裏1話
———某所
レイヤーショートの金髪の女性が、会議室と呼ぶのが適当だろう部屋にいた。
女性の他には、四人の男性が椅子に腰かけて居た。
「エルテノ。お前がいくらスポンサーだからと言ってこれ以上口を出させる訳には行かん」
レイヤーショートの金髪の女性はエルテノと呼ばれ、一人の男性から著しく非難されていた。
「私は第一のカギを見つけたから、今のうちに二つとも取りましょうって提案しただけよ?」
四人の男性の内一番若い男が頭を掻きむしる。
「一人づつで良いだろう! 第一のカギの見た目、年齢、所属は判明したんだ。大規模抗争になった時にはFだけでは無く、他の組織も敵に回るぞ!」
エルテノは何処吹く風と言った様子だ。
一人の男性が、何かを読み上げた。
「第二のカギの選任護衛の消滅を確認。第一のカギは第二のカギと共に行動している様子が多く確認されている。私の伝手です。今カギを奪取すればFのネットワークや顧客情報などは丸々儲けられる訳ですから、今、畳み掛けるべきでは?」
そう提案する男にもう一人の男が食って掛かっていた。
「もう行くわね~」
エルテノは言い争いを続ける男四人を置いて、会議室を後にした。
‡
エルテノは颯爽と廊下を歩き、ビルの出口へと向かって居た。
コツコツと音を立てるパンプスは出口に近づくにつれリズミカルになっていく。
出口の自動ドアが開く。
スーツを纏った青年が車のドアを開け、エルテノを迎えていた。
エルテノは青年の肩を叩き、車の中に乗った。
青年が運転席に座り、車は走って行った。
エルテノがシガリロと呼ばれる葉巻の一種を手に取る。
紙巻煙草の様に口にくわえ、ライターで火を点けて吸い始めた。
「はぁ… あのジジイ共は何してんのかしら? どうせ、Fには勝てない癖にね」
エルテノが毒づく。
青年は「ははは」と困りながら笑う。
「仕方がないのでは無いでしょうか? どちらにせよ…私はエルテノ様の言うとおりに動きます」
エルテノはシガリロを指で挟み、焦点の合わない瞳で流れる景色を眺めていた。
目を開きながら、視界を閉じる。
エルテノは日本で見つけた夜堂と希子の姿を思い出していた。
「早く欲しいわぁ~」
窓に希子と夜堂を映らせ、頬を緩める姿があった。
運転手の青年は、大分様子の可笑しい主人の姿に「ははは」と笑うしかなかった。
「…しかしなぁ」
エルテノの頭の中には、金をせびって結果を出さないG達の姿が過る。
夜堂と希子を手元に置きたいだけのエルテノにとって、Fと敵対しているGの事などどうでもいいのだ。
夜堂と希子を手に入れるのにGを使うのが丁度よかっただけである。Fが有る以上、二人だけを拉致するのは無理だと言うのは分かっている。エルテノは夜堂と希子がカギなのを知っているが、カギがもたらす物以上にカギとしての役目を負った二人が欲しいのである。
かれこれ、三年以上前から実行に移された計画が夜堂の父を殺害した以外に、全く持って成果を上げていない事にエルテノは一抹の不安を抱えていた。
「~~~ん…希子ちゃんがいる場所が分かった上に、夜堂君の存在も確認出来たのは大きいか…」
希子は進まない計画にため息しか出ないが、今からやっと進んで行きそうだと頬を緩めた。