28 マリージュと四人の姉(ひとり兄)
少しストックが溜まって来たので連日投稿です。
=魚人の里の宮殿 マリージュ視点=
冬になると賑やかだったクリイドの観光客も人の数が減り水面はとても静かになります。その反対に水の中は冬の回遊魚目当ての漁が盛況で活気に溢れる魚人達で慌ただしい季節です。
そう言えば母様のお話ではこの時期、年が改まる日を祝うという新しい風習が地上では定着しつつあるそうですね。歌ったり花火を上げたり。観たいなー。 地上に連れてって欲しいなー。
母様におねだりしてみたのだけれど微妙な顔をするだけで何もおっしゃりません。やっぱりお祖母様に直接お願いしないといけないのかな…。
お祖母様に駄目元で新年の地上のお祭りに行きたいというお話をしてみました。
いつものように厳しいお顔です。…ずっと黙っておられます。やっぱ無理かなぁ。
しばらく経ってお祖母様がおっしゃりました。
「…母様の言う事をようく聞いて行動するなら許しましょう。自分の立場を忘れないようにね。」
思わず目の前がぱぁっと明るくなりました。お祖母様に何があったのだろう⁉︎ 聞いてみたかったのですが、やっぱダメって言われると困るので大人しくお祖母様の間を退出しました。
初めて地上に上がれる! もうウキウキです!思わず母様に抱きついてしまいました。母様も嬉しそうです。気合いを入れて地上の屋敷をお掃除すると張り切っています。…いつもはお掃除をサボってるんですね、わかります。
年が明ける前の日。母様に手を引かれてペイブメントを地上に向けて進んで行きます。海岸から出るとヒレだった脚が二本足に変わっていました。生まれて初めて二本足で身体を支える感覚はびっくりしましたが母様が支えてくださっているので段々と慣れていきました。
クリイドの町にある魚人族領事館に入りました。
「いらっしゃい♡ マリージュちゃん!」
領事館で懐かしい方が私を待っていて下さいました。ユートさんです。こんなとこでお会い出来るなんて思ってませんでした。思わず駆け寄って抱き付いてしまいました。御行儀が悪いって叱られそうですね。
「可愛い子だね。シトリーの子は初めて見るね。」
「ミカ…久しぶりね。会いたかったわ…。」
母様が同じく領事館の中で待っていたドワーフ…?の大人の方と抱き合ってご挨拶をしています。
ようく周りを見渡すと私より少し歳上の鬼族の女の子、同い年ぐらいの龍族とドワーフの女の子もいます。…どなたなのかしら?
「マリー。大切なお話があるんだ。マリーはお父さんの事、聞いた事あるかな?」
ユートさんが私の目線まで屈んで優しい目で問いかけます。…ちょっとためらったけど母様を見ると軽く肯くので思い切って答えます。
「…私の父様は『異界の魔王』と呼ばれる魔王国の王様、だそうです…。」
そうなのです。私は魔王の娘だったのです。
ん?
今度は逆にユートさんが言いにくそうに話します。
「実は…魔王には七人の奥さんがいるの…だけど。その七人にはそれぞれ子供がいてね?」
「…? どう言う事でしょうか?」
「つまり、君には母違いの兄妹が七人いるんだ。」
まおうはななにんのおくさん…
まおうはななにんのおくさん…
まおうはななにんのおくさん…
まおうひどい。
思わず涙が溢れます。
「母様がかわいそう…」
慌てるユートさんと母様。母様は私を抱き締めてそんな事ないのよと慰めますが涙が止まりません。
「そうだね…魔王サイテーだよね。マリーもそんな魔王に文句を言いに行かないかい?」
…なんですって…?
横にいたドワーフの一際小さい少女が話しかけて来ました。
「初めまして。あたしはカナコ=ククリ=モンマ。魔王の娘の一人だよ。マリーちゃんは幾つ?」
「…9歳。」
「じゃ私がお姉ちゃん。私14歳だからね。」
「それじゃがの!本当かえ⁉︎カナコ幼すぎるじゃろ?どう見ても妾の妹じゃ‼︎」
「むう、見た目で侮るなよリィカ‼︎あたしが長女なんだから言う事聞きなさいよね‼︎」
横から龍の尻尾を振り振りして赤い髪のこれまた小さい女の子が口を挟んで来ました。この子もきょうだい…妹?
「初めまして。僕はレン=シュバリエ=モンマ。こないだ14歳になった鬼族。マリーちゃんのお姉ちゃんだよ。こっちの尻尾はリィカ=グランディール=モンマ。僕のすぐ下の妹。残念な君のお姉ちゃんだよ。」
と優しそうな鬼のお姉さん。
「誰が残念なお姉ちゃんじゃ‼︎」
「初対面の妹の前で大声で騒ぐ姉を残念と言わず何と?」
「うっ…」
ハイハイやめなさい、とユートさんが自分の【ボックス】から飴…でっかいリンゴの飴を取り出してリィカさんの口に突っ込みました。リィカさんの表情が途端に柔らかくなってニコニコしながら飴を甜めてます。
かわいいです。リィカちゃんです。
私はユートさんを見上げて聞く。
「じゃあ…もしかしてユートさんも…私のお姉ちゃんですか…?」
「う…」
一瞬言い淀むユートさん。?
笑いながらカナコ姉様が答えて下さります。
「ははは。ユートは『お兄ちゃん』。女エルフの姿はしてるけど中身はお兄ちゃんだよ。あたし達の1番上。長男だね。で、あたしが長女ね。」
「ユート兄、男に戻って見せてあげたらいいでござるに。」
「やだ‼︎ 泣かれるからやだ‼︎」
? 泣きはしませんよ? すると母様が申し訳なさそうに言いました。
「…魔王にそっくりなのよ。男に戻るとね。」
「そうだね。びっくりするほど似てるね。ぶん殴ってやりたくなるくらいにね。」
「てかマジで殴りますよねミカさん⁉︎ だからやだ‼︎」
笑いが巻き起こります。不思議な感覚。今まで私の家族は母様とお祖母様だけだと思ってましたが…この人達みんな私の家族なんですね…。
今年最後の日。大晦日…と言うらしいです。
領事館の大広間にユート兄様が腕に寄りをかけてご馳走を用意してくださいました。鳥や魔猪肉のロースト、ふわふわ卵のオムライス。初めて見る地上の料理。恐る恐る口に入れてみます。ふわぁ…初めての食感。どれもとても美味しいです。
リィカちゃんは母様が用意していたクラーケン焼きをひたすら口にしています。はむはむする姿がとてもかわいいです。…ペット的な感じです。
仕上げに、とユート兄様のデザートが運び込まれて来ました。フルーツぎっしりのタルト、クリームたっぷりのショートケーキ、甘さ控えめ大人向きの紅茶シフォンケーキ…
初めてお会いした時もいっぱい甘い物を下さりましたし、お兄様の本当のお仕事は料理人なんじゃないでしょうか…?
リィカちゃんとレンさんはうんうん頷いておられました。
町の外では花火の打ち上げが始まりました。新年と同時に町中に鐘の音がなります。
「「「ハッピーニューイヤー‼︎ 」」」
? 何ですそれ? とリィカちゃん達がユート兄様とカナコ姉様に聞いてます。
「異界では新しい年を迎える時にこう言うのさ。」
「『明けましておめでとうございます』とも言うよ!」
いっぱいあると難しいです。リィカちゃんも頭捻ってます。
「はっぴにうやー‼︎」
「は、はっぴいにゅういやあ‼︎」
リィカちゃんとレンさんも続きます。
「ほら、マリーも続けるのじゃ‼︎」
リィカちゃんが私を急かします。レンさんも私を見ます。ユート兄様は笑ってます。カナコ姉様もミカおば様も母様も笑ってます。
私も笑いながら言います。
「はっぴーにゅういやー‼︎」
次回はいつも通り水曜1時の予定です。




