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03 アマーリア・学園での青春

基本、アマーリア視点ですが、一部、ベルンフリート視点になっています。

三人称で書くって難しい。

教室に、2人の女生徒が残っていた。


 ストレートな金髪に、緑の瞳を持つ可愛らしい顔をした少女は、開いた窓の先をボーッと見ている。


 その少女、アマーリア・ブレンターノ伯爵令嬢は、正直、学園生活はこんなものかと悟っていた。


 ここは、王立ロザリファ貴族学園。貴族の為の学園だ。14歳から16歳の貴族の子息子女が通い、社交界デビューの練習をする場所。ある人は、人脈を広げるため、またある人は、婚約者探しをするために来ることが多い。


 アマーリアは、そのどちらでもなかった。ただ、この学園で優秀な成績を持つ令嬢に与えられるものが欲しかっただけだった。

 それは、王城に仕えるときに女官になれる権利。


 アマーリアは、未来の旦那探しをする気はなく、むしろ1人で生きるために、自立したいと考えていた。なぜなら、アマーリアは学力が高く、未来の旦那のプライドを傷つけてしまうのを恐れたからだ。


 自分が兄のプライドを傷つけたように。


 結婚の話も誰かから来ているようだが、父の話を聞き流していたので、覚えていない。


 もちろん、友人もいるし、学園生活が楽しくないとは言いがたい。けれど、それだけで、アマーリアには、刺激が足りなかったのだ。






「まぁ……アマーリアみたいに、女官目指して! ……って人は珍しいでしょうね」


 アマーリアの横にいた、友人のクララ・セイファート侯爵令嬢は、緩いウェーブの金髪に、紫の瞳を(せば)ませながら、綺麗系な顔をゆがませた。


「クララは? 相手、見つけなくていいの?」

「……お父様に従うわ。あんまりにも年上は嫌だけどね」

「いいの? それで」

「私の言うこと何て、聞かないのよ。あの人は」

「クララのこと気になっているって男性は、結構いるのだけれど……」

「お父様に言ってって言うしかないのよ、私は。それより、アマーリアは?」

「……私みたいな人を好いてくれる人は、いないでしょ」

「またまたぁ~。そんなこと無いのに」

「これじゃ、傷のなめ合いだね」

「……そうね。恋愛話のつもりだったのだけれど、結果的にそうなっちゃったわ!」






 アマーリアとクララは、寮に帰る支度をして、一緒に寮へ向かった。


「じゃあさ! アマーリアは、面白いと思う人はいないの?」

「面白い人?」

「そ! 面白い人がいたら、教えてね! 私も言うから」

「またそんな……」


 そんな話題をしていると、後ろからお声がかかった。


「ブレンターノとセイファートか?」


 2人が振り向くと、ストレートの淡い金髪に碧眼の、誰もが「はっ!」とするような美少年の王太子、アウグスト殿下と、その侍従がいた。


「これは殿下。いかがなさいましたか?」


 クララがすぐに対応した。


「いや、ただ、帰るには少し遅い時間だったので、気になっただけだ」

「そういえば、遅くなってしまいましたね」

 

 アマーリアがそう言うと、アウグストはすかさず切り出した。


「では、私と一緒に寮までいかないか? 私もちょうど、寮に戻るところなんだ」

「お言葉に甘えますわ」


 すぐにクララが返事をした。







「そう言えば……殿下は、なぜこの時間まで?」

「調べ物があって、図書室に籠っていたら、この時間になっていた」

「時間が過ぎるのは、早いですものね」


 クララが相づちを打つと、アウグストが尋ねた。


「2人はどうしてこの時間まで?」

「教室に残って、話していたらこの時間に」

「勉強していたのか?」

「いいえ、雑談していたのですわ」

「寮でも良いのですが、たまたま私たちの教室が空いておりましたの」

「確かに……この時間は、もう既に寮に戻っている生徒が多いな」

「でしょう! 穴場なんです」


 アマーリアが嬉しそうに答える。


「密談は寮の方が良いと思うが、雑談なら、教室でもいいからな」

「その代わり、先生が見回りに来たら、そこでお開きですけどね」

「まぁ……遅くなったらなったで、危険だからな。ブレンターノもセイファートも気をつけろ」

「「はい」」


 アウグストに2人は注意をしたところで、会話は終わり、寮まで一緒に行った後、男子棟と女子棟は違うため、途中で別れた。


「……へたれ」

「ん? 何か言った? クララ」

「なんにも」






 その数日後のことだった。


 教師からの頼まれ事をこなした後、放課後の教室に戻ると、一冊のノートが落ちていた。


 アマーリアが拾うと、名前が書いてある。


「ベルンフリート・アルベルツ……貸し出し用?」


 ノートに書いてあった名前は、同じクラスの人では無かった。


「貸し出し用って、どういうことかしら?」


 ノートを開くと、授業の内容が、几帳面にとても分かりやすく書かれていた。いつでもそのノートをみるだけで、授業内容が手に取るようにわかる。普通の人が省いてしまうような事柄も、しっかり載っているため、意味が分からないと言うことがない。そのくらい、完成度の高いノートだった。


 トクン……


 胸の音がいつもとおかしい気がする。


 なぜか、そのノートの男、ベルンフリートに会いたくなっていた。






 クラスの人から、彼のクラスを聞き出し、呼び出した。


「アマーリア様? ……えっと……俺と面識がありましたか? あ……俺が、ベルンフリート・アルベルツ子爵子息です」


 現れたのは、背が高い、ストレートの淡い金髪に碧眼の少年だった。つり目がちな目は、少し恐い印象もあったが、笑顔だったせいか、恐さは和らいでいる。


「あの……これを渡したくて……」


 ノートを差し出すと、ベルンフリートは、「あ!」と嬉しそうな笑顔になった。


 キュン


 今のはなんだろう?

 アマーリアは、自分の胸が弾んだ気がして、少し顔が熱くなった。


「ありがとうございます! これ、探していたのです! どこにありましたか?」

「私のクラスの床に落ちていて……あの、貸し出し用って……どういう意味でしょう?」 

「あぁ……実はうち貧乏で、これでお金稼ぎをしているのです。以前、俺のノートを見た友人が、貸してと次々にいうので、自分の勉強が疎かにならないよう、貸し出し用のノートを作ったのです。っていっても、自分の成績まではふるわなくて……」

「それにしても、綺麗に、分かりやすく書いてあるノートだったわ」

「ここまで、レベルを落とさないと、理解が出来ないのですよ。勉強はからっきしでして」

「そうなの?」

「えぇ。剣の方が得意なのです」


 その言葉に、アマーリアは驚いた。

 こんな几帳面に書く人が、勉強より、剣の方が得意だなんて……!!


「たまにでいいから、貴方のノート、見に来ても……いいかしら?」

「俺がいるときなら喜んで」

「それと、敬語は必要ないわ。友人になりましょう。私は、アマーリア・ブレンターノ伯爵令嬢。 アマーリアって呼んで!」

「え……でも……」

「私が良いっていっているのだから、良いのよ。……周りが気になるなら、私の前だけでもいいから」

「で……では、アマーリア」

「はい!」

「俺のことは……ベルンと。……皆、そう呼ぶので」

「皆と一緒は嫌だわ。敢えて、フルネームで呼ばせてもらうわね。……あ。もう戻らなきゃ。またね! ベルンフリート!」

「あ……は……はい」


 この日、アマーリアは面白い人を見つけた。






「ねぇ、クララ。私、面白い人、見つけちゃった!」

「え? 見つけたの!? 誰?」

「ベルンフリート・アルベルツって人。子爵なんだけど、ギャップが良くて……」

「子爵!? い……いつの間にみつけたの?」

「今日、用があるって、休み時間に別れたでしょ? 実は、彼の落とし物を届けに行っていたの」

「え~!? どんな人!」

「淡い金髪に、碧眼の背が高い人よ。ちょっと強面なんだけど、話したら、案外笑顔が素敵な人なの」

「……アマーリア、顔赤くない?」

「え!? 本当? 確かになんだか熱いけど……」

「……あらら、ぐずぐずしてるから……」

「何?」

「何でも無い」






 その後、度々ベルンフリートの元に訪れては、ノートを見て、なぜかアマーリアは癒されていた。


 はぁ……美しい!!


 うっとりしていると、ベルンフリートは苦笑しながらこちらを見ていた。


「そんなに楽しいですか? 俺のノートは」

「えぇ。なぜか、癒されるのよねぇ」

「癒される?」

「うん。美術品見ているみたい」

「ん? ……俺には理解出来ないな……あ!」

「何?」


 その声を聞いて、アマーリアは顔を上げた。


「婚約者いるんでしたっけ? いるなら、俺と2人きりはまずいんじゃ……」

「いないわ! 私なんてモテないわよ」

「は?」


 ベルンフリートは、固まった顔をして、アマーリアを見た。


「それ……本気で言っているのですか?」

「本気よ。その通りだと思うし……」

「なぜです? 貴方を狙っている人は、結構いるのですよ?」

「あら! お世辞でも嬉しいわ! なぜって……男の人って、賢すぎる人は嫌でしょ?」

「まぁ……そう言う人もいますが……」

「私がこの学園に来たのは、女官の資格を得るためだもの。自立した人になりたいの。……きっと、私を選んでくれる人はいないから」

「そんな……」

「あ! もう行かなきゃ!! じゃぁね!ベルンフリート」


 ノートをベルンフリートに返すと、少し急いで教室に戻った。






 それから少しして、剣術大会が開催されるとあって、男子は皆、剣の訓練に明け暮れていた。


 廊下をアマーリアとクララの2人で歩いていると、外で対決をしている男子達が見えた。


「あ! ベルンフリート!」


 アマーリアは嬉しそうに、三階の窓から、外を覗くと、下では、赤毛の髪の男と淡い金髪の男が戦っていた。


「ん~……どっち?」

「淡い金髪の方」

「あれか……強いわね、彼」

「剣は得意って言ってたから……あ! 勝った」

「誰が、勝ったって?」


 声のする方へ向くと、アウグスト殿下と侍従が立っていた。


「今、下で戦っていた彼……金髪の……ベルンフリート・アルベルツっていうんですけど、友達で」

「へぇ……そうなんだ」

「強かったですよ……彼、すぐ近衛に行けそう」

「そんなにか……すごいな」

「でしょう?」


 アマーリアが笑顔で言うと、アウグストも笑顔で返し、用事があるからと言って、侍従と2人で去って行った。


「……用事があるなら、無視してもいいのに……」

「わかってないなぁ……アマーリアは」

「何が?」

「……うん。アマーリアらしい」

「?」





 剣術大会当日。


 大会の出場資格は、男子のみ。しかも、剣術の授業で選抜された者しか大会には出場できない。

 女子は観戦席で、戦いを見守っていた。

 王太子である、アウグストも善戦したが、三回戦で敗退。そのときは、女子の相手へのブーイングが激しく、アウグストに勝った選手が可哀想になったほどだった。

 

 ベルンフリートも出場し、なんと、決勝戦まで残った。


「やった! ベルンフリート、すごい!!」

「綺麗な剣技よね。でも、剣舞ってわけじゃなくて」

「早いよね、剣さばきが! 真似出来る人、少ないのではなくて?」

「そうとも言えないわよ」

「どうして?」

「相手は、有望な戦士として、騎士団に誘われていると言われてる人だし。……しかも侯爵なのよね。審判のいつもの、贔屓グセが出ないといいけど」


 この学園は、基本爵位が上の方が優位だ。教員も自然に、上位貴族の生徒、優先になる。そこが、この学園の嫌なところだ。


 戦いは、ベルンフリートが優勢だったが、途中審判が、ベルンフリートに対して、わざと顔を狙ったと言い出し、それが違反と認められ、一転、相手側の勝利になった。

 これには、誰もが納得いかなかった。なぜなら、相手側の選手が、わざとベルンフリートの剣の前に、顔を持って来た仕草をしたからだ。周りは、猛抗議するが、頑として審判団は撤回をしなかった。


 表彰式には、王太子のアウグストが賞状の授与をした。


 優勝した選手に、おめでとうと言い、賞状を渡す。本来はその次に握手も入るが、アウグストは手を出さなかった。


 惜しくも準優勝になったベルンフリートには、お褒めの言葉と共に、固い握手もしていた。


 これには、周りも動揺を隠せなかった。


 最後に、アウグストから労いの言葉が贈られる……はずだった。



「正直、最後の試合の結果には失望している。次からは、公平な判断が出来る者にやってもらいたい」


 これには、誰もが拍手を送った。

 誰がどう考えてもおかしいからだ。


 後日、相手側の選手の不正が発覚。その選手は、審判を買収していたのだ。

 相手側の選手は、このことを切っ掛けに、騎士団には入れなくなり、審判をしていた者は、学園を解雇となった。


 では、優勝はベルンフリートに……というところで、「優勝者なし」ということで、決着が着いてしまった。準優勝者の家格が低かったことから、そこまでする必要は無いと言う強い意見が出て、変えるに変えることが出来なかったのだ。これには、アウグストも憤りを隠せなかった。






「私、これだから、貴族は嫌い」


 普段、はっきり言わないアマーリアも、さすがにストレートな怒りを口にした。


「私もよ。同じ貴族と名乗りたくもないわ」

「もっと私に力があればなぁ」

「それは私も同感。……腐った考えの貴族を全部出したい」

「殿下が言っても覆らないって……なんだか恐い」

「それだけ、この国に、狸や狐が居るってことよね」


 この国の膿みを出すことは出来ないのか。これが、私たちへの課題のような気がした。


「まぁ。ベルンフリートが、かっこ良かったから良しとするわ」

「友人になったって言っていたけど、どうなの?」

「どうって?」

「好きなのでしょ?」


 そう、クララが言ったとたん、アマーリアの顔が真っ赤になった。


「……やっぱり、そう思う?」

「一番近くに居る、私が言うのよ? 間違いないわ」

「私……それを言ったら、確実に振られると思うの」

「どうしてよ」

「彼は、貧乏貴族よ? きっと、もっとお金がある家を探すに決まってる。それに、うちの家族からは、支度金はあまり出してもらえないと思うの」

「え? ブレンターノ伯爵が!?」

「お父様は出してくれると思うけど……お兄様がなんていうか……」

「あの馬鹿なお兄様?」

「人の家族を……まぁそうなのだけれど」


 人並みに優秀な方ではあるが、誰に似たのか、傲慢なところがあった。そんな兄は、アマーリアの支度金に文句を言うだろう。ブレンターノの金は自分のものだと思っているのか、妹にも渡したくないと言う気持ちが強いのだ。


「そんな跡取りを持って、可哀想ね、伯爵は」

「本当そうね。性格がいい人ならよかったのだけど」

「そんな理由で、彼を諦めるの」

「だって……」

「彼の横に、別の女が立っていてもいいってことね」

「……」


 アマーリアはとても気持ちが悪くなった。


 ベルンフリートの横に、私以外の人が立っているなんて……


「嫌……そんなの嫌!!」

「だったら言うだけ言いなさい。断られてもスッキリするかもしれないし」

「……その前に、やることがあるわ」

「え?」


 アマーリアはにっこりと、親友に向かって微笑んだ。






「アマーリア、話ってなんです?」

「ベルンフリート、あなた、婚約者はいて?」

「え!……っと、いないですが……というか、なってくれる方がいなくて……」

「だったら、私を婚約者になさい!」

「は!? ダメに決まってます! 貴方のお父上は王城で、とても良い地位についていると、話に聞いています。俺には嫁がせないでしょう」

「どうかしら?」

「そ……それは、どういう意味で?」

「今週末、時間はあるかしら? ぜひ、我が家にきてほしいの!」

「え~……」

「それとも、私が婚約者なのが嫌なのかしら? ……それなら」

「俺は! ……貴方が良いと思っています。……けど……」

「私も、覚悟はしているつもりですよ!」

「どうして……」

「私、貴方を誰がにとられるところなんて、見たくないの! それだけじゃ……ダメ?」

「え……それは……嬉しいですけど……」

「では、今週末、私と一緒に来なさい!」

「は……はい」


 アマーリアに押し切られる形で、ベルンフリートは、ブレンターノ伯爵邸に行くことになった。






「君が、ベルンフリート・アルベルツ子爵子息かね?」

「はい。お……お初にお目にかかります。ブレンターノ伯爵」

「アドルフ・ブレンターノだ。娘から、話は聞いているよ」

「でしたら、子爵家のこともご存知でしょう。だったら……」

「私も反対したいのだが、その……アマーリアはああなったら、聞かないのだ」

「え……」


 ベルンフリートがゆっくりと隣を向くと、アマーリアはニコニコと微笑んだ。


「せっかく、王太子からも婚約者にと話が来ていたと言うのに、一貫して、そなたとしか結婚したくないときた。……申し訳ないが、この話を受けてはもらえないだろうか?」

「で……ですが……」

「借金が帳消し出来るほどの支度金は、悪いが出せない。うちの馬鹿な跡取りが、出したくないとうるさくてな。あの嫁も嫁でうるさいし……全く、まだ爵位も継いでない奴が……うるさくて敵わん」

「あの……」

「あ・話が脱線したな。とにかく、王太子の返事を断らなければならない上に、あの子はああなったら、こっちの話を聞きやしないのだよ。それに、王太子のことを断ったと、周りに知られれば、求婚して来る男はほとんどいないだろう。なので、申し訳ないが、(めと)ってくれないだろうか」


 ベルンフリートは、引きつった顔でアマーリアを見る。


「よろしくお願いしますわ。ベルンフリート」


 アマーリアは、優雅に微笑んだ。


 ちなみに、アマーリアはこの時初めて、誰から婚約者の話が来たのかを知った。だから、殿下がよく話しかけて来たのかと、自分の中で密かに納得した。





 ベルンフリートの父とも会い、正式に、婚約者となったある日、ふと、ベルンフリートは、アマーリアに尋ねた。


「聞いていませんでしたが、どうして俺なんでしょうか?」

「私が初めて面白いと思った、男性だからです! 見ていて飽きませんわ。思えば、ノートを拾ったときから、貴方に夢中だったのです」

「……覚悟はしているのですか? 使用人が1人もいない邸ですよ?」

「私が調べていないと思って? 邸に帰ったときは、使用人に仕事の仕方を学んでいる最中ですのよ!」

「それは……辛くはありませんか?」

「全く。それより、こんなことまでしている、使用人達に感謝ですわ。おかげで、視野も広がった気がしますもの。……それに、支度金があまり出ない代わりに、食料は、融通してくれるそうです。私みたいなお荷物で、申し訳ないのですが……」

「いや、貴方のような聡明で、美人な方が結婚相手なんて、夢のようだ」


 学園の中庭のベンチに、並んで座っていた2人に間に、どこか甘い雰囲気が漂った。


 すると、ベルンフリートは立ち上がり、アマーリアに向かって、片膝をたてて、ひざまずいた。そして、アマーリアの手をとり、見つめた。


「アマーリア、俺を選んでくれたことを誇りに思う。苦労させると思うが、笑顔で過ごすことを誓う。……俺と結婚してください」

「……謹んで、お受け致します」


 ベルンフリートは、手にとったアマーリアの手に、口づけをした。


 これは、ベルンフリートの意思表示だった。







「まさか、本当に、婚約しちゃうとはね」

「クララもいつの間にか、王太子殿下と婚約していたじゃない」

「それはそれよ。……私だって、驚いているのだから」

「クララ……私が、下位貴族になっても……友人でいてくれるかしら」

「何言ってるの! 私はやめるつもりはないわよ!! それに、貴方の婚約者と、私の婚約者も友人だからね」

「え!? そうだったの?」

「だから、安心なさい! 私はいつまでも、貴方の友人よ」

「……えぇ……!! そうね」






 学園を卒業後、私はなんとか社交界デビューをする事が出来た。

 父が兄に、デビューはさせないと、外聞が悪いと言い聞かせ、渋々うなずかせたからだ。


 アマーリアは、最初で最後になるかもしれない、社交界デビューの場、王城にベルンフリートと登城した。


「楽しそうだね」

「えぇ! 思いっきり楽しむつもりですわ!」

「……すまない。俺の……」

「私は、愛する人を選んだだけ。これで、満足です」


 すると、王太子殿下と友人を見つけた。


「アマーリア」

「ベルンフリート」


 アマーリアとベルンフリートは、アウグストとクララの元へ近づいた。


「今日のダンス、期待しているぞ!」

「今から楽しみですわ!」

「私もです」

「今から、緊張してます」


 実は、ベルンフリートと踊る、最後かもしれないダンス。

 先日行われた学園でのダンス大会で、アマーリアとベルンフリートは、優勝を取る事が出来た。


 ダンス大会の優勝者には、最初の王城でのパーティーで、ラストダンスを踊れる特典がある。


「そんなガチガチで大丈夫か? ベルン」

「まさか優勝すると思わないでしょう? 殿下達が優勝すると思ったのに……」


 そう、2人こそ、優勝候補だったのだ。

 しかし、最後のダンスで、こけて倒れてしまった。


「しょうがないだろ? 足がもつれたんだ」

「私があのとき履いていたヒールは、新品だったから。履く予定だったものは、3日前にヒールが折れてしまって……」


 なれない靴に戸惑い、少しのズレから、足がもつれ、倒れてしまったと2人は主張する。


 しかし、ベルンフリートは知っていた。殿下が、なれない靴で踊っているパートナーでも、うまく合わせられることを。


 おそらく、アマーリアへの餞別でもあるのだ。






 ダンスが始まり、皆、一斉に踊り出した。

 アマーリアとベルンフリートも一曲だけ、踊った。

 そして、食事をほどほどに楽しみ、最後かもしれないダンスに挑んだ。






 ラストダンス。

 一組のカップルが、会場の真ん中に立っている。

 ベルンフリートは、手を差し出し、アマーリアを誘うところから始まった。

 音楽が始まり、2人は優雅に踊り出す。

 可憐な美人のアマーリアと、黙っていると強面なベルンフリートは、周りから、美女と野獣だと誰かが言って、クスクスと笑う人もいた。


 踊りは素晴らしいものだった。


 難しいステップを難なくこなし、大きな動きで、会場の観客を魅了した。


 そして、最後の決めポーズで、突然ベルンフリートが、アマーリアを引き寄せ、お姫様だっこをして、決めた。



 それには誰もが驚き、「あなたを生涯愛します」と行動で示したベルンフリートを、特に会場にいた女性たちから、賞賛の声が上がった。


 これは後に、「ラストダンスのお姫様だっこ」と呼ばれ、「本当に貴方を愛しています」と皆に示したいときにするポーズとして、定着した。





「最後は驚いたぞ!」

「私もしてもらいたいですわ!」


 アウグストとクララは二人に、賛辞を送った。

 すると、アマーリアは残念な顔をする。


「もう、時間なんだね」

「あ……」


 ラストダンスは、このパーティーの大トリ。

 つまり、これが終わったら、会場を去らなければならない。


「クララ……そう言えるもの、今日までなのね」

「アマーリア、私はいつまでも、貴方を待ってる」


 王太子アウグストとの結婚が決まったクララは、今後王太子妃として行動することになる。


「プライベートで会えれば、別だけど……」

「なかなか、それができないのは、確かだな」


 ただでさえ、アマーリアは下位貴族になる。

 王族となれば、声を掛けることすら難しいだろう。


「いつか! 周りの目を気にせず、会えるようになるわ! きっと!」

「……私も、そう願ってるわ」


 アマーリアは、この日を境に、社交界に出ることはなくなった。





 あれから、二十数年後。

 アマーリアの娘カミラは、ローレンツを婿に迎える事になった。

 

 そのローレンツのおかげで、家の借金は綺麗になくなり、アマーリアも久々に、王城のパーティーに出席することになった。


 今は国王になった、アウグストに、ベルンフリートとアマーリアが謁見に呼ばれた。


「緊張してる?」

「えぇ。ちゃんと出来るかしら?」


 アマーリアは久々すぎる登城に、身体が緊張を隠せなくなるくらい、ガチガチになっていた。


「対応はほとんど俺がするから、安心して良い。少し失敗したくらいは、目をつむってくれるよ」


 ベルンフリートの優しい声が、身体の震えを少し緩和させた。






 国王陛下の前につくと、二人で頭を垂れた。


「面を上げよ」


 国王の声が聞こえ、ゆっくりと頭を上げた。

 

 久々に見た、アウグストは、学園の時の面差しを残したまま、同世代と思えないほど、若々しさを保っている。


 隣には、正妃となったクララがいた。

 ただ、扇子で顔を隠し、どんな顔をしているのか、よくわからない。


「例の王女の件。迅速な対応、見事であった」


 それは、娘カミラが、他国の王女様の手の者にさらわれ、ローレンツと別れるよう迫り、暴行を受けた事件だった。

 夫である、ベルンフリート率いる一師団とローレンツが乗り込み、カミラを助け、王女を捕縛したのだ。


「恐悦至極にございます」


 淡々とベルンフリートは答えた。


「今後の活躍を期待している」


 会話はたったそれだけだった。

 

 ふと、その場を離れる瞬間、王妃が扇子をたたみ、顔を見せた。

 

 学園の頃より、妖艶さに磨きがかかり、この会場のどんなに綺麗な人より輝いて見える。


 お互いに、少しだけ笑みを浮かべて、その場を後にした。





 涙をこらえるのに必死だった。

 

 やっと……やっと会えた!


 距離は遠かったけど、顔が見れただけでも嬉しかった。


 さっきの微笑みで確信した。


 二十数年経った今でも、大切な友人には変わらないと。



アウグスト編に続きます。


※一部アウグストの名前がアンディになっていたので訂正しました。理由はアウグスト編の後書きに!

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