第53話 ヴァナー戦 version南区域
「よし、じゃ、始めるわよ」
「う、うん!」
「あら? もしかしてルナ、緊張してるかしら?」
「だって・・・。また、人、殺すんでしょ?」
そうね・・・。ルナはこう見えて優しいから。魔物は良いけれど、人は殺せないのかもしれないわ。ああ、そうだ。魔物を倒すのも、最初は躊躇していたわね。
そうは言っても、ユーリが心配。前回の戦争の事もあるし、悪魔との戦いの事もある。早く此処を倒して王都に向かいたいところだわ。
「行くわよ、ルナ」
「うん、お母さん」
覚悟を決めて、ふっ切れて頂戴。確かに、私もあまり気が進まないわ。でも、ユーリの為だったら、私、何でもやるんだから。ね、ルナ、お母さんの我儘、許して。
南区の、ある大きな街を攻めることとなっているけれど・・・。ああ、此処ね。うわ、何かしら。大きな・・・。コンクリートの壁? これ、壊さなきゃいけないのかしら。
「壊すの?」
「じゃないと戦えないでしょ」
「なにで?」
「エレナに、これを貰ったのよ」
本当は、一律の力しか出せな爆弾は使いたくないのよね・・・。けどまあ、私の魔法でこのコンクリートの壁を壊すのは少し難しい。ほら、私、水魔法が得意なのよ。
という事で、思い切り投げた。
・・・。やり過ぎよ、これ! もう、警戒されちゃうじゃない・・・。いえ、もう遅かったでしょうね。誰も居ないわ。もう、馬鹿みたい! これじゃあ、戦うも何もないわ。
よし、じゃあ、ちょっと挑発しましょ。
「あら? みなさん、こんなか弱い女性と女の子に怯えて閉じこもっているの?」
「え、お母さん?」
「随分気弱ですこと。来て後悔しました」
「ちょっと待て!」
ふふ、器の小さい事。もう出てきたわ。ま、これ以上言葉を考える必要が無くなって嬉しいわよ?
殺気を込めて振り返ると、兵士は一歩後ずさりした。これだから、黒魔族の兵士は・・・。この程度で怯えないで頂戴? 楽しめないじゃないの。
「ルナ、ちょっとごめんね?」
「え・・・?!」
魔法で上手く操り、ルナを屋根の上に乗せる。一応、一番丈夫そうな建物を選んだわよ? ルナが乗った状態で倒れられちゃ困るもの。何が何でも守ってあげるんだから。ユーリとの間に出来た、愛の証だものね。って、ああもう、私ったら何考えてるのかしら! 一回落ち付きましょ。
「ふう・・・。さて、と。魔力使い過ぎても困るわね」
私はメイスを取り出す。少し重いけれど、この程度なら大丈夫。軽く素振りをしてから兵士に向かう。
鈍器というのは、VS鎧用に出来ているから、鎧を着た兵士ととっても相性がいいのよ? なにせ、鎧には良いクッションが入っているわけではないから。硬い金属の塊が頭に当たると・・・。分かるかしら? 鎧が平気でも中が怪しいわよ。
さて、じゃ、行くわよ! ユーリにも教えて貰ったし、接近戦の歩法はバッチリよ! 攻撃、防御の理論も頭に入っているわ。少し力では劣るかもしれないけれど、其処は魔法使いだもの、魔法も駆使して、すぐに倒してあげるんだから。
金属を殴ると、当然反動がある。ちょっと引っ張られたけれど、ついでに後ろの兵士まで殴る事になったわ。これが一石二鳥?
さて、次の兵士。殴るなら頭が一番。メイスの重みを利用して思い切り! がん、と大きい音が響くけれど、すぐ持ち上げて次。これも、出来るだけ力を使わないように持ちあげなくちゃね。ユーリが教えてくれたわ。
あら、向こうから円月輪が飛んできたわ。ひょいと避けると、後ろにいた兵士の首が斬れた。あらら・・・。
まあ、兜を被っていない兵士は鈍器で殴らなくても倒せるものね。それに、鎧を着ていない兵士って、私と相性悪いのよ。鈍器って重いから、相手が重い鎧を着て動きが遅くないと当たらないのよね。
って、あら? 首を貫通して戻っていく・・・。ルナが笑ってるわ。どんな力で投げてるのよ。それを受けとるって・・・。ま、まあ良いけれど。
今度はボーラ。近くの兵士の持っていた武器に絡まった。そうすると、鉄球の重みで武器を取り落とす。慌てたところを後ろから殴るってみた。うん、私とルナの相性は良さそうね。
「いい感じじゃない、ルナ」
「えへへ・・・。お母さんもね!」
「ふふ、まだまだよ!」
精霊に呼び掛けて、ウォームアップマジックを展開。ウォームアップマジックなんて、久しぶりだけれど、大丈夫かしら。
「雨!」
ちゃんと発動したみたい。大雨よ。私はその前にルナの居る屋根に登っていた。でないと・・・。
『わああ、冠水するぞ!』
『た、助けてくれー! メイジー!』
『は、はい、今!』
黒魔族語なんて、何言ってるのか分からないのだけれど、まあ、分からなくてもいいわね。
って、あらいけない。流石黒魔族ってだけあって、結構いい魔法使いが揃ってるみたい、解除されちゃうわ。
という事で。本気で妨害してやりましょう。ふふ、魔法使いたち、驚いてるみたい。全然魔法が利かないんだものね。
ルナが笑って言った。
「お母さん、凄い。登ってくるの、早かったね」
「其処? 違うところを褒めてくれないわけ?」
「そりゃあ、お母さんでしょ? 普通私が褒めて貰うのよ!」
「ちょっとくらい私を尊敬しなさいよ! 全く・・・」
そう笑っていると、殆どの兵は溺死したみたい。随分大人しくなったから。
けれど、油断は出来ないわね。演技かもしれないし。もう暫く放っておきましょ。
「もう良いかしら?」
水を消し去る。とはいえ、この水、一体何処から来て何処に消えたのかしら?
うん、ちゃんと倒せたみたい。私はルナを残して地面に降りる。生きてる人、居ないみたいね。
けれど、どうやら援軍が来たわ。何処から来たのか知らないけれど。
はぁ・・・。結構な人数居るじゃない。もう本当に面倒になってしまったわ。いいわよね? ちょっとくらい暴れても、誰も文句なんか言えないでしょう?
ルナの隣に戻って集中。そうね、なんの魔法が良いかしら。じゃあ・・・。光魔法、ね。
「ルナ! 魔力借りるわよ!」
「ええ?! ちょ、あっ!」
「行くわよ、天使の雨!」
カッ、と強い光が発生する。ふふ、私の魔法、受けて見なさい、愚かな黒魔族さんたち?
強い光は天に向かって集まっていき、上で雲を形成すると、雨の様に振ってくる。キラキラしていてとても綺麗。と思えるのは私がこの魔法を使ったからなのよね。黒魔族には効果絶大よ?
「お母さん! 私の魔力! 凄い取ったでしょ?!」
「御蔭で一掃出来たわ」
「・・・」
ルナは溜息を吐いてその場にしゃがみ込んだ。ごめんね、そんなに取るつもりはなかったのよ。
ルナから奪った魔力を私の周りに充満させ、自分の魔力でそれを制御しながら大きな魔法を放つ。こういう事はあまりやらないけれど、案外出来るものね。
「ごめんね、ルナ。これ飲んで」
「・・・。何、これ?」
「魔力が回復する薬よ。エレナは気休め程度だと言っていたけれどね」
ちょっと飲むのに抵抗あるわよね。蛍光緑の液体。ちょっとスライムみたいにどろっとしている。私は嫌、かな。そんなものをルナに渡すのは気が引けるのだけれど、この状態じゃあ仕方ないでしょう?
「うえ・・・。なんでこんな色なの?」
「そういうものなのよ。ほら」
「うぅ、分かった」
あら、ルナ、一気飲み。度胸あるわね・・・。
次の瞬間、さっきまで手の中にあったはずの瓶が音を立てて割れる。
「え・・・。なんか美味しい」
「うそ、本当?」
「え、飲んだ事ないの?」
「なんか嫌じゃない、蛍光色よ?」
「自分は飲みたくないっていうのに、私に飲ませたの?!」
地面に散らばったガラスを一瞥しながら話すルナ。容器落とすほど驚かなくても良いじゃない。
っていうか、あれ、美味しいの? エレナってば、どんなものを作ったのよ・・・。
「ルナ、魔力、少しは回復した?」
「あ・・。ほんとだ」
「じゃあ、もう兵も来ないみたいだし、ユーリの所に行くわよ」
「うん」
なんともないと良いんだけれど。寧ろ、もう倒し終わってエリーと談笑していてくれたらいい。けれど、そんな事はないでしょうね・・・。
まあ、とにかく無事でいて頂戴、すぐ向かうから!




