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 暴力団対策法やその他諸々、今では白嵐会も代紋や看板などは出してはいない。

 飾り気のないビルのガラス戸を押し開けた。

「?」

 鍵は開いており、電気はついていない。非常灯がぼんやりと灯り廊下をうっすらと照らしていた。

 夜堂はくまなく回りを見渡すが、人の気配が無い。夜堂達が来るのを察知して姿をくらました可能性もあるが、全員が消えた理由が分からない。所何処ろに物が置いてあるのを見ると最近まではこのビルに居たのは確実だ。 

 一階に深山を置いて夜堂達は階段を上った。

「誰も居ねぇぞ」

 万泪が空きっぱなしの扉を見て呟く。

 雪と夜堂は集中しているのか返事は無かった。

 三階建てのビルの中で会長室へと続く少し細い廊下を歩く。

 夜堂達の鼻は異臭を嗅ぎとった。

 嗅ぎなれた不快な匂いをたどる。

「おい。どうもあの部屋以外は有り得ねぇぞ」

 万泪が会長室を指さした。

 夜堂は舌打ちを重ね、会長室の扉を蹴り明けた。

 同時に雪が飛び込み銃を構える。だが、雪はすぐに銃を下ろしてしまった。異臭の正体は夜堂達の良く知るモノだったらしい。

 部屋の中では日本刀の様なモノが頭に刺さる白嵐会の会長だったものが有った。

 異臭に渋面を浮かべながら部屋に仕掛けが無いか、そして死体の検分をした。

 会長は日本刀では無く刃の無い模造刀で頭を叩かれ、こめかみから頭を貫かれた様だった。

 夜堂は感情に巻かれた阿呆の仕業かよっぽどの私怨の持ち主の犯行と想像する。

「夜堂」

 万泪が声を掛けてきた。

 万泪はこじ開けられた金庫の前に居た。

 金庫の扉は変色しており、高熱を掛け鍵を破壊したのが伺える。ファイルや、契約書の類は床に散っており他組織の犯行では無いのでは無いかと思い始めた。ビルには戦闘痕も無く、人が居なくなっているだけ、確実に内部の仕業なのだろう。

 夜堂の頭にはふと東条の顔が浮かんだ。

 だが、東条には犯行の理由も無く、夜堂の知る東条の性格上仲間が多いとも思えない。

 不可解な犯行だが、人死にが出ている以上長居は出来ない。

 夜堂は深山に状況を伝え、白嵐会が貯蔵している資料、契約書を集める。

 後日Fの構成員が本格的な押収を済ませてくれる。床に散ったものや目に点く物を回収した。

 そして武器類も大半が無くなっているのが分かった。

 足早にビルを出て車へ向かう。

 すぐに車に乗り込み場所を移る。尾行等が無い事を確認し、路肩に停車した。

 夜堂は降車しながら周囲を見わたす。無人で車通りも無い。

 万泪達に降りるようハンドサインを送る。ハンドサインを確認した二人は車を降りて、夜堂の元に距離を詰めた。

 人が居なくても、唇の動きや会話の内容を悟られたくは無いのだ。

「深山は戻ってくれ。危ない可能性がある。必ず二人以上で行動しろ」

「おう」

「お前らは一度戻るぞ」

 二人は無言で頷き返した。

 四人は元の車に乗り、別の方向へと走り去っていった。




   ‡




 Fへ着き、急ぎ足で報告へと向かう。

 途中、公河きみかわの叔父貴とすれ違い驚かせてしまった。

 白嵐会のビルを出た時にボスへの連絡は済ませている。夜堂は暗い茶色の扉を三回ノックした。

「入れ」

 扉の向こうからくぐもった声が響いた。

 扉を開き、ボスの下へと押収してきた物品を並べた。

 ボスはため息と共に押収してきた物品に手を付けた。

 何度か眉間に皺をよせる。夜堂達は資料や契約書の内容を確認していない。ボスが何に皺を刻んでいるのかは分からなかった。

「ッチ」

 ボスが大きな舌打ちを響かせた。

 A4紙を夜堂に向けた。

 夜堂はA4紙を手に取る。

 簡単な取引の記録だ。だが、その紙面に書かれていたのは大麻の種子、芥子の液汁など違法薬物の取引記録であった。

 ディガンマでは大麻を除く薬物の取引は禁じており、大麻も内々にしか卸してはいない。一般流出させるなど持っての他である。

 もちろんFの勢力圏である白嵐会が違法薬物の流通に関わる事は許されていない。

 Fの方針と夜堂本人の思いもあり、この記録は看過できるモノでは無かった。

「どうするんです?」

 A4紙をボスへと返し、違法薬物の流通について尋ねた。

「どうするも、何も、締めるしかねぇ。まだ洗えてない所は有る。取り合えず情報が出次第連絡する」

 この件は続報が無い限り後回しにされるだろう。

「それで他に要件も有るんですよね?」

 一つの事で呼びつける程、ボスも夜堂も暇ではない。

「あぁ、少し人員整理だな」

「人員整理ですか?」

 紙を渡される。

「増やすんですか?」

 希子の自宅周辺、学校周辺の護衛を増やし夜堂を含む上位権限者はローテーションから外れると言うモノだった。

「顔割れしてないお前らを固定で使ってる暇はないんだよ。今まではたまたま日程が合わなくてお前らも入れたがな」

 希子の護衛などで夜堂達を拘束させておきたくないらしい。

 後は学校周辺に現れた不審者の事も関係しているのだろう。

「分かりました。それで、俺は明日からコンテナの監視してれば良いんですね」

「あぁ。どれが本命かは分からんから取り合えずの配置だな。ちゃんと訓練した奴らを連れて行けよ」

 紙に書かれた新任務として中国から送られてきたGの海洋コンテナの監視、Gがコンテナに接触しようとした場合に妨害する事が任務として記されていた。

「分かりました、今回も人員は自由で良いですか?」

 メンバーの指定はされていなかった。夜堂は普段通りに手の空いている者を数人連れて行こうと思っている。

「あぁ、あと装備はレベルBまでだ。減音器サプレッサー付きだぞ銃声の後処理は面倒だからな」

「分かりました」

 頭の中で万泪に注文する装備品のリストアップをした。

 もう言う事は無いのかボスは険しい表情で紙面を覗いている。

 夜堂はすで要は無くなったと判断して、静かに退出した。

 

 先ほど受け取った紙を片手に万泪に電話をする。

「おぅ、次の仕事で使いたいモノあるから頼むわ」

 頭の中でリストアップしていたモノを言い連ねる。

「MAC10三丁とサプ、あとは暗視装置も頼む」

 万泪は夜堂の注文を聞くとすぐに電話を切ってしまった。

 明日という納期の短さに直ぐに銃や物資を集める必要があるのだ。

 夜堂は電話を切ったのを確認して車に戻った。

 ランサーエボリューションを乗り回したい気分だが、白嵐会がああ《・・》なった今動き回るのは賢いとは言えない。エンジンをかけ真っ直ぐセーフハウスへ戻る事にした。




   ‡




 セーフハウスには相変わらずフィアが居た。今日は遅い時間にもなっておらず、普段なら外食にでも出かけるのだが、真っ直ぐに帰路に着いた意味がなくなってしまう。

 夜堂は夕飯を済ませ、すぐに寝てしまった。




 フィアは少々残念そうであったが、夜堂と接する時間が長かった今日は比較的気分が良かった。

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