だ。何の感情も持っていない。母ちゃんに苦労をかけたという点で腹が立つくらいで妹を6人もくれた事には感謝すらしてる。
俺は親父に会って何がしたいんだろう?
「…多分妹達の感情も含めてケンカでも吹っかけるんじゃないかな。」
全力でぶちのめしてやりたい。
笑い出すミューラーさん。
「ははは、すまんすまん。そうだな。マサオの自業自得だ。」
「マサオ?」
「マサオ=モンマ。それが魔王の名だ。」
…完全に日本人じゃないの。日本人が何をやったら魔王になれるんだよ…




