11 ローレンツ編 秘密の裏側
ご都合主義満載回です!
ローレンツ編のラストをご覧ください。
カミラと結婚してからしばらく経つが、今だに俺は、義理の父、ベルンフリート・アルベルツ子爵について、知らない事が多いと感じる。
可愛い妻である、カミラに聞いても、きっとわからないだろう。
しかも現在、カミラのお腹の中に、新しい命が宿っている。
そんな妻に、余計な負担はさせたくなかった。
するとある日、その義父上から、お誘いを受けた。
「ローレンツ。この日は空いているかい?」
「はい。一日、家で過ごすつもりでした」
「その貴重な休みを私にくれないか? 紹介したい相手がいるんだ」
「是非、お供させてください」
こうして、義父上と出掛ける運びとなったのだ。
「今日は、馬車は使わないからな」
「言われた通り、剣も持ちましたけど……って……対決するのですか?」
「しないよ! ただ、少し治安が悪い所だからね。念のためだ」
義父上について行くと、何だが見覚えのある所に着いた。
ある路地裏に入ると、地下へと続く階段が現れた。横には、見覚えのある人物が立っている。
「え? ベルンの旦那と……ローレンツじゃねぇか!?」
「あぁ……」
いたのは、ブルーノ達と一緒にいた、元浮浪児の男だった。
「ついに知らせたんですね、旦那」
「あぁ。頃合いだと思ってね」
「中で、お待ちです」
「わかった。行こう、ローレンツ」
そう言われ、黙って義父上の後をついて行くと、また、見知った顔が現れた。
「ローレンツ!?」
「シュテファン!? いや……王太子様」
「楽にしていて良いよ。君らは学友なのだから」
「……国王!?」
そこには、国王であるアウグストと、その息子で王太子のシュテファンがいた。
「遅くなってすまない。アウグスト」
「いや、ちょっとの差だったよ。ついさっき着いたばかりだ」
義父上の言動と疑った。
「い……今、国王を呼び捨てに?」
「あぁ。知らないのか。シュテファンもそうだな。改めて紹介する。学友のベルンフリート・アルベルツだ」
「同じ学年でね。あまり公にはなっていないけど、そうなんだ」
「それと、騎士団における影も兼任してくれている」
その言葉で、やっと謎が解けた。
国王の近衛並みの力を持ちながら、ただの一師団に甘んじている訳を。
「そういう事だったのか。ただのお気に入りの騎士だと思っていたよ」
「知っていたのか? シュテファン」
「たまに二人で居るところを見た事がある」
「そういう訳だ」
「ここからが本題だけどな」
低く、荘厳な声にアウグストの言葉に、身が引き締まった。
「この先に答えがある。着いてきなさい」
今居る部屋は、いつも通される応接室。目的は奥の部屋。さすがにそこに入ったことはなかった。
俺はシュテファンと目を合わせてから、前を向いた。
扉を開くとそこには、三人の男性が席に着き、内二人の後ろには、屈強そうな男がそれぞれ立っていた。
「この三名が、君達に紹介したい相手だ」
その内の一人は、とても良く知って居る人物だった。
「「ブルーノ!?」」
俺とシュテファンは、同時に友人兼情報屋の名を呼んだ。
少しは予想していたとはいえ、驚きを隠せなかった。
「よ! やっと、ここまで来たか」
「え……」
「改めて紹介するよ。まずは、よく知ってるブルーノからで良いかな?」
奥の二人はこっくりとうなずき、アウグストが紹介する。
「私が個人的に新設した、浮浪児を情報屋として育成する裏組織、中央の鴉のリーダー、ブルーノだ」
「……パトロンて……」
「そう。アウグスト様だ。その仲介役がベルンの旦那って訳」
ロザリファの王都には、浮浪児が度々目撃されている。
大体が王都に来た時に置いていかれた平民が多い。主に、口減らし目的で置いて行くものが絶えないのだ。
中には貴族の庶子も混じって居る様で、平民にしては見目麗しい子どももいた。その内の一人がブルーノだ。
勿論、孤児院もあるのだが、そこは、貴族の庶子、または貴族の孤児や、兵士が保護した孤児などが入れられる場所だった。
今現在も、孤児院は常に定員オーバーとの報告がされて居るが、有力な過激派が動いている様で、おいそれと手が出せないでいた。
街へ遊びに来ていたアウグストが見かけた浮浪児は、情報を武器に立派に稼いでいた。そのお金をみんなで分け与えて、何とか暮らしていたのだ。
アウグストはそれを知って、保護をするのと同時に、ある考えに至った。
市井の情報を逐一知る事が出来る情報屋が欲しい。
王の影に探らせれば良いのだが、子どもだからこそ知る情報もあるかもしれない。
ブルーノがリーダーとなった浮浪児達を保護し、情報屋として働かせ、アウグストは市井での有益な情報を得ていたのだ。
「もうそろそろ、こちらも紹介して頂きたいのですが?」
奥に座っていた、男の一人が催促した。
「あぁ。済まない」
「いえ。良いのですよ? ご自分が作った組織ですから。さぞ、可愛い事でしょう。えぇ。でも、こちらも見てくれなければ……」
「あーー!! わかった、すぐ紹介するから、機嫌を直してくれ!!」
あの王を慌てさせる相手とは……俺はその光景に唖然とした。
「向かって右が、北の隼。左にいるのが、南の大鷲だ。どちらも名前は聞いた事があるだろう」
その名前を聞いて、俺の顔から血の気が引いた気がした。
北の隼、南の大鷲と言えば、ロザリファにおける二大裏組織である。
名前の通り、王都より北半分を北の隼が、王都より南半分を南の大鷲が裏を仕切っている。
数ある裏組織は、この二つの組織の下請けと言われる程だ。
まさか王と繋がっていたとは……
俺が困った顔でシュテファンを見ると、シュテファンも俺と同じ表情をしていた。
すると、王より二十は歳を取っている二人の男は、笑顔でこちらを向いていた。
「はっはっはっ!! 無理もない。諸悪の根源とされる組織と、まさか王と繋がっているとは思うまい」
北の隼のトップと思われる、タレ目が特徴のガッチリした体格の男が、豪快に笑った。
「これをバラすのが毎回快感でな。いや~良い顔をなさる」
「アウグスト様の時は、逼迫していたから、こうとはいかなかったが、良いもの見せてもらいました」
南の大鷲のトップと思われる、狐目で背が高そうな男が、上品な笑顔を見せた。
こう見ると、気のいい好々爺二人組だ。
「シュテファン殿下の働きも聞いておりますよ」
「学生時代に、ボンクラ伯爵子息を切って、親も王城を辞める方向に持っていったとか?」
「他にも、悪事を働いた貴族達を切っているそうですね。膿をこう、気持ちよく出して頂いて感謝しかありません」
ニコニコと穏やかだが、後ろの屈強そうな男は、異様な圧を出しているからか、シュテファンは苦笑いしかできなかった。
「元々、この二つの組織も、初代国王が創ったものだ。いずれ蔓延るであろう裏組織を最初から仕切り、表と裏、どちらも王が握れる様にした。但し、この二つの組織は、必ず王に従うという事はない」
「どういう事ですか? 父上」
「まず、この二つの組織は、二つで一つだ。決して、仲が違う事がない。そしてこの二つの組織の決定で、王を引き摺り下ろし、新たな王につく事も可能だ」
俺たちは、目を見開いた。
「アウグスト様は、その希有な体験をなさっておいでです。前王は、残念ながら、能力不足でしたから」
「ただ、私達も動くのが遅かった事を反省しております」
前王は、過激派がまだ慎ましい集団だった時に、何とか抑え込まなければならなかった。しかし、徐々に味方を増し、想像以上に力をつけてしまったのだ。
この時、王が怠ったのが、市井での情報収集。
元々、影の数も常時足りず、その情報を積極的に持ってくるものも居なかったのだ。
「今後、こういう事が起こらない様に創ったのが、中央の鴉だ。逐一、早い市井の情報を知り、その情報をうまく使えるかで、王の資質が決まると思ってな」
「だからといって、鴉ばかり構われたら困ります」
「そうですよ。うちの子達も良い子がいるのですから」
「勿論だ。だが、子どもしか知れない情報もあるので、侮れなくてな」
子どもは聞いたってわからないと、大人達が子どもの存在を無視し、重要な話をする事もある。
鴉の子ども達は意味は分からずとも、とりあえず正確に大人達に伝えようと、必死にその話の内容を覚えるのだ。
「まぁ、そのお陰で、そこで育った質の良い若者をくださるので、こちらは大助かりです」
「ミーシェ語も覚えているのは、僥倖でしたな」
「鴉にいた子ども達は、教育係以外、基本隼か、大鷲に振り分けられる。まぁ一応、平民としての権利を得て、条件付きで出て行くことも可能だが。そしてそこで育ったもの達が、王の影となる。王の影はこの二つの組織出身者なんだ」
絶句していると、一つ思い当たる事があった。
「そう言えば、最近、見掛けないと思っている人が何人か……」
「北と南に振り分けられたか、平民として働いているか、王の影になっているかだ」
「こんな重要な事、俺が知って良いのでしょうか?」
「ローレンツ。君は王太子の友人であり、義理とは言え私の息子だ。この上ない人材だと思わないか?」
「王城勤務ではない私が知ったところで、意味がないかと」
「君も、悪事を働く貴族を切っているだろう? 出来れば城の外から、支援してもらいたい」
「……そういう事なら、出来る限り協力致しましょう」
「良い返事をもらえて良かった」
「君が味方になって貰えるのは、こちらとしても有り難い」
相手方は皆、笑顔でこちらを微笑んだ。
それは俺が商会を経営している事も、関係している。
きっと、何かあった時、頼れる商会が欲しいのだろう。
俺も国のために協力出来るなら、恩も売れるし、王都での経営もしやすくなる。
アウグストは裏組織の三人に向かって、口を開いた。
「皆の者! 次期王シュテファンを認めるか、否か!」
「北の隼は、シュテファン殿下に忠誠を誓いまする」
「南の大鷲も、それに同意」
「中央の鴉も、それに同意する」
「この場にて、王太子シュテファンを次期王と認め、正式に裏の承認が取れた事を宣言する」
王太子という称号は、次期王候補につけられるものだ。
裏で認められない場合は、後に王太子という称号が外れる事になる。
表の承認は、正式に王位継承するための儀式によって決定されるため、その時にならないとわからない。
シュテファンは、王になる条件の一つをこの場で達成したのであった。
「じゃあ。私達はフラフラしてから帰るから!」
王のアウグストは、頭に茶色のカツラを被り、義父上と一緒に出ていった。
「私達も失礼しますよ」
「あとは若い者で」
北の隼と南の大鷲もそれに続く。
その場には、若い三人だけが残された。
「……つっかれたーー!!」
「おっさん達、生き生きしやがって……」
「まさかここで、王になる条件を達成するとは……」
「よう! 未来の王様。景気付けに、ディモの所へ行かねぇか?」
「そうだな。ディモを拾って、酒でも飲みに行きたい」
「駄目なら、パンでも摘んで、話すか」
シュテファンはアウグストと同じように、茶色のカツラを被る。
そして俺達は仲間を拾って、一緒に飲み明かす事になった。
一方密かに、俺は混乱していた。
王と義父上が学友? ブルーノ達が裏組織で王の影? 王太子の裏の承認? 何だか夢見てる気分だなぁ……とりあえず。色々あり過ぎて疲れた!! ……あぁ!! 早く帰ってカミラを抱きしめたい!!
今すぐ家に帰りたい気持ちを抑えつつ、俺はシュテファンとブルーノの後を追った。
次回、ブルーノの過去




