今日だけ君の彼女だよ
結局小一時間ほど、ラノベについて語ってしまった。
「赤間君、楽しそうだね」
「そうだね。普段は話せないからね」
発戸さんは俺の隣にやってきて、突然俺の手を握りしめてきた。
「私にだったら、なんでも話していいんだよ? もっと赤間君の事が知りたい……」
「何でも?」
「うん。何でも」
だったらなんでも話してやれ。
そして、機嫌を悪くして早く家に帰ればいい!
「そうだな、俺の好きな女性のタイプは――」
俺は、自分の性癖も含め、タイプの女性や仕草、服装や言葉使いなど全て話した。
ははっ、ここまで話をしたことはない。
と言うか、俺は初対面の少女に対して何を話しているんだ?
「そうなんだね。ずっと、一人で溜めこんでいたんでしょ?」
「一人暮らしだし、彼女いないし、親友と呼べる奴もいないし……」
「だったら私が赤間君の事、理解してあげる。話もなんでも聞いてあげるよ」
発戸さんの目が優しい。そして、温かいと感じる。
「どうしてそこまで?」
「赤間君の事が、大切だから」
初対面の少女に言われるが、正直怪しいとしか言えない。
しかし、目を見る限り曇りを感じない。
俺にこれからどうしろと?
そうか、早く適当にあしらった方がいいと言う事か。
だったら簡単なことだ。
「俺の事が大切なんだ。だったら、シャワー浴びてこいよ。この意味わかるだろ?」
無言で頷く発戸さん。
初対面の男にこんなこと言われたら、普通に帰るだろう。
さぁ、早く帰れそして、消え去れ!
これ以上、俺の心を持て遊ぶな!
「その意味、分かるよ。ちょっと待ってて。お風呂、借りるね」
ハイ? 俺の予想と斜め右上、その後急降下。
全く予想外の事が。ちょっと待ってくれ、やっぱり今のなし!
しかし、声をかけようとしたが、すでに俺の部屋から彼女は出て行ってしまった。
どどどど、どうしよう。
もし、このまま数分後にバスタオル一枚で戻ってきたらどうしよう。
もしくは、怖いお兄さんが部屋に十人も来たらどうしよう。
落ち着け、一度落ち着くんだ。
の喉が渇く……。そ、そういえばさっきジュース買っていたな。
バッグから一本のジュースを取り出す。
ホットチョコレート。すっきりはしないだろうが、水分は取れる。
俺はふたを開け、一気飲み干した。
ふぅー、落ち着いた。
そのとたん、一回からカコーンと言う音が聞こえてきた。
な、何の音だ?
急いで階段を駆け下り、音がしたと思われる方へ走っていく。
音の聞こえた場所は風呂場。発戸さんが行ったと思われる風呂場だ。
入ってもいいのかな? いいよね?
もし倒れていたら大変だし!
ゆっくりとノブを回し、脱衣所へ侵入する。
シャワーの出ている音は聞こえるが、人の気配はない。
おかしいな、発戸さんはどこに行った?
風呂場の扉を開け、中を見ると誰もいない。
しかし、シャワーは出ている。
いなくなった?
心拍数が高くなり、脱衣所を見る。
発戸さんの服が無い。どこにいった?
シャワーを止めダッシュで自分の部屋に行き、発戸さんのコートを確認する。
が、コートも無い。おかしい、どうしてこうなった?
そうだ、靴。靴ならあるかも。
玄関に駆け下り、発戸さんのブーツを確認する。
が、ブーツもなくなっている。
な、何なんだよ! これは何なんだ!
俺は、変な夢でも見ているのか? まだ昼間だぞ!
ふらふらしながら自分の部屋に戻り、飲み干したホットチョコの缶を握る。
パッケージには発戸さんにそっくりな、イラストが描かれていた。
その描かれた発戸さんのイラストには吹き出しがあり、一言だけ書かれている。
『今日だけ君の彼女だよ。大切にしてね』
なんだよ、これ……。