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寒い心に


 今日はバレンタインデー。


 学校では女子から男子にチョコの入った箱が飛び交っていた。

下駄箱に入っているチョコ。机に入っているチョコ。

屋上で手渡されるチョコ。体育館裏で渡されるチョコ。


 三年間、俺には一個のチョコもなかった。

訳あって俺は一人で家に住んでいる。

高校最後のバレンタインデーも戦利品は何もなかった。


 肩を落としながら帰宅するが、見た事のない自販機が目の前にある。

いつからあるのだろうか? 一種類を除き全て売り切れ。

残っているのはホットチョコレートのみ。


 これは俺の為に残っていたのか?

しかもワンコイン価格になっている。

自販機にコインを入れ、ボタンを押す。


 ……出てこない。

ここでも俺は見放されたのか!

どうでもいいやと思いながら、帰ろうとすると後ろから声をかけられた。


「これ、君の?」


 見た事の無い少女が目の前に立っている。

ミルクチョコレートの様な明るいブラウンストレートの髪に、真っ赤な瞳。

明るいグレーのショートコートを着ているが、短いスカートから見える足は寒そうだ。


「その自販機から出てきたの?」


「そう。今、ここで買わなかった?」


「買った。多分俺のだ」


 少女は俺にホットチョコレートを手渡し、俺の手を握ってきた。


「冷えてるね。寒くない?」


「今は冬だ。寒いに決まっているだろう」


「そうだね。ねぇ、今から少しだけ話さない?」


「なんでだ?」


「私、売れ残りなの」


 そうか。今日はバレンタインデー。

この子はもらってもらえなかったんだな。


 俺も誰からももらえなかった。

お互い、一人もんだ。


「いいよ。俺も売れ残りだ」


 俺達は二人で歩きながら近くの公園に入りベンチに座った。


「君、名前は?」


「俺は赤間裕也あかまゆうや


「良い名前だね。私は発戸千代子ほっとちよこ


 不思議な名前だな。あまり聞かない苗字だ。初めて聞いた。

俺の手にはさっき買ったホットチョコまだ温かい。

それを手で転がしながら、発戸さんの方を見る。


「あまり聞かない苗字だね。出身はこの辺じゃないの?」


「ここら辺ではないね。少し遠い所」


「そうなんだ。ここで何していたの?」


「待ってたの。私と話をしてくれる人を」


 どういう意味だ? 俺の事を待っていたのか?

そうか、こんな日に一人でいる男子をおからかっていたのか。


 発戸さんは見た感じ不思議少女だけど、可愛いし、スタイルも良い。

きっと、俺の事をからかっているんだ。

ちくしょう、なんで俺ばっかりこんな目に……。


 いいさ、俺は気が付いた。

だったら逆にとことんだましてやる。


「そうなんだ。俺で良かったのか?」


「うん、赤間君でいいよっ」


 可愛い。笑顔を俺に向けるな、この詐欺師め。

俺はお金もないし、貴金属もないし、高価なものなんて持ってないぞ。

ふん、ざまーみろ。


「そうか、だったらここだと寒いし、俺の家に来ないか?」


「いいの? 良かった、ちょうど寒いと思っていたんだろね」


 なんだ、チョロいな。

もしかして、どこかに怖いお兄さんが隠れているのかな?

俺は少しだけ不安になり、さりげなく周囲を見渡す。


 うん、誰もいない。


「じゃ、行こうか」


 俺は発戸さんの手を取り、自宅に向かって歩き出した。

しばらくすると家に着くが、もちろん誰もいない。


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