初投稿の失敗
フィリム・ベトナーは魔法使いに憧れる少年である。
腕力に自信がある者が騎士を目指すように、貴族の淑女が王族へと嫁ぐ夢を見るように、フィリムは魔法使いになることを望んだ。
三男ではあったものの、地方貴族の子供として生まれた彼にはそれなりの教育が施された。もちろん魔法使いについても彼は学んだ。
つまるところ、魔法使いには生まれながらの資質があるということを彼は知った。そして屋敷に招いた高名な魔法使いに自分を見てもらった結果、彼にはその資質がないだろうという残酷な宣告をされたのだった。
しかしフィリムは諦めなかった。諦めきれなかったと言ってもいい。
フィリムは屋敷にある全ての魔法についての書物を古びた羊皮紙がぼろぼろになるほど読み返し、行商人が持ち込む玉石混交の魔法についての書物をありとあらゆる方法で手に入れてきた。
領地を訪れる魔法使いがいると聞くと、何としても会いたいと望み、僅かな時間でも魔法使いとの会話を望んだ。
魔法使いの修業になると聞けば、冬の湖の中に潜ったこともある。
魔石を持つという魔獣を探しに森に入り、角熊と呼ばれる大型の獣に襲われ半死半生で逃げ帰ったこともあった。
魔法を使えるようになるという秘薬を飲んだ時は、十日間ほどベットから起き上がれないほどの高熱が出た。
それでもフィリムには魔法を使うことは出来なかった。
いつしか彼のいる町では、変わり者の領主の息子のことを誰もがこう呼んだ。
「魔法使い見習いのフィリム」
彼のことを侮蔑的に呼ぶ者もいれば、好意的にそう呼ぶ者もいた。どちらにせよ魔法使いを目指すフィリムにとってこの呼ばれ方は、例えどんな意味で呼ばれようとも、不快なものにはなり得なかった。
好意的にそう呼ぶ者の筆頭に彼の兄がいた。二人いる内の一番長男であるカレンゾ・ベトナーである。
十二も年の離れたこの弟を、カレンゾは可愛がっていた。そしてフィリムの異質ぶりを一番間近で見てきたのも彼である。
あまり豊かとはいえなかった領地の奥に上質の岩塩坑があることを見つけたのは、まだ十才になったばかりのフィリムだった。
「東の山から流れる水は飲料に向かないと伝えられてきたそうで、山に魔力を発生する何かがあると思ったのに残念です」
勝手に兵士を一人連れて行って、数日間行方不明になったフィリムが持ち帰ったものは、今ではベトナー領の名産となった岩塩だった。
父であるモールディは、フィリムを叱ることも忘れ、自分の息子が取ってきた岩塩を手に取るとじっくりとその品質を確かめた。
「かなりの品質だと思う。我が家でこれを産する事が出来るとは」
「採掘するにはかなり大掛かりな準備が必要になります。ウチの領地の岩塩坑は、本に書いてあった最大のものより少し小さいくらいでした。定期的に採取して、輸送を整えなければなりませんがウチにはそんなお金ありません」
興奮する父モールディとカレンゾを余所に、淡々と述べるフィリムはさして面白みのない顔をしていた。
「ふむ、しかしこれはまさに我が家を助ける宝の山だ。そのままにできないな」
「冒険者に依頼しましょうか」
「しかし、持ち逃げされたらどうする」
モールディとカレンゾが悩んでいると、フィリムはモールディの手にあった岩塩をひょいと奪い取った。
「これはそのままブラーニス伯に届けましょう。彼の領地は一番物と人が集まる場所です。品質を見てもらって、ブラーニス伯に開発の協力を頼みましょう」