4.ちょっとだけ成長しました
読む。読む。そりゃもう読む。
陽光が窓辺を射し、日光が窓越しに俺に温もりを与えてくれる。
外出するにはもってこいの日だが、
俺は体を動かすのよりも、目とページを捲る手を動かしていたかった。
俺ことゾーマは10歳になった。
最初はこの世界を恐れ、慣れないこと尽くしで戸惑ったものの、
今ではすっかり魔王の息子として魔界を満喫している。
この世界の事も大分わかってきた。
まず、この世界は【魔界】といって、魔人、魔獣、亜人が生息する世界。
そして俺が住んでいる国は「ダーク・テリトリー」という田舎だ。
前までは魔界の五大先進国の一つであるグレイモア国で生活をしていたらしいが、
静かな国で子供を育てたいというレイナスの希望で、
10年前に居住先をダーク・テリトリーに移したらしい。
田舎でのどかに暮らすのも結構なことだが、
俺もいつかはグレイモア国や、他の先進国に行ってみたいものだ。
次は、生息している種族について説明しよう。
魔界にいる生物の殆どは角が頭部に生えているのが特長的な魔人と呼ばれる存在だ。
中でも俺の様に金色の角を生やしている魔人は魔族と呼ばれ、魔界の中でも絶対的な権力を持っているらしい。
他には、オークやゴブリン、エルフ、ケットシーなどといった角の生えていない種族、通称「亜人」という枠組みに属している生物や
ひたすら殺戮を好む、一般的な知識や感情を持ち合わせていない、魔獣と呼ばれる野蛮な生物がいる。
ちなみに、この世界には普通の人間、通称【人族】といわれる種族は存在しない。
人族の存在が記されてるのは絵本の中だけで、その絵本の立ち位置も魔王に懲らしめられる悪役の場合がほとんどだ。
地球とは違って魔界では人族=悪という風潮なのだろう。
「さて、次はこの本を読もうかな」
魔界の歴史が記された分厚い本を閉じてから、
俺は更に分厚い一冊の本を取り出す。
この本のタイトルは【魔法書】
魔法について書かれた本だ。
一番最初に書かれていた内容は【儀式】についてのことだった。
この世界では、10歳になったら個人の能力値を調べる儀式がある。
儀式によって判明するものは大まかにいって
「魔力量」「魔法の適正」「スキルの数」の3つだ。
魔力量は単純に、自分が現在体内に宿している魔力の量。
当然だが、数字が多ければ多いほど、膨大な魔力を有していることになる。
魔力量は魔法を使えば増えるらしく、最大100万まで増やせるらしい。
次の、「魔法の適正」は簡単に説明すると自分が使える魔法の種類がわかるのだ
魔法の種類は「火」「水」「風」「氷」「土」「光」「闇」の7種類ある。
この世界では、どんな生物でも必ず7種類の魔法属性の内、どれか一つが先天的に備わっているそうだ。
基本的には一人一種類だが、稀に二種類、三種類と余分に魔法属性を持つ者もいる。
ちなみに、先天的に持ち合わせた魔法以外の属性は一生身に付くことはない。
まだ解明されていないだけで、
今後後天的に魔法属性が宿る法則が見つかるかもしれないが、
現段階ではその法則は明かされていない。
「俺はどんな魔法が使えるんだろうな」
母親であるレイナスは7属性の適正もちで、
父親のサタンに至っては属性全ての魔法を使えるらしい。
その子供で尚且つ女神からチートを貰っている俺は、いったいどれだけ強いのだろう。
今からわくわくしてきた。
そして最後のスキルは、魔法や身体能力を補助する付属品。
オマケみたいなものだ。
例えば生まれつき体が頑丈な人間には「攻撃耐性」というスキルが先天的に備わっているし、
炎と氷の適正もちでも炎魔法だけ上達が早い人には「炎魔法特化」というスキルが備わっている。
スキルには階級がありD―Sの順番で希少価値が変わっていく。
Sクラスのスキルは補助どころの効果じゃなく、
「自動治癒」とか、相手の魔力を察知する「魔力索敵」スキルなど、ある意味で魔法より凄いんじゃね? みたいな反則スキルもあるが、
これらのスキルは滅多に出ない超レアものだ。
ちなみに、スキルは先天的にしか備わらない魔法適正とは違って修業さえすれば好きなスキルを会得できるらしい。
「俺はもう10歳だから儀式ができるな。どんなステータスになるか楽しみだ」
自分のステータスに心を躍らせてから、俺は次の少へとページを進ませる。
次の章の内容は、魔法についてのことだった
魔法を使うには魔法書に記されている呪文を詠唱するだけでいいらしい。
呪文にはそれぞれ階級があり、「低級魔法」「中級魔法」「上級魔法」などがあるそうだ。
階級が上がるほど消費する魔力量も増えて、魔力が0の状態で魔法を使うと最悪絶命してしまうらしい
「なるほどー。やっぱり本格的な修業は儀式が終わってからだな」
本をしまい、俺は一言そう呟いた。
今のうちにこっそり魔法の修業を始めようかと考えていたが、
自分の魔力量が分からなければ行動に移せない。
儀式を行うまでは基礎的な体力作りで体を鍛えておくことくらいしかできないな。
「まあ、焦る必要はない。勇者がくるまであと5年はある」
それに、女神は俺に勇者を倒すためのチート能力も授けてくれた。
その能力が何なのかはまだ不明だが
きっと強力な力なのだろう。
あとは、俺が生前の頃のように慢心せず、真面目に鍛えていれば問題ない。
大丈夫。同じ失敗は二度としないさ。
親にすら見限られるような辛い思いは、二度としたくない……
「ゾーマ様!」
「ゾーマ様!!」
「ゾーマ様! いってええ」
俺が過去の戒めを思い返している最中だった
突然扉が開けられた。
何だよ。誰だ?
はあはあと息を切らしながらやってきた闖入者は、
使用人のゴブリン(名前はゴブ平)とオーク(名前はオークン)とエルフ(名前はエルフィン)だった。
ちなみに、ずっこけたのはオークンの方だ。
「何だよ、そんなに慌てて。ゴブ平にオークンにエルフィン」
彼等は我が屋敷に仕える使用人だ。
ゴブ平とオークンは家の雑務や魔王の仕事のサポートをする係
二人ともゲームでは雑魚キャラの種族の癖に物凄く強い。
エルフィンは俺専用の侍女だ。
容姿端麗、才色兼備と完璧な彼女だが、たまに俺に対してのスキンシップが過剰過ぎて少し困る。
「私はゾーマ様が赤ん坊の頃からお世話をしていました。今さら恥ずかしがることもないでしょう」
と言いながら毎日風呂場に乱入してくるのは正直辞めてほしい。
他にも、コックのアンデッドと執事のゴボルドが数人、
後はペットのスライムが一匹いる。
勿論魔界にいる種族は他にも沢山いるが、法律で使用人として雇っていい種族は彼等だけだそうだ。
サキュバスも生息しているらしいのであってみたい。
「じ、実は……魔王様が3年ぶりに帰ってきました」
息を整えるために深呼吸をしてから、ゴブ平がそう告げた。
「そうか」
どうやらサタンが仕事から帰ってきたらしい。
魔王という身分のせいで、サタンは忙しく、
常に世界を飛び回っている。
それでも俺が不自由なく暮らしている理由は、
有り余る資金と頼りになる使用人達、
そして何より母親であるレイナスのお蔭だろう。
レイナスはサタンがいない間、身を挺して俺を育ててくれていた。
良い話じゃないか。
もしこれがエロゲだったらオークに襲われて家庭は崩壊だ。
魔王のNTRとか誰得のゲームじゃ。
嫌じゃそんなもん
「そうか。で、今父上はどちらに?」
「玄関前でございます。我々使用人はもう魔王様の元へ行き、挨拶を済ませてきました」
「レイナス様も既に魔王様と対面しております。あとはゾーマ様だけです」
「そうか。ありがとう、ゴブ平、オークン、エルフィン。じゃあ早速着替えてくるよ」
「本日は、このエルフィンが服をご用意してきました。これを着てください」
そういうや否や、エルフィンは随分と豪勢な衣服を俺に渡してきた。
「おい。そんな物を着るのか?」
用意されたものは派手な装飾が施された騎士風の服に、黄金色の輝く王冠だった。
「魔王様に成長したゾーマ様をお見せするには最適な服ですよ」
「ええ。とてもご立派です」
「さあ、パジャマを脱いでください。私がお着替えを手伝います」
「いや、いいよ! 着替えくらい自分でできるよ!」
俺が断ると、エルフィンはそんなあと呟きながらがっくしと肩を落としていた。
どんだけ俺を着替えさせたかったんだ……
「キュキュキュ」
服を脱ごうとした瞬間、ポヨン、ポヨンという柔らかい感触が頭部に伝わってきた。
そうだった。
読書の途中に、スライムが俺の頭部で日向ぼっこをしていたのだ。
「スライムよ、もう俺はこの部屋を出るから離れてくれ」
俺の頼みに対し、スライムは首を、というか全身を横に振って拒否の意を唱えた。
そうだったな。まだこいつに餌をやっていなかった。
「悪かったよ。ほら、今日の餌だ」
謝罪をすると、俺はスライムの口に人差し指を入れる。
スライムの餌は、ご主人の血液らしい
「ううー」
ちゅうちゅうと俺の血を吸い、スライムは満足げな表情を浮かべる
「おお。満腹になったか」
「おおー」
スライムは喜ぶように跳ね、俺より先に部屋へ出ていった。
このスライムは「チェンジング・スライム」といって、週に一度女体化する大変稀有なスライムだ。
そのため、魔獣愛好家や変態貴族の人気が凄い。
まあ、俺の場合は偶然家の森で倒れているスライムを拾っただけだけどな。
決して性的な目的のために買ったわけじゃないぞ!
第一、生まれてこのかた童貞の俺にそんな度胸があるわけないだろ!
「ふう。さあ、行こうか」
不格好な衣服をそれなりに着こなしてから、俺はゆっくりと部屋を出た。