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01 女々しい男爵子息と憂鬱な子爵令嬢

一人称で話が進んで行きます。

書き方を「つり目」とは少し違う文体で書きました。



 今日は年が近い兄、ローレンツ・ベックの結婚式。

兄は婿に入る為、今日をもって、ローレンツ・ベック・アルベルツになる。


 姉になる、カミラ・アルベルツが父であるベルンフリートと、バージンロードをゆっくりと歩いて、兄の元へ向かっていた。


「さすが! ヴェンデルのデザイナーの腕良いな。」

「素がいいですからね。 きれいに着こなしてくれて嬉しいです」

「謙遜だな」


 俺、ヴェンデル・ベックは、服の販売をしている商会を経営している。

兄、ローレンツが主に絹などの、紡績や織物を販売している商会を、経営している事が切っ掛けでつくった商会だ。

カミラが身につけているドレスも、うちの商会自慢のデザイナーの作品。


 今話していたのはもう1人の兄、フレディ23才。

ローレンツよりも2才上。俺から見れば、5才上の兄だ。


 兄は父が経営している日用品関連の商会を手伝い、いずれ会頭トップになる予定だ。

 一応、ベック家は領持ちの男爵家なのだが、領地経営には家族はあまり興味はないようだ。優秀な使用人に任せてある。


 フレディは母親似で、母そっくりの美形。

平々凡々な容姿の父似である、俺とローレンツはどれだけ他人から比べられたか……!!

本人(フレディ)は、お前らの才能が羨ましいと言っている。無い物ねだりはお互い様なのだ。


「ちなみに兄上。 結婚は?」

「もうそろそろかな。 もうちょっと大人になるかと思ったが、ダメそうだ。」


 嫡男なので、男爵を継承する予定のフレディの婚約者、アンネリーゼは、情報収集がうまく、演技もうまい女性だが、好奇心が強いからか、少々子どもっぽい面があり、周りを困らす癖もある。

 年と共に治まると思っていたが、元々の性格がそうだったようで、兄はそれを治すのを諦めたらしい。


 アンネリーゼも招待を受けて会場には来ているが、別行動を取っている。


「お! ローレンツのところまで来たぞ」


 見ると、2人は穏やかな雰囲気を纏っていた。

結婚宣誓書に名前を書き、2人はキスの準備をしていた。


 そのときだった。


 ローレンツとカミラが、照れるように、はにかんだのだ。


 俺は思わず「いいなぁ」と苦笑した。

横にいるフレディは、目を見開き「こんな表情もできたとは!」と唖然としている。


 やれやれと思っていると、ふと、花嫁側の親族席に居たある人に目が行った。


 女性と言うにはまだ早い、少女だった。


 カミラには似ていないが、あれが言っていた妹なのだろう。


 背は低めで、まだ、幼さが残る顔。

目の色は遠目なので分からないが、カミラよりも濃い色の金髪。

白い肌に華奢そうな身体。それに……美人だった。


 俺は兄夫婦のキスシーンを見るのも忘れ、その少女から目が離せない。


 彼女は、キスシーンをみたのか、照れながらも嬉しそうな表情をしていた。

頬がピンクになる顔も可愛くて魅力的だった。


「おーい。 俺の末の弟はどこを見ているのかな?」


 ぎくっと肩が強ばり、兄の方を見た。


「おい……なんだ、その顔は」

「何の事?」

「顔真っ赤だぞ。 ……誰だ?」

「誰って……誰だろう?」

「あ・お前も知らない人だったか。 俺が分かれば教えてやるよ?」

「……アルベルツ家の親族席にいる……恐らくカミラ嬢の上の妹」

「あぁ! デリア嬢か!! 彼女に? お前まさか……」

「俺にそんな趣味はない」

「わかってるよ。 ただ……微妙な年齢だな。 ヴェンデルは18だったっけ? 

 彼女は今年13だ」


 俺より、5才下か。


 社交界デビューしていれば、そのくらいの差は不思議ではないが、今だと幼女趣味と勘違いされそうだ。まだ、学園にも通っていない年。恋もしたい年頃だろう。


 俺の淡い恋は、早々に終わりを告げていた。


「よし! 親族同士、挨拶に行くか!」

「これから?」

「あぁ。 行くぞ」

「え……ちょ……」


 強引に引っ張られあたふたする俺に構わず、アルベルツ家の親族席までフレディに連れて行かれた。


「そなた達は?」

「お初にお目にかかります。 ローレンツの兄でフレディと申します」

「ベック家の三男のヴェンデルと申します」


「おぉ!!」と声を上げたのは、カミラ達の父のベルンフリート・アルベルト子爵と祖父のアドルフ・ブレンターノ伯爵だった。


「君らがベック家の息子達か! 長い付き合いになりそうだ!!」

「俺とも仲良くしてほしい!!」


 男2人は好意的だったものの、肝心のデリアは俺に向かって睨みつけるような顔をしていた。


 緑の目に金のストレートヘア、大きい瞳の可愛いらしい顔の少女。

せっかくの可愛い顔が、今は崩されて、恐さを感じた。


 その顔に心の中でショックを受けた。


 すると、フレディが気を利かせて2人でデリア達に自己紹介をした。


「ローレンツの兄のフレディ・ベックです。 こっちが弟のヴェンデル。

 よろしくお願いします。 レディ達」

「……カミラ姉様を疑っていたのはどっち?」


 デリアが凶悪な笑顔で言った。


 そうか……すべては俺の失態のせいですか。


 ローレンツの嫁になったカミラは、ローレンツにいずれ捨てられると考え、婚約期間だけ、ベック家で使用人をしたいと申し出た。

 使用人のスキルを上げ、1人になっても働けるようにしたかったのだという。

 そんなカミラを俺は、ベック家を探ってると勘違いをしてしまったのだ。


「俺です」


 観念した俺は素直に名乗り出た。


 デリアは、俺に向かって、可愛い顔をしてこう言った。


「カミラ姉様の良いところを言ってみて。 いくつでも良いわ」


「はい! 言います!! お嬢様!!!」


 俺は、デリアと隣で同じ顔を浮かべていた妹のドリスに向かって、思いつく限りの事を言って、許してもらった。


 それから俺は、たまに兄に用事といいつつ、アルベルツ家へ度々足を運ぶようになり、デリアやドリスと世間話をする事が多くなった。






 ある日、私は祖父に呼ばれて、ブレンターノ家に来ていた。


「え? 私が……お爺さまの養子に?」


 祖父の言葉に、驚きを隠せなかった。


 私は、アルベルツ子爵家の次女、デリア。

目の前に居るのは母方の祖父である、アドルフ・ブレンターノ伯爵。


「うん。 今、私には跡継ぎがいない。そこで、デリアかドリスに養子になってもらおうと考えてな」


 ドリスは私の妹。

私は13才。ドリスは11才。2人は婚約者が共に居ない。


「デリアは来年、学園に通うだろう? 出来ればその前に養子に入るのか決めたいんだ。」


 学園とは、14才~16才の貴族が通う、貴族の為の学園。王立ロザリファ貴族学園の事である。


「学園に入る前に伯爵令嬢になっていた方が、得だと思ったんだ。 子爵だと、やはり下級貴族になるからな。周りの風当たりも強い。」


 我が国の爵位順は、上から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵である。上位貴族は公爵・侯爵・伯爵。下級貴族は子爵・男爵となる。


 学園は社交界に出るまでの練習のようなものなので、爵位はそのままは反映される。

 上位であればあるほど、威張り散らす事も出来るし、下位であるほど発言権も低い。


「お爺さま、それはいつまでに決めなければならないの?」

「出来れば、一ヶ月後には返事をもらいたい。 ……こちらの我が儘だ。断っても良い」


 それは、もし、私が断れば、自動的にドリスが養子になると言う事だ。


 一ヶ月で決められるのだろうか?


 私は焦りと、戸惑いの気持ちでいっぱいになった。






 俺は今、アルベルツ子爵邸に来ていた。


「じゃぁ、ローレンツ兄上。 それでお願いします。」

「分かった。 注文通り届けるよ」


 商談が終わると、ローレンツ兄上は、わざとらしく俺に頼み事をした。


「そうだ! 時間があったら、デリアと話してくれないか?」


 俺はきょとんとした顔になった。


「デリア嬢に何かあったのか?」

「ん。ちょっと悩んでいるんだよ。 話を聞くだけでも良いから」


 なんだろうと、外に出ると、まだ馬車の迎えは来ていなかった。良かったと思いつつ、デリアを探す。

 すると、庭にあるベンチで、デリアは(たたず)んでいた。


 その姿を見た瞬間、俺は思わず、目の前の光景を切り取りたい衝動に襲われた。

 綺麗な花に囲まれたベンチで、少女が佇む姿は、まるで一枚の絵の様だったからだ。


 思わず見惚れて、しばらくその場から動けなくなった。


 ……にしても、俺は、相変わらずなさけない。


 少しでもデリアと会えるように、兄が子爵邸にいるときに、わざわざ商談と称して、アルベルツ家に来ていたから。


 本当、女々しいな。


 俺は、止まっていた足を進め、デリアのもとへ。


 足跡で気付いたのか、デリアは顔をこちらに向けた。


「いらっしゃい」

「お邪魔しているよ」


 笑顔のデリアが見れるようになったのはここ最近だ。


 最初はデリアの姉、カミラを疑った相手として、俺にきつい態度を取ることもあったが、徐々に距離を縮め、やっと笑い合える関係になれた。


「何か悩み?」

「ローレンツ兄様に聞いたのでしょ」

「まぁね。 俺でよければ、聞くだけ聞くよ?」


 すると、渋々語り始めた。


 それは、デリアの祖父、アドルフ・ブレンターノ伯爵の養子にならないか打診されているということだった。


「お爺さまには今、跡継ぎがいないの。

 私かドリスが養子に入れば、直系の孫だから、婿をとれば残せるし、学園に行く前に伯爵令嬢になれば得もあるから……でも、ここを離れたくない私も居て……正直困ってる」

「養子に入るとしても、ここに住むことは可能だよ? それでも?」

「ん~……他にも理由はあるんだけど……言いたくない。」

「そっか。 学園に行った俺の感想だけど、受けるべきだと思う。」

「そんなに格差がひどいの?」

「人に寄るけど。……俺もいびられたりされたよ。主に侯爵とか伯爵の奴とかにね」

「公爵はいないんだ?」

「公爵は元王族っていうのもあるんだけど、たまたま俺の世代に居なかっただけかもな。

 最近は男爵も増えては居るんだけど、人数が多いのが侯爵とか伯爵位なんだよ。全員ではないけど、一部の奴には、下位貴族をいびるのは基本だと思っている者もいる。俺は、成績も良かったから、よく妬まれた。

 フレディ兄上も、ローレンツ兄上も、そうだったみたい」

「へぇ……」

「伯爵位まであれば、そういうのはなくなる。

 子爵・男爵位だと、歯向かうと家を取り潰される可能性もある。だから強くは言えない。

 伯爵位だって、上に逆らえばありえるんだけど。」

「そっかぁ……」


 そう言ったところで、俺を迎えに来た馬車が来てしまった。


「……今日はここまでかな。 また来るとき話を聞くよ」

「ありがと、ヴェンデル様」


 デリアは少し口角を上げた。彼女らしくない、憂いをもった表情だった。


「何かあったら、俺を呼び出しても構わないよ。 無理にでも時間を空けるから」

「それはさすがに迷惑だから……」

「時間、ないんだろ?」

「何かあったら……手紙を出します」

「そうじゃなくても来るつもりだけどね」


 俺は笑顔でデリアに手を挙げて、別れを惜しんだ。






 ヴェンデル様が来てから数日立っているのに、まだ答えが出ていなかった。


 私は子爵邸をぶらついていると、お客様が来ていた様だった。

たまたま、通りかかった部屋のドアの向こうから、聞いた事が無い話し声が聞こえる。


「……絹をつくる契約が出来ればこっちのものだ。」

「そうね。」

「ところで、ここのご令嬢は美人だと評判なんだ。 ……一人位居なくなっても問題ないよな?」

「あら……また増やすの? さすがに貴族のご令嬢はダメよ」

「え~……ここの『魔女』とは趣が全く違うと評判なんだよ。 可愛らしい娘を愛でたいだろう?」

「今だって、ギリギリなのよ。 平民で我慢なさい」

「……だったら、平民と称して連れてくるのは構わないよな」

「……仕方ない人」

「聞き分けの良い妻を持って、俺はうれしいよ。」

「それより……」


 話が変わったところで、私はその場から逃げようとすると、なぜか身体が動けなくなってしまった。


 どうしよう。

 身体が動かない。

 私、連れてかれちゃう!!

 もしかしたら、ドリスも……!!


 恐い!

 貴族って恐い!!

 カミラ姉様は、こんな奴がうじゃうじゃいる魔窟(パーティー)に行って、「魔女」なんて言われて、耐えて来たの?

 こんな恐くて嫌な思いをしてきたの?

 ごめんなさい! お姉様!!

 私、こんなところって知らずに、私が良い人見つけて、この子爵家を立て直そうと考えてた自分が恥ずかしい!!

 姉様はすごい。

 いつも行く前に気合いを入れてから、行っていたのは知ってる。

 これに耐える為だったんだね。

 私じゃ……こんなところすぐに逃げ出しちゃう!!


 すると、後ろから肩を叩かれた。

 私の身体がビクっとなって、ゆっくり振り向くと……

 そこには、ローレンツ兄様が立っていた。


 兄様は口に指を一本立てて、黙るよう合図する。


「部屋まで送って行くよ」


 小声でささやかれ、私はなんとか身体を動かし、部屋まで送ってくれた。


 すると、私の部屋の前に、警備兵が立っていた。


「大丈夫だからね。 さ、部屋に入って。」

「兄様……」

「誰にも手出しはさせないよ」


 その言葉を信じ、私は警備兵に促され、部屋に入った。


 私はなんとかベッドまで歩いて横になった。






「兄様。 お邪魔します。」

「ヴェンデルか。 お前、俺への用は急ぎか?」

「……じゃないけど」

「デリアに会ってくれないか?」


 話を聞くと、先日、子爵邸に厄介な客が来たらしい。

 とある侯爵夫妻だったのだが、絹をつくる方法を教えてくれと言って来たのだ。

 教える気はさらさらなかったが、形だけでも、やる気にならなければ、相手の気を損ねる事になると思い、提携という形でならと、契約書を取りに行ったふりをした。

 戻って階段を上っている時に、侯爵夫妻が居る部屋から、結構大きな声で、きな臭い会話が聞こえて来た。


「ところで、ここのご令嬢は美人だと評判なんだ。 ……一人位居なくなっても問題ないよな?」


 よく聞くと、平民の愛玩奴隷が居るようだ。

そして、うちの令嬢も連れて行くと言う物騒なものだった。


 今、侯爵夫妻がいる部屋は、わざと防音がない客間にしてある。防音だと、こういう物騒な話を聞けないからだ。

 この客間には、信用に値しない人を通す決まりにしてある。ローレンツが男爵位だった頃から、こういう貴族が絶えなかったからだ。


 すぐに警備兵のところへ行き、使用人を含めたみんなが居るか確認後、各部屋を見張れと指示をした。


 戻ると、侯爵夫妻が居る部屋の前で、固まっているデリアを発見した。

すぐに部屋に連れて行き、部屋に入ったところを見届けたそうだ。


 その日は契約を結べない旨を伝え、警備兵に見守られながら、出て行ってもらった。

 すぐ、デリアの父である、アルベルツ子爵の元へこのことを伝えるよう指示し、その夫妻について調べてもらうと、その領では何人もの平民の娘が行方不明になっている事が発覚。

 すぐに乗り込んで、少女達を解放し、侯爵の悪事が明らかになった。


 その侯爵家はお取り潰しになり、領地と共に返上。


 侯爵夫妻はお縄についた。


 しかし、この一見以来、デリアが部屋から出てこなくなった。



「デリア嬢? ヴェンデルだ。 開けてくれ」


 ドアが開けるのを待つと、泣き腫らしたであろう顔が部屋から覗いた。


 俺は抱きしめたい衝動をなんとか抑え、中に入れてもらった。


「デリア嬢。 恐い思いをしたと聞いた。 もう、あの貴族は来る事が無いよ。 もう自由にしていいのに……なぜ引きこもっているのかな?」

「……私、貴族が恐くなったの。」

「あんなのだけが貴族だと、思って欲しくはないな」

「それだけじゃないの。……私はきっと、結婚出来ないから」

「……なんで? 君なら……」

「頭の良い女は嫌われるのよ! ……前に、うちでパーティーを開いた時に、同い年の子達に言われたの。 人の揚げ足取って、可愛くないって。 お前そんなこともわからないのかって。

 私は、ただ、間違えを正しただけなのに……」


 俺はなるほどと頭に片手を手にやった。


 プライドが高い男は、頭の良すぎる女を嫌う。彼女は頭がいい。

 ただ、もっと頭が良ければ、馬鹿なふりをしていた方が良いと分かるだろう。

でもデリアにはできなかったみたいだ。


「私は自分が器用じゃないって気付いたの。 わかっててもできないのよ! 可愛いって顔だけ言われても、中身がこんなんじゃ……誰からも求婚なんて……!!」

「じゃぁ……俺にもチャンスはあるのかな?」

「……どういうこと?」

「俺は男爵家の三男だ。 跡継ぎではないし、後々、平民になるかもしれない。 

 それに今、君に求婚すると、幼女趣味があるのかと疑われそうで言えなかったんだ。 デリア、初めてカミラ嬢の結婚式で見かけてから、俺は君に一目惚れした。

 兄様との商談だって、別にここに来ないでも出来るのに、わざわざここに足を運んでいるのは、デリアに会うためなんだ。

 女々しいだろう?」

「……」

「それに、君は学園に行く。

 学園に行けば、俺より年が近くて魅力的な奴だっていっぱい居る。

 ……もしかしたら、そこで出会うかもしれないんだ。 

 俺が、君の恋の邪魔をするわけにはいかなかった。」

「……ヴェンデル様が……私を?」

「そうだよ……急にごめんね。 慰めるつもりが、驚かすなんてな。

 ……もう、出て行くよ。」


 俺は立ち上がり、ドアに向かおうとすると、デリアは「まって!」といって俺のジャケットの裾をくいっとつかんだ。


「本当にわたしでいいの? 私、意地っ張りだし、寂しがりやだし、めんどくさい女だよ! それでも……愛してくれる?」


 俺はデリアの方を向いて、そっと抱き寄せた。


「俺も落ち込むと面倒くさい方なんだ。

 落ち込んでいると、使用人にもうざかられる。

 こんな俺でも良い?」

「……良いに決まっているじゃない!」


 デリアがきつく俺を抱きしめてくる。

これが嬉しくてたまらなかった。


 後日、アルベルツ子爵にそのことを話すと、剣で手合わせする事になった。

 ローレンツ兄様ほどの腕ではないが、なんとか形にはなっていたらしい。

 結局現役には勝てず、アルベルツ子爵が勝ったが、満足した顔でニコニコしていた。


 俺の両親にも紹介し、許しを得るが、その際「本当にヴェンデルでいいの?」とだめ押しの確認があった。


 確かに俺は兄弟の中では出来が悪い方だ。

だからこそ心配になったんだろう。


 デリアは真っ直ぐ俺の両親を見て、「ヴェンデル様じゃなきゃダメなんです」なんて、可愛い事を言ってくれた。

 俺は思わず、どう? 俺の選んだ女性、可愛いでしょ! とばかりにドヤ顔になっていたらしい。

 後で両親に聞いて、恥ずかしくなった。


 そして、今日が本命だ。


 俺とデリアは、ブレンターノ家を訪れた。


「よくきたな! ベック家の者も連れて来たのか?」

「えぇ。 お祖父様、先日の件でお話があります。」

「聞こう」

「私が、お祖父様の養子になるには条件があります」

「なんだ?」

「私はヴェンデル・ベック様と一緒になりたいのです。

 それが出来ないのであれば、養子の話はお断り致します。」

「……それは、両親には言ったのだな?」

「お互いの両親にご挨拶済みです。」

「……やったーーーーーー!!!!!!」


 思わず2人でビクッとなった。


「やった!! ベック家の者が我が伯爵家に入る!!

 なんとめでたいことか!! あぁ……すまない。 嬉しすぎてつい……」

「認めてくださるのですか?」

「もちろん!! 

 実はベック家のものと、孫を引き合わせてもいいなと思っていたところだ。 

 下手な上位貴族よりも、しっかり教育されている者の方がいいからな!

 そうか!! 後を継いでくれるか! 嬉しいぞ!!」


 反対どころか歓迎されるとは思わなかった。

 2人で顔を見合わせてホッとした。


 デリアは、正式にブレンターノ家の養子になり、名をデリア・ブレンターノに改めた。







 デリアはブレンターノ家に養子になった後、王立ロザリファ貴族学園に入学した。

 そこで寮生活を送る事になった。


 なんと、同い年だったこの国の王女様と、友になったらしい。

 デリアは、母親であるアマーリア以来の、総合トップの女生徒の最優秀生として、学園を卒業し、女官になる資格も得た。


 学園に居る間、好きな子は出来なかったのかを聞くと


「ヴェンデルがいるのに、他の男何て目に入るわけ無いでしょ」なんて惚気のようなことを言われてしまった。


 そして、社交界デビューの日、俺はデリアをエスコートし、2回踊って、デリアは俺のものだとアピールをした。

 その後は俺の兄達と踊ってもらい、ベック家総出のバリケードを張ってもらった。



 俺は、デザイナーに、いつもよりも力を入れて、ウェディングドレスを仕上げるように注文した。

 少し呆れたデザイナーは、やれやれと苦笑しながら口を開いた。


「しっかりやるわよ~。 もう、めろめろなんだから! ヴェンデルちゃんの為なら、完璧に綺麗なお姫様に仕上げるに決まってるでしょ!!」


 このデザイナーは実力があるのに性格が災いし、なかなか職に就けなかった過去がある。


「こんなに生き生き働けるのは、ヴェンデルちゃんのおかげだからね」


 デザイナーはウインクしながら、言った。

 これはかなり本気のサインだ。






 そして、結婚式の日。


 デリアは、正統派のプリンセスラインのドレスに身に纏い、父のベルンフリートとバージンロードを歩いている。


 フリルをふんだんに使っているのに、嫌らしい感じがしないのは、一つひとつが控えめなものだからだとわかる。


 レースも長い裾にふんだんに使われており、高貴な品さえ感じる、清楚で可愛らしい姫になった。


「き……綺麗だ。」

「ありがと!」

「見られたくなかったなぁ……他の奴に」

「何言ってるの! 見せつけるよ!」


 今日は王女も来ている事もあり、皆、俺たちの結婚に興味津々だ。


「こんなに綺麗になったのは、ヴェンデルのおかげなんだから……胸を張りなさい」


 ちょっと照れながら口にするデリアに、抱きつきそうになる気持ちをグッと抑える。


「俺は幸せ者だ」


 そういって、デリアの口に唇を重ねた。


 この日、俺はブレンターノ家の婿に入り、ヴェンデル・ベック・ブレンターノとなった。


 その後、子どもも出来るのだが、それはまた、別の話。

ご都合主義が、特に全面に出た作品になったと思います。……これ以上思いつかなかった。

その後の話は、番外編か新作で書こうかなと思っています。

詳しくは、次の話をお読みください。


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