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14 「ドリス」15話裏

名もなき中央の鴉の新人君視点の話です。

「ドリス」を読んでいないとわからない箇所がありますので、ご注意ください!


 オレは今から一年前に、中央の鴉に入った新人。


 元々、王都近くの村に住んでいたオレ。

 兄弟が多く、食うに困る生活。

 オレはその兄弟の一番下だった。


 ある日、オレだけ父親と王都へ出かける事になった。

 オレだけだったので、何で? とも思ったが、行くのは楽しみだった。


 王都に着いてから、父親の後をついて行ったが、父親は突然走り出し、オレはついて行けず転んでしまった。

 いつもなら、すぐに父親が駆け寄ってくれる……はずだった。


 その場で泣いた後、誰にも話しかけられず、日が落ちても父親を見つけることが出来なかった。


 オレはどうしていいのかわからず、とりあえず、路地に座った。

 膝を抱えてべそをかいていると、そこに、大きな男がオレの前に立っていた。


「どうした? チビ。そこで何をやっている」

「とうちゃんとはぐれた」

「どうやって?」

「え……と、とうちゃんの後を追っていたら、急にとうちゃんが走り出して……転んで……それで……」

「……わかった」


 そしたら男が手を伸ばした。


「俺のところへ来い」


 その手を取り、中央の鴉に連れてこられた。






 男はそこのボスだった。


「俺はブルーノ。ここは孤児院とかの保護施設じゃない。裏組織だ。わかるか?」

「わ……悪いやつなの!?」

「善いも悪いもない。……たまに、お前のような口減らしが、王都をうろついていることもある」

「くちべらし……」

「家族が多いから、豊かなところに、わざと親が子どもを置いていくことだ」


 オレはガーンと頭を何かで叩かれた気分だった。


「オレ……すてられたの?」

「恐らくな。あの辺りで、子どもを探していた親は居なかった」

「う……うぇっ……グズ……うわぁあー!!」


 男はオレの背中に手を置き、抱き寄せてくれた。


「ここにはお前と同じ境遇の奴が山ほどいる。お前は今日捨てられたんだろう?」

「……ん……何でわか……グズ」

「綺麗だからな。転けて泥は少し着いているが、何日も身体を拭いてねぇ奴とは違う。いいか、ここで生きていくには、仕事をしてもらわなくちゃならねぇ」

「仕事?」

「あぁ。あるお偉い様のために働くんだ。ここに居るものは何かしらの仕事をしている。その代わり温かい食事に、寝床を提供しよう」

「お腹……空いた」

「そうだろうな。おい! こいつの分の食事、頼む!!」

「はい!!」


 しばらくすると、暖かい食事が出てきた。


「これを食って元気だせ。な?」

「……うん……うまぃ……グズ」


 こうしてオレは、中央の鴉の一員になった。






 中央の鴉に入ったものは最初、二つに分けられる。

 戦闘訓練をして、密偵に向いている者と向いていない者。

 

 向いていない者は、そんなに危険ではない場所で、情報を拾ってくるのが仕事だ。


 オレは密偵に向いていたので、主に戦闘訓練と、やや危険な場所で情報を拾ってくるのが仕事だった。


 ただ正式に密偵組に行くには試験がある。

 それを合格し、初めて密偵員として動くことが出来るのだ。そしてお貴族様のベルンの旦那という人に、剣の指導をしてもらえる。

 ベルンの旦那の剣さばきはとっても綺麗で、そんなすごい人に訓練してもらえることを誇りに思っていた。






 オレは、半年前に密偵員として合格を貰ってから、様々な仕事をこなした。

 そして今日は、ベルンの旦那が率いる一師団と協力し、スリ、連れ去りなどのならず者を一斉摘発する日だった。

 

 手筈はこうだ。


 俺達、中央の鴉がならず者を捕まえ、ロープで犯人を縛り、放置。

 それを一師団の騎士達が拾って行くという寸法だ。


 俺はそんな人物を見つけようとしていると、ふと遠くから歩いてくる少女に注目した。


 あれ……どこかで……あ! やばい!! あれ、ベルンの旦那のご令嬢じゃん!!


 どこかで見たことあると思ったら、何とベルンの旦那の娘、ドリス様だったのである。


 密偵員になるための試験の中には、アルベルツ家へ潜入し、家族の顔を見て帰ってくると言った課題が言い渡される。

 帰ってきたら、一人一人の特徴を書き、提出し、合っていたら合格となるのだ。


 なので俺もドリス様のことは知っていた。

 急いで皆に報告するよう、近くにいた密偵員の先輩に伝えに言ってもらった。

 

 アルベルツ家のご令嬢、ドリス様に近づこうとする者は、何人足りとも許さない!!


 それは中央の鴉の総意だった。






 早速ドリス様にスリが近づいた。

 ドリス様が気づかないうちに、素早く現場を抑え、路地裏へ。

 すると、今度は路地裏に引きずり込もうとしている怪しい人物が、ドリス様に手を伸ばそうとしていた。

 しかしその後ろから、怪しい人物を路地裏に引き摺り込み、ロープで素早く縛り上げた。

 その繰り返しが続き、いつの間にかドリス様は犯罪者の餌になっていたのである。


 結果、合計で十二名もの、ならず者を捕まえた。

 すると、いつも来てくれる騎士様が声をかけてきた。


「お疲れ様。こんなに釣れたのは初めてじゃないか?」

「はい。実は、ベルン……様のご令嬢が歩いていまして……」

「あぁ……だからか。あとで報告だな。よくやったな!」

「……はい!!」


 騎士が離れると、今度は中央の鴉の先輩に声をかけられた。


「よく冷静に判断出来たな! おかげでスムーズに出来た。助かったよ」

「あの……」

「何だ?」

「この事……ボスとベルンの旦那は……褒めてくれると思いますか?」

「褒めてくれるに決まってんじゃん!! むしろ褒められに行こうぜ!!」






 その日の夜。


「あ? 旦那の娘のお陰で十二人!? なるほど……お前らの仕業だったか」

「知っていたんですか?」

「実はディモの店で会ってな。スリにすらあっていないのはおかしいと思っていたんだ。よくやったな!」


 ボスは頭をぐしゃぐしゃと撫でてくれた。


「ベルンの旦那にも褒められるぞ~」

「「「本当ですか!?」」」

「お前ら……本当に旦那のこと好きな。わからなくもないが……」






 後日。


「皆にお土産。お菓子だ。受け取ってくれ」


 ベルンの旦那がやって来て、皆にお菓子を配ってくれた。


「君が一番最初に気づいたんだって?」

「はい!」

「ありがとう。お陰で娘は無事だ。よくやった。今日は一番に稽古をつけてあげるからね」

「本当ですか!」

「ご褒美だよ。この方が喜ぶと思ってね」


 そういって、ベルンの旦那は俺の頭を優しく撫でてくれた。










次回、「ドリス」24話裏

真夜中のコンコン事件の真相です

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