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聖霊使いの回顧録  作者: 白川柚子
始まりの街、相模原
3/6

なんてこともない終わりと出会い3

 悠莉と美優は学園の中心部に向かって走っていた。学園の敷地内には生徒や周辺の住民が避難する為のシェルターが設けられているのだが、彼女らがいた訓練棟の近くにあるそれらは早くから非難を開始していた生徒たちで既にいっぱいだったのだ。


「学園都市全体にゴースト除けの術が施されているんじゃなかったのー!」

「それを愚痴っても仕方がない気がする」

「そーだけどー!」


 悠莉の手を引きながら走る美優は頬を膨らませた。一体どこから湧いてきただろうか。学園内はゴーストに埋め尽くされていた。1mも無いのではと思われる小さなものから3m近いものまで。隣を走り抜ける度に悪寒とともに体力が奪われていくような気がする。

 悠莉自身、侵略者と呼ばれるモノを見たのは初めてだった。なんというか、実体が無い。イメージ通りの幽霊ではないか。この世界に幽霊は存在しないと思っていたけれど。それでも。一瞬にして多くの人が死んだ。ゴーストは自分から物理的な攻撃をしない代わりに生物の体力とも繋がる聖力を奪っていく。聖力を奪われた生き物はやがて衰弱死するというのが通説であり、逆に言えば速攻で倒すことが出来れば体力以外に失う物など無いのだ。それが何故、侵略者などと大袈裟な呼ばれ方をして恐れられているのかといえば、訓練室で出会った、そしてここまでの道のりでも何体か確認されている巨大なゴーストである。半径10m以内にいた者が全員死んだという信じたくない事実からも分かる通り、15mを超える巨体が吸い取る聖力の量は並では無い。とはいえ。行動し続けられる生物がいないのと同じようにゴーストも常に周りの聖力を奪っているわけではない。今頃は教官やら学園都市の使い手やらが倒してしまっていると信じたい所だが。


「どうしてもダメですかー?」

「すまない。シェルターの収容人数は厳重に定められているんだ。安全確保の為にもね。悪いけど、このシェルター内に入れるのはあと1人だ」


 訓練棟が立ち並ぶエリアを抜けて中央校舎に程近いシェルターまで来た2人は申し訳なさげに頭を下げた男子生徒と自身らとを見比べた。


「中央校舎の中庭にあるシェルターはまだ余裕があると聞いている。どちらか、または2人ともそっちに行ってもら__」


 何かを見つけた男子生徒の顔が青くなった。振り向くな、振り向くな。存在を認知したらもう後戻りは出来ない。あまり回っていない頭で必死に自分に呼びかけるが、我慢出来ていたら人間はとっくに絶滅していただろう。


「訓練棟にいた巨大ゴースト……」


 ポツリと呟いたのは悠莉か美優か。とにかく今回先に動いたのは悠莉だった。一回り小さい少女の髪を軽く撫でてからその背中を軽く叩く。


「じゃあ、私は中央校舎まで行くから」

「待って!」


 美優の強引さを十分過ぎるほど知っている悠莉は腕を引っ張られるよりも先に間合いから抜け出していた。


「また明日!」


 軽く手を振り、短く息を吐いた悠莉は覚悟を決めて走り出した。


 走り出してから気付いたことだが、この幽霊っぽい侵略者は移動速度がそこまで高くない。まあ、大きさからしても俊敏に動かれては物理法則の問題上困るのだが。みるみるうちに距離を取った悠莉は背筋に流れる悪寒が段々と薄らいでいくのを感じた。角を曲がるとすぐ壁に突き当たってシェルターの入り口が見えるはずである。色とりどりの花が咲き乱れ、木々が良い感じの陰を作り出す小さな美しい中庭園が見えるはずである。これはもう私の勝ちではないか。悠莉は渡り廊下の下を抜けて校舎の角を右に曲がった。


「な、んで……」


 背筋が凍る。全身を悪寒が駆け巡る。どうして?どうやって?何故目の前に巨大なゴーストがいる?花々が急速にしぼんで干からびた茶色の塊になっていく。悠莉の近くで木がメキメキと音を立てたかと思うと勢い良く倒れる。自分の中から何かが抜けていく。あと数歩地面を蹴れば間違いなく安全地に辿り着いたのに。いや、遅かったのだろう。真正面の先にある壁に寄りかかって座り込む、白を通り越して土気色に変色した顔の男子生徒が生きているようには見えない。

 虚空を覗く目は確かに自分を見ているようだった。

 体を反転させた悠莉は別の逃げ場所を探そうとして動けなくなった。美優と別れてから撒いたと思っていた方のゴースト。後からきちんと追いかけてきていたのではないか。

 3方を建物に囲まれ、残った1本の道も塞がれているも同然。左に20mほど行くと校舎内へと続くドアがあるが、普段を考えると鍵が開いているという可能性は絶望的。窓なりを割って校舎内に逃れるという手も無くは無かったが、悠莉にはそこまで出来る自信が無かった。


確かに今日で学園にいられるのは最後だと覚悟したが。こんなところで死ぬという意味での最後ではない。悪運は強いと自負していたが最早これまでか。


「行け」


 嫌な汗を滲ませた悠莉の耳に声が届いた。

1m~3mの大きさのゴーストが一般的です。普通の大きさのゴースト1000体に1体くらいの割合で15mの巨大なゴーストが現れます。3m~14mのゴーストはいないっぽいです。

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