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5.魔王の帰還、そして儀式へ

「ガハハハ! 会いたかったぞ。ゾーマ。元気か?」

「ええ。父上こそ相変わらずで元気そうで何よりです」


 何一つ変わり映えしない圧倒的なオーラと、煌めく笑顔がそこにはあった。


「世界会議も順調だったぞ。キカッセ王国の首都である『ブロー都市』には可愛い娘が沢山いるそうだ。ゾーマ、お前嫁にもらって来い」

「気が早いですよ」


 世界会議とは、魔界にある30もの国の王が集まって世界全体の情勢などを語り、

 今後の方針について話し合う場である。

 この表情から察するに、仕事がうまくいったということは本当なのだろう。


「父上、お母様が食卓で待っていますよ。生きましょう」

「おお! あいつの料理は久々だから楽しみじゃ! ユニーコーンの血で作られたワインは当然あるんだろうな? 飲みたくてうずうずしている」

「ええ。取引しているヴァンパイアから高級の血液ワインを買い取ったのであると思います」

「ガハハ! 楽しみだのお」


 エルフィンの受け答えに満足したサタンは豪快に笑う。


「父様、今回はどれくらいご滞在する予定ですか?」


 サタンは多忙な身のため、家にあまりいない。

 今日のようにたまに帰ってくるが、翌日には直ぐ仕事で家を発ってしまう事も多い。


「ふふん、効いて驚くな。無理を言って3年の休暇を貰ってきた」

「え? 3年!」


 俺だけでなく、3人の使用人たちも驚愕の声を上げていた。

 あの忙しいサタンが、3年も休むのか? 

 しかも、無茶をしてまで。いったいなんで。


「お前さんの成長を見守るために休んだんじゃ。今年は儀式の年じゃろ?

 で、3年後の冬には学校の入試、そして合格すれば春に学校が始まる。子供の一番大事な時期に傍にいないでどうする」


 この世界では、義務教育として学校に入学できる年齢は12歳からだと決まっている。

 そこから3年間色んなことを学んで卒業した後、高等学校へ進学したり、ギルド冒険者になったり、魔界騎士団としてサタンの元で働いたりと、各々進路を決めるのだ。


「父様……」


 サタン、いや父上!俺のためにそこまでしてくれたのか!!


「儀式の結果が楽しみじゃのお。まあ、ゾーマは吾輩とレイナスの子じゃ。天才間違いない。そしてその才能を磨き上げ、王学の入試を首席で合格するんじゃ!」

「王学を首席で?」


  王学とは、王立聖闘士魔法学園の略称だ。

 身分や権力を一切無視した実力主義が第一の超名門校で、いつも大勢の受験生が受験を志望している。

 その倍率はとても高く、入学できたものはエリート街道一直線だ。


「別に無茶は言っていない。王学が開校して以来、魔王の資質を持った魔族はずっと主席合格じゃった。

 いわばの王学の主席合格は、魔王後継者としての一つの試練のような物じゃ」


 そんなに重要なイベントだったのか……


「それなら、絶対に合格を勝ち取らないといけませんね」

「主席。をな。ただ合格するだけじゃ、他の妻たちも納得してくれないからな」

「他の妻……ですか」


 言い忘れていたが、この世界では

 一夫多妻が世界的に認められている。

 レイナスは第1夫人で、俺はその息子。

 順調に事が進めば次期魔王の座は第一夫人の長男である俺が継ぐことになるが、


 隙あらば俺とレイナスを蹴落とそうと企んでいる第2夫人、第3夫人は残念ながらいる。

 サタンは今のところ俺に後を継がせたいらしいが、こればっかりはサタンの一任だけで決められない。


 俺が魔王に相応しい存在かどうかはサタンではなく、魔界に住む

人達が判断することだからだ。

 だから、王学の主席合格は絶対に俺が取らなくてはいけない。


「まあ、ウィンルとサウラの子は魔族の権力に溺れて慢心しているからな。お前さんが怠けず鍛錬を続けていれば問題ないだろう」


 ウィンルが第2夫人の名前でサウラが第3夫人の名前だ。

 この世界での身分の階級は、俺たち魔族を頂点に王族、公爵、侯爵、伯爵、子爵、男爵。

 そして最後に権力を持たない平民で分けられている。


 ウィンルは公爵の長女で、

 サウラは候爵の次女だ。

 サタンいわく、二人ともレイナスには及ばないが容姿も魔法の才能もかなり優れているらしいが、

 性格は糞と吐瀉物を混ぜ込んだような醜い性格をしているらしい。


 民衆を雑草のように扱い、隙あれば税金をあげ、逆らう物は罰として投獄や殺戮、洗脳等の苛烈を極めた手段で屈服させる、まさに恐怖政治そのものだ。

 当然、そんな政治では治安がよくなるはずもない。

 二人が納めている地では、常に平民の悲鳴が上げられているとか。


 そういった性格からか、サタンは二人のことをよく思っていない。

 まあ、それなら何で結婚して子供まで作ったんだよって話だが

 魔族は昔から優秀な一族と政略結婚をして、その一族を魔族の支配下に置いて勢力を拡大していくという掟があるらしく、

 サタンもその古いしきたりに逆らえなかったらしい。


 その結果、彼女たちに国の政治権を与えてしまい、罪なき平民たちに辛い思いをさせてしまったとサタンはいつも嘆いていた。


「だからこそ、俺がちゃんと魔王の座を継いで魔界を変えなくては」


 親の高慢な政治しか知らない第2第3夫人の子供が魔王の権力を持てばこの世界は勇者が訪れる前に崩壊してしまうだろう。

 俺が魔王になり、政治の手綱を握るしかこの世界の未来はないのだ。


「おお! 頼んだぞ。ゾーマ!」


 サタンは笑いながら俺の頭をなでた。

 その手のひらはとても大きくゴツゴツとしている。

 これが魔王の手か……俺もいつかはあんなでっかくになるのか。

 まだ体格は人間サイズな俺には、未来の自分の容姿など想像もつかない。


「よし、昼飯を食べたら早速儀式を始めるぞ! お前さんの力、とても楽しみじゃ!」


 信頼と期待が混ざった目を向けられる。

 親にそんな目で見られるのは、久しぶりだった。

 以前の俺は最後の最後まで親の期待に応えることができず、ついには見捨てられてしまった。

 今回はそのような事がないように人生をすごして生きたい。

 俺の本当の人生はここからなのだから。

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