6.儀式について①
飯を食べ終えた俺とサタンは儀式を始めるためにそのままま魔王室へと向かった。
「ここが魔王室だ」
「うおお。広いですね……」
「広い割には何も置いてないけどな。机のうえに大量の書類があるくらいだ」
サタンの言う通り、この部屋は広いだけで何も装飾が施されていない、とても殺風景な部屋だった。
目前に黒一色の机と椅子が設置されているだけで、それ以外には何も置かれていない。
豪快でガサツなサタンにしては、この部屋は落ち着き過ぎているな。
「前まではもっと色んな物が置いてあったのだがな、レイナスが邪魔だと言って全部捨ててしまったのだ」
「お母様が……」
天下の魔王にも恐れず好き放題言うレイナス強すぎだろ。
というか、サタン、レイナスの尻に敷かれすぎだろ!
「まあ、レイナスがこの部屋を綺麗にしてくれたお蔭で仕事が捗るようになったし、今では感謝しているけどな」
ガハハと笑い飛ばし、サタンは俺の頭をよしよしと撫でた。
頭を撫でられると本来なら嬉しくなったり、
安心になったりするのだが、
相手が恐怖の象徴である魔王なため、むしろ逆効果だった。
ぶっちゃけ魔王の腕力が強すぎて頭が悲鳴を上げています。
「エルフィン!」
サタンは手招きをしてエルフィンを呼ぶ。ドアの向こうから「はーい」という声と、エルフィンの足音が聞こえてきた。
「何の御用ですか?」
「すまんが儀式に使う水晶を持ってきてくれ。最高級の金色の水晶の方で頼む」
「すみません。その水晶は去年から行方不明です」
「何、失くしたのか? あの水晶高かったんだぞ! 誰が失くしたんじゃ!」
あー。サタンがカンカンに怒ってるよ。
まあ、自分の私物が使用人のせいでなくなったら怒るよね。
「お言葉ですが、失くしたのは魔王様です。去年酔っぱらった際に水晶をどこかへ投げてしまったのを覚えていないんですか?」
「あれえ?……覚えてないのお……」
いや、お前が失くしたのかよ。
てか、そんな大事な物を放り投げるんじゃないよ。
「せっかくゾーマのために奮発して買ったのにのう……残念じゃわい」
サタンはがっくしと肩を落とす。
まあ、可哀想だがこればっかりは自業自得だからしょうがない。
「じゃあ安いほうで頼む。持ってきてくれ」
「かしこまりました」
訓練された慇懃無礼な態度でサタンに返事をしてから、
エルフィンは水晶が置いてある倉庫へと向かった。
「すまんのお。本来なら高級な水晶でお前さんの能力を見たかったのに」
「まあ、ステータスを見るだけなんで、安いほうでも問題ないと思いますよ」
「まあ、それもそうだな。高級なほうでしか見られない能力もあるが、ほぼ無意味な能力じゃしな」
そうか。一応高級なほうでしか確認できない物もあるのか。
でも、無意味な能力なら別にいいか。
女神がわざわざ役に立たない能力を俺に授けるはずがないし。
「魔王様、ゾーマ様。お待たせいたしました。水晶を用意しました」
「うむ。ご苦労」
エルフィンがサタンと俺に一礼をしてから水晶を机の上に乗せる。
水晶の形と色は地球の水晶と変わらない。
円状で、白く透き通った透明な色をしている。
「今から儀式を開始する。ゾーマよ、儀式のやり方は知っているか?」
「知りません」
そう言えば儀式の詳しい説明を聞いたことがなかったな。
本にも大まかなことだけで、詳しい事は書かれてなかったし。
「そうか……ならば今から見本を見せてやる」
そういうと、サタンは隣にいるエルフィンのほうへ顔を向けた。
「この屋敷の召使で一番魔力のある者を呼んできてくれ」
「かしこまりました。恐らくゴブ平かと思います」
エルフィンは失礼しますと告げてから部屋を出て、ゴブ平の元へ駆けていった。
あれ? お手本を見せてくれるのはゴブ平なのか?
てっきりサタンが直々にやってくれるのかと思ったよ。
「お父様が直々に手本を見せてくれるわけじゃないんですか?」
「違うぞ。吾輩がやると魔力が膨大すぎて、水晶が割れてしまうのだよ」
安物の水晶とはいえ、それを壊すほどのステータス持っているのか。
流石魔王だ。
「ゾーマも魔族で、何より吾輩の息子だ。かなりの力を秘めているに違いない。期待しているぞ」
「そうですね……」
まあ、サタンの期待通り、俺は多分とんでもないステータスを叩きだすだろう。
何せ、女神によってチート能力付きが確約されているからな。
いきなりサタンのステータスを超える可能性だってある。
楽しみだぜ。ぐひひ。
「お待たせしました。ゴブ平を連れてきました」
「どうも、魔王様にゾーマ様」
よし、ここからが本番だ。
話の流れが遅くてすみません。次からテンポ早めたいと思います