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読んでけろ






 スーツを着た目つきの悪い若い男…夜堂は、ボスの部屋へと呼ばれていた。

 暗い茶色の扉を三回ノックする。

「…入れ」

 夜堂は扉を開け部屋の中に入り、部屋の中にいる、ボスと叔父貴に向け深く礼をした。

「失礼します」

「おう、そこ掛けろ」

 ボスが、夜堂にソファーへ座るよう促した。

 夜堂は断りを入れ、ソファーへ腰を下ろした。

 何故呼ばれたかが分からない様子の夜堂を、二人の叔父貴がじっと見つめていた。

「どうかされましたか?」

「いや、何でもない」

 叔父貴がそう言って、目を伏せた。

 ボスが、封筒を取り出した。薄い封筒を夜堂へ渡した。

「読め」

 そう言われ、夜堂は封筒の封を切り中に入っていた二枚の紙を読み始めた。

 紙には、夜堂の父を殺した犯人と、その派閥…ガルダッドファミリー…の何名かが書かれていた。そして、夜堂の父と同様にガルダッドファミリー狙われると言う中年男性の写真があった。

「これは…」

 夜堂はこの紙からはボスと叔父貴の意図がつかめなかった。

 叔父貴はソレを察してか、ボスへと目をやった。

「…お前の親父をヤッた連中だ。お前もそのナリだし、ちょうどGについてモノが入って来た。お前が判断しろ。この仕事を受けるか?」

 夜堂はボスの意図を理解した。

 そして、瞬時に受けると返事を返していた。

「そうか、おいアレもって来い」

 阿武隈あぶくまの叔父貴が部屋を出ていった。

 阿武隈の叔父貴が出て行くと、公河きみかわの叔父貴が喋りかけてきた。

「夜堂、俺があげた車は大丈夫か?」

 公河の叔父貴が、夜堂が十六歳の時にプレゼントした、黒塗りのセダンについて聞いて来た。

「えぇ、快調です。防弾用のセラミックプレートのせいか少し燃費が悪いですが、速いですよ」

「そーかい、よかったぜ。俺のプレゼントは無駄じゃなかったか」

 そんな会話を続けていると、阿武隈の叔父貴が帰ってきた。

「ん? なんだ? 俺だけ仲間外れか?」

 阿武隈の叔父貴はそう言いながら、アタッシュケースを机に置いた。

 アタッシュケースは夜堂の前へと置かれた。

「ボス? これは?」

「開けてみろ」

 ボスに開けるよう促され、アタッシュケースを開けた。

「⁈」

 アタッシュケースの中にはコルト・デトニクスと呼ばれる小型拳銃が鎮座していた。

 夜堂は今まで、国内での拳銃携帯を許可されていなかった。

 ボスから拳銃を渡される。と言う事にひどく驚いていた。

「…お前がGとヤるんならと、思ってな。ソレはお前の親父がつかっとったモノだ。アノ日お前の親父が使ってたモノだ」

 夜堂は黒染めのコルトを手に取り、伝わる重みと共に自分の父が戦う姿を脳裏に映した。

「拳銃鑑賞もそこらにしとけ」

 阿武隈の叔父貴に声を掛けられ、ハッとなった夜堂は拳銃をアタッシュケースに戻し、アタッシュケースを閉じた。

「すんません、すんません」

 ボスも叔父貴もフッフと笑いながら夜堂を見ていた。

「夜堂、お前はお前の親父の様にはなるなよ」

「そうだ。死を感じたならすぐさま逃げろ」

「二人の言うとおりだな。死ぬなよ」

 ボスと叔父貴にそう言われた。

 夜堂はアタッシュケースを握る手が白くなるほど力を込めて返事をした。

「わかりました」

 そう言って夜堂は部屋を後にした。




   ‡




「ボス《悠久》いいのか?」

 阿武隈がボス…悠久…に問いかけた。

 悠久はふっと笑うと、

「良いんだよ。若いころの俺らとアイツよりか分別が付く。死ぬことは無いだろうよ」

「そーか? 意外とやらかしそうだが…」

 悠久が公河をジッと睨んだ。

「うっ いや、何でもない」




   ‡




 公河の叔父貴からプレゼントされたセダンに乗り込んだ。

 助手席に、アタッシュケースと書類を置き、エンジンを掛けた。

 カーステレオが起動し、ベース音が流れ出した。

 エンジンが温まり始めた所で、後部座席のドアが開いた。

 紫に染めたロングヘアーを靡かせ、ポケットの多いジャケットを纏い、重い音を立てそうなブーツを履いた、メリハリのある整った顔立ちの女性が乗り込んで来た。

「……なんの用だ」

 夜堂が心底面倒くさいと言った表情で問いかけた。

「なーにソレ? お姉さんに取る態度?」

 紫髪の女性は、運転席に座る夜堂の肩へと手を回した。

 夜堂は舌打ちをしながら、肩へと伸びてきた手をほどいた。

「フィア、もう一度聞く。なんの用だ?」

 紫髪改め、フィアは夜堂の態度にため息をついて、後部座席でドンと座り直した。

「えー お姉さんもっと優しい方がいいなぁ」

「ッチ」

 夜堂は盛大な舌打ちをして、車を発進させた。

 フィアの吸う煙草の吸殻が三本になった所で、夜堂の家へと到着した。

 コンクリート製の壁が目立つ小さな家だ。

 ガレージへ駐車を済ませ、二人は車を降りた。

 アタッシュケースと書類を持ち、指で玄関を指した。

「入れ」

 やれやれと言った様子でフィアは家主に無断で作った鍵で玄関を開け、敷居をまたいで行った。

「はぁ…ッチ」

 車のカギを閉め、夜堂も敷居をまたいだ。

 小さなセーフハウスのため、部屋数も少ない。その中で多く使っているリビングでフィアはゴロゴロと煙草を吸いながら寛ぎ初めていた。

「で、何の用だ?」

 ドンとソファーへ座り込みながら、乱暴に問いかけた。

「だぁからぁ な~にその態度ぉ? まぁ良いけどぉ あなたGとヤるらしいじゃない? あなたを男にした身としては、何か言っておこうかと思ったのぉ」

 いつも以上のダルがらみの理由が、己自身だったという事に夜堂は先ほどまでの態度を少し後悔した。

 フィアが煙草をもみ消すとサングラスを外して、夜堂の隣へと座った。

「ねぇそのアタッシュケースの中ってもしかしなくても拳銃?」

 夜堂の肩に触れながら、フィアはアタッシュケースを見つめていた。

 夜堂はアタッシュケースを膝に乗せ、鍵を開け、アタッシュケースを開いた。

「……その銃なの」

 その反応から、フィアもまた夜堂の父の得物だったことを知っているようだ。

 夜堂はそのまま銃を取り出し、三つの弾倉とクリーニングキットを取り出した。

 アタッシュケースは放り出される様に、脇へと置かれた。

 テーブルの上に並べられた銃と弾倉はLEDの光を鈍く反射する。

 通称コルト・デトニクス。正式名称デトニクス・コンバットマスター。夜堂の得物となる白いマイカルタのグリップに六発の装弾数の四五口径の小型拳銃だ。

 夜堂はスライドを引き、薬室内に弾薬が無い事を確認する。構え、照準に狂いが無い事を確認する。分解の手順通りにスライドを前に引き抜き、トリガーメカが露出する。スライドからバレル、スプリング、ブッシングを外した。バレルはクリーニングロッドを使い、施条ライフリングの溝一つ一つに汚れが無いか入念に磨いていく。スライドの溝、トリガーメカに異常が無いかと見て行き、異常が無い事を確認した。トリガーメカとスライドの溝にペコペコと音を立てながら油を差して行く。分解した時と同じ手順で組み立て直した。

「……異常なし。油も差してあった」

 夜堂は組み立てたデトニクスを机へ置いた。

「綺麗な物ねぇ その銃」

 フィアが目を細め、濡れるような瞳で机に置いたデトニクスを眺めていた。

 フィアが何を感じているのかは分からない。だが、夜堂にはデトニクスを通して自分の知らない父の姿がフィアには映っているのだと勝手に想像した。

「あぁ、小さな傷は有るが、錆も歪みも凹みも無い。綺麗な銃だ」

 夜堂の言葉にフフッと笑うと、フィアはどこからか袋を取り出した。

「ん? なんだ?」

「もぅ おとなしく受け取りなさいよ!」

 先ほどとは打って変わって、夜堂の肩をゲシゲシと叩いた。

「お、おう」

 フィアは気分屋だと言う事を最初から知っていたが、この変わりように困惑しながら何かを受け取った。

 袋に入った何かは、大きさの割には重く金属もしくはそれに類するものだと感じた。

 袋を開け、何かを取り出す。

「お? これは…」

 夜堂の手に収まっているのはナイフ。

 それもプッシュナイフと呼ばれるモノである。

 夜堂のナイフの先生でもあるフィアが夜堂が首領からプレゼントを受け取ったと言う話を聞きつけ、フィアがコレクションの中から用意したものだった。

 夜堂の視線がナイフとフィアの顔を往復する。

「な、なによぉ」

 恥ずかしげに目を伏せるフィアの姿が、夜堂には小動物的可愛さに映った。

「ふっふ ありがとう。    しかし、このナイフ…」

 夜堂がナイフを疑問の目で見つめた。

 フィアがナイフを夜堂の手から奪い、解説し始めた。

 フィア曰く、靭性の高い鋼材とコンベックスグラインドの刃は刃こぼれをほとんど起こすことはなく、軽いため取り回しにも疲れを感じさせないと言う。

 そんなフィアからのプレゼントが、表情には出ないが心底嬉しかった。

「ありがたく受け取るよ」

 フィアの手からするりとナイフを抜き、テーブルの上へとナイフも並べた。


 夜堂は既に深夜零時を過ぎている事に気が付いた。

「シャワー行ってくる」

 夜堂はそう言ってシャワールームへと向かった。

「行ってら~」




   ‡




 フィアは夜堂が部屋から出て、廊下を歩く音を聞くと、夜堂の家にいつの間にか常備されていた自分専用の灰皿を出してきた。

 煙草に火を点け、最初の一口をゆっくりと口に含んで行く。煙をフッと吹くと鼻腔には煙草特有の甘い香りが駆けて行った。

 シャワー室へ向かった初めての弟分の背中を思い出す。

 いつの間にか力も負けた。いつの間にか背も抜かされた。

 随分と強くなった弟分が、生きて帰るか分からない。

 その話を聞きつけ、セーフハウスの金庫を開けた。

 夜堂に渡したナイフは、フィアが初めての戦闘を体験した時の物だ。いつ死んでもおかしくなかったあの場所から戻れた時の物だと、少し験を担いでみたのだ。

「何でかなぁ~ 年かなぁ まだ二十代なんだけどなぁ」

 煙草は最初の一口を除いて口を付けられることは無く、灰皿の中へと落ちて行った。




   ‡




「まだ居たのか?」

 夜堂がシャワーから帰ってきた。

 小さな傷跡が残る裸体を晒し、下着のみの姿のままフィアの隣へ腰を落とした。

「ひどいわねー ま、もう帰るわ」

 フィアはタバコをもみ消し、煙草とライターをポケットへと仕舞った。

「あ、そう言えば、帰るって言っても遠いし、バイク借りるわよ」

「わかった」

 バイクのキーを指に下げ、フィアは夜堂の家を後にした。

 夜堂は、明日の戦いの為にコートを取り出してきた。

 黒い薄手のコートだ。ディガンマファミリーすべての人間に与えられるコートである。強い摩擦耐性とトラウマプレートなど装備するためのスリットや、簡単に燃えること無い耐火性を備えたモノだ。

 夜堂はコートの内側に動きを阻害しない程度と、薄手のケブラー繊維でできた新品のプレートを脇腹と、背中のスリットに入れた。ナイフを取り付けるためのループには、今までのナイフではなく、フィアからプレゼントされたものを取り付けた。

 コートを机に置き、夜堂はそのままソファーで眠りに落ちた。




   ‡




 襲撃されると情報のあった、場所で張り込みを続けていた。

 女子高校生が、夜堂を注視して近づいて来た。

 夜堂は、どこかその女子高校生に見覚えがある気がした。

 女子高校生は夜堂の前に立ち留まり、夜堂に恐る恐ると言った様子で声を掛けた。

「あのぅ……もしかして夜堂君ですか?」

 

有難う御座いました

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