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ある国に、王様と4人の季節の女王様がいました。
むかし、まだ王様が王子様だったころ、王様は冒険家でした。
王様と出会う前、女王様たちはそれぞれの季節が1年中続くところにいました。
王様の国は安定しない気候に悩まされていました。
一方で、女王様たちも1年中続く季節に、虫が大量に湧いたり日照ったり、肌寒く寂しさが常につきまとっらり、一面を雪が覆ったりと、悩まされいました。
そんな折りに、王様と女王様は出会い、4つの季節はそろい、皆で王様の国へやって来たのです。
四季を迎えたことで、王様の国は一気に安定しました。
それは、4人の季節の女王様が、決められた期間、交替で塔に住むことにしたからです。
そうすることで、この国にその女王様の季節が訪れるのです。
女王様たちの不思議な力のおかげで、草木は立派に育ち、虫も動物も、そして人間も、平穏な日常を手に入れました。
何の例外もなく、誰もが一様に幸福に過ごせるこの美しい四季を、王様は心から喜び、慈しみ、愛でていました。
しかしそんな日々が、変わらぬ日常となっていたある日。
王様の国が雪に埋もれ始めたのです。
普段と変わらず降っていた雪は、止む気配を見せず、最初は喜んでいた人々も次第に困った顔を見せはじめました。
それは、王様も同じでした。人々が困るようなことは、王様の望むところではないのです。
一刻も早く、民の不安を取り除かねば!
王様はすぐさま行動に移しました。兵を引き連れ急いで塔にいる冬の女王様のもとへ行き、塔の下から声をかけました。
「ウィリー、冬の女王よ! 早く塔から下りてきてくれ。このままでは民が困ってしまう!」
しかし返ってきた冬の女王様の返事は悲しいものでした。
「いや! いやよ。もうここから出たくないの!」
王様は大変困ってしまいました。冬の女王様は、どうやら塔の中で泣いているようなのです。
困った王様は、ほかの季節の女王様へ助けを求めることにしました。
王様が向かった部屋には、夏の女王様と秋の女王様の2人がいました。
夏の女王様は紅茶を楽しみ、秋の女王様はその隣で本を読みふけっています。
何の約束もなく突然大きな音を立てて現れた王様に、お茶の時間を邪魔された夏の女王様は顔をしかめて言いました。
「なによ、突然。騒々しいわね」
夏の女王様の冷たい口調に、王様の後ろにいた兵士は怖くて後ずさりしました。
しかし王様はひるみません。夏の女王様が恐い顔をしていようと、秋の女王様がこちらに見向きもせずに本を読み進めていようと、王様はめげません。
今は一刻も早く、この雪を止めなければならないのですから!
王様は必至に訴えました。
「冬の女王がいつまで経っても塔から出てこないんだ。このままではこの国は雪で埋もれてしまう!」
「まあ、ウィリーが?」
夏の女王様は驚きました。それまでずっと本を読んでいた秋の女王様も、本から顔を上げました。
王様は言いました。
「君たちで、塔から下りるよう彼女を説得してくれないか」
しかしそんな王様のお願いも、すぐさま断られてしまいます。
「それは無理よ。私たちが塔に行けば、季節が乱れてしまうわ。ねえ、アネモネ」
夏の女王様の言葉に、秋の女王様は深くうなずいて見せました。
「ええ、その通りよカルラ。私たちが行けば、冬と夏、それに秋の3つの季節が一緒にこの国に訪れることになるわ。そんなことになれば、それこそこの国は終わりよ」
2人の女王様が言うことはもっともです。季節の女王様たちが一斉に塔に入るなんて、あってはならないことなのです。
王様は頭を抱えてしまいました。しかしふと、名案を思いつきます。
季節が混ざらなければよいのであれば、冬の次の季節、春の女王様にお願いすればいいんだ!
すぐさま顔を上げた王様。
しかし目の前には、夏の女王様と秋の女王様の2人しかいません。
「春の女王、リンはどうした。どこにいる?」
王様のその問いに、2人の女王様は首を傾げました。
「あの子、私たちの中でも一番無邪気だから…。次の番は自分だって分かってるはずだから、近くには入ると思うけど」
と夏の女王様は、少し困ったように言いました。秋の女王様も、「ここにいないのは確かね」と、うなずきながら言いました。
それを聞いた王様の顔は、真っ青です。
この冬を止められるのは春の女王様だけだというのに、その春の女王様がいないというのだから大変です!
「お前たち、すぐに春の女王様を探し出せ!」
王様が兵にそう命じると、兵たちはすぐさま走って行きました。
「ああ! 冬の女王が塔から出てこなくて、民も皆困っているというのに、そのうえ春の女王がいなくなるなんて。どうなってるんだ一体!」
そう言って、王様はたいそう嘆きながら、兵たちの後を追って部屋を出て行きました。
王様が部屋から出て行った後、夏の女王様と秋の女王様は王様たちの足音が聞こえなくなるのを見計らってから、ひっそりと話し始めました。
「なんとかごまかせたようね」と、夏の女王様。
「ええ。私たち完璧だったわ」と、笑顔の秋の女王様。
「そうだったかしら…?」
秋の女王様の言葉に首を傾げながら、夏の女王様はすっと立ち上がります。
「さあ急いで、アネモネ。次はリンのところよ」
「ええ、分かってるわ。王様に見つからないようにしないと!」
秋の女王様もすぐ立ち上がると、2人は誰にも気づかれないよう、そっと部屋を後にしました。
実は、王様が部屋に来るずっと前から、女王様たちはこの国の異変に気付いていました。
それは、春の女王様も同じです。
3人の女王様は、冬の女王様が塔に入る以前に、こんな話を聞いていました。
それは、去年の冬が終わり、春の女王様が塔で過ごしていた頃。
「なんだかウィリー、あなた少し大人っぽくなったんじゃない?」
春の女王様の恩恵で、暖かな日差しと柔らかな緑に包まれる中、木陰でお茶をしていたとき、そう夏の女王様が冬の女王様に言いました。
冬の女王様は驚き、持っていたカップと一緒にピタッと固まると、みるみる顔を赤くしていきました。
そんな冬の女王様の表情を見た夏の女王様は笑みを深め、お菓子を食べていた秋の女王様は、目をキラキラと輝かせました。
「恋をしたの? ウィリー」
そっと、秋の女王様が尋ねると、冬の女王様は顔を真っ赤にしながら、コクリと、静かにうなずきました。
そんな冬の女王様に、夏の女王様と秋の女王様はときめき、喜びました。
「お相手は? どんな方なの? もうお付き合いされているの?」
矢継ぎ早に質問する秋の女王様を、夏の女王様は注意します。
「もうアネモネったら、そんなに次々質問してたらウィリーが困っちゃうでしょ? …それで、ウィリー。お相手はどなた?」
「そんな、カルラまで…」
冬の女王様は、恥ずかしそうにうつむいていしまいました。
しかしそっと、冬の女王様は話してくれました。
「騎士様なの。塔を守っている」
「まあ…」
「あら…」
夏の女王様と秋の女王様は少し驚きました。自分たちも出入りしている塔に、冬の女王様が恋をしている相手がいるなんて知らなかったからです。
しかし、冬の女王様は言いました。
「でも、お付き合いしているわけではないの」
その声は、どこか悲しそうです。
「じゃあ、まだ片思い?」
冬の女王様を気づかって、秋の女王様は優しく尋ねました。
しかし、冬の女王様はその以上のことは話したがりませんでした。
夏の女王様も秋の女王様も、沈んだ表情の冬の女王様を見て、それ以上何も言いませんでした。
それから春が終わって、夏、秋と過ぎ去り、春の女王様も冬の女王様の恋を知った頃。冬の女王様はこの国の人々へ冬を届けるため、塔へと入って行きました。
一方、3人の女王様は周りに兵士がいないのを確かめて、部屋のドアを閉めました。
席に着くと、春の女王様はうっとりしながら言いました。
「ウィリーには幸せになってほしいわよね」
その言葉に、秋の女王様は笑顔でうなずきました。
「私たちの中で一番に幸せになるのよ、きっと」
2人の女王様は、自分たちも幸せだと言うように、笑顔になりました。
しかし夏の女王様だけは、1人難しい顔をしていました。夏の女王様は言いました。
「でも、この恋は成就するかしら?」
夏の女王様の一言に、それまでニコニコしていた春の女王様と秋の女王様は、目をパチクリとさせました。
どうして上手くいかなかったりするのか? 2人は不思議に思いましたが、次の瞬間はっとしました。
『王様』
春の女王様と秋の女王様は声をそろえて言いました。それに、夏の女王様は深くうなずいて見せました。
春の女王様は、しょんぼりとしながら言います。
「王様は、私たちがもたらす四季がとても好きだものね。きっと、騎士様にウィリーを取られるんじゃないかって、反対するわ」
秋の女王様は戸惑い、言いました。
「それじゃあ、ウィリーは幸せになれないの?」
夏の女王様は、秋の女王様の言葉ににやりと笑って言いました。
「なら、私たちが力になればいいのよ。3人で、ウィリーの恋を全力で応援しましょう!」
夏の女王様の提案に、春の女王様も秋の女王様も大賛成です。
春の女王様は言いました。
「王様とは、王様が冒険家だった頃からの友達だもの。きっと、分かってくれるわ」
その言葉に、夏の女王様と秋の女王様は、少し暗い顔になりました。
「でも、最近はあんまり仲良くしてくれないよね…」
秋の女王様は、落ち込んだ様子でそう言うと、3人の女王様は沈黙してしまいました。
それは、春の女王様と夏の女王様も感じていることだったのです。
しかし、今は冬の女王様のことです。
夏の女王様は強く言いました。
「王様とは、いつかまた仲良くなれるわ! だけど、今はウィリーのことよ。みんなで頑張りましょう」
冬の女王様の名前が出てきて、春の女王様と秋の女王様ははっとし、気持ちを切り替えることにしました。
そうして、3人の女王様は改めて心を一つにし、最後には王様にも分かってもらえるようにするため、冬の女王様の恋をどうやって応援するのか、考えることにしました。
「ところで、そもそも騎士様の方はウィリーのことを好きなのかしら?」
しかし、秋の女王様のこの素朴な疑問に、夏の女王様と春の女王様は固まってしまいました。
夏の女王様は言いました。
「そのあたりのことは、何も言ってなかったと思うけど…」
「私も聞いてないわ」
どうやら春の女王様も、知らないようです。
3人の女王様は大変なことに気づいてしまいました。冬の女王様の片思いなのか、それともお互いに好き合っているのかそれが分からなければ、どう応援していいのかも分かりません!
「確かめに行きましょう」
そう言うが早いか、3人の女王様は一斉に立ち上がり、騎士様が冬の女王様を好きなのかどうか確かめるため、冬の女王様のいる塔へと向かいました。
塔の側まで来ると、秋の女王様と春の女王様、そして夏の女王様は、王様に気づかれないよう影からそっと、塔を守っている騎士様の様子を見ることにしました。
「あの人ね。ウィリーの好きな人って」
塔を守っている騎士様は、ピンと背筋を伸ばして、まっすぐに前を向いて、一生懸命お仕事をしていました。
「立派な方ね」
3人の女王様はみんなうなずきました。
しかし、影から見ているだけでは騎士様が冬の女王様を好きなのか、確かめることができません。
どうしたものかと、女王様たちが首を傾げながら考えていると、そこへ、王様がやってきました。
「おい、お前」
女王様たちはびっくりしました。ばっ、と振り返り声のした方を見ると、王様は騎士様の前に兵を連れて立っていました。
騎士様は、驚きながらも王様へ敬礼します。
「ふん。お前、ウィリー…冬の女王のことが好きなんだろう」
その一言に、女王様たちだけでなく、騎士様も息を飲みました。
実は、以前冬の女王様と騎士様が親しくしているところを、王様は見ていたのです。王様は周りの意見も聞きましたが、どうしても2人が怪しく思えて仕方ありませんでした。そのため、本人に直接聞こうと、やって来たのです。
騎士様は答えに窮しました。
「あ、いえ…、それは、その……」
しどろもどろになる騎士様を見て、王様は確信しました。彼は冬の女王様が好きなのだ、と。
王様は顔を真っ赤にして怒り、大声で言いました。
「お前はクビだ! この城から出て行け!!」
そのあまりに乱暴な姿に、離れた場所から様子をうかがっていた女王様たちも、驚きで身を寄せ合いました。しかし、そうこうしている間にも、騎士様は王様の後ろにいた兵たちによって連れて行かれそうになっています。
それに我慢ならなかったのは、夏の女王様でした。
「なんて酷いことを…! 止めてくる…っ」
そう言って、夏の女王様は、無理やり騎士様を追い出そうとする王様たちを止めようと、腕まくりしながら出ていこうとしました。
その時です。
夏の女王様は、塔の上から、王様たちを見ている冬の女王様の姿に気づきました。冬の女王様は、あまりの事にショックを受けているようで、口を手で覆ったまま固まってしまっていました。
夏の女王様が見上げているのを見た春の女王様と秋の女王様も、そんな冬の女王様に気づき、言葉を失いました。
そうして、何もできないまま、騎士様はいつの間にか王様たちによってお城を追い出されてしまいました。
それからでした。終わらぬ冬が始まったのは。
国に雪が降り積もり、冬はどんどんと深くなり、人々が寒さに凍えあたり一面が雪で埋もれ、真っ白に染まっても、冬が明けることはなく、雪はシンシンと降り積もり続けました。
これまでとは違う冬を、王様は不思議に思っていましたが、春の女王様と夏の女王様、そして秋の女王様の3人は、冬の女王様の異変に気付いていました。
そして、冬の女王様を悲しみから救うため、この深い冬を止めるため、3人の女王様はある作戦を立てました。
なんと、王様によってお城を追い出された騎士様を、冬の女王様のもとへ連れ戻すというのです!
「うまくいくかしら?」
春の女王様は不安そうに、そう言いました。
「大丈夫よ、リン。あなたが騎士様を見つけてくれれば、すぐに私とアネモネも迎えに行くし、王様のことだって何とかしてみせるわ」
そう、夏の女王様は力強く言いました。春の女王様は、まだ少し不安ではありましたが、その言葉にゆっくりうなずきました。
「ウィリーのために、一緒に頑張りましょ」
秋の女王様も、いつもと変わらない笑顔でそう言って、春の女王様を笑顔にします。
「あのアネモネが考えた作戦にしては、随分よくできてるし、きっと大丈夫よ」
最後の夏の女王様のその一言で、3人は肩を寄せ合って笑いました。
そして、春の女王様が王様に気づかれないようこっそりとお城を出た後、夏の女王様と秋の女王様も、冬の女王様の異変にやっと気付いた王様が、春の女王様を探しに部屋を出て行ってから、春の女王様を追いかけてお城を出ることにしたのです。
部屋をこっそり出た夏の女王様と秋の女王様は、お城の裏口から外へ出ようとしました。お城の裏は森とつながっています。そのまま森に入って、春の女王様の後を追うつもりでした。
しかし、そこには外からお城を守る1人の衛兵がいます。
「どうする? どうやって外に出ようか。あの人に見つからないようにしないと…」
夏の女王様は顎に手を当てて考え込みます。すると、秋の女王様がさっとしゃがみこみました。
「まかせて」
そう言うと、秋の女王様は拾った小石を、衛兵のいない方へさっと投げました。
少しすると、向こうからカシャッ―――—という小さな音が聞こえてきました。扉の前に立っていた衛兵は、音のした方を見て、「誰かいるのか」と言いながら、石が落ちた方へと歩いて行きました。
2人はその隙にそっと扉を開け、お城を抜け出すことに成功しました。
森へ入りながら、夏の女王様は感心して秋の女王様に言いました。
「やるじゃない、アネモネ!」
褒められた秋の女王様は照れて笑いました。
「ふふ。リンが出て行くときにもやったのよ」
いつもは石を投げるなんて野蛮なこと、しないんだけどね。そう言いながら、2人の女王様は森へと入って行きました。
その頃、先にお城を出て森に入っていた春の女王様は、騎士様を探すため、早く森を抜けて、その下にある街に降りようと、雪で白くなった森の中を走っていました。
騎士様はお城を追い出されたあと、きっと街にいる。そう信じて、塔の中で悲しんでいる冬の女王様のために、早く見つけて連れて戻さなければと、春の女王様は急いでいたのです。
しかし、雪がはらはらと降り、どれだけ進んでも真っ白な森の景色が変わらないことに、春の女王様はだんだん不安に負けそうになり、心細くなってきていました。
夏の女王様と秋の女王様は、まだ来てくれません…。
でも、3人で決めたこの作戦を、途中で止めるわけにはいかない!
いつこの森を抜け出せるのかも分からないけれど、それでも、春の女王様は一生懸命走ることを止めませんでした。
そんなとき突然、―———ガサガサガサガサッ、と目の前の茂みが音を立てて動いたのです
! 音は、シンとしていた静かな森に、大きく響き渡っていきます。
春の女王様は、ドキッとしました。
長く続く冬で、動物たちもみんな眠ったまま目覚めていない、誰もいないはずのこの森で、目の前の茂みが動いたのです。
春の女王様はとても怯えました。
怖くて、もうとても前には進めません。一体そこに、何があるのか…。
立ち止まって、じっと茂みを見ていると、またガサガサッと茂みが揺れ動きました。
春の女王様が得体の知れないそれに一歩足を引いた瞬間。
茂みの中からスッと、何かが立ち上がりました。
驚いて目を見張ると、なんとそこにいたのはヒトで、それも騎士様の顔にそっくりな男の人だったのです。
あまりのことに、春の女王様は茫然としながら尋ねていました。
「騎士様…、なの?」
すると、なぜか目の前の男の人も驚いた様子で言いました。
「春の女王様? どうしてこんなところに…」
その声を聞いて、春の女王様はやっとその人が本当に騎士様なのだと確信できました。
お城で働いている時の騎士の服を着ていないかったので、すぐには分かりませんでしたが、その声は塔へ入る前、いつも挨拶していた騎士様のそれだったのです!
春の女王様は嬉しくて嬉しくて、騎士様の手を取って喜びました。
早く探さなきゃと思っていた人が目の前にいるのですから、それはもう大喜びです。
「これでウィリーを助けてあげられるわ!」
春の女王様は涙を浮かべて喜びました。
しかしそれに反して、騎士様は固い声で言いました。
「ウィリー様…。やはり、冬の女王様に何かあったのですか!?」
その言葉に、春の女王様ははっとしました。冬の女王様が塔から出てこなくなったのは、騎士様がお城を追い出された後の事なのですから、騎士様が何も知らないのは当然です。
春の女王様は急いで騎士様に説明しました。
騎士様が王様に連れて行かれるのを、冬の女王様は見ていたこと。それに悲しんだ冬の女王様が、塔から出てこなくなってしまったこと。そのために冬を終えることが出来ず、このままではこの国が雪で埋もれてしまうことを。
それを聞いた騎士様は、とても苦しく悲しい顔をしました。
騎士様が何か言おうと口を開いた、そのとき。後ろから声が聞こえてきました。
その声を聞いた瞬間、春の女王様の顔が一気に明るくなりました。
その声を、聞き間違えるはずがありません。
振り返ると、木々の向こうから、だんだん声は近づいてきます。
「もう随分来たけど、リンはどこまで行ったのかしら…」
「もう街まで行ってるんじゃない?」
そう言って、2人は木々の枝派から顔を出し、春の女王様と目が合いました。
『リン!!』
「アネモネ! カルラ!」
久しぶりの再会に、夏の女王様と秋の女王様、そして春の女王様は、お互いに駆け寄って3人でハグをしました。
そしてお互いがいない間の成果を話し合いました。
「王様のことはうまく誤魔化してきたわ」
「今はいなくなったリンのことを探してる」
「あら、じゃあ急いで帰らないと。私、ここまで走って来たのよ」
ふふふ、と春の女王様は2人が来てくれたことにほっとして、そんなことを言いました。
夏の女王様はおかしそうに笑いながら、帰るのは騎士様を見つけてからね、と言いました。
それを聞いて、春の女王様はそれまで後ろで置いてけぼりになっていた騎士様を慌てて紹介しました。
「騎士様ならもう見つけたわ。…ほら!」
しかし夏の女王様も秋の女王様も、最初に騎士様を見た春の女王様と同様に、少し不思議そうに、首を傾げました。
記憶の中の騎士様の姿と、うまく当てはまらないのです。
そんな2人の女王様を見た騎士様は、2人にすっと、塔の前で挨拶していたようにお辞儀をしました。
「お元気そうでなによりでございます。夏の女王様。秋の女王様。――――冬の女王様のことで、お話したいことがあります」
騎士様の声を聞いて、夏の女王様も秋の女王様も、驚いた顔はしたものの本当に塔の前に立っていたあの騎士様なのだと納得することができました。
「すごいわ、リン。もう見つけてたのね…!」
「それが、そこの茂みから騎士様が出てきたのよ」
どういうこと? と春の女王様の話に、夏の女王様はまたも首を傾げました。
「ねえ。それより、ウィリーのことで話したいことって、なに?」
秋の女王様は、切羽詰まった様子の騎士様に不安なものを感じ、そっと騎士様に尋ねました。
春の女王様と夏の女王様も、静かに話を聞いています。
「そのことなんですが、実は今、街には王様からのお触れが出されて、みんな混乱しているんです。王様からのお触れには、こう書かれていました」
『冬の女王を春の女王と交替させた者には好きな褒美を取らせよう。
ただし、冬の女王が次に廻って来られなくなる方法は認めない。
季節を廻らせることを妨げてはならない』
夏の女王様は、いつの間にそんなお触れを出したのかと、驚きました。
「お触れを見た街のみんなは、冬の女王様が塔から出てこないのだと知って、どうしてそんなことになったのかと混乱しています。それに、お触れを出しに来た兵士からの話では、春の女王様もいなくなってしまったと聞き、この雪の中、春の女王様を探そうとしている人も出てきているんです。このままでは、いずれケガ人も出てきてしまいます。そんなことになれば、……」
騎士様は悲しそうにして、そこで言葉を切りました。
「そんなことになれば、ウィリーは絶対に悲しむわ」
騎士様の言葉を引き継いで言ったのは、秋の女王様でした。
騎士様はそれに1つうなずくと、さらに続けて言いました。
「私は、冬の女王様に何かあったのではないかと思い、ここまで来たました。四季の女王様である皆さんは、いつもとても仲が良くていらっしゃいましたから、そんな冬の女王様を放って、春の女王様がどこかへ行ってしまうとは考えにくかったですし。この冬を何とか終わらせることが出来れば、ケガ人が出てくるようなことにはならないだろうと思い、表からでは通してもらえないでしょうから、こうして裏からお城へ行こうとしていたんです」
騎士様の話を聞いて、3人の女王様はすれ違わなくてよかったと、ほっとしましたが、その反面、複雑なものもありました。
なにせ、春の女王様はいなくなったのではなく、ただこっそりお城を出たのをみんなで内緒にしていただけだったのですから。
夏の女王様は言いました。
「私たちが考えた作戦で、みんなを傷つけるようなことがあってはダメよ…!」
夏の女王様の言葉に、春の女王様も秋の女王様も深くうなずきました。
「早くお城へ戻りましょう。ウィリーを助けて、この冬を終わらせるのよ!」
そう言うと、3人の女王様は騎士様を連れて、急いでお城へ戻りました。
走ってお城へ戻ってくると、裏門には、先程、夏の女王様と秋の女王様が出てくるときにもいた衛兵が1人立っていました。
3人の女王様と騎士様は、茂みに隠れて、どうやって中に入ろうかと頭を悩ませます。
しかし春の女王様は、自分が出てくるときのように小石を使えばいいのではないかと、秋の女王様に言いました。
しかしそれはもう、夏の女王様と秋の女王様が出てくるときにも使った作戦です。3回目は、さすがに衛兵の彼も誤魔化されないだろうと、秋の女王様は思ったのです。話を聞いていた夏の女王様も、ほかの方法を考えた方がいいと思いました。
すると、女王様たちの後ろから衛兵の様子を見ていた騎士様が言いました。
「私にまかせてください」
どうするのかと思い騎士様を見ると、騎士様は小石を拾い、秋の女王様がやったのと同じように、衛兵がいない方へと小石を投げたのです!
小石は、お城の塀に当たることなく、砂利道にカシャンカシャ、と転がり落ちました。
それを見た3人の女王様は驚き、慌てました。
すでに2回、小石を使って衛兵に誰かいるのかと思わせているのです。もちろん、小石が落ちただけで、そこには誰もいません。それが3回目となると、誰かがわざとやっていると、衛兵に思われても不思議ではないのです。
案の定、衛兵は小石が落ちたカシャンという音の方を、ジーッと見るだけで、まったく動きません。
春の女王様も夏の女王様も、そして秋の女王様もみんな、失敗したと思いました。
しかし次の瞬間、それまで黙って小石が落ちた方を見つめていた衛兵が、何も言わずに、そっと足音を忍ばせて、小石が落ちた方へと歩いて行きはじめました。
その姿に、女王様たちは驚いて言葉を失いました。
騎士様は言います。
「本当にまじめな者であれば、何度だって確認するんですよ。お城に住む王様や、皆さん、四季の女王様を守るためにね」
ひいてはそれが、我々や街のみんなを守ることに繋がりますから、と騎士様は言いました。
それを聞いた3人の女王様は、「偉いわ」と、とても感心しました。
中でも秋の女王様は、小石を使って何度も彼を振り回したので悪いことをしてしまったと思いました。
春の女王様と夏の女王様も、後で何かしてあげようと話します。
それから、衛兵の彼が扉の前を離れたのを見計らって、みんなでお城へ入って行きながら、秋の女王様は春の女王様と夏の女王様の後ろをついて行きながら、衛兵の彼を振り返り、
「今度、お菓子を持ってきてあげる」
と、ぽそりと言って、お城へ戻って行きました。
一方その頃、冬の女王様は塔の中で1人、ずっと泣いていました。
何度か王様が、出てきてくれ、と塔の下から呼んでいるのが聞こえましたが、出て行く気になどとてもなれません。
冬の女王様は、どうして騎士様が連れて行かれるのを、見ていることしかできなかったのだろうと、ずっと自分を責めていたのです。
どうして何もできなかったんだろう。
どうして、王様を止められなかったんだろう。
どうして、騎士様を助けてあげられなかったんだろう。
そんな思いばかりが冬の女王様の中を埋め尽くしていました。
どんどん冬が深まって、雪が永遠と降り続けているのが窓から見えるたび、冬の女王様はだんだん、王様やみんなと出会う前の、雪や氷で真っ白な自分の国に1人ぼっちでいた頃のことを思い出し、気持ちがどんどんあの頃の感覚に戻っていくような感じがしました。
そしてそのたびにまた悲しくなって、涙があふれてくるのです。
冬の女王様は涙が流れるたびに悲しみ、心の中で騎士様に謝り続けていました。
そんなとき。ふと、何かが聞こえてきました。
冬の女王様はゆっくりと顔を上げると、静かにそれに耳をすませました。
「――……リー」
「……ゥィリー!」
瞬間、冬の女王様ははっとしました。
「ウィリー!!」
慌てて窓から顔を出し下を見てみると、そこには春の女王様と夏の女王様、そして秋の女王様のみんながいました! 手を振るみんなの側には、王様に連れて行かれたはずの騎士様もいます。
それに気づいた冬の女王様は、目に涙を浮かべて「シーク様」と、騎士様を呼んでいました。
冬の女王様は急いで塔を下りました。そして、雪の中で待っていたみんなのところへ、走って行きました。
『ウィリー!』
「リン! カルラ! アネモネ! ……シーク様!」
冬の女王様は、みんなのところへ駆け寄ると、そのまま騎士様にハグをしました。
それを見た3人の女王様、「よかった!」と喜び合いました。
冬の女王様は、騎士様から1度離れると、ずっと思っていたことを言いました。
「私、あのときあなたが連れて行かれるのを見ていたのに、何もできなかった。それどころか、塔から出ることもできなくて…。本当にごめんなさい」
すると、騎士様は優しく冬の女王様の手を取って言いました。
「ウィリー様。謝らなくていいんですよ。私の方こそ、悲しい思いをさせてしまって、申し訳ありません」
冬の女王様はふるふると首を振り、2人はもう1度ハグをしました。
これでハッピーエンドね、と3人の女王様も、冬の女王様と騎士様のハグに参加してみんなで喜んでいると、そこへ、兵を連れた王様が「なにごとだ!?」とやって来ました。
どうやら王様は、3人の女王様が塔の下から冬の女王様を呼んでいる声を聞いて、慌ててやって来たようです。
女王様たちはしまった、と思いました。最後の最後で、作戦を失敗してしまった…!
王様は、騎士様がいることに気づいて驚くと、すぐさままた、騎士様を追い出そうとしました。
「やめて! 彼は何も悪いことはしていないわ」
冬の女王様はすぐに、王様の前に立ちはだかりそう言いました。
それまで騎士様にしか目がいっていなかった王様は、そんな冬の女王様の姿を見て驚きました。
「ウィリー!? お前、いつの間に塔から出てきたんだ」
そんな王様の前に、冬の女王様を挟むようにして、春の女王様と夏の女王様、そして秋の女王様が並び立ちました。
王様は、今度は春の女王様がいることに気づいて驚きました。
「リン! どこへ行っていたんだ。ずっと探してたんだぞ。…ああ、まあいい。早く塔に入って、春を連れてきてくれ!」
王様は、これで冬を終えることができると喜びました。
しかし、女王様たちはまだここでは終われません。
夏の女王様は言いました。
「王様…、いいえ、ブルック。私たちが初めて出会った時のことを覚えてる?」
王様は、急になんなんだと、不思議そうにしながら言いました。
「もちろんだとも。最初にリンと出会って、それからカルラ、アネモネ、それにウィリーに出会ったんだ」
あの頃は楽しかった、と王様は出会った頃を思い出して笑顔になります。
それを見て、春の女王様と秋の女王様も「本当、楽しかったわ」と笑い合いました。
「それまでずっと1人ぼっちだったのに、冒険家としてやって来た王様…ブルックと出会って、一緒について行くとまたみんなと出会って。どんどん友達が増えて、本当にうれしくて、楽しかった!」
春の女王様と秋の女王様の話を聞いて、王様はうんうん、とうなずきます。
それを見た夏の女王様はまた、王様に言いました。
「私たちは、あなたが王様になる前の、冒険家だった頃からの友達。でも今、あなたは私たちのこと、友達だって思ってる?」
夏の女王様は少し悲しそうに言いました。春の女王様と秋の女王様もどこか寂しそうに王様を見つめ、冬の女王様は、少しうつむいています。
王様は、そんな4人の女王様たちを見て、どうしてそんな顔をさせてしまっているのかと、考えました。
思い返せば、思い当たることはいくつもありました。
お茶に誘われてもいつもいい加減に断ったり、それどころか、ちゃんとみんなと話すこともこの件がなければなかったのです。
気づけば彼女たちが側にいることが当然で、彼女たちがもたらす四季ばかりを大切にしていた。
王様はやっと、自分が4人の女王様たちを悲しませていたことに気づきました。
申し訳なく思った王様が暗い顔をしていると、不意に、春の女王様が言いました。
「そういえば王様、お触れを出したんですってね?」
「そうそう! ウィリーとリンが入れ替わって、季節を廻らせることができた人には、好きな褒美をあげるって」
秋の女王様は、冬の女王様の方に手を置きながら言いました。
そして、突然お触れのことについて言われて王様が戸惑っていると、夏の女王様が笑みを浮かべながら言いました。
「だったら、それに成功した私たちは、あなたからご褒美をもらえるってことね」
そう言って、夏の女王様は冬の女王様の目を見ました。
「ぜひ、ウィリーのお願いを、聞いてほしいわ」
それは、大切な冬の女王様のためにここまでしてきた、3人の女王様みんなのお願いでした。
王様は驚きながらも、約束だから、と冬の女王様と向かい合いました。
冬の女王様も、突然のことに驚きましたが、みんなの優しい表情を見て、王様へ1歩踏み出し言いました。
「私は…、私たちは、王様のことが大好きです。王様の国も、大好きなんです。王様は、私たちがどこか違う国に行ってしまうんじゃないかって、心配してるみたいだけど…」
そこまで言うと、冬の女王様はうつむいていた顔を上げ、まっすぐに王様を見て言いました。
「私の、私たちのお願いは、――もう1度あの頃のような仲のいい友達になってほしい、です」
王様は、思わぬお願いに驚きました。
冬の女王様は言います。
「もう1度、あの頃のような友達になれたら、王様がそんな不安を感じることもなくなるだろうし、私たちだって、この国を出て行こうなんて、きっとこれからも考えもしないと思うの。それになにより、大切な友達をもう1度取り戻せるのは、とても嬉しいことだわ」
それまでずっと悲しんでいた冬の女王様は、笑顔でそう、言いました。
春の女王様と夏の女王様、秋の女王様も、「本当にそうね」と言って、冬の女王様と嬉しそうに笑い合いました。
そんな4人の季節の女王様の、楽しそうな姿を見た王様も、なんだか嬉しくなって、笑顔で言いました。
「それなら私からも言わせてもらおう」
4人の季節の女王様は、驚いて王様を見ました。
気づけば、雪は止んで、暗かった雲がどこかへと流れて行きます。
そして、久しぶりの太陽が雲間から顔を覗かせました。
王様は満面の笑みで、こう言ったのです。
「私と、友達になってくれ!」
4人の女王様は顔を見合わせると、周りも幸せになるような笑顔になったのでした。
それから、冬の女王様と春の女王様がバトンタッチをして、王様の国には穏やかな春がやって来ました。
夏の女王様と秋の女王様、そして冬の女王様は、久しぶりにお城のお庭でお茶をしました。王様ともお茶の約束をしましたから、もうすぐ王様もやって来るでしょう。
騎士様も、王様と仲直りをして、今も春の女王様がいる塔の前に立って、立派にお仕事をしています。
王様が来るまでの間、夏の女王様は、冬の女王様にあるお話を聞かせてあげました。それは、3人の女王様が友達のために奮闘した、ちょっと冒険譚です。
冬の女王様は興味津々で、嬉しそうに聞いています。
そして秋の女王様は、お城の裏口を守っている衛兵の彼のところへ、お菓子を届けに行きました。いつもお疲れさま、と。
こうして、王様の国は再び平穏な日常を取り戻し、みんなも4人の季節の女王様も、楽しい日々を過ごしました。
END




