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16

「夜堂さん。交代です」

 肩を叩かれ、雪に交代を知らされた。

「あれ? 鈴は?」

「あとから来ます」

 そう言って雪は夜堂に車のカギを渡した。

 車のカギを受け取り、席を立とうとする。

「あ、パーキングどこ?」

 肝心の事を聞き忘れる所だった。

「喫茶店の裏手の方です」

「あいよ」

 深山は離席していなかった。

「どうした? 深山? 行こうぜ」

 深山は夜堂を喋っている雪に目を丸くして呆気に取られていた。

「あ、あぁ」

 深山は席を立ち、夜堂の後を追いかけて行った。


「あの人誰だ?」

 雪は夜堂を追いかけ、自分を見て呆気に取られていた深山の後ろ姿に眉間を寄せていた。

 まぁいいかと、校門を眺め、いまだに来ない相棒の姿を思い浮かべ、一人けだるげにため息をついた。




  ‡




 昼食に何を食うかと、周辺の飲食店を思い出す。

 一方深山はうんうんと唸っていた。

「どうしたよ? 深山?」

 深山は眉間に皺をよせ、パグやブルドックの様な表情で夜堂を見た。

 深山の余りの表情にビクッと体が硬直してしまう。

「いいよな、同じ組に女いるのか」

 深谷がぼそりと言う。

「ん? あぁ。どうした?」

「俺、学校も行ってないから同年代の女の子と合わないんだよなぁ」

 当たり前の事を言う。

「まぁ、デカい組織じゃないと女ってだけでも危険だし…」

「そういう事じゃない」

「?」

「女と接する機会が日常の中にあるのが羨ましい」

 至極少年的な嫉妬だった。

「はぁ? …まぁ飯行くぞ」

 夜堂はそんな理由とは思っておらず、一瞬深山と雪の間に何かがあったのかと勘ぐったのを後悔した。

 背後で深山はぶつぶつと何かを言っているが、夜堂は無視してファストフード店に向かった。

 ファストフード店に入店する。

 やはりか、深山は機嫌を取り戻し、夜堂の後に続いていた。

 夜堂は店員に案内されるままレジへと注文に向かう。

「いらしゃいませ~ ご注文はお決まりでしょうか?」

 店員の決まり文句を聞きながら注文を始めた。

「ハンバーガー八個とコーラ。氷抜きで」

 メニューには一瞥もくれず、普段通りの注文を済ませた。

 続けて夜堂は後ろの深山の分の注文を始めた。

「深谷、お前は?」

「同じの」

 二人は合計の十六個のハンバーガーとコーラを買って行った。

 少々後の客に響いていたが、見なかった事にした。


 夜堂と深山は紙袋片手に、喫茶店の裏手にあるパーキングへと向かって行った。

 冷めない様にとせかす深山をほどほどに相手し、夜堂はマイペースに歩いていく。ついでにハンバーガーを二つ、三つと食べながら歩いて行った。

 車のカギを開け、夜堂と深山は後部座席へと座り込んだ。

「ふぅ…」

 夜堂はやっと独立した空間に入った事で少し肩の力を抜いた。

 深山は無言だったが、同じく、窓の外を伺いながらも明らかに、先ほどより楽な姿勢になっていた。

 コーラにストローを刺す。

 夜堂はハンバーガーで乾いた口の中を潤し、炭酸の爽快感を砂糖の甘さで口の中を一掃した。

 一方、深山は詰め込むだけ詰め込んでいるのか既に五個目のハンバーガーに手を出していた。

「しかし、さっきの男? は何だったんだろうな?」

 先ほどスーツ姿の男について話を振った。

 夜堂は深山が呑み込むまで返答を待つ。夜堂も深山も咀嚼中に喋るのを嫌っている。

「分からんさ。結局白嵐会のとは連絡はついたのか?」

 夜堂は無言で首を横に振った。

 深山は苦笑して、東条の顔を思い出した。

 深山の中の東条は少々判断能力に欠ける人物と言うだった。だが、今の夜堂を見て深山の中では東条は判断能力に欠ける上、自分の首を自分で締める愚か者に変わった。 

 今後も東条には関わらないでおこうと心に誓った深山だった。

「白嵐も何がしたいのかは分からんが、また連絡を付けるさ」

 現在も連絡は付けているが、東条とは連絡が取れず、白嵐会からは東条に聞けと言われている状況だった。

 このままこの状況が続くのであれば一度白嵐会まで出向く必要があるとも考え始めている。

 だが、そこまで行くとなると、流石に夜堂だけの際限とは行かないため、一度悠久《  ボス》と叔父貴達に話を通す必要があるため、今の所は先延ばしにしている。

 無言の間が続き、ハンバーガーに手を付けた。

 二人とも食べるのが早く、すでにハンバーガーの残りは少ない。

「あ、返す」

 最後のハンバーガーに手を付けようとしていた深山は、内ポケットから夜堂から借りていた警棒を返却した。

「おう」

 夜堂は警棒を受け取り、腰に差しなおした。

「夜堂は変わったもの持ってるのな」

 先ほどの警棒の事だろう。

「そうか?」

 夜堂の周りにはこのようなモノを持つ者は多い。大して不思議には思わなかった。

「刃物の類を持ってる奴の方が多いからな」

「あぁそう言う事か」

 深山の言葉に夜堂は納得した。

 Fの構成員は程度は有れど、武術、格闘術を身に着けている。なのでナイフなどの刃物も使用するが、寸鉄や警棒、ウィップなど好んで使う。だが、深山達はそうでは無いだろう。喧嘩を主としても、殺傷を主としない深山達のような者たちにはナイフなどの刃物の方が強そうであり、大きなトラブルを防止できるという意味もあるのだろう。

「デカいナイフなんかは持たないな」

 そう言って夜堂はわき腹からナイフを一本取り出した。

「コレだけだな」

 フィアからプレゼントされたナイフだ。

「一本しか持たないのか。まぁ俺は一本も持ってないから俺が言えた事じゃないか」

「深山はなんで持ってないんだ?」

 深山は何も武器の類は所持していなかった。

 先ほどの通り、何かしら刃物や武器の類を所持していてもおかしくない。

「忘れたのもあるけど、俺荒事担当じゃない」

 単純な理由だった。

 深山は暴力の絡む荒事を担当していなかった。普段は経理を担当していたのだ。

 当然、金銭回収や薬物売買を担当する者にくらべ武器の類を所持する機会は減ってくる。

「なるほど。でもこれからは何か持っておいた方が良いんじゃないか?」

「そうだな。でも俺は何を持ってればいいんだ?」

 深山はそう言った類の物に触れてこなかったために、何を持てば良いのかさえ良く分かって居なかった。

「なんか武術とかやってる?」

「警棒と鎖」

「は?」

 想像よりも突拍子もない答えが返ってきた。

 空手や柔道、合気道などポピュラーなモノかと思ったが、警棒と鎖。

 警棒は剣道などの派生を習ったのかもしれないが、鎖は古武術の類であろう。

 先ほども夜堂のディフェンスツールを寸鉄の様に構えた様に、深山は古武術の類を身に着けていた様だった。

「鎖は良く分からんが、警棒は何か持って居るのか?」

「まぁ持ってるが、稽古用のだけだな。古いし太い」

 深山の様子を見るに、稽古用の物は余り持ち歩くのには適していないのだろう。

「じゃぁ警棒だけでも用意しておこうか?」

 取り合えずと、夜堂は万泪に警棒を用立ててもらおうかと考えた。

「お、マジで? じゃぁそうしてもらおうかな」

 そう言って深山はポケットから一万円札を一枚夜堂に渡した。

「足りなかったら行ってくれ」

 渡された一万円札を返そうとするが深山は受け取ってくれそうにない。

「いや、良いよ、後からで」

「受け取っておいてくれ、この前の飯代もあるし」

 そう言われると突き返す訳にもいかず、夜堂は一万円札をポケットに入れる事にした。

 万泪にメールをしておいた。

 

 その後は特に何かある訳でなく、粛々と日々が過ぎて行った。

 夜堂と深山は毎日少しずつ時間をずらしながら、希子の学校を見張っていた。

 



   ‡




 希子は最近学校の周辺の様子が変わったのではないかと思う様になっていた。

 登下校時には何者かの視線を感じるようになった。

 不審に思いつつも中学校時代。丁度夜堂が姿を消した時にも同じ感覚を覚えていた。また何かの思い込みか、勘違いだろうと気にするのをやめる事にした。

「希子ー」

 うち履きを履き替えていると、友人の三好 あきらが走ってきていた。

「玲~ おそいよ~」 

 後から来ると言って遅れていたのを咎めた。

 だが、玲が遅れるのはいつもの事で希子にも本気で咎めようと言う意思は微塵も感じっられない。形式的に取り合えずと言って居るのであろう。

 夜堂の前では気が引けていた様子だった玲だが、親友とも呼べる希子の前ではやはり自分を出して居るようだった。

「うへへ~ ごめんね~」

「もぅ 今日はどうするの? 何かする?」

 普段から学校帰りには遊んで帰っている二人だが、いつも行き当たりばったりで遊んでいた。

 なので希子はいつも玲にしたい事は無いかと問いかける。

「今日は…どうしようかな…まだ給料日じゃないからそのまま帰ろうかな」

 玲の懐事情により、本日は何処かによるわけでは無く、談笑に興じながらの帰宅に決定した。

 校門を出た時遂に、夜堂の姿を目撃してしまった。

「あ…」

「どうしたの?」

 希子が小さな声を出してしまった。

 夜堂が丁度交代のタイミングだった。雪と何かを話している最中の二人の姿が目に入った。

「ん? あ! 夜堂さん?」

 希子の目線をたどり、玲も夜堂の姿を捉えた。

 雪と二人で何かを喋っている夜堂の姿が目に入る。希子と玲が夜堂と出会ったときはスーツだった。だが、明らかに私服と思われる格好で女性と二人で何か喋っているのだ。

「夜堂さんの彼女さん? かな? 美人だね」

 玲は雪を見てそう言った。

「うん…」

 希子にとって夜堂はこの土地に来て初めて出来た友達だった。

 希子の中では一番仲の良い異性は夜堂だった。だが自分の知らないところで夜堂は女性と

仲良くなって、そして私服で、二人で出歩く仲になっていた。

 自分の知らない人間関係が有って当然なのだが、何か釈然としないモノを覚えるのだった。

「夜堂君働いてるみたいだったし、職場とかのお友達かな?」

 ばっちり正解。

「どうかなぁ? あの距離感は彼女とかじゃない?」

 玲が邪推した。

 夜堂を含むFの人間はパーソナルスペースが異様に狭く、人との距離が近いのだ。

 当然二人の距離感は異様に近く映る。男女の関係を邪推されるレベルで。

「…どうだろう…ね?」

 希子はもやもやとしたモノを抱えながら帰宅したのだった。

 

 夜堂の連絡先をもっているので連絡しようと試みたが、希子は結局連絡を取る事は出来なかった。

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