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随分と遅れました




 夜堂は戸惑った。

 縁もゆかりも無いと思われる女子高校生から声を掛けられるとは。

「……?」

 夜堂が戸惑い、声を発せずにいると、

「あ! いえ! 人違いですね。あはは」

 女子高校生が恥ずかしさからか赤面になり、夜堂の元から立ち去ろうとした。

 夜堂は、女子高校生の腕を掴み、咄嗟に引き留めた。

「待ってくれ、俺が夜堂だ。貴女は…?」

 女子高校生は、声を掛けた男が夜堂だったという事にオッとした顔になり、夜堂に掴まれた手を見て、また赤面した。

 女子高校生の百面相を見るが、夜堂にはこの女子高校生に心当たりがない。

 夜堂は、女子高校生の事も気になるが、来るであろう襲撃者にも警戒していた。

 そのせいで、夜堂は女子高校生の表情の原因に気づいて居なかった。

「え? えっと私は…え⁈ 覚えてない?」

 夜堂は女子高校生に顔を覗き込まれる。

 夜堂は見覚えの無いはずと思いながら、記憶の糸を手繰った。

 父が殺される以前、通っていた学校の女子を頭の中に並べていく。

 やはり見覚えが無い。

 ふと、中学校の帰り道で小学校からの友人と歩きながら帰ったのを思い出した。

「?…⁈ ⁈ 希子きこか⁈」

「うん!」

 男女意識が無かった頃からの友人だったからか、無意識に「女子」から除外していた、小学校、中学校の友人の顔を思い出した。

 深原 希子。夜堂と希子が小学校三年生の時、転校してきた活発な少女だった。夜堂とは、席が隣だったと言う理由だけで、夜堂の家に押し入り、希子曰く遊びに来てあげた関係だ。夜堂と希子が中学二年になった時、夜堂の父は殺され。夜堂も姿を消した。

 夜堂の記憶の中に居る希子とは、ずいぶんと変わっていた。

「久しぶりだな。髪も背も伸びて、随分と雰囲気も変わったな。昔とは見違える」

 希子は記憶の中に夜堂とは、変わってしまった態度に狼狽える。希子は過ぎ去った年月を考えるとおかしくはないのかと、思いながら返事を返した。

「ははぁ~ 照れるねぇ。でも夜堂君も随分雰囲気変わったね。声も低くなって身長も高くなってるし誰かと思ったよ!」

「そうか? 確かにデカくはなったかな。雰囲気はそんなに変わったか?」

 夜堂は自身が放つ、一般人とは少し距離を置いた雰囲気に気づいてはいなかった。よく見れば何か目つきと言うものが変わっているかもしれないと言うモノだが、昔の夜堂を知る希子には随分と変わって見えた。

 茹でガエルの様に夜堂は、気づかぬまま後ろ暗い世界に染まっていた。

「しかし随分と美しくなったな」

 今まで培った処世術が自然とと流れ出す。

「⁈」

 ポッと旧友から出た言葉に顔を朱に染めた。

 やたらと恥ずかしがる希子の様子が、可笑しくてたまらないが、夜堂は希子の肩を叩いた。

「落ち着きな。で、どうしたんだ? 何か用か?」

 肩を叩かれた希子は、一泊置いて冷静になろうと努力した。

「様なんてないよ? もしかしたら夜堂君かと思って」

「フッフ そうか」

 希子は昔と変わらず、家に押し掛けた時のままだったことに夜堂は笑った。

 笑みを漏らす夜堂を希子は不思議がる。

「まぁ良いよ。家来なよ。暇でしょ?」

 夜堂が返事を返す暇もなく、希子は夜堂の手を引き始めた。

「おぉ⁈」

 夜堂が希子に手を引かれ、断る暇もなく希子の家へと着いた。

 夜堂が手をほどく暇もなかった。

 希子が夜堂の手を引いて行ったのは、夜堂が見張る襲撃地とされる場所だったからだ。

「は?」

「ん? 夜堂君どうかしたの?」

 驚きで声が出てしまった夜堂に、希子は問いかけた。

「……いや、何でもない」

 夜堂はニコリと笑ってごまかした。


 希子は夜堂の手を引き、玄関の敷居をまたいだ。

「おかーさーん、友達連れてきたぁあ」

 希子は、玄関に入ると母に、夜堂の入室許可を取り出した。

 リビングと思われる場所から、希子の母が出てきた。

「あら? 男の子?」

 夜堂の姿を見て、希子に問いかける。

「うん。ほら、中学の時、居なくなったって言ってた。夜堂君! 家の前でバッタリ会ってさー」

 希子の騒がしい様子も、話半分んに夜堂に家に上がる様に言った。

「あなたが、夜堂君ね、希子も男の子を連れてくるなんてねぇ…あら、ごめんなさい。どうぞ上がってください」

 夜堂は言われるままに家へと上がる。

「あ、ちょっと!」

 母の後ろについて行く夜堂の姿を見て、希子が慌てて二人を追った。

 夜堂がリビングに入り、母がお茶を用意し始めた。希子は、何かムッと来てしまった。リビングの椅子に座る夜堂の手を引いて、自分の部屋に連れ込んだ。

「おかぁーさん。お茶とか要らないからぁ」

 希子は部屋のドアを閉めて、母に部屋に近寄らないよう声を張って言った。

 一方、連れ込まれた夜堂は気の抜けた顔でベッドへ腰かけている。

「どうした?」

 夜堂は希子へ問いかける。

 希子は、ニコニコとしながら夜堂の隣へ腰を落とした。

「んー なんでもないよー。それより、今まで何してたの?」

 希子は、夜堂の事について聞いて来た。

 夜堂は少し考えこむ。少しでも加減を間違えると、希子が危険に晒される事になる。だが、下手な嘘よりは少しの真実を話す方が、心情的にも、嘘をつくよりも楽だと思った。

 夜堂は動いていなかった表情を動かし、希子に微笑み、希子が知りたいであろう事を話し始める。

「そうだな。話すと長くなるから少し大雑把な話になる」

 それでも良いかと視線に込めて希子を見た。

 それでも良いと返事を込めて希子は頷いた。

「じゃあ。俺の家が火事になったのは知ってるよな?」

「うん」

「あの時、俺以外の家族が亡くなってな、親戚付き合いも薄かったから俺の引き取り先が見つからなくてな。その時俺の父親の親友って人が来てな。その人の所で世話になってる」

 希子が、俯く。

 夜堂は希子の反応に、省略しすぎて伝わらなかったかと心配になった。

 俯いて固まっている希子は、考え込んでいる。

「……くぉぉ  失敗したぁぁ」

 小声で何か絞り出した。

 希子は予想以上にヘビーな展開に接し方に迷う。

 昔のままで良いのか、そう思う。だが、希子は夜堂が憐憫の感情を向けられるのを嫌うと思った。

 昔を思い出して、普段通りに、

「そうだったんだ。でも、私はまた会えて嬉しいよぉ」

 希子は昔のまま、を重視しすぎた。

 小学生の時のノリで夜堂へと、飛びついて抱きしめた。

「うぉ」

 成長した友の積極的な接触にひどく驚く。そして、他人の筈の友の接触に警戒しなかった自分に安心した。昔のままの行動ハグをしてきた希子に、夜堂も返した。

 飛びついて、行動に後悔する希子の事など露ほども知らず、夜堂は希子を抱きしめる。

「ッ~~~~~~~---」

 希子が夜堂の腕の中でジタバタともがく。夜堂はそれも昔のノリだと認識した。さらにギュッと力を込めて、希子が逃げられないようにした。。

 とじゃれ合っていると、部屋の扉が開いた。

「———あら… ごめんなさいねぇ」

 希子の母はドアを閉めて、リビングへと戻っていったようだった。

「んーー~~んん~~んん」

 希子が、夜堂の肩を叩く。

 夜堂が腕の力を緩めた。

「どうした?」

 夜堂が目を吊り上げる希子に尋ねた。

「どうした? ってバカッすぐ降りるわよ!」

「⁇」

 夜堂は訳も分からぬまま、希子の後ろをついて行き、リビングへと向かった。




   ‡




 リビングに入ると、希子の母がわざとらしく目を背けた。

 目には、先ほどの光景がちらついているのだろう。

 明らかに希子と夜堂への態度がよそよそしい。

「あ、あら、降りてきたの? 別に、も、もう部屋に行かないわよ…? お母さん、これからはちゃんとノックするわよ」

 そう言ったが、希子の母は自分の妄想を隠すためかハハハと笑った。

「もぉ  言ったじゃん。ノックしてって。あと、夜堂もなんであんなことしたの?」

 希子が憤慨して、母に言いつける。そして夜堂へと矛先が向かった。

「す、すまん。だが、ああして欲しかったんじゃないのか?」

 夜堂は謝罪し、弁明する。

「え、まぁ うん嫌ではないというか… だけど、お母さんが来た時くらい放しても良かったんじゃないかって…」

 夜堂はますます分からなくなった。

「? 嫌じゃないなら何がダメなんだ? 母の前? 別に恥ずかしい事はしていないぞ⁇」

 夜堂の毅然とした態度に希子は恥ずかしくなった。

「いや…恥ずかしくは…ないかな…」

 二人の様子がおかしかったのか、希子の母が吹き出した。

「ふっふ。二人とも可笑しいわね~ まぁ良いわ。お茶にしましょ」

 そう言って、希子の母はキッチンへと行ってしまった。

 夜堂は、希子と希子の母の行動がいまいち理解できていないが、促されるまま椅子に腰かける。希子は夜堂の隣に座り何をしゃべって良いか分からず、口を閉ざしてしまった。

 キッチンからは、希子の母の鼻歌が聞こえてくる。

「夜堂君は珈琲でいいかしら?」

「いえ、珈琲は飲めませんので…」

「珈琲飲めないの? 紅茶で良いかしら?」

「はい。ありがとうございます」

 希子の母は夜堂の返事を聞き、紅茶を取り出し始めた。

「ねぇ。珈琲飲めないの?」

 先ほどの台詞をネタに話しかけて来た。

「あぁ 飲めん」

 夜堂にはそんな気持ちは伝わらず、話は切られてしまった。

「……」

「はーい 紅茶と珈琲よぉ」

 希子の母が紅茶と珈琲を持って来た。




   ‡




 希子の母が持って来た紅茶と珈琲が空になるころには時間が経っていた。

「ただいま~」

 玄関から男の声が響いた。

「あらぁ今日は早いのねぇ」

「お帰りー」

 この状況から察するに、希子の父が帰宅したのだろう。

 希子の父がリビングに入って来る。

「お邪魔しています」

 夜堂が挨拶した。

「⁈…あぁ、ゆっくりしていきなさい」

 希子の父は夜堂の姿を見て、驚いていた。

 希子の父はすぐにリビングを後にした。

 

 時計は午後七時を指していた。

 

 夜堂は夕食を食べるよう勧められていた。

「いえ、そろそろお暇しますので…」

 夜堂はふと窓から外を見る。

 夜堂はスッと立ち上がり、リビングを後にした。

 玄関を出て、自分が張り込んでいた場所に向かう。

 夜堂が張り込んでいた場所には、希子の父が佇んでいた。

「⁈ なぜ、そこに?」

 夜堂は。希子の父がソコに居る事が偶然には感じられず、声色には警戒が見える。

「夜堂君。随分と懐かしい物を持っている様だね」

「なんのことだ?」

 夜堂は敵か味方か分からない、希子の父に情報を握らせない努力をする。

「いや、君の持つ銃の事だよ。あいつの銃を使うのが君とは…まぁ当然の事か」

 ますます、敵味方の判断がつかなくなる。

「夜堂君の父とは友達でね。あの日君を保護したのも私だ」

 記憶を手繰る。あの日自分を見つけてくれた人を、

「あなたが、そうだったのか」

「随分と大きくなった。阿武隈と悠久からは聞いていたが…」

 言葉が切れる。

 夜堂も後ろを向いた。

 黒いフェイスマスクを着けた五人の集団が、体を揺らしながら歩いてきている。

 夜堂は背中の方へと手を回す。

 希子の父も左腋へと手を入れた。

 黒のフェイスマスクがナイフや拳銃を抜いた。

 フェイスマスクのうち一人が、走って来る。

 希子の父へと向かうソレはどうにも動きが荒い。希子の父はフェイスマスクの持つナイフを蹴り上げ、右腕を締め上げた。希子の父が持つ銃が、フェイスマスクの脇へと押し当てられ。発砲された。

「ごっがっ…」

 生きている様だが、確実に戦闘不能になった。

 希子の父は自分の持つ小口径の拳銃のマガジンを変えた。

「…どうやら、彼以外は随分と手こずりそうだ」

 

評価とかしてくれると俺が喜びます。

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