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13 王の気まぐれ

一部前回の話と重複している箇所があります。




 王のお忍び街散策は、通常影と一緒に行っているが、今日はベルンフリートも誘って行く事にした。


「アウグスト。俺と一緒って不味いだろう?」

「俺が変装すれば良いだけだ。そしたら気づくまい」

「見る人が見れば気づくよ」

「だったら、ベルンもやると良い。赤毛のカツラがあったな」

「えー……やるの?」

「ベルン。こうなったら、王が止まらないは知っているだろう?」

「……お前も大変だな。ゴット」


 影のゴットフリートこと、ゴットは本日の王当番だった。

 ちなみにベルンとは、名前に二人共フリートが入っているせいか、何かと仲が良い。






 アウグストは茶髪のカツラを被り、ベルンは赤毛のカツラを被って、街へと出発した。

 ゴットは見えない所からついて行くという。


「この辺は来た事がなかったな」


 ここは所謂(いわゆる)、貧民街。

 浮浪児が多く居る地域だった。


「こんなに子ども達が居るとは……孤児院は何をやっているんだ」

「最近多いんだ。影からも報告が行ってないのか?」

市井(しせい)の情報は、こちらから聞かないと、報告して来ないのが現状だ。街に潜伏しているより、他の仕事が優先されるからな。しかしこれは……俺の責任だな」


 アウグストは苦虫を噛んだ顔を浮かべた。


「俺の家の警護もしてくれているんだろ? そのついでに市井の事ってわかるんじゃ無いか?」

「次の仕事が入っているから、ベルンの家から王城へ直行するんだよ。たまに聞く事はあるそうだが、基本聞いている暇がない。以前は超有能な影が居たそうなんだが、そいつがすご過ぎて、後任が育たなかった事があった」


 今は人材不足もあって、後手後手に回りがちだ。情報をうまく手に入れたいが、どうやって……


 そう、アウグストが思っている所に、ふと目につく子どもを発見した。


「あの子……誰かに似て居ないか?」

「そう言えば……貴族の様な顔立ちだね。……あの顔、騎士団で……あ! 第三師団長だ」

「それだ! 庶子か……確か彼は過激派だったな」

「そうだとしても、なぜ、孤児院じゃないんだ?」

「何をやっている……?」


 第三師団長によく似た子どもは、大人相手に話して居た。ここからでは声が聞こえない。だが、大人から、金を貰っているのが見えた。


「恐らく……情報だな。それを金にしているのか。切れるなぁ」

「ついて行ってみよう」


 つけると、古着屋に入って行く。

 しばらくすると袋を抱えて、出て来た。

 再びつけると、細い路地の奥に迷路みたいな道を通って行く。

 恐る恐る子どもをつけると、その行った先には、所狭しと浮浪児達が集まっている空間に出た。


「おーい! この前、服が欲しいって言ってたやつ出てこい。買って来たぞーー!!」

「本当? ブルーノ」

「あぁ。長袖なかったんだろ? 最近冷えて来たから、これ来て暖まれよ」

「ありがとう!」


 ブルーノと呼ばれた少年達を子ども達が囲み、暖かい空間が生まれた。






「ベルン……第三師団長の人柄は?」

「表向き良いが、私生活は最悪と聞いている。彼の家の侍女は、皆お手つきだそうだ」

「ある程度育てて捨てた……か。よくやってるな、あの子」

「情報を武器にしているのは、賢いけど……危ないな」

「ベルン。私は良い事を思いついた」

「保護したいんだろ?」

「いや……見方によっては私がする事は最悪かもしれん」

「……何をするんだよ」

「市井の情勢を逐一報告してくれる、情報屋が欲しくなった」

「あの子だけじゃなく、他の子ども達も使うのか? お前は」


 アウグストはニヤッと笑い、ベルンは困った顔をした。


「今日は様子見だ。あの子の言う通り、そろそろ寒い季節がやってくる。……早急に動かねばな」

「……金はあるのか?」

「勿論。だが、相談しなければならない相手もいる。……忙しくなるぞ」


 すると、後ろから声がした。


「陛下。あの子達を影にする気ですか?」


 厳しい表情をするゴットが立って居た。


「あぁ。勿論、違う選択肢も与えるつもりだ。特に女は酷だろう。だが、有益だと思わないか?」

「洗脳するのですか?」

「人聞き悪いなぁ。()()()()だけじゃないか。最近影も人手不足でね。なんとかしなきゃと思っていたんだ」

「あまりにも酷です」

「だがゴット。お前もその口だろう?」


 ゴットは、北の隼に拾われて、能力が買われ王の影になった。


「俺とは違います。少なくとも、あの子達は犯罪には手を出していない」

「それはわからない。ここに来るまでにスリくらいはやってそうだが?」

「陛下!」

「もし、やっていたなら、捕まえなければならない。……その方が酷だろう?」 


 このロザリファ国では、スリも立派な犯罪だ。子どもであっても処罰を受ける。しかもこの国にも奴隷制は存在している。特に成人に満たない子どもや女は、愛玩奴隷と言われ、悪徳貴族に可愛がられる可能性だってあった。


「まぁ、悪いようにはしないさ」


 アウグストは、不敵に笑った。






 後日、色んなことが整い、子ども達に打診をするため、貧民街に向かったのは、ベルンであった。


「君。ちょっと話がしたいのだが……」


 ブルーノと呼ばれた少年が振り向いた。


「何でしょう?」

「君の根城に連れて行って貰いたい」

「……誰の差し金だ」

「ある、やんごとない方からの提案がある。もし、受けてくれるなら、君達全員の寝床、服、食事……生活に必要なものは、全てこちらで用意しよう」

「……そんなうまい話にすぐ乗ると思うか?」

「いいや。けれど、もうすぐ寒い季節がやってくる。出来るだけ早い決断をして欲しいね」

「……信頼出来る証拠があるのか?」

「う~ん……証拠ねぇ。俺は橋渡し役なんだ。今の身分は貧乏貴族といった所だな。うん。俺の言っている事が、本当だという証拠は俺の家に行けばわかるよ」

「あんたの家って?」

「君を信頼して言うよ。俺はベルンフリート・アルベルツ子爵。本業は第十三騎士団団長。本来、ここに居てはいけない存在でもある。あ・君のお父上とは関係ないよ」

「……なぜ知っている」

「顔立ちがとてもよく似ている。……性格は違う様だけどね」

「アルベルツって言ったな」

「そう。情報屋なら、それくらい調べられるだろう? 恐い大人も見張っているから、気をつけてな」

「ヨボヨボのジジイの門番でも居るのか?」

「いいや……それも含めて、調べるといい」






 後でゴットに聞いたが、ブルーノはすぐにアルベルツ家に向かったらしい。


 すると、眉を寄せて、覗いていたそうだ。

 後で聞くと、こんな貴族の家は初めて見たと色んな意味で驚いていたらしい。


 後日、ブルーノに会いに行くと、俺を哀れむ目で見られた。


「かなり困窮していた。その、やんごとない方は何とかしてくれないのか?」

「してくれているよ? ただ、全面的には……難しくてね」

「俺はお前なら信じる。貴族でもあんなに貧乏なんて、思わなかった」

「ははっ! 恥ずかしいところを見られたかな? まぁ全て、俺に甲斐性がないせいだよ。それでも何とか笑顔に暮らしているだけ、マシかな?」

「病気になったらどうするんだ」

「それは大丈夫だよ。いつもそう言う時は手を貸してくれる」

「……ならいいけど」

「冷たい人だと思うかい? やんごとないお方が」

「……わからねぇ」

「うん。そうだね。今はそれで良いよ」







 それから急いで彼らの根城になりそうな物件を探し、改装して、すぐに受け入れられる体制が整った。


「さぁ! ここが、君らの新しい家だ!!」

「え!? 本当にここに住んで良いの!?」

「あぁ!! だが、周りは治安があまり良くないから、気をつけるんだよ」

「わかった!!」


 きゃーと言って騒ぐ皆を尻目に、ブルーノはベルンに問い詰めた。


「ただ俺達を救うだけじゃないんだろう?」

「君は本当に賢いね、ブルーノ。君は、情報を売り買いしているだろう。それをやんごとないお方のためにやって欲しい」

「それだけか?」

「こちらで剣の指導や格闘術の指導もする。あと、忍び込む技術とか、解錠のやり方とか……」

「ちょっと待て!! 俺らに、危険な橋を渡って情報を集めろって言いたいのか!?」

「そうだよ。君らはスリくらいしているのだろう? スリは立派な犯罪だ。捕まえて、奴隷にされるかもしれない。この仕事と奴隷、どちらが良い?」

「……大人はやっぱり汚ねぇな」

「そうだね。でも、ただの平民に戻る方法も示してくれているよ?」





 この国の成人である十六になったら、二つの選択が出来る。


 一つは、『北の隼』か『南の大鷲』どちらかの裏組織に入る事。又は『中央の鴉』に残る事。

 もう一つは、平民に戻る事。但し、条件として、こちらの依頼が来た時は理由がない限り、協力しなければならない。






「やんごとないお方ってさ。この国の王だろ」

「よくわかったね」

「だって貴族の上司っていや、貴族の頭か、王しかいないだろう? 裏組織とも通じていたとはなぁ……なるほどね。一度関わったからには、死ぬまで俺たちは駒な訳だ」

「……俺は正直、気が進まない。けれど、奴隷商人に引き渡すよりはマシなはずだ。どうする? 逃げるか」

「……今更だろう。皆のこの笑顔見ちゃ、逃げようとする奴なんていない。……一つ確認したい」

「何だ?」

「突然俺達を売ったり、女を色街に売ったりとかは……ないよな?」

「潜入はあるかも知れないね。けれど、売る事まではしない」

「なら良い。……ベルンフリートって言ったっけ?」

「そうだよ、ブルーノ」

「なら、ベルンの旦那って呼ばせてもらう」

「旦那か……呼ばれたことがなかったな」

「ベルンフリートって長いだろう? それに、様って呼んで欲しく無さそうだし」

「その通りだ。あ! 言い忘れていた。ここの施設のことだけど、一応、裏組織だから。『中央の鴉』って名前にするそうだよ」

「ダセェ」

「そう言うなよ。『北の隼』『南の大鷲』だって、初代国王がつけたんだから」

「そーかよ。小物は小物らしく仕事しますよ」

「不貞腐れるなよ。王の影候補でもあるんだから」

「……それって裏組織のやつがなるのか?」

「うん。基本、『北の隼』『南の大鷲』の推薦」

「マジかよ……」

「そう言うことだから、よろしく、ブルーノ」

「わぁったよ! ベルンの旦那」






 その後、『中央の鴉』で育った子達は、メキメキと力をつけ、今では王の影になっている者もいる。

 『北の隼』『南の大鷲』からも、絶賛され、頼りにされているそうだ。


「な? 私の判断は正しかったと思わないか?」

「正しいも何もないだろう。別の方法もあったと思うけれど?」

「そうですね。救済措置はやろうと思えば出来たはずです」

「ゴットまで……厳しいなぁ」

「子ども達を積極的に裏組織に入れる方がどうかしているよ」

「……私はまた、間違った選択をしてしまったのか」

「つくづく、罪なお方だなぁ」

「まぁ……とりあえず、良かったのではないですか。俺は今も納得した訳ではありませんが」

「ゴットは優しいからなぁ」

「所帯持って、子どももいますからね」

「……頭が痛い」

「幸い、子ども達が嬉しそうにしていますから、良しとしましょう」

「もう、こういう気まぐれはやめて下さいね」

「……はい」



 


次回、「ドリス」15話裏


次週に公開になる二つの話は「ドリス」を読んでいないと分からない話です。


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