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04 アウグスト・学園での青春

タイトル通り、アウグスト視点です。

少し未来の話をちょこっと載せてあります。


 未だに、婚約者がいないことを、王太子アウグストは悩んでいた。


 父であるロザリファ国の王は、強制するわけではないし、「誰でもいいよ~」と言うので、自分で決めることにした。

 派閥のこともあるだろうに……父は、アウグストを信頼して、任せているのだ。


 学園に入ってすぐ、その機会が訪れた。


 アマーリア・ブレンターノ伯爵令嬢。


 学園に入って最初のテストで、トップになった生徒だった。

 アウグストはトップになる自身があったのに、惜しくも2位。


 悔しい反面、どんな人か興味を持ち、アマーリアを探すと、見た瞬間、刻が止まった。


 金髪に、緑の瞳の可愛らしい顔。整った顔つきなら、他の令嬢もいるのに、なぜか、アマーリアしか見えなかった。


 こっちを向いて、自分だけを見て欲しい。


 こんな感情は、初めてだった。





 図書館からの帰り道。侍従と一緒に寮に戻る途中、アマーリアと、その友人のクララを見つけた。


「ブレンターノとセイファートか?」


 後ろから声をかけると、2人で振り向いた。


「これは殿下。いかがなさいましたか?」


 クララ・セイファート侯爵令嬢がすぐに対応した。


「いや、ただ、帰るには少し遅い時間だったので、気になっただけだ」

「そういえば、遅くなってしまいましたね」

 

 アマーリアがそう言うと、アウグストはすかさず切り出した。


「では、私と一緒に寮までいかないか? 私もちょうど、寮に戻るところなんだ」

「お言葉に甘えますわ」


 すぐにクララが返事をした。






そう言えば……殿下は、なぜこの時間まで?」

「調べ物があって、図書室に籠っていたら、この時間になっていた」

「時間が過ぎるのは、早いですものね」


 クララが相づちを打つと、アウグストが尋ねた。


「2人はどうしてこの時間まで?」

「教室に残って、話していたらこの時間に」

「勉強していたのか?」

「いいえ、雑談していたのですわ」

「寮でも良いのですが、たまたま私たちの教室が空いておりましたの」

「確かに……この時間は、もう既に寮に戻っている生徒が多いな」

「でしょう! 穴場なんです」


 アマーリアが嬉しそうに答える。


「密談は寮の方が良いと思うが、雑談なら、教室でもいいからな」

「その代わり、先生が見回りに来たら、そこでお開きですけどね」

「まぁ……遅くなったらなったで、危険だからな。ブレンターノもセイファートも気をつけろ」

「「はい」」


 アウグストに2人は注意をしたところで、会話は終わり、寮まで一緒に行った後、男子棟と女子棟は違うため、途中で別れた。


「殿下、宜しかったので?」


 侍従がそういうと、アウグストは苦笑した。


「彼女にとっては、突然すぎるだろ。徐々に詰めて行く」

「そんなこと言っていると、横からかっさらわれますよ?」

「ブレンターノ伯爵には、打診済みだ」

「その伯爵が渋っていますけどね」

「……ほっとけ」

「なら、ほっときます」


 アウグストより少し年齢が上の侍従は、にっこりと笑う。

 それを見たアウグストは、眉をひそめた。






 あれから時間が流れ、剣術大会の時期になった。男子は皆、剣術の稽古に励んでいる。アウグストも剣術の稽古に勤しんでいた。


 ただ、勉学の方も忘れてはならない。アウグストが教師に質問に行った帰り、アマーリアとクララを見つけた。


 そこで見たアマーリアに衝撃を受けた。


 アマーリアは、自分以外の男を見て、アウグストが今まで見たことが無い嬉しそうな顔で、微笑んでいた。


「誰が、勝ったって?」


 アウグストは思わず声をかけてしまった。


「今、下で戦っていた彼……金髪の……ベルンフリート・アルベルツっていうんですけど、友人で」

「へぇ……そうなんだ」

「強かったですよ……彼、すぐ近衛に行けそう」

「そんなにか……すごいな」

「でしょう?」


 そのときの顔は今でも忘れられない。今までの顔はなんだったのかと思うほど、破壊力のある笑顔だった。


「残念だが、用事があるから、ここで失礼するよ」


 笑顔で返したつもりだが、自分が今、どんな顔をしているのかわからない。


 すると侍従は、ふふふっとこらえながら、肩をふるわせていた。


「言いたいことがあるなら、言ってみろ」

「横からかっさらわれましたねー! アウグスト様!!」


 はははと笑う侍従にイラついた。


「ベルンフリート・アルベルツについて調べろ」

「はっ! こんな心が躍る調査は久々ですね!」


 うきうきしながら、侍従はベルンフリート・アルベルツについて、調べた。






「ベルンフリート・アルベルツ子爵子息。貧乏貴族の嫡男ですね。兄弟はいないようです。母親は小さい頃に倒れて、そのまま。

 本人は、温厚な人柄で知られております。

 先日、アマーリア嬢が言っていた通り、剣術に長け、私の目から見ても、近衛入りは間違いないかと」

「そんなにか……他には?」

「小遣い稼ぎに、授業のノートを貸し出しているそうです。たまに、アマーリア嬢にも見せているみたいですよ」

「ノートか……成績は良くないみたいだし、何で見る必要が?」

「さぁ? ご自分で、確かめてみては?」

「そうだな! この目でベルンフリートを確かめよう!」


 その言葉に、侍従はブフッと吹き出してしまい、アウグストは侍従を睨みつけた。




 ある日の放課後、アウグストはベルンフリートを、人気のない校舎の、教室に呼び出していた。


「来たか」

「お……お呼びでしょうか。殿下」


 淡い金髪に、碧眼。目がつり目で、背も高いことから、黙っていれば話しかけにくい男だった。だが、表情が豊かそうで、声色は柔らかなことから、むしろ話しかけやすい、不思議な男だった。


 ちなみに、アウグストも、淡い金髪に碧眼だ。それは、思わぬ共通点だった。


「アウグストでいい。ベルンと呼んで良いか?」

「はい。かまいません殿下」

「アウグスト!」

「ア……アウグスト」


 「よし」と満足げにアウグストが言うと、「いいのかなぁ」という表情のベルン。密かに、侍従は心の中で、大爆笑していた。


 あまり、王太子アウグストは友人を作らない。本当に気に入った人でなくてはダメなのだ。なので、なり方もよくわからない。

 いつもなら、友人側がリードするので、自分から作る側に回るのは、初めてに近かった。初々しい姿が、兄的な存在の侍従には、可愛い……いや、微笑ましかった。


「今日は、ベルンが貸し出しているノートを見たかったのだ」

「あぁ! それでしたか。ちょうど返って来たので、どうぞ」


 ベルンは一冊のノートを差し出した。


 アウグストはノートを開くと、そのノートの美しさに魅了されてしまった。誰が読んでも、講義を聴いていなくても、このノートがあれば済むのではと思うくらい、完成度が高いものだった。


 これは、アマーリアも感動するだろう。なんでこうなるんだ? と言う部分には、必ず解説がついている。

 アウグストは、頭の中で理解しているせいか、ノートには省いてしまう部分も、このノートにはきっちり書いてあるのだ。


「ありがとう。このノートは、誰もが見たいものだということがわかった」

「お役に立てたようで幸いです」

「しかし、このノートがあるのに、なぜ、成績がイマイチなんだ?」

「あー……それは、頭の出来が悪いと言うか、ノートに細かく書いているのも、ここまで噛み砕いて説明されなきゃ、理解できないからなのです」

「さっきも思ったが、敬語じゃなくて良いぞ。もう君とは友人だ」

「え!? 下位貴族ですよ!」

「優秀な人間に、上も下も無い。それが俺の信条だ!」

「……そうです……いや……そうか」

「それにベルンは、剣の腕の方がいいのだろう? 剣術大会、期待している」

「ありがとう。……アウグスト」


 うんうんと密かに侍従がうなずく。


「ところで……ベルン。もしかして、王族の血何て入っていないよな?」


 淡い金髪に碧眼は、王家の特徴でもあった。


「実は、大昔に、庶子の王女が嫁いで来たことが……」


 なんと2人は、遠い親戚だったのだ。






 剣術大会当日。アウグストもベルンも、選抜に残ったため、本戦に出場をすることになっていた。


「もし当たっても全力で来い!」

「遠慮する気はないよ?」


 お互い「フッ」と笑って、すれ違い様に、互いの手を軽く叩いた。


 試合はトーナメント戦。ベルンとは残念ながら、ブロックが別れてしまったので、戦うには決勝に残るしか無かった。だが、残念ながら、アウグストは三回戦で敗退してしまった。


 アウグストを応援していた女子のブーイングが激しく、勝った選手を気の毒だ。


 ベルンの戦いも見ていたが、確かに見ていて面白い。近衛に匹敵するであろう剣さばきは、アウグストが見ていてもうっとりしてしまうものだった。


 優勝するかもな。


 ベルンは恋敵でもあるのだが、友人としては勝って欲しかった。むしろ、自分の近衛に欲しいとさえ思う。


 そうして迎えた決勝戦。


 ベルンの相手は、女子からブーイングを受けていた、気の毒な男子だった。

 

 戦いが始まり、ベルンが優勢だったが、途中審判が、ベルンフリートに対して、わざと顔を狙ったと言い出し、それが違反と認められ、一転、相手側の勝利になった。


 これには、アウグストやその場にいた皆が納得出来ないものだった。


 やはり、ここにも腐った奴らがいたか。


「今すぐ、審判、選手を調べろ」

「はっ!」


 侍従がその場を後にした。すると、後ろから、声をかけられた。


「殿下。1人になるのは危険です。こういうときこそ、気を引き締めなければ……彼奴(あやつ)は、勝手に離れおって……」


 彼奴とは侍従のことだ。


「命令に従っただけだ。許してやれ。これは、私の失態だ」

「甘いですな」

「味方にはな」


 アウグストが振り向くと、剣士姿の中年の男が立っていた。侍従の父でもある男で、普段は影を勤めている。


「これは、許せない問題だからな。徹底的に調べてやる」

「そうですな。神聖な戦いの場を、汚す行為にございます」





 周りは、猛抗議するが、結局頑として審判団は撤回をしなかった。


 表彰式には、王太子のアウグストが賞状の授与をすることになっている。もし、決勝に残っていたら、審判団の誰かだっただろう。


 優勝した男をみて、気の毒と思った自分が恥ずかしかった。一応、優勝と書いてある賞状を相手に渡す。

 普通はその後、手を差し出し、優勝者と握手をしなければならないのだが、アウグストが手を差し出すことは無かった。


 一方、友でもあるベルンには、準優勝と書いてある賞状を渡し、褒めた。


「素晴らしかった。追い込むところも、見ていてしびれたよ」

「ありがとうございます」


 手も差し出し、固く握手もした。

 これには、周りも動揺を隠せなかったようだ。……主に審判。


 最後に、アウグストから労いの言葉が贈られる……はずだった。


「正直、最後の試合の結果には失望している。次からは、公平な判断が出来る者にやってもらいたい」


 これには、誰もが拍手を送った。

 誰が、どう考えてもおかしいからだ。


 後日、相手側の選手の不正が発覚。その選手は、審判を買収していたのだ。

相手側の選手は、このことを切っ掛けに、騎士団には入れなくなり、審判をしていた者は、学園を解雇となった。


 では、優勝はベルンフリートに……というところで、「優勝者なし」ということで、決着が着いてしまった。準優勝者の家格が低かったことから、そこまでする必要は無いと、強い意見が出て、変えるに変えることが出来なかったのだ。これには、アウグストも憤りを隠せなかった。


「くそ!! あの腐れ貴族共!!」

「いい加減落ち着いてください。確かに、むかつきますが……」

「俺の世になったら、覚えていろよ。ぶった切ってやる」

「お言葉が乱暴になっていますよ」




 後日、準優勝で終わったベルンと会うと、ケロっとしていたのでアウグストは思わず唖然となった。


「悔しくないのか!?」

「そうだとしても、下位貴族じゃ、覆らないこともあるからね。以前もこんなことがあったと聞いたし……。アウグスト。怒ってくれるのはもちろんうれしい。けれど、これが下位貴族では当たり前の仕打ちなんだ。わかってくれ」

「いつか……変えて見せる! この学園も、貴族も」

「楽しみだなぁ」


 ベルンはのんびりと言い、柔らかな笑顔を向けた。





 それから少し経ったある日の放課後、たまたま廊下で、ベルンに遭遇した。


「おい! ベルン! ……どうした? ボーッとして」

「アウグスト……」


 とりあえず、人気の無い教室に入り、事情を聞いた。


「え? 告白!?」

「そう。アマーリア……様から」


 すると、クスッと言う声が聞こえた。アウグストは首だけ侍従の方に動かし、睨みつけた。

 それを見た侍従は、「あ・やば」っという顔をする。


「父親に会わせるって。……わかってるのかなぁ……うちの事情」

 

 ベルンは頭を抱えた。


「そんなにひどいのか?」

「もう、使用人1人も雇えないんだ。領地は返上することが決まっている。

 もし、彼女が嫁いで来て、俺や父が仕事で外へ出るとなると……彼女は邸で1人になってしまう。侍女や下働きの仕事もやらなきゃいけないし、彼女の安全が保証できない。

 こんな家に娘を嫁がせる何て、ありえないよ。……けれど、アマーリア様の様子を見ると……実現しそうでならない」

「……ブレンターノのことは、嫌ではないんだな?」

「当然だろ!? あんな綺麗で美人で聡明な人。俺にはもったいないくらいだ。確実に守りたいと思うだろ!? アマーリア様、自分の評価が低いみたいで『私なんてモテないわよ』なんて言うんだぞ。心配で心配で……」


 アマーリアの意外な一面を聞けて嬉しい反面、さすがにそれはまずい。


「実は、王家から私の婚約者にと、ブレンターノ家に打診しているんだ」

「え?」


 ベルンは知らなかったらしい。口を「え」という形にして、固まっている。


「だから、よっぽどベルンが良いんだな」


 そう言うと、ベルンは難しそうな顔をしながら、黙り込んだ。


「さて、話も終わったところで、帰るか!」

「アウグスト……」

「それを決めるのはお前だ、ベルン。私は彼女が幸せになれれば、それで良い。……もし、ベルンがそれを受けるんだったら、邸の警護の件は任せてくれ。伝手がある」

「……ありがとう、聞いてくれて」

「さ! 早く帰るぞ」


 アウグストは友の肩を叩き、ベルンは並んで、一緒に教室を出た。


 その日は少し泣いたが、侍従は何も言わなかった。






 後日、ベルンとアマーリアが婚約したことを知った。


「グズグズしているからですわよ!」


 アウグストが侍従と廊下を歩いていると、後ろから声がかかった。振り返ると、そこには、クララ・セイファートが立っていた。


「あら、私としたことが、こちらから話しかけるなんて……不敬でしたわ」

「いや……本当にその通りだ。さて……これで、私の婚約者探しを本格的にしなければな。セイファートはいるのか? 婚約者」

「……誰かさんがさっさとしてくれないから、未だにいないのです!」

「……私の婚約者候補だったのか。済まない、把握していなかった」

「別に良いです。私は父の決定に従うだけですので。貴方の婚約者になれってうるさくて……上に行くことしか見えていない、哀れな父ですの」

「利用することしか考えてない者はちょっとなぁ……クララなら、良いんだけどな」

「……は?」

「ブレンターノを好きな者同士……良いと思わないか?」

「何言って……」

「私がブレンターノを好きだったことを知っているし、かつ、父親を哀れと言い切った。私のことをよく知っているし、物事の全体を見れる聡明さがあるということだ。何より……」

「な……なんです?」

「王族に啖呵切れる。その度胸は王妃向きだ。……どうだ? なる気はないか?」

「あ……あの父を止めてくださるのであれば……受けますわ」


 照れているクララが可愛いと思ったアウグストは、思わず微笑んでしまった。


「ちなみに、ベルンとは友人なんだ。うまくいけば、卒業後もブレンターノの情報をくれる。私もたまに、ベルンの邸にお忍びで行こうと思っている。……しかも」


 アウグストは、ある紙を取り出した。


「私は絵を描くのが得意だ。お忍びで行った先で描いてこよう」


 それは、アマーリアの姿絵だった。


「こ……これは……素晴らしいですわ!! 私のアマーリアが……精霊のように……!! いえ……これはもう、女神ですわ!!」

「そうだろう! もっと見るか?」

「あぁ! 憂い顔も素敵!! こっちは、微笑んで……アウグスト様! どんどん見せてくださいませ!!」



 それを見ていた侍従は、口元をひくつかせたが、お似合いだなと悟り、しばらく、明後日の方向を見ていた。






 あれから、二十数年が経ち、アウグストもいつの間にか、陛下と呼ばれるようになっていた。


 つい先日、アマーリアが王城に登城する事になった。アルベルツ家から、王城のパーティーに出席との手紙が来た時は、アウグストとクララで歓喜のダンスを踊ってしまうほどだった。


 そして、対面の時。


 アマーリアは、昔と変わらず美しかった。美しさに磨きがかかり、年を重ねて、落ち着いた品のある女性になったと感じる。

 チラッと隣のクララも見るが、扇子で顔を隠して、泣くのを我慢していた。


 顔を見せてやればいいのに。……しょうがないか。


 こんな事を思っていたその時。


 クララは、アマーリアが去る一瞬、扇子を閉じて小さな笑みを見せた。

 アマーリアも同じだった。


 そのパーティーが終わった後、クララはすぐに部屋に籠ってしまった。そっとしてやりたかったが、思わず部屋に入ってしまい、二人で抱きついて、泣いてしまった。


「やっぱり……私のアマーリアが……一番輝いていましたわ」

「あぁ! そうだな」

「あなた、今日のアマーリアを……描いてくださいますか?」

「もちろんだ。部屋にはすぐに取りかかれるよう、描画紙を用意してある」

「なら! すぐに取りかかってください! アマーリアのすべてをそこに……!!」

「……分かった!!」


 言った通り、すぐに描き上げ、大満足の出来になった。


「まぁあ!! 素晴らしいですわ!!」

「会心の出来だ。また、アルベルツ家に行く時に、描いて来るよ」

「お願いしますわ!」


 そして、また、お忍びでアルベルツ家に行って来た。そして、出来上がった絵を持って、アウグストがクララの部屋を尋ねると、なぜか、子ども達まで部屋にいた。


「あなた! アルベルツ家に行ったのでしょう? アマーリアの絵は無いのですか!」

「もちろん! 渾身の作だ!」

「あぁ!! なんて幸せな空間でしょう!! カミラもデリアもドリスも……大きくなって……!!」

「これも欲しいと思って……」


 そうしてアウグストが出したのは、カミラの結婚式のときの絵だった。


「んまー!! カミラ……美しい!! 精霊を通り越して女神のようじゃありませんか!!」

「アマーリアのも、もちろんあるぞ」

「あ……もう、神々しいですわ!!」

「父上? ローレンツの結婚式の時、私は行きたいと言ったのに却下したのは……もしかして、このためですか?」


 緩いウェーブの淡い金髪に碧眼、アウグストそっくりな、現王太子のシュテファンが、ドスのある低ーい声で聞いて来た。


「もちろん、この為に決まっているであろう!!」

「そうよ! 譲れませんわ!!」


 両親に強く言われて、呆れる王太子をよそ目に、ストレートの淡い金髪に紫の目をした、クララそっくりの王太子の妹、ユスティーナは、その絵をみて、惚れ惚れとしていた。


 そこに描いてあったのは、ユスティーナの友人であるデリアだった。


「デリアも素敵!  お父様! なんでこの特技があること、早く言ってくれなかったのですか!?」

「おおう!? ティーナも興味があるのか?」

「もちろんですわ! まだ先ですけれど、デリアの結婚式には、私も行く予定ですのよ! ぜひ、デリアのウェディングドレスは描いて欲しいですわ!!」

「待て! それは……」

「お兄様は黙ってて!!」


 アウグストは久々に、家族の時間と言うのを感じていた。未だ、腐った貴族達は残ったまま。

 特にユスティーナは、王城にいるときは不快な思いをすることが多い。

 学園に行き、デリアと友人になって、今までで一番楽しそうにしている娘をみることが出来て、胸が熱くなった。


 まだ、一掃するには、時期が早い。けれど、確実に「その日」は近づいている。



これでストック切れました。また思いついたら、アップする……かもしれません。


評価・ブクマ・読んでくださった皆様! ありがとうございます! 励みになります!!


※一部アウグストの名前がアンディになっていましたので訂正します。それは新作で出て来るキャラの名前!

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