エピローグ
王都の復興は、大して時間が掛からなかった。なにせ、戦ったのが街ではなく、草原だったからだ。ほとんど被害はない。
とはいえ、ヴァナーの復興には時間が掛かることだろう。
勇者と魔王の和解というのは、大々的に伝えられ、まあ、反対意見の人も居る様だが、シミオンもなんとかやっていけている。本当の事は、とても酷く、悲しい事だから。みんなも、ちゃんと分かってくれたのだろう。
「でも、本当に良いの?」
「あ? 何がだ?」
「今まで、散々色々やってきたと思うけど・・・」
「んな事どうでもいい。ちゃんと仲直りするって言ってくれたろ」
「そうだけどさ」
別に、魔王を殺そうと思っていたわけじゃない。倒して、屈服させればいいと思っていた。人殺しがしたいわけじゃない。平和を手に入れたかったのだから。
という訳で、暫く家に居候する事になったアディントン家の皆さんです。
「・・・ねえ、ユリエルくん」
「なんだ?」
「僕が魔王だって分かった時。どう、思った?」
「んー・・・。裏切られた、って思ったけど・・・。凄く憎らしいとかじゃなかったな」
なんか・・・。シミオンなら、許せてしまう気がした。だって。学校では、親友とも呼べるくらい、中が良かった。あれが素だと信じ込んで、許す事も、出来た気がする。
だって・・・。本当は、凄く優しいから。
「ごめんね、本当に」
「いや、いいよ。俺も、魔王の事、何も知らなかったから。それで、倒すとか言って」
「でも・・・。まあ、そう思われても仕方ないと思うよ」
「とにかく、今はそんな事はどうでもいい!」
「え?」
「ヴァナーの復興、手伝うって言ったの、シミオンだろ?」
結構酷い事になっているからな・・・。半分くらい俺たちがやったんだけど。
強い魔力と瓦礫を取り除いて、新しい街を作らなくてはいけないのだ。時間がかかりそう。
まあ、目標としては、復興以上。もとよりも良い街を作ろうと考えている。ヴァナーはスラムだったからな。
あと、レリウーリアの方の被害も少しある。俺たちが暴れたせいなんだけど・・・。
それも復興しなくてはいけない。が、他の国も手伝ってくれて、何とかなりそうだ。
悪さをしないなら、魔王だって人なのだ、そう嫌う必要もない。
だから、シミオンはもう魔王を名乗る事はしない。シミオンはただのシミオン・アディントンだ。
「ああ、復興、手伝うよ。僕の魔法があれば、瓦礫位なら何とかなる」
「そうか。じゃ、頑張れよ」
「あれ、ユリエルくんも行くんじゃないの?」
「ちょっと人に呼ばれていてな。あとで行くから」
「わかった」
「賢音」
「あ、ユリエルくん、来てくれたんだ」
「呼ばれたのに行かないわけには。なぁ」
「そうですね」
エレナも笑う。少し体調はよさげだ。
で。何の用で呼んだのか、確認しないとな。
「あ、そうそう。魔王討伐おめでとう。で、こんなこと聞くのも変だと思うんだけどね・・・。日記とか、ある?」
「・・・。は?」
「いやね・・・。俺がユリエルくんに興味を持ったのは、ある小説を読んだからなんだけどね。すっごーく不定期な日記とか、ない?」
あるけど、あるけど・・・。絶対に見せたくない感じだな。
でも、嘘を吐くのも気が引ける。ああもう・・・。賢音って、本当に困る。
「あるけど・・・」
「やっぱり! よし、小説にしようか」
「だから何で!」
「じゃないと、未来、過去。全部、変わってくるよ?」
それは困る。折角魔王を倒したのに、こんなところで狂うなんて困る。
ったく・・・。そんな楽しそうな顔するなよ。
「じゃあ、題名でも考えておいてよ。あと、プロローグ」
「なんで・・・。ああもう、分かったよ・・・」
なんで、なんで賢音の指示には逆らえないんだろうな。こいつほど人を動かす才能のある奴は見た事がない。
何も考えていないようで、色々仕組んでるから、本当に凄い。それを分からせないこの態度がまた凄い。嫉妬するぞ?
「はは、じゃあよろしく。ヴァナーに行ってらっしゃーい」
「知ってたのかよ! ったく、忙しいっていうのに・・・。行ってくる」
「あら、ユーリ。何を書いているのかしら?」
「なんかさ・・・。賢音が、俺の日記を小説にしたいからプロローグと題名考えろって」
「あら。じゃ、題名は決めておくわよ」
「え、本当か?」
「みんなで話し合って幾つか案を出しておくわ」
「ありがとう」
じゃあ、後はプロローグ。でも、あまりいいのが浮かばない。
なんてしていたら、二時間近く経っていて、エディが戻ってきてしまった。題名の候補が描かれた紙を持っているようだ。
「題名、こんな感じよ」
「ありがとう。この中から決めておくよ」
「プロローグ、決まらないの?」
「ああ・・・」
「きっかけとかで、良いと思うわ。魔王を討伐する、ね」
そういうと、エディは部屋を出て行った。きっかけ。となると、メリーと初めて出会った時の事か。それ、良いかもしれない。俺はペンを進めていく。
でも、これだけじゃつまらないな。何か付けたすか。
あ、そうか。本当に。自分の素直な気持ちで良いんだ。
『もし、また会えたなら、その時は、もっと沢山の楽しい事を教えてあげるから。
もし、魔王が原因で、同じような思いをした人が居るなら、助けてあげたい。
俺が、必ず、魔王を倒すから』
ある日の夕方。クリスタの、真っ白な墓を訪れた。ひんやりと冷たい墓石が、今日はなんだか憎らしい。クリスタは、暖かくて、優しいから。
本当は、誰も、死なせたくなかった。みんなで、こうやって、仲良く笑いたかった。
花束を置き、クリスタに話しかける。一体今、何処に居るんだ? 俺たちの事、見ていてくれたか?
「ユリエル様」
「・・・。誰だ?」
「もう・・・。少しくらい、此方を見てくれてもいいじゃないですか」
「・・・。?!」
パーマの掛かった金髪に、ヘーゼルの色をした瞳。それから、この声。クリスタに似ている。きっと、エレナだろうな。
でも、どんなに容姿が、声が、似ていても。それでは、ダメなのだ。クリスタでなくては。ダメなのだ。
「・・・。もしかして、私が誰だか、分かっていませんか?」
「クリスタ」
「の割には嬉しそうじゃないですね」
「だって・・・」
「酷いです・・・。私は、こんなにも、会える日を楽しみに、していたのに・・・」
「えっ・・・」
その仕草が、クリスタに、あまりにも似ていた。
彼女のところまで近づいてみる。俺の事を見上げて、軽く微笑んだ。
「また会えて嬉しいです、ユリエル様!」
「クリスタ・・・ッ!」
間違いなく、クリスタだ。そんな、でも、どうして・・・。
エレナの作ったホムンクルスに、クリスタの魂が入り込んだのか? そんな偶然が・・・。
「偶然? 違います。私は、ずっと、みなさんの傍にいました」
「クリスタ・・・。それじゃあ、クリスタは」
「エレナ御譲様が、寂しさに耐えかねて、私そっくりのホムンクルスを作り出したので、丁度良いと思ったんです。いやあ、驚いていましたよ、エレナ御嬢様」
俺は、ぎゅっとクリスタを抱きしめる。
もう離さない。クリスタが居ないと、本当の幸せではないから。
今度こそ。俺は、幸せを手に入れたのだ!




