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しっかし俺更新遅いな。
希子を送る帰りふと、夜堂は聞いてしまった。
夜堂は先日会ったときの希子と変わった様子がなく。悪く言えば、身内が死んだとは思えないその情緒に夜堂はずっと引きずられていた。
「なぁ 希子、この前は急に帰ってすまなかったな…希子の親父さんにもロクに挨拶出来なかったし」
ボスからはロクに話は聞けていない。夜堂は希子にカギとしての役目があることを知らせず希子の父の様に、希子を守ろうと思っていた。
「あー この前の事? 気にしなくて良いよー お父さんはまた出張らしいし、当分帰ってこないんじゃ無いかなぁ」
「…そうか…」
「? どうしたの?」
「いや すまない なんでもない」
「変なやつだなー」
夜堂はやはりか、と想像していた通りの状況だった事に希子と喋り、談笑していた自分にどうしようもなく後ろめたいモノを感じていた。
「結局時間掛かっちゃったね」
希子の言葉に促され腕時計を覗くと、時刻は18時10分を指そうとしていた。
「もう、だいぶ陽も落ちてるしな」
薄暗く闇が波打つ様子が空に写されている。
希子の家の前まで、希子を送ると玄関から希子の母が出てきた。
「あら? 帰ってきたの? 今日は遅いのね? それに夜堂君も」
門限があるという割にあまり厳しくないようだ。
「うん。ばったり会って遊んでた~」
希子がそう言うと、希子の母は微笑んで希子を迎えた。
「そうだったの。早く着替えてらっしゃい」
希子が母に促され、希子は家の中へと入っていった。
希子の足音が遠のいて行く。
希子の母は、手にしていた郵便物を塀に置き夜堂へと身を向けた。
「待ちなさい」
夜堂は呼び止められた。
やはり、男と二人で門限を破るのはまずかっただろうかと、考えを巡らせるが、希子の母の態度からその様なモノでは無いことを察した。
「はい。なんでしょう?」
任務の最中と口元に笑みを浮かべ、返事をした。
希子の母はどこか後ろめたそうな表情になった。
「…私には作らなくていいわよ」
夜堂はカマをかけているのかと考え、表情は緩めない。
「ボスから聞いてないの? はぁ…悠久のやることだし…仕方ないと言えば仕方ないけど」
聞き覚えのある名前と内容だった。
夜堂の表情が戻り、作り笑いから普段通りのしかめっ面に戻った。
「何者だ? アンタの事はボスからは聞いていない」
「やっぱりね。ちょっと待って場所を変えましょう」
希子の母は家に入って行く。
開きっぱなしの玄関から希子の母の声が響いた。
「——希子~ちょっとお母さん晩御飯用の買い物忘れてたから、出かけるわ~」
「うーん。わかった~」
希子返事が聞こえた。
希子の母が玄関のカギを閉め、夜堂の下へと戻ってきた。
「あなたセーフハウスは?」
夜堂はセーフハウスの事を聞かれ動揺した。
「なに? あなたの階級なら個人用の一軒家貰ってるでしょう?」
希子の母は動揺する夜堂を訝しんだ表情の目を合わせた。夜堂のジャケットの襟を反し、白金に金の入った襟章を確認した。
「ほら、やっぱり。白金じゃない。個人用のセーフハウス貰ってるでしょ? それに研二さんの後任ならなおさら」
希子の父である研二の名前が他人行儀に呼ばれ困惑するが、少なくとも今目の前に居るのは希子の母として生活してきた人物であり、希子の父、研二も確認していた人物であるのは確実だった。ボスの名前が出てきた事からまた知らされて無いだけなのだろうと、夜堂は希子の母をセーフハウスへと案内することに決めた。
「あぁ…分かった」
希子の家からほど近いコンクリート製の壁が目立つセーフハウスへと急いだ。
二キロほどを歩いてセーフハウスに到着した。
手早くカギを開けて、希子の母を家へと迎え入れた。
「どうぞ」
希子の母が玄関の敷居をまたぎ、家の中へと入る。夜堂は周辺に目視できる距離に不審人物が居ないかを確認して扉を閉めた。
希子の母は玄関で靴を脱ぎ、勝手にリビングへと上がっていた。
迷いなくリビングへと進む様子は手慣れたものに感じた。
夜堂も続いてリビングへと向かった。
リビングのテーブルの前へと腰を下ろす希子の母の姿があった。
「ずいぶん慣れた様子だな」
「まぁ、そうね。昔はあの人達が住んでたからね。私もよく来たのよ」
昔は頻繁に訪れて居たと言う希子の母は、変わってしまった家具や変わらず有る壁紙やキッチンを遠くを覗く様に見ていた。
「…本題は?」
夜堂が問いかけた。
「どこから話しましょうかね」
希子の母は、夜堂にも腰を下ろすよう促し、話を始めた。
‡
希子の母、改め萩田佳代子は、希子の本当の母と父、そして自分との関係を話してくれた。
机に頬杖を突きぼーっとした目で夜堂を見つめる。
「似てるわね…夜堂さんに…まぁ親子だし当たり前か…」
「俺の親父も知ってるのか。 まぁいい。しかし、血縁はあるが親では無いとはどういう意味だ⁇」
夜堂は香代子が語った血縁の母親では無いと言う言葉が引っ掛かった。
香代子は面倒だと表情に出しながら、説明してくれた。
希子が生まれた時はまだ希子の実母は健在だった。だが、希子がカギとしての役目を持った時希子の母は何の前触れも無く心停止を伴う発作を起こし亡くなってしまった。当初は希子の父、研二も決めあぐね再婚に踏み切れなったが、希子の発育や一般家庭を装うには母親は必要不可欠であるとボスが判断した。F内の女性構成員から希子の母親候補を選ぼうと言う案が上がった時、当時十七歳だった香代子が自ら進んで志願した事で今の希子の母親役をやっていると言う事らしい。
当時十七歳の香代子が希子の母親役として許可が出されたのは、希子の母親が香代子の姉だと言う事が大きかったのだろう。
香代子も姉の子供である姪《希子》を知らない女に任せたくは無かったのだろう。
「あんたは希子の母親じゃないんだな…しかし、ボスの報連相の無さは…はぁ」
夜堂の愚痴に香代子は声を上げて大笑いした。
「はっはっは。ボスの報連相が無いのは昔からよ」
「まぁいい。希子の家族に協力者がいるのは分かった」
夜堂は協力者がいることによって、今後の希子の護衛に関わる労力が幾分かマシになる事を勘定に入れた。
希子の母、香代子がFの人間だと分かった所で、希子が自分の父親である研二の死を知らない事が理解出来なかった。
「そういえば、希子は研二さんの死を知らないと言って居たが…」
香代子は夜堂の質問に答えず、ポケットから携帯電話を取り出した。
どこかへ電話を掛けた。
何コールかしたところで、電話が繋がった様だ。
「…もしもし? 希子? ちょっとお母さん遅くなるわ。ん? ご飯? 大丈夫よ殆ど出来てるわ。うんごめんね。遅くなるわ、早く寝なさいね。じゃあねバイバイ」
希子に電話をした様だ。
電話を切り、携帯電話をテーブルに雑に、半ば投げるようにして置いた。
「夜堂君、煙草…あるかしら」
最後まで読んで頂きありがとうございます。