17 新生ロザリファ国王
ネタバレ回です。
以前、掘り下げるかどうするか迷っていた話を書きました。
以前より、ロザリファ王の交代を周りから急かされていた。
理由は、罪人となった王の息子バシリウスが仕出かした、学園パーティー襲撃事件。
親としての責任を取るべきではないかと、一部の貴族達から言われ続けていたのだ。
しかし、今ここで引退してしまうと、次代のシュテファンに全て負担がかかる。
ある程度、国が落ち着いてきたら、すぐにでもアウグストは退位する予定だったのだ。
そして全てが落ち着き、本日、次期王の儀式を執り行うことになった。
「これより、王太子シュテファンを次期王として認める儀式を執り行う」
王城の裏手には、小さな森が広がっている。
普段は王族であろうと、立ち入りすることは出来ない。
入ったら最後。
その場で何があっても、助けを呼ぶことは出来ない。
なぜなら、誰もその地に入ってはいけないのだから。
運が良ければ助かるが、運が悪ければ獣に襲われ助からない。
そんな地に、王であるアウグストと、王太子であるシュテファンは足を踏み入れた。
シュテファンは黙って父の後ろを歩いて行く。
一本道を進み、どんどん奥へと行くと、そこには洞窟があった。
中に入ると、なぜか、家の中に入ったかのように、周りの景色がガラリと変わった。
まるで人が住んでいるかのような、そんなところだった。
「来たか。アウグスト」
「お久しぶりにございます。監視者様」
アウグストが跪いたのを見て、すぐシュテファンも跪いた。
「其方がシュテファンか。良かったな。こやつはまともに育って。もう一人の息子は、とんだ愚息だったからなぁ。周りからそそのかされたとは言え、愚かな子だった」
「お恥ずかしい限りでございます」
「其方の娘も愚かだったなぁ。下の娘をいじめるために、この森に無理矢理連れて来られて、放置した」
「そんなことが……!!」
シュテファンは思わず叫んでしまった。
「その時は我が、無事送り返したよ。懐かしいな。その娘は精霊を視る選択をして、ギラザックへ渡ったみたいだな」
「何もかも、お見通しでございましょうに」
「私も話したいのだよ。特に、ここ最近の変化は著しい……あ・自己紹介がまだだった。二人とも、そこのソファーへ座れ」
ソファーへ促されると、シュテファンの目の前に、監視者と呼ばれた人が座る。
「初めましてだな、シュテファン。我は、監視者。名はない。この世界の女神を監視する者だ。創造主の命でな」
「え!? それは……伝説級のお方では?」
「其方達からすればそうだな。お主にはまず、ロザリファの成り立ちから話さなければならない」
この地に、初代ロザリファ国王がやって来た時、ある違和感を感じていた。
なぜ、ここから先は魔素が全くないのだろう。
実は、ロザリファを囲むように、結界が張られていたのだ。
今で言う、ギラザックとの境と、ロザリファの南隣の国の境に。
人には影響はなく、過度な魔素が入って来ないように、監視者が結界を張ったのだ。
ちなみに、今現在でも、それはある。
初代ロザリファ国王は、この地に国を作ると決めた日の夜から、三日連続で同じ夢を見ていた。
「この地の真ん中にある、小さな森に来い。一人でだ。決して約束を違えるな」
その言葉が常に頭に響く。
初代ロザリファ国王は、それに従い、森へ赴くと、そこにいたのは監視者だった。
監視者とは、女神を監視する者。
女神がこの世界を私物化しようとしたり、壊そうとしたなら、すぐに監視者が止めに入り、この世界の権限を女神から監視者に移す事が出来るのだ。
そのため、女神に気づかれないようにしなければならない。それには出来るだけ、魔素がないところが望ましい。なぜなら、魔素があるところに精霊が住み、女神は全ての精霊と繋がることが出来るからだ。
そうなるとおかしい。
なぜなら、初代ロザリファ国王は、精霊が視える者。
今ここに、自分がいて平気なのかと問うと、監視者は、精霊の方を指差した。
見ると精霊の様子がおかしい。虚ろな目をして固まっているのだ。
「一体・二体の精霊くらいはなんとか出来るが、何十、何百となると、流石の我でも対処が出来ない」
そう言う監視者に、力の差を目の当たりにした初代ロザリファ国王は、監視者に何が望みかと問う。
すると監視者は、この森の中に、魔素を持ち込むなと言った。
「お前達にも生活があるから、どうしても魔素があるものを持ち込むだろう。魔力切れは眠れば治るとは言え、緊急時にはどうしても魔素を含んだ薬草が必要になるからな」
「ご自愛、痛み入ります。……今後、精霊との付き合い方を考えましょう」
「と、言うと?」
「次世代には、精霊信仰をしないと、約束しましょう」
「我もその方が助かる。なら、我も其方に返さねばならん。次代の王が決まったら、我のところに連れて参れ。我が、見極めようぞ」
「ありがたき事です」
「この森の南に、城を立てろ。我が守り神の様なものになってやろう」
「そうして、この国では精霊を視るものは居なくなり、我が、ロザリファ王にふさわしいか判断するようになったのだ。ちなみに今、アウグストとシュテファンの精霊には、この森に入る少し前から、時間を止めているし、記憶も操作しておくから、女神にバレることはない」
「そういえば……居ましたね」
「忘れて居たな」
「そなた達は視えないからなぁ。そうだ! シュテファンは北の隼と南の大鷲を知っておろう」
「はい」
「その見本が我だ。女神が王としたら、裏組織のボス共が我」
「……そうでしたか」
色んな事実がわかり、軽く頭が混乱していたシュテファンはある事に気づいた。
「なら……なぜ、ドリス・アルベルツに精霊指導を許可したのですか? 監視者様の許可を得ているのでしょう?」
「時代の流れというやつだ。もうそろそろ、そんなことをいう者が出ると思っていたしな。許可しないというのは、あまりに不自然と思ったのも事実だ。我の存在が感づかれてしまう。ならあえて、許可した方が良いと思ったまでよ」
「……そうですね。過度に精霊を視てはいけないというと、女神が疑問に思うかもしれません」
「そういうことだ」
「父上は、ここに来て、その事を聞いたりしていたので?」
「いいや、念じれば監視者様に通じるようになっている」
「うむ。それが、王になる証よ。シュテファン。こっちだ」
監視者は立ち上がり、シュテファンをある部屋へ連れて行くと、そこには、魔法陣と思われるものが床に書いてあった。
監視者は、魔法陣の真ん中にシュテファンを立たせる。
「これは、我とそなたとの契約だ。そなたが王になる代わりに、我も力を貸すという……な」
「これをされると……どうなるのでしょう」
「先ほど言った通り、我とどこへ居ても話す事が出来る。相談事があるなら、いつでも請け負うぞ。残念ながら、防御の魔法はかけてはやれん。女神にバレるのでな。安心しろ、印が浮かんでもすぐ消える」
すると監視者は、何語かわからない言葉を唱えると、魔法陣が輝き、その光がシュテファンの前に集まって行く。
その光がシュテファンの額に近づくと、床の魔法陣が印となって、シュテファンの額に浮かんだ。
そして、ものの五秒くらいで、その印は消えた。
「これで、終わりだ。其方は、正式に王と認められた」
すると監視者は、シュテファンに向かって手を差し出した。
「高貴なる隣人よ。我は、いつでも其方の味方ぞ。何か困った時は頼れ」
「……友と……呼んで良いのですか?」
「この印は、我と友となった証でもあり、王に相応しくなければ、出ないものだ。其方は決して、我の操り人形ではない。其方が国を作って行くのだ」
その言葉に、シュテファンは目を見開いた。
先ほどまで、そう心の中で思っていた事を見透かす様な発言に、良い意味でゾクッと感じた。
シュテファンは監視者の手を取り、握手を交わした。
「良い国にして見せましょう」
「あぁ。楽しみにしているよ。君らを見ていると、退屈しない」
監視者はにっこりと笑った。
アウグストの父親がなぜ王になれたのか、疑問に感じる人もいるかと思い、追加致します。
アウグストの父親は王としての適性はあったのですが、周りに翻弄されてしまいダメダメな王になってしまいました。決して監視者様のせいではありません。監視者様や裏組織の面々と相談という手もあったのですが、しなかったのです。それは恐れ多いし、そんな事で心配かけたくないと思ったから。監視者様と裏組織の面々と友になれなかったのが、ダメダメになった原因かもしれません。あくまでも国を創っていくのは、監視者様ではなく王である自分。自分がやらなければと背負い過ぎてしまったのかもしれません。
次回、ヨルクの家族
実質次回で、最終回です。なのに、誰? って言う人が主人公。




