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18 ヨルクの家族

ヨルクって誰!? って思った人も多いと思います。

フィーネの兄弟の末っ子です。

テレシアにいた頃から、ロザリファでのその後をヨルク視点で書きました。


話はいつもの倍以上長いです。

一部軽〜い、R15?




 オレはヨルク!

 テレシア王国のド田舎で、農家をやってる家の末っ子!


 畑を耕しているのが、ザールじいちゃんとティルとうちゃん。

 料理を作ったり、服を作ったりしているのは、ロミルダばあちゃんとワンダかあちゃん。

 家でオレら兄弟をまとめているのが、一番上のフィーネねえちゃん。その次が一つ下のウルフにいちゃん。そのウルフにいちゃんの双子の片割れがラルフにいちゃんで、その二つ下がナディーネねえちゃん。さらにその一つ下が、オレ!!


 貧乏だけど、兄弟が多いから、つまらないと思ったことがない。

 みんなで騒いで、毎日楽しい!!

 

 オレももうすぐ四さいになる。

 四さいになると、大人から魔力の使い方を教わり、精霊が見えるようになる。

 一番上のフィーネねえちゃんは、特殊な精霊が憑いているらしい。

 オレもそうなるといいなぁ。






 四さいになり、とうちゃんに魔力の使い方を教わると、精霊が見えるようになった。だけど精霊が憑いてくれるのはまだ先。


 ザールじいちゃんは、子どもの風の精霊。

 ティルとうちゃんは、子どもの水の精霊。

 ロミルダばあちゃんは、子どもの水の精霊。

 ワンダかあちゃんは、子どもの風の精霊。

 ウルフにいちゃんは、子どもの水の精霊。

 ラルフにいちゃんは、子どもの風の精霊。

 ナディーネねえちゃんは、子どもの水の精霊。


 子どもの水や風や火の精霊は、この国では、めっちゃいる。

 農業をやっている人には、水や風の精霊が憑きやすいそうだ。

 昔は農業をやっていると、よく土の精霊が憑いていたんだって。

 けれど、土の精霊が怒っちゃって、あまり憑いてくれなくなったんだ。

 だからなのか農業はやっているけど、出来はイマイチで、なんとか家族が食べていけるくらい。



 





 フィーネ姉ちゃんを見ると、男か女かわからない、十四さいくらいの黒い格好している精霊が憑いていた。


「ねえちゃん。その精霊はなんの精霊?」

「ファントムはね~、どんなものにも変身できる精霊だよ。ほら!」


 目の前にいたはずのねえちゃんが、オレそっくりの姿になっていた。


「うわぁ!!」

「驚いた? これがファントムの力だよ」


 そう言ってから、元の姿に戻った。


「ねえちゃんだ……」

「これ見せるの初めてだもんね。混乱するよね」


 ねえちゃんは、よしよしとオレの頭を撫でた。


「どうして、ねえちゃんの精霊は大きいの?」

「それはね。中位の精霊だからだよ。みんなより魔力が多いんだって。ファントムよりも大きい大人の精霊が上位精霊だよ」

「もっとすごい精霊がいるの?」

「うん。そうだよ」

「ファントムの属性は?」

「あー……それは、特殊な属性みたい。強いて言うなら、闇属性……かな?」

「闇……」


 それは、テレシア王国ではたまにある属性の一つで、憑いている人はあまりいないらしい。


「すごいじゃん!!」

「でも、周りに言っちゃダメだよ」

「どうして? すごいのに」

「国の偉い人達に見つかったら、連れて行かれちゃうかもしれないから」


 それを聞いて、背中が寒くなった。

 前に村に住んでいた人が、珍しい精霊が憑いていたと言う理由で、城に連れて行かれてしまったと聞いた。

 

 城に連れて行かれたら、怖いことをされるって、大人たちが言ってた。


「わかった! 言わない」

「うん。お願いね」






 それから少し経ち、オレにも子どもの風の精霊が憑き、少しだが畑の手伝いをするようになった頃、兵士達がうちを訪ねてきた。


「この家に、変身できる精霊憑きがいるという情報があった」


 すると兵士は真っ先に、家の中に居たフィーネねえちゃんを見た。


「……お前だな。すぐに皆、城に連れて行く。逃げようとするなよ。こちらも手荒な真似はしたく無いんだ」


 そういって、兵士は自分の剣の柄をつかんだ。

 とうちゃんが、すぐにみんなを集めて、兵士に従った。


「嫌!! 離して!!」

「フィーネ!!」

「黙っていろ!! お前は別だ。こっちに来い!!」

「痛!! やめて……」

「口答えするな」


 バチン!!


 フィーネねえちゃんの頬を殴る音が響いた。


「……言う事を聞かないからだ。さあ来い!!」

「うっく……」


 泣きながら、フィーネねえちゃんは、オレらとは別の馬車に無理矢理乗せられた。

 その光景を見て居たみんなは、大人しく、指示通り、馬車へと乗り込んだ。






 馬車の中では一言も、喋らなかった。

 オレもみんなも、震えたり、暗い顔になっていた。


 誰が、フィーネねえちゃんのことを言ったんだろう? ……まさか、一緒に遊んでいた村の子の誰かか?


 以前たまたまフィーネねえちゃんが変身したのを、村の子達と目撃したのを覚えている。


 裏切ったのか……!!

 言うなって言ったのに……!!

 ……それなら、オレのせいじゃないか。オレがみんなを家に連れてきたせいで、こんなことになったのだから。

 ごめんなさい、みんな。

 フィーネねえちゃん。……ごめん。






 城に着くと、オレ達家族は、一つの牢屋に入れられた。

 

「これから……どうなっちゃうの?」

「わからん。フィーネは……恐らく、王の駒として、使われるだろうな」

「どういうこと?」

「……王の命令になんでも聞かなきゃいけないということだ」

「例えば……王がヨルクを殴れと言ったら、フィーネはヨルクを殴らなきゃ怒られるんだ」


 オレは、ゾッとした。そして、その状況をオレが起こしたことに、悔しくて、目から涙が出てしまった。


「ヨルク! ごめん。そう言った方がわかりやすいと思って……」

「ごめんなさい。オレのせいで……こんな……」

「どう言うことだよ。ヨルクが何をしたって言うんだ」

「オレが、近所の皆を連れてきたことがあったろ? その時に、フィーネねえちゃんが変身したところを見られたんだ。皆には黙っててって言ったのに……」

「……仕方がないよ。遅かれ早かれこうなっていたさ。他の国に逃げる者も居たのに、その決断が出来なかった俺が悪い」

「とうちゃんのせいじゃないだろう? フィーネねえちゃんのせいでもない。悪いのは……」

「言うな! 出来るだけ、従うんだ。フィーネのためにも」


 全部王が悪い。


 そんなこと、口が裂けても言えなかった。






 オレ達は、一日一回食事が与えられて、定期的に牢屋を出て、運動させられた。


 まるで、囚人の様な扱いだった。

 ちょっとでも、ヘマをすれば、叩かれた。


 こんな生活が続いたある日、フィーネねえちゃんが訪ねて来た。


「みんな!!」

「フィーネねえちゃん!!」

「大丈夫か? フィーネ」


 フィーネねえちゃんの頬には、殴られた様なアザがあった。

 それでもねえちゃんはにっこりと笑った。


「……平気だよ。それより、みんな聞いて!! 私、この国を離れて、仕事することになったの」

「どこに行くんだよ」

「それは……言えない。けれど、そこで私がヘマすれば、みんなは処刑されちゃう。……ごめんね。こんなことになって。私のせいで……みんなが……」

「無事……帰って来なさい。待っているから」

「おとうちゃん……」

「身体に……気をつけてね」

「……おかあちゃ……」

「おい。もう、時間だ。立て」

「……はい」

「フィーネねえちゃん!!」


 オレは思わず声を張り上げてしまった。

 言いたいことなんていっぱいあるのに、喉につっかえて出てこない。

 すると、フィーネねえちゃんはにっこりと笑った。


「行ってくるね」


 そう言い残して、フィーネねえちゃんはその場を後にした。







 あれから、オレ達と同じ境遇の人が増えた。

 そして、ひと家族が出て行き、そのまま帰ってこなかったことも増えた。


 オレ達も、いつそうなるかはわからない。


 もしかしたら使えるかもしれないと、子ども達だけ集められ、暗殺術を学ばされた。

 さすがに人殺しはしないが、学んだところで、駒として使われる事は目に見えている。

 そして、度々褒められているやつが、いつの間にか消えていることもあった。

 オレも褒められたが、それは一回きりで、結局才能ナシと言うことで、牢に戻された。

 

 実はワザとそうした。

 ウルフにいちゃんとラルフにいちゃん、ナディーネねえちゃんは、早々に牢に戻されていたから、あえて無能な振りをしたのだ。


 そうしながら身を守り、いつの日にか、フィーネねえちゃんが助けに来てくれることを信じて、それを待った。






 ある日聞いたのは、残酷な知らせだった。


「フィーネは本日、任務に失敗し、敵に捕まったとの報告があった」


 オレらは皆、目を見開いた。


「そして、お前達の処刑が決まった。ただ、他の処刑も詰まっており、今から一週間後に執り行う。せいぜいそれまで、おとなしくしているんだな」


 兵士は去って行くと、母親は泣き崩れた。


「フィーネ! ……フィーネ!!」

「ワンダ。大丈夫だ。フィーネは捕まっただけで、殺されてはいない」

「でも……でも……」

「それよりも、俺達が何としてもここから逃げなければな。フィーネが頑張ってくれたお陰で、俺達は生きているんだ」

「どうやって出るんだよ? とうちゃんだって知ってるだろう? ここから出る方法なんて……」


 ウルフにいちゃんの声に、皆、重い空気が漂う。


「皆、もう覚悟を決めよう。せめて祈ろう。神が俺達を助けてくれなくとも、俺達は一緒だ」


 力のない声で、ザールじいちゃんは言った。


「……オレにもっと力があればなぁ……」

「そうしたら、とっくに王の駒になっているよ。……良かったんだよ。これで……」

「フィーネねえちゃんは……どうなるんだろう」

「……さぁな」






 その日以来、皆で寄り添って過ごした。

 オレ達は牢で過ごしていると、バタバタという音が聞こえてきた。


「おい!! お前達は、フィーネとかいう者の家族で間違えないか!?」


 一人の兵士が、慌てた様子で走って来た。


「そうです」

「……王がお呼びだ」


 王が!?


 家族全員、目を丸くした。





 キラキラした豪華な部屋へと連れてこられ、真ん中の一番高いところに大きな椅子が置いてあった。

 そこに座っていたのが王だと、入った瞬間にわかった。

 オレ達はひざまずかされ、頭を下げた。

 王が面倒くさそうな声で、「(おもて)をあげよ」とオレ達に言った。その言葉通り顔をあげて王を見上げると、口をへの字にしてから口を開けた。


「其方達がフィーネとやらの家族か」

「そのようです」


 王の言葉に兵士が答えると、汚い物を見る目で王はオレ達を見下した。


「ロザリファ王が、其方達を所望だ。これから参る、ロザリファの使者と共に、ロザリファへ渡る事が決まった。使者が到着次第、ここを出ろ」


 その言葉を言い残し、王はその場を後にした。






 オレ達は兵士達に移動をうながされ、宛てがわれた部屋でしばらく待っていると、一人の男性が現れた。

 淡い金髪に碧眼。つり目が特徴の顔を持っていた。

 身なりを見ると、明らかに貴族だ。


「君達がフィーネの家族達だね。……六……七……八人。うん。聞いていた通りだな」

「あ……あの、俺達はどうなるので?」

「あんた!」

「心配しなくて良い。ただ、もうこの地には戻っては来られない。私の領で働く事が決まったからね。詳しい事は道中話すよ」


 つり目のお貴族様は平民のオレ達に対し、にっこりと微笑んだ。







 オレ達は、寄り合い馬車並みに大きくて立派な馬車に揺られ、ロザリファに向かっていた。

 みんな「こんな豪華な馬車に乗れるなんて……」と、汚さないようにビクビクしながら座っていると、つり目のお貴族様が口を開いた。


「自己紹介がまだだったな。俺はベルンフリート・アルベルツ。一応この前、侯爵になったばかりだ」

「だ……大貴族様じゃないか!?」

「先日侯爵になってね、領も賜ったんだ。その領で君達に働いてもらいたい」

「その領へ行くので?」

「そうだ。これは私の娘の希望なんだよ。フィーネは、私の娘をテレシアに攫うという任務についていてね。娘がフィーネを捕まえたんだ。その時に事情を聞いて、君らを欲したんだよ。こちらとしても、田舎に行ってくれる人材は貴重だからさ」

「フィ……フィーネが!? 申し訳ございません」

「王の命令だったのだから、仕方がないよ。で、君達家族には、低賃金で働いてもらうことになるのだが……一家でこれくらいなのだけれど」

「こんなに頂けるので!?」

「フィーネも言っていたなぁ。けれどロザリファではこれが最低賃金かと……あ。食費は入ってないよ。それはこちら持ちだしね。あと、普段身につけてもらう服はこちらから支給するし」

「しょ! 食費が入ってなくてこれですか!?」

「君達……かなり過酷な場所に居たんだね」


 アルベルツ侯爵様は、哀れんだ目でこちらを見た。


「君達には領地で、仕事してもらうよ。農家をやっていたのなら、畑仕事はお手の物だろう? 領邸で畑を育てる計画もあるし、養蚕もしたいんだ。虫が大丈夫な者にやってもらいたい。女性には、下働きの仕事をお願いしたいんだ」


 大人達に言った後、アルベルツ侯爵様は、子どものオレ達を見てにっこりと微笑みながら口を開いた。


「君達には、領で開設予定の学校に通ってもらうからね。これは決定事項だから」

「学校?」

「読み書き、計算を学ぶところだよ。もし、大人も通いたいのであれば、子ども達が学ぶ時間外に、設けようと思っているから、是非参加してくれ。無料だよ」

「無料で!?」

「これからは、民にも学がないとね」


 テレシア王国の平民は、読み書き計算なんて、金持ちじゃないと教わることも出来ない。オレ達には侯爵様が神様に見えた。







 ロザリファの王都にある、アルベルツ邸に着き、そこでフィーネねえちゃんと再会した。


「みんな!!」

「「「「フィーネ!!」」」」

「「「「ねえちゃん!!」」」」

「ごめんね!! 私のせいで……本当にごめん!!」

「何言っているの? オレら助かったんだよ!! ありがとう。ねえちゃん」

「……みんな。あ……こっ……こちらが、みんなを助けてくれた人。ドリス・アルベルツ様」


 皆、一斉に一人の少女に向いた。

 金髪に碧眼。とても可愛らしく、綺麗な人だった。


「皆様、初めまして。ドリス・アルベルツと申します。私の我儘で、この国まで来て頂き、感謝致します」

「ドリス様!! ドリス様のお陰と、侯爵様から聞いております。本当に、ありがとうございます」

「ううん。感謝しないで。これは私の偽善だから。それにフィーネは、私に生涯仕える侍女になることが決定したから、貴方達とは領には行けないの」


 すると、とうちゃんは首を横に振った。


「それでも、安全な場所に居るというのがわかるだけでも安心です」

「そうかしら? フィーネの能力は高い。私の命令には必ず従わなければならないのよ? 危険な場所に(おもむ)く可能性が高い。それでも?」

「助けてくださった貴女であれば、娘も本望でしょう。俺も、どうぞお使いください。この家に忠誠を誓いましょう」

「私もです」

「俺も」

「私も」

「「オレも!!」」

「私も!」

「オレだって!!」


 俺たち家族は、アルベルツ家に生涯仕えることを誓った。







 それから数日後、オレ達はアルベルツ領への移動が決まった。


「またね! みんな」

「また!」

「いつでも待って居るからね」


 手を振るフィーネねーちゃんに、みんなが手を振って馬車に乗り込んだ。

 テレシアで離れ離れになった時とは違う。

 みんな安心して、再会を願った。






 アルベルツ領では、みんなよくしてくれた。

 普通、下働きのものは、ぞんざいに扱われることが多いそうのだが、皆、笑顔で接してくれた。


 料理人が不在の時は、ばあちゃんとかあちゃんが、田舎飯を作ってくれた。それも使用人達に好評で、「店を開いてもいいんじゃない?」 とも言われるほどだった。


 じいちゃんととうちゃんは、領邸の畑と養蚕の仕事についていた。

 生き生きと嬉しそうに働いている。

 

 オレ達兄弟は、学校に通いながら、領邸の手伝いもした。


 ウルフにいちゃんとラルフにいちゃんは、じいちゃんととうちゃんの手伝いをしながら、執事や侍従の勉強をしている。


 ナディーネねえちゃんは、服を作る才能があり、ローレンツ様の伝手を使い、仕立て屋の見習いになった。オレらの服や、アルベルツ家の方々の服を作りたいと意気込んでいる。


 オレ、ヨルクはというと、暗殺術の才能を見出され、その指導を密かに受けながら、執事や侍従の勉強をしている。

 下位とは言え、風の精霊憑きでもあるので、情報も集めやすい。

 中央の鴉にも協力し、たまに任務に出ることもあった。






 その間フィーネねえちゃんは、ドリス様の農業指南の旅に同行し、あらゆる国に出向いた。三年の月日を経て帰国。その後、ドリス様の嫁ぎ先であるアピッツ領へ身を置いた。

 アピッツ領はアルベルツ領の隣なので、すぐ行ける距離に居るというのが嬉しかった。

 旅から戻って来てすぐ、フィーネねえちゃんは、旅に同行していたアピッツ領の使用人の男と結婚した。

 オレ達家族も特別に休みを頂き、アピッツ領での結婚式に参加。

 花嫁姿は、今まで見たねえちゃんの中で一番綺麗で、色っぽかった。

 本当に良い人を選んだと思う。

 オレらの裏の仕事も理解している人は貴重だ。

 そして極たまに、フィーネねえちゃんも、中央の鴉に協力することもあり、そこで顔を合わすこともあった。


 最初めちゃくちゃ驚いていたっけ。

「帰りなさい」「ここにいちゃダメ」なんて言われたけど、指名された依頼だったから困ったなぁ。


 前から手伝っていたことを伝え、仕事をしているうちに渋々認めてくれた。







 月日は経ち、オレ達兄弟はそれぞれ独り立ちをした。


 兄のウルフとラルフは、領の管理人という立場になった。勿論、他に相応しい人がいたのだが、信頼できる者が良いとのことで、抜擢された。

 領のことや、ローレンツ様の指示に常にてんやわんやしているという。


 姉のナディーネは、夢であったアルベルツ家専属の仕立人になった。

 アルベルツ家だけでなく、ブレンターノ家、アピッツ家のドレスも担当していた。

 王都では評判の仕立人になっており、家族全員、鼻が高かった。


 オレはアルベルツ家のローレンツ様のご嫡男、オリバー様の侍従になることが決定した。

 護衛も兼ねていることと、風の精霊を憑いていることが、抜擢の理由だそうだ。


 オリバー様は自身を地味な人間と謙遜しているが、とても聡い人で、父であるローレンツ様譲りの才能があった。

 顔立ちがそのローレンツ様に似て、貴族の中では地味な部類だが、オレから見れば甘い顔立ちだと思う。

 ローレンツ様の奥方、カミラ様に似た弟君のヴァルター様は、とても綺麗すぎて、近づきづらい。性格が気さくな方なので、接しやすいのだが、オレとしてはオリバー様でホッとしている。






 オレらは運が良かった。

 フィーネねえちゃんを捕まえたのが、ドリス様で本当に良かった。

 オレ達は助かったけれど、祖国のテレシアでは、あの後も惨殺された人も多くいたし、内戦が起き、国は酷い状態だったと聞いた。


 今では、当時ロザリファに人質として来ていた、第二王子が王になり、平和な国になっているという。


 どうか、命を落とした人達が安らかに天で過ごせるよう、オレは祈ることしかできない。もしかしたら、テレシアの人間から、オレ達家族は恨まれているかもしれない。お前達だけずるいと言われたとしても、オレ達はそれに対し、返す言葉はないと思う。


 それに、今やっていることが正しいのかもよくわからない。


 けれど、それはオレが決めた道だ。

 オレは、命を救ってくれたアルベルツ家のために、今日も笑顔で働く。







 朝、オレの主人であるオリバー様の部屋に入り、起こそうとベッドの側に。しかし、その前にカーテンを開けようと回れ右をしたその時……下半身に違和感を感じた。


「オリバー様。そろそろ起きてください。それは巨乳ではなく、私のお尻です」

「え~、男の尻かー……」

「オリバー様、さらに揉まないでください。それは未来の奥様にどうぞ」

「そんなことしたら、嫌われるような気がするなぁ」

「意中の相手がいるので?」

「……ちょっとね」

「それは楽しみですね。ですが、もう十六になるのですから、寝ぼけて人のお尻を揉まないように」

「ヨルクが起こしてくれるから、そうなっている気がするけれど?」

「では、明日はヴァルター様にお願いしましょう。嬉々として受けてくれると思います」

「待て! それは辞めろ!!」


 楽しくて賑やかなアルベルツ家の朝が、今日も始まる。

 





オリバーはエロ男に成長しましたね。そして弟が出てきました。「ドリス」の終盤でカミラのお腹にいた子ですよ!


次回、子ども世代一覧表


「つり目」「ドリス」に出てきたキャラ達の子ども達の一覧表です。

さて、どのキャラが何人産んだのか。本編と番外編に出てくる人以外も書いてありますので、よろしければ、ご覧くださいませ。

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