02 意外なつながり
ネタバレ回です。
新作の練習も兼ねて、三人称で書きました。
つり目の~36話が終わった後の話。
ローレンツは商会で休憩をとっていた時、ふと、カミラの父と剣を合わせた時の事を思い出した。
カミラの父、ベルンフリートの剣の腕は、騎士団長でもずば抜けており、近衛に軽く匹敵するものだった。
知り合いの近衛と、剣を合わせたこともあるローレンツが思うのだから、間違いないと思う。
ロザリファ王国の騎士は、トップが元帥。それ以下は王族の護衛部隊の近衛、騎士団長、騎士隊長、平騎士の順だ。
そもそも騎士団長は、近衛並に力が無くてもなれる役職である。
それ以上の実力者は、近衛になる事が多かった。
なぜ、そんなに重要で無い、団の騎士団長をしているのか、少し疑問だったのだ。
しかもブルーノとつながりがあった。
ブルーノは、情報を譲るに値する人間にしか、情報を教えない。
俺は、昔からの縁だが、ベルンフリートはいつからなのだろう。
一体、義父殿は何者なんだ?
そう思いながらローレンツは、カップを手に取り、残っていた紅茶を飲み干した。
ここは、王城のとある一室。
淡いストレートの金髪に、碧眼の、子持ちとは思えないほど、若々しい美丈夫が、頭を下げながら、謝った。
「すまない、ベルン!! カミラ嬢に怪我をさせて、恐い思いをさせてしまった!!」
ベルンと呼ばれた、男性もまた、淡いストレートの金髪に、碧眼だった。ただ、謝った男よりつり目で、黙っていると強面の印象が強かった。
「……起きてしまったことは、仕様が無いよ。
幸いカミラも、そんなに堪えてはいないし。」
謝った男はこの国、ロザリファの王、アウグスト。ベルンと呼ばれた男は、ベルンフリート・アルベルツ子爵だ。
「本当に……私は、お前達家族を悲しませることしかしないな」
「いや、カミラのために、王城のパーティーには必ず、誘ってくれただろう?
それだけで充分だ。
それで、ローレンツという義理の息子と、出会えたのだから」
「あぁ! うちの王太子の側近候補だった、あの……」
「そうなのか?」
「面白い奴と会ったと言って、誰だと聞いたら、男爵子息で総合トップになり、剣でも優秀なんだそうだ。
当然誘ったら、側近になると思ったのだが、断られてしまったんだ」
「男爵じゃ……側近には向かないだろう」
この国では通常、王の周りは、上位貴族で固められることが多い。
「いや、優秀な人材なら、平民でも良いくらいだ。うちは常に優秀な人材を求めているよ?」
アウグストは、当然だろ? と言うような顔をした。
この男は、優秀な人材が大好きなのだ。
「そうか。 それで? ミーシェの王女様はその後、どうなった?」
「なんとか帰れはしたが、国民全員からうらまれているらしい。彼女のせいで、予定していた物資の量が少なくなってしまったからね。
彼女は廃嫡され、ミーシェの最北にある修道院で一生を過ごす事になった。 当然婚姻も認められないよ」
「まぁ……王女の愚行は、自らの愚かさを露呈してるようなものだからな」
ミーシェの国王は、それはそれは、王女を可愛がっていたらしい。
だが、保護してくれている異国の地で、犯罪を行ったとあれば、別だ。
手紙でその事を知り、頭を抱え、息子である王太子に諭されて、廃嫡する事になった。
「その王太子は、よく、周りを見ているね」
「元々、ミーシェとベルクの戦争は、ミーシェの人間が、ベルクの海域で密猟していたのが切っ掛けだからな。 ミーシェの勝利ではあったが、ミーシェの愚かさもさらす事になった。 ミーシェは大国だが、うちの他に離れる国もいるだろう」
これを切っ掛けに、ロザリファはミーシェとの交易を、少なくする事に決めた。
ロザリファで、貿易業をやっている者には大打撃だが、救済措置として、一定期間税を取らず、その間に、別の土地の開拓をするよう指示している。
「ただ……そこの王太子の実力は本物なんだ。 彼が王になるのであれば、許そうと思う」
「現王がどう思うか……だな。 こちらに牙を剥く人物でなければ良いが」
「それは時期を見て、手紙を出そう。」
話はブレンターノ親子の話題に変わった。
「元親戚共はどうしている?」
「しっかり罰を受けているよ。 一生許すつもりは無いが」
「アウグストが怒る事はないだろう」
「何言ってるんだ! 元はと言えば俺のせいでもある。これくらいじゃ足りないよ」
「初恋のアマーリアの娘に何やってるんだ……と?」
「結局、俺じゃ幸せにしてやれなかったよ。お前と居るから、彼女は今でも美しい」
王はたまに、部下とお忍びでアルベルツ邸を訪れていた。(実際は、覗いていた。)それはアマーリアが結婚してから、王城に全く足を運ばなくなったから。
その原因を作ったのは、間違いなく自分だというのに。
実は、アウグスト、ベルンフリート、アマーリアは学園の同期。
王であるアウグストはアマーリアが好き。
アマーリアはベルンフリートに惚れた。
ベルンフリートは没落寸前で、それどころではなかった。
ベルンフリートはずっと渋っていたが、アマーリアの熱烈な求婚に、周りは止める事が出来ず、学園卒業後にすぐ、2人は結婚した。
アウグストも同時期に、アマーリアの親友である女性と結婚している。
もちろん、アウグストがアマーリアに惚れていたことも承知の上で。
なので、こっそりアルベルツ邸に行っているのを許している。
彼女も、アマーリアの近況を知りたかったのだ。
当時のアルベルツ子爵だった、ベルンフリートの父は、借金を埋める為に、弱い身体にムチを打っていたが、結局、結婚した直後に倒れ、家督をベルンフリートに移した。
ベルンフリートは、騎士になるべく王城へ。
見る見るうちに頭角を表し、すぐに近衛になれるところまでいった。
その間、アマーリアは使用人も居ない家に、1人いた。
なので、王はこっそり自分の手のものに、警護を指示していた。
ローレンツがアルベルツ邸に来るまでの間、王のおかげで、何事もなかったのである。
本来、ベルンフリートは近衛の中でも、特に重要な王の警護をする予定であった。
だが、騎士団の中に、不穏な動きをしているものが、何人か居ることが発覚。
それは騎士団長や、騎士団をまとめる元帥も含めたものだった。
そこに王の駒として潜入するには、実力があり、王の信頼を得ている人が必要だ。それに該当するのは、ベルンフリートしか居なかったのだ。
騎士団長と近衛の給金は、2倍も違う。
さらに、近衛は王の遠征などの出張費も、騎士団長の2倍。
もし、王の警護についていたら、近衛の給金ですぐに借金が返せて、家族も問題なく暮らせて、カミラも学園に通うこともできただろう。
カミラが学園に通えなかった切っ掛けを作ったのは、王自身の我が儘だった。
当時の若い王は、学園の親友である男に、涙を流しながら謝罪した。
「すまない……すまない……ベルン」
「……そんなに敵がいるならしようがないよ。俺に商才があればこんな事にはならなかった。どっちにしろこうなっていたんだ」
困った表情をした騎士は、冷静に、それを受け止めた。
その代わり、王は、アルベルツ子爵家をなんとしても、潰さない事を約束。
そして、王は、出来る限りのことをアルベルツ子爵家にした。
今となっては、カミラは学園に通わなくて良かったと思っている。
「カミラが通っていれば、他の令嬢から攻撃を受けることも、嫌がらせを受けることもあったかもしれない。」
「学園の体質……貴族の体質も出来れば変えたい」
「一掃するのは……まだなのか?」
「まだ、時期じゃないよ」
「アドルフ卿とは?」
「対策はしている」
「そうか……その時は、俺も誘ってくれよ?」
「もちろんそのつもりだ」
この後があるぞ! というところで、切らせて頂きました。
新作で、この後が読めるものを作ろうかと、考えています。
ただ、この話とは少し違って、この世界のファンタジーな部分に、足を突っ込んでいる話を書きたいので、大分違った印象になるかもしれません。
一応、伏線になるキーワードは「つり目〜」の中に、少し書いておきました。
いつになるか分かりませんが、そのときは、チラッとで良いので、読みに来てくださるとうれしいです。
まだ、番外編は続くかもしれませんが、一旦ここで終了です。
今まで、読んでくださった皆様、本当にありがとうございました。