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妹になった私の上司

 拙者の名は青天勘三郎と申すもの。

 定職は決まっておらず、流浪人るろうにをしておるのでござる。

 しかし、銭も足らんと生きてけぬので、道中でおうた人の煩悩を、拙者が常日頃から帯刀しているこの「魔鬼破斬まきはざん」で解明して、賃金を頂戴しておるのでござる。

 はたして今日はどんな煩悩におうのでござろうか。



 ☆ ☆ ☆



 あ~あ、もうサイアク。

 何様よ、あのクソ上司。人とは思えないわ。

 な~にが『ケアレスミスがあったから、この提出書はやり直しだ』よ。

 おかげで定時退社できないし、おやつに買ったケーキがもうベトベト。食べられたもんじゃないわ。

 あんな奴、一生憎んでやる~~!


 ◇


「──ぷはあっ。た~いしょ~、びーるもーいっぽんぷり~ず」

 あたしはヤケ酒覚悟でジョッキビールを何杯も何杯も飲みまくった。あぐらで。

 深夜の居酒屋、いるのはあたしと店の大将だけ。

「……お嬢ちゃん、これ以上は飲みすぎじゃねえか? もう終電も……」

「い~いじゃない、べつに~。あとぁしがのみとぁいだけにゃにょ~」

 もうべろんべろんに酔っぱらって、言葉があやふやだ。

「ったく、しょうがないなあ。今夜はツケにしとくから、もう帰った帰った」

「ふぁ~い。それじゃ~えんりょなくぅ~」

 あたしは店を出ると、千鳥足で帰路についた。

 もう、深夜零時をまわってる。上司のせいでとんだ残業になって、あたしは上司に対する恨みだけが募っていった。

「あんな上司なんか……あんな上司なんか…………!」

 そしてついに、あたしの口から本音が出る。

「女子になっちゃえ~~~‼」

 言い切って力が抜けたあたしは、ふらつきながら走って電柱に激突した。

 そしてそのままあたしの意識は夜の闇の中に消えていった。


 その際ちょんまげをしたお侍さんを見た気がするんだけど…………気のせいかな?


 ◇


 あたしが目を覚ましたのは、自宅のベッドの上だった。

 都会にあるアパートの一室。床に散乱した化粧品やインスタント麺。山積みになったあたしの服。そして落としてない化粧と髪が乱れているあたし。

 いつもの部屋。いつもと変わらない日常。


 …………じゃなかった。

 あたしの横の布団が少し膨らんでいる。

 めくってみると、そこにいたのは────


 美少女だった。


 いや、美少女というには年を取っているほうだが、あたしからみれば十分若い。

 くりっとした目。ちょっと高めの鼻。ルージュが似合いそうなきれいな唇。長い黒髪。どれをとってもあたしなんかとは比べられない。

 ちょっとむかついたのは、Eはありそうな巨乳。若い子のくせになんてだらしないおっぱいよ。

 っていうかなんであたしと一緒に全裸で寝てんのよ!

 そう言おうとしたときに、当の彼女が目を覚ました。


「う、う~ん。あ、あれ? ここは……」

「おはよう、寝覚めはどう?」

「寝覚めって…………!」

 彼女はあたしを見て驚きの表情を上げる。

「お、お前は清水しみず! 何でこんなとこに⁉」

「清水? ……その呼び方、あんたまさかクソ上司の……」

「な、何がクソ上司だ! 私には田中たなか幸喜(こうき)っていうおとこの名前があるんだ! バカにするな、馬の骨のくせに!」

 仁王立ちで腕を組んで上から目線で見下す元上司の美少女 (笑)。

「あんたさ、自分の姿見てからそういうこと言いなさいよ。ほら」

 手元に鏡がなかったので、あたしは彼女?にスマートフォンの内カメラに映った姿を見せてあげた。

「こ、これが……俺…………?」

 思わず部下の前で素の自分を出す田中上司。

「というか、俺は死んだはずだ! 何で生きてる⁉」

「知らないわよそんなこと」

 突然発狂してわけのわからないことをほざき始めた元上司。

 こいつどうしようか考えてパッとひらめいたあたしは、OL仲間の理沙に電話をかけた。


「もしもし、理沙りさ?」

『なあに、真由まゆ。さてはまた田中の奴に締め上げられた?』

「いや、逆にあたしが締め上げてるんだけど……」

『すごいじゃない! 今度女子会でさ、どうやったか教えてよ』

「それよりもその田中のこと何だけど」

「何だお前ら、さっきっから俺の事呼び捨てにしやがって。立場考えろってんばがっ」

 あたしは口うるさい彼女(?)の口を無理やりふさいだ。

『……ねえ、今後ろにいる女の子誰? 自分のこと俺とか言ってたけど』

「ああ、実はこの子が田中らしいの」

 あたしより力が弱くなっている(はず)の田中上司は、両手であたしの腕と悪戦苦闘している。

「それとあたしさ、これから一か月有給じゃダメ?」

『何で? 無遅刻無欠席で有名な真由が……』

「こいつの面倒見る。女の何たるかを叩き込んで、あたしの妹として職場で働かせてやるわ」

『だったらあたしも手伝うよ。それにほかのみんなや受付嬢の人たちにも恨みある人いそうだから、そういう人たちにも声かけとくよ』

「うん、ありがとう理沙。じゃあよろしくね」

 最後にそう言ってあたしは電話を切った。

「…………ってわけだから、これからはあたしのこと『お姉さま』とお呼びなさい。妹で新人OLの田中……もとい、清水さん!」

「んーっ、んーっ!」


 ◇


 一か月後……


「有給とってすいませんでした。これからは毎日真面目に仕事に励む所存です。それから……」

「初めまして、いつもお姉さまがお世話になっております。今日からわたくしも一緒にお仕事をさせていただきます。よろしくお願いします」

 あれからあたしはあいつに女の言葉遣い、仕草、性欲などなど叩き込み、おっさんっぽさを完全に排除し、あたしに従順な妹に作り替えることに成功した。

 みんなにもみくちゃにされているのに嬉しそうにしていたのは、マゾヒストの気があるからかな?

 彼女(?)の変貌ぶりを見たうちの男どもは、以後おとなしくなりあたしたちに対する口説き文句やらいたずらやらセクハラはなくなった。

 代わりにホモなのか、うちの妹に手をかけている奴もいる。

 まああたしは姉だけど、男同士(笑)の交わりに水を差すのも面倒だしね。


 こうして、あたしの上司に対するささやかな復讐は終わった。



 ☆ ☆ ☆



 いやはや、今回もよき仕事でござった。

 まさか夜道でぐでんぐでんに酔った女子おなごを見つけるとは思いにもよらなんだ。

 とかく、この女子の会社とやらに行き、そこで田中とかいうむさい男を見かけたもんで、かの女子の小言のごとく我が魔鬼破斬で装飾物を微塵に返し、かのものの体を切り倒し、女子の部屋の布団に二人ともくるませ、あとは拙者は用済みでござる。かの女子に面倒を授けたのでござる。


 さて拙者はまたさすらうとするかのう。

 行く旅路に難あれば、拙者の手で切り拓いて見せようぞ!

連投二作目です。

この作品は、僕がネットのとあるサイトで見た小説をオマージュした文章構成で書きました。

基本的に一話完結の短編で進んでいきますから、ストーリー的繋がりは恐らくないに等しくなるかもしれません。しかし、シリーズものであることに変わりはないので連載小説と銘打つことにしました。

これからも僕の小説をよろしくお願いします。

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