第61話 シリルとアリス
シリルとアリスは双子だ。とはいえ、二人とも、容姿以外は全く似ていなかった。
シリルは内気な男の子だ。本を読むことと、勉強する事が好きで、常に成績は上位。小さな可愛い生き物が好きで、小鳥やハムスターなどを飼って、可愛がっていた。
一方、アリスは強気な少女だ。外で遊ぶのが好きで、喧嘩をすれば男の子にも負けない(よく喧嘩をしている)。勉強が苦手で、成績は下から数えて数番目、だった。
シリルは良くいじめられた。けれど、それは誰にも言わず、ずっと、一人で黙って耐えている。そういう子だった。
アリスは、気に入らない事があればすぐに暴力に走った。一週間に一回は、必ず男の子を喧嘩をし、そして勝って来る。
二人は正反対だったから。仲が良くなかった。
シリルは母親が好きだった。勉強も出来るし、礼儀正しいし、その上優しい。母親も、シリルが大好きだった。
アリスは、母親を困らせてばかりだった。喧嘩もした。けれど、母親が嫌いという訳ではなかった。
もしこれが。同時に起こらなかったら、こんなことにはならなかったのだろう。タイミングが悪かったとしか言いようがない。
二年前の事だ。
シリルはいじめに耐えかねていた。告げ口をしない為、エスカレートして、もう限界だった。
アリスは母親と喧嘩をした。本当にくだらないことだったのだが、その時は重要だったのだ。
シリルの告白と、アリスの罵声。それを、一度に受ける事になった。
それだけだったらまだ良かった。しかし、母親はその時、勤めていた工場がつぶれ、失業に追い込まれていた。
母親は、身投げをし、自ら命を絶った。
「ということなの」
「ああ・・・。なるほど」
なんだか困った事になっているな。連れてこなければよかった。知りもしない事に手を出したのがいけないのか。
エリーを見ると、ふるふると首を振った。
「お父様のせいじゃないよ」
呟いて、そっと俯いた。
「お父様、助けてあげて。兄妹は・・・。仲良く、なくちゃ、だめ、なの」
いつも、エドが言っている言葉。
エドは、なんだかんだ言って、うちの子ども達と、一度も喧嘩をした事がない。姉も、妹も、みんな、大切にしている。それは過保護と違って・・・。普通に接しているのに、大切にしているのだ。
ほんと、凄いと思う。
「な、仲良く・・・」
「お願い、お父様・・・」
喧嘩をしている二人を抱える。右手でアリスを、左手でシリルを。軽いな。
ちょっと驚いたように俺を見て、黙った。そのまま地面に下ろす。落ちついたな。
「なあ、二人とも、本当は分かってるんだろ?」
例えば。アリスは、ギルドで男の人に絡まれていた時。手を一切出さなかった。
忘れていたのだが、最初に会った時、アリスが受けた依頼は相当レベルの高いものだった。うちの子ども達と同じくらい、いや、それ以上の実力者だろう。
例えば。シリルは、エリーという友達がいる。しかも、結構仲が良い。
二人とも、自分も悪いって、ちゃんと分かってる。だから、変わろうとしていた。
でも、認めたくないのは、分かる。だから、こうやって、相手のせいにしている。けど。
「本当に、嫌いなわけじゃないんだろ?」
だから、今だって、口は出しているが、手は出していない。たった二人きりの家族。本当は、ちゃんと大切に思っているんだろ?
二人は、同時に首元に手をやる。雪の結晶を模したトップの、ペンダント。
「そ、その・・・。喧嘩してたの、知ってたんだけど・・・。やっぱり、僕の言うタイミング、悪かったよね。僕が悪い」
「違うっ! わかってる・・・。シリルが悪いわけじゃない。だって、だって・・・。いじめられてたの、知ってた。でも、私、止めてあげなかった・・・。シリルは悪くない、いじめてた子が悪いの。それと、私」
『ごめんなさい!』
う、うん、どちらかと言えばアリスが悪い気がするけど、まあともかく。
エリーは安心したように微笑むと、バスケットの中身を広げた。
「今日は、カップケーキ、作って、貰った」
「わぁ・・・。凄い!」
「みんなで、食べよう?」
ああ、よかった。大丈夫そうだ。
が、エリーが急に残念そうな顔をした。
「シリル・・・。アリス、見つかった、から、何処か、行く、の?」
「え?」
「此処・・・。アリス探しに、来たん、だよね・・・?」
シリルとアリスは顔を見合わせる。それから、クスッと笑って言った。
「ううん、此処に住むよ」
「え、ほんと?!」
「シリルが、エリーちゃんのこと、気に入っちゃったから」
エリーは嬉しそうに笑った。あ・・・。あんなの、滅多に見ないのに。なんか、やっぱりいいな。同じくらいの年の友達がいると。
エリー、心配してたけど、結構平気かも。俺はそう思いつつ、その場を後にした。
その後、ギルドに行って幾つか依頼を受け、夕方家に帰ってくると、とても機嫌の良いエリーが笑って迎えてくれた。
どうやら、アリスは家を持っていたらしく、シリルと一緒に住む事になったらしい。
どうやって家を・・・。と思ったが、アリスはやっぱり相当強いらしい。ダンジョンをいくつもこなし、相当のお金を持っているらしい。
エリーの話によるとまだ十二歳。幾らなんでも凄すぎる。アリス・・・。大丈夫なんだろうか。
「シリルに会ったとき・・・。一緒に、住みたかったから」
「えっ・・・」
「アリス、そう、言ってた」
シリルのこと・・・。やっぱり、嫌いじゃなかったんだ。二人とも、もう喧嘩しないでやっていけると良いな。
あ、あと・・・。偶には、エリーと遊んでくれるといいのだが。
「御邪魔します!」
一カ月くらいあと。また久しぶりに仕事がなかった。
その日、エリーは友達を連れてくる、と楽しそうにしていた。アナと一緒にお菓子も作ったし。
で、来たのはシリルとアリス。リーサとエド、ルナがエリーの後ろから二人を眺める。
「ええと、その子たちは」
「私の、姉と、兄、なの」
「へぇ・・・?」
『いらっしゃい、シリルくん、アリスちゃん』
リビングで、嫁たちが一斉に声をかけた。二人は随分納得したようだ。
やっぱり気になるよな。容姿が全然違う事。もう気にしていないみたいだが。これは結構稀だ。良い友達になれるのも分かる。
「あ、あの、今日は、私も手伝って、これ・・・」
「! ありがとう、エリーちゃん!」
「シ、シリルくん・・・」
「うん、美味しそう。いつもお菓子、ありがと」
アリスの言葉はあんまりエリーに届いていない。シリルがエリーを占領中だから。
くるっと振り返ったアリスは、その状況を見て何か言いたそうな表情をする。
少し考えていたけれど、もう一度、振り返りつつ声をかける。
「あー、えっと、そう言うのは私たちの家だけにした方がいいと思うんだけど、シリル?」
アリスも大変だな・・・。もう、二人で並んで座り、お菓子を食べていたところだったので。其処には誰も居なくて。
「ちょっと、二人とも! 私のこと忘れてない?!」
『え?』
「ああもう! 一体何なの」
そう言いつつも、楽しそうな表情を浮かべるアリス。今まで一人だったから、割と、憧れていたりとか、したのかもな。
アリスは笑いながらエリーの隣に座り、貝形マドレーヌを一つ口に入れる。
「ん! 美味しい!」
「あ、ありがとう」
今日はエリー、よく笑うな。うちの子供たちの三人はそれを黙って見つめていたけれど、何か話しあい、向かいのソファを占領。俺たちの居場所が完全に消えた。まあ、そんな事はどうでもいい。
「な、なあ、エリーとは、どういう関係なんだ?」
「え? 友達だよ? ねえ、アリス?」
「あ・・・。え、あ、その・・・」
「・・・。かわいい」
ルナの呟きに、アリスは顔を真っ赤にした。
「アリスはいっつも正直じゃないね。ボクたち、エリーの友達でしょ?」
「で、でも・・・。エリー・・・?」
「大丈夫、なの。私たち、友達」
リーサがメリーに似た、優しい笑顔を浮かべて言う。
「私、エリーちゃんのこと、心配してたんだぁ。お友達とか、居ないのかなぁって。でも、安心した。ちゃんと、良いお友達がいて」
『良い、お友達・・・』
それから、子供たちは暫くみんなでおしゃべりをし、帰る事には全員仲良くなっていた。
「じゃあね、エリーちゃん、リーサちゃん、エドくん、ルナちゃん」
「ま、また、来て欲しい、の」
「もちろん! じゃあね!」
リリィがちょいちょいと俺の肩をつつく。
「ん?」
「エリーの良いところ、分かってくれる子がいて、よかったよね」
「ああ。優しい子なんだ、本当は」
だから、ああやって友達と遊んでいる姿、ずっと、みたいと思っていた。
シリルとアリスに、お礼、ちゃんとしないとな。




