16 ワシュー王太子、愕然
アンディのお兄ちゃん視点の話です。
今日は、我がマイハニーな弟、アンディが帰国する日だ。
長期休みは帰ってこい! と手紙を送っても、そっけない返事。
よっぽど、ロザリファが楽しかったらしい。
手紙には、良い友人達も出来たようで、それは兄としては嬉しい……ような? 悲しいような?
だって、アンディって、俺が友人候補を紹介しても、無視なんだもん!!
どこが悪かったんだよ~。理解不能だよ~。
しかも、結婚したってどういう事!?
俺もまだそんな人いないのに~~!!
でもでも!! まだ、あの愛らしい弟に違いない!!
黒いサラサラの髪に、男にしては、大きい緑の瞳。女性に間違えるくらい麗しい弟。それがアンディ!!
さぁ!! 兄上の胸に飛び込んでおいで!!
「あぁ! 兄上、久しぶり。……もしかして、縮んだ?」
「え……お前……まさか……え? アン……ディ?」
俺の目の前に立っていたのは、俺よりも大きな背をした、美男子だった。
洗練された体躯。国にいたときより、だいぶ男らしくなり、顔つきも精悍なものになった。もう誰も、可愛らしい天使なんて呼べない。代わりに、女性の黄色い声援が聞こえてきそうだ。
「兄上。こちらが俺の妻で、アンジェリーナ」
「アンジェリーナと申します。よろしくお願い致します」
目の前に現れたのは、麗しの天使だった。
流れるような黒い髪に、燃えるようなオレンジの瞳。
ちょっと気の強そうな顔だが、今は穏やかな表情で、アンディの隣にいた。
背はあまり高くはないが、身体つきが女性らしく、出るところは出て、引っ込むところは引っ込んでいる、魅惑的な容姿だった。
「は……初めまして」
「兄上、惚れるなよ。俺のだからな」
「ばっ! そ!! そんな気はない!!」
「そんな真っ赤な顔で言われても……」
「しかし、大きくなったな。よし、俺が剣の腕が鈍っていないか確かめてやろう」
「帰ってきたばかりでそれ? 休ませてよ」
「それは悪かった。では明日の午後に勝負だ!」
次の日。
騎士団も見守る中で、王太子と第二王子の決闘が行われた。
「どれだけ、腕が上がっているか、見極めてやる」
「もう、前の私とは、考えない方が良いですよ」
そして、審判が合図をすると、二人は互いに激突した。
な……早い!!
素早い剣さばきで、俺を翻弄するアンディ。
くそ!! 捌くので精一杯だ!!
ガキーン!!
俺の剣が放物線を描いて飛んで行き、俺のはるか後ろに剣が転がって行った。
「勝者!! アンディ殿下!!」
「「「……うおーーーーーー!!!!!!」」」
物凄い試合に、騎士達に歓喜の声が上がった。
「すごい試合だったな!」
「あぁ。あれ、本当にアンディ様か?」
「精霊は同じだし、アンディ様で間違いないよ」
「にしても……痺れた~!! 俺もアンディ様みたいに、剣を振りたい!!」
「あぁ!! 俺もだ!! ご教授、頂けないだろうか?」
何だこれは?
アンディは、俺の遠いところへ行ってしまったのか?
意味が分からない。
いつの間にこんなに腕を上げたんだ?
「つ……次は、乗馬で勝負だ!!」
「受けて立ちましょう」
そのまた次の日。
愛馬に跨った俺は、自分の勝利を確信していた。
何故なら、アンディは、馬に跨るだけで精一杯な奴だったからだ。
……というか。ここで兄の威厳を見せなければ……不味い。
容姿も身長も、いつの間にか越され、その上剣での勝負に負けてしまったのだから。
しかも、可愛い妻持ち。
プライドをズタズタにされた気持ち……分かるか!?
姿を現したアンディは、慣れた様子で馬を操っていた。
あれ?
跨るだけで、精一杯だった奴が……どうして?
「兄上。以前の俺とは違いますよ?」
「ふん。俺の馬は優秀だ。しかも時間がある限り、乗っている。慣れていない馬を操るのは至難の業だ。お前に出来るのか?」
「それはこの勝負でお見せします」
試合は障害物競争で争われることになった。
「では、王太子殿下。前へ」
俺は愛馬を操り、華麗に決めた。……つもりだった。
「次は、アンディ殿下。前へ」
「よろしく頼む」
「ブルル!!」
アンディが馬を走らせると、生き生きと馬が障害物をこなして行き、最後のジャンプは余裕とばかりに、俺よりも高く飛んで着地した。
「勝者、アンディ殿下!!」
「「「……うおおおおおおおお!!!!」」」
アンディの方が何倍も俺より上だった。
「どうして……」
「向こうにいた時に、友人に習ったのです。とても馬術に長けた者と、とても剣に長けた者です。彼らが居たから、今、私はこうして居られるのです。良きライバルでもありましたから」
「……そうか」
弟は、良い友人を作ってきたらしい。
友人を作ってやりたいとは思ったが、弟は自分の目で選んで、良い関係を築いたのだ。
俺のはお節介だったという訳か
今なら分かる。俺が選んだ者達は、王族に気に入られたいという者ばかりだった。
弟は異国の地で、立派な漢になって、伴侶まで得ていた。
はぁ……俺も、留学すればよかったかな?
は!? それよりも! 早く、嫁を見つけなければ!!
この後、王太子は、嫁探しに奔走した。
「アンディ。何だかお義兄様、以前よりやつれていらっしゃいませんか?」
「嫁探しにあちこちで茶会を開いているらしい」
「まぁ。では、あの様子……」
「まだ見つかっていないようだな。……私も見繕ってみるか」
「是非、私も協力しますわ!」
王太子は、弟夫婦のお陰で、最愛の伴侶を手に入れましたとさ。
次回、新生ロザリファ国王




