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闇のまにまに

『 …… は こ わ い ? 』


 何かが彼に聞こえてくる。もう、何も無いはずの彼に。


『 し ぬ の は こ わ い ? 』


 怖い。娘を遺して逝くのは怖い。それが、彼にとっては自らの死よりも恐怖だ。


『 な ら ば 【た ま し い】 を さ さ げ な さ い』


 構わない。それで娘が守れるならば。


 笑い声が聞こえた気がした。とても、酷薄で、そして高みから見下げてくる様なその声は、彼の魂に不協和音を響かせた。




   ***********




 彼ら彼女らの前で、光はそのまま目の前で何かが実際に起こっているかの様に像を結び見せ付けた。過去に起きた事を。


 誰もが無言で動けなくなっていた中、娘が一声発する。


「じゃあ、そこの女の人は……ぴーちゃん?」


 司祭の男が思い切りずりこける中で、女は恥ずかしそうに頷く。


「そうだよ。あんたの【ぴーちゃん】だよ。全く……このサイズじゃあぴーちゃんだと可愛すぎて駄目だわ」


 悪態つきながらも、女はゆっくりと娘を抱き締める。


「おかえり。アリシア。私の飼い主。私の可愛い子守相手」


 永かったよ……。そう呟いた女の瞳には光る物があった。




「さて……感動の再開の所悪いのだが。先の光の像で出ていた男とは誰なのだ」


 司祭の男が発する言葉を受けて、抱き締められていた手を優しく放すと、娘――アリシアは、死神の彼を見て呟く。


「私のお父様です。そして今は、姿を変えていてもここに」


 ずっと無言で宙に静止していた死神にアリシアは近付くと、右手を触れさせる。死神は一瞬光に包まれ、そしてアリシアの背後に張り付いた様になる。


「いわゆる死神にとり憑かれたという状態になっています。一応これで、私を通して会話が出来ます」


 ほう、便利なものだと呟く司祭。そして、私を通す事で、記憶もよみがえるはず……という言葉の通り、彼は死神である彼は細かく震えると、アリシアの身体を通して声を発する。


「嗚呼……ああ……! 私は、娘の為とはいえ何という事を……!」


 それは嘆きであった。自らが葬り去った冒険者達への。




 ぽつぽつと、語る彼の言葉に、皆が押し黙る。何者かによって、死神へと変化させられ、そしてこの迷宮と化したかつての都市にやってくる探索者・冒険者の魂を狩り続けたのだと。


「だが、何故狩る必要があったのだ? 放っておいても、この中では魂は滞留し、そのまま朽ちていくだろうに」


 そう、この元エルフ族の都市である迷宮は、過去の謎の大惨事により、魔力の溜まり場となってしまい、常であれば時間が経てば天へと登るだろう魂は、淀んだ空気に、淀んだ魔力に絡め取られ時間をかけて朽ちていってしまうはずだった。

 

 それにかぶりを振って応える彼は、男の言葉に先を続ける。


「主だ。迷宮の主がその魂を集めているのだ。そのために私を尖兵としたのだ」


 そう、主だ。今なら彼は分かる。あの時に応えたが為に、主の為の手駒として、本能の様に狩りを続けた。そして溜まった魂は、どこへ届けたか。そう、それに気付いた時だった。どこから聞こえてくるのか、いやどこからでも聞こえてくるのか。女の声がした。それは不協和音となって、満ち、そしてゆっくりと一行の足元に靄が生じたかの様に、じんわりと闇が満ちる。


「逃げろ!」


 誰が叫んだのか。その声すらも闇に飲まれていった。


 彼は先の動く光の幻惑に、自らがかつて生者であり、そしてかつての自身をうすぼんやりとだが思い出し始めていた。娘アリシアの機械の身体に触媒で使った自身の残滓にも触発されたのかもしれない。だからこそ、今迫り来る危険が分かる。


【ニゲロ……。ヤツガ、カミガ、クル……】


 思わず、えと聞き返した一同の背後、赤竜が守っていた辺りから闇が迫る。


「なんだこれは? 重さすら感じるぞこの闇は」

「やべぇ。私がやられたから蓋が開いた」

「蓋って何の!?」


『あ な た た ち の か え る ば し ょ』


 遠くからさざ波の様に迫った声が一同を取り囲み。彼らは飲まれた。

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