第48話 ディオネ
俺の任務があまりに激しくなり過ぎた為、家族みんなでやるようになってきている。
早春。今日はある孤立した小さな村の救済。ドラゴンが村に向かっているらしいので、倒す事になっている。
行ってみたら、驚いた事に、ドラゴンはとても小さかった。こんなの、子供達でも倒せる。
という事で、四人をぶつけてみた。ほらみろ、難なく倒して戻って来た。
が、ふと気が付いた。これって、俺たちが強すぎるのか?
「ありがとうございます、村を助けてく、れ・・・、って、え?」
修道服を着た女のたち子が俺たちの傍に近づいて来た。その集団の中で、明らかに違和感のあるロリィタファッションの女の子が俺たちに話しかけてきた。が、様子がおかしい。知ってる子か? 顔を良く眺めてみる。
「え、も、もしかして・・・」
「あの、ユリエルさん、ですか? お久しぶりです!」
『ディオネちゃん!』
俺とエディ、リリィが一斉に声を上げる。其処には、俺のイメージよりもずっと成長した紺色の髪の少女。修学旅行のあの試験で出会った、白魔族ディオネだ。
「その節は、どうも。あの薬で、お姉さん、よくなったんですよ」
「そうか、なら良かった。此処って・・・」
「お姉さんの作った村なんです。見た目とかにコンプレックスのある子を集めて」
そう言って微笑む。この服は別に何かあるわけではなく、単純に好みらしい。大きなぐるぐる渦を巻いたロリポップを片手に持っていた。
「え、あ、これですか? 私が初めてここに来た時、お姉さんがくれて、それ以来、手放せなくなっちゃって」
「でも、会ったとき・・・」
「あの時は、必死でしたから。それどころじゃありませんでした」
そう言って一舐め。本当に好きらしい。濃い目の桃色と白の渦巻きだから、苺味だろうか?
ディオネは例のお姉さんを紹介してくれる事になった。
「お姉さん、此方、お薬取りに行った時に協力して頂いたユリエルさん、エディナさん、リリィさんです」
「ああ、ディオネちゃん、わざわざおおきに」
「いえ。此方が、私がお姉さんと呼んでいるテルシュさん・・・」
「ちょっと待って!」
ティナが、いつも優雅なティナがあり得ないほど大きな声で叫んだ。俺たちは驚いてティナを見つめる。
そのお姉さんは、視界を塞いでしまう大きなフードをゆっくりと外す。大きな狐の耳に、雪の様に白い髪、赤い瞳。ティナそっくりだった。
「御姉様! 一体、どういうことなのですか?!」
「ティナ、ティナなん? なんで此処に?」
「どうしては此方のセリフです! 家を飛び出したと思ったら・・・。一体、何をしてらっしゃるんです?」
ティナの、お姉さん?
ティナのお姉さんテルシュさんは、ティナと同じように舞を得意としていた。
が、舞を強いられる生活を苦痛に感じていたテルシュさんは、家を飛び出してしまったらしい。その時、まだ十五歳だったらしい。テルシュさんは俺の一つ上で、ティナとは五つ離れている。と言うと、ディオネを拾ったのは、まだ家を出てそんなに経っていなかったのかもしれないな。
「かてうち、ほんまに舞をやりたくなかったん。たやたや辛いやけで、楽しく、なかったから」
「じゃあ、何で、其処までやって・・・」
「口調ん事? そないんどないやてええでしょ。かて、いつ止めたってうちん勝手でしょ?」
「でも・・・。私、御姉様の上品な口調に憧れて、舞の世界に入ったのに」
「いつまでそない綺麗事を? 本音を言わはったらどないなん」
テルシュさんは少し変わった口調でティナと言い争う。なんだか、少し上品に聞こえる。
けれど・・・。なんだかドロドロしてる・・・? 一体、どういう事なんだろうな・・・。
「私は御姉様の着物姿が好きだった! 紅の着物、とっても、似合ってた。その格好でその言葉。とっても、綺麗で。舞も、素敵だった」
「どなたはんがうちん事をどない思っていようと関係いでしょ。うちは、かな辛い練習に其処までん価値がおますとは思えへんやけ」
テルシュさんはふぅと溜息を吐いた。その涼しい表情を見て、ティナは泣きそうな顔で俯いた。
「御姉様は、本当に、もう一度やる気は、ないん、ですね?」
「今んトコは、へん。うちは、こん生活が気に入っとるから」
ティナもはぁ、と息を吐きだし、俺たちに向かって困ったような笑顔を向ける。
「ごめんなさい、こんなところを見せてしまって」
「いや、良いけど・・・。大丈夫か?」
「はい。こんな言い合いしてしまってすみません。・・・さて。御姉様。会えて嬉しいです!」
「ほんまに、相変わらず気分ん切り替えが早いこと。ま、それがティナんええトコやけれど」
ティナの笑顔を見て、テルシュさんもうっすらと微笑む。本当は仲の良い姉妹なのだろう。
ディオネに家の家族を紹介している間に、ティナはテルシュさんに言いたい事を全て言い終えたようだ。
「そんなら、ティナはユリエルはんんお嫁はんに?」
「そう言う事に、なります」
「うちよりおさきに。まあ、幸せならなんよりええね。おめでとうさん」
テルシュさんの顔は、優しい姉の顔そのものだった。
「さて、あたしはこれで。また今度な」
「でも、御姉様。その前に、本当の事、教えて下さいな?」
テルシュさんは足を止め、ティナを振り返った。
「そら、一体どないなことなん?」
「本当の理由です。なんで、芸妓になる前に止めたんです?」
「こら驚おいやした。いつから気づいとったん?」
「いや、いつから、というか、その、なんとなく・・・。姉妹、ですから」
テルシュさんはさっきと同じ位置に座り、ティナを見つめて言った。
「髪ん色」
「・・・。え?」
「芸妓と言うたら黒髪でしょ? うちん髪ん色では出世でけへんから」
「ど、どういう・・・」
「そう言われたんや。ほしてやる気なくならへん人なんておらんでしょ!」
テルシュさんはそう言うと、うっすらと涙を浮かべた。
「染めてみてもよかった。やけど、みんなが心配しはるんやないかと思って」
「・・・。ごめんなさい、御姉様」
「何となく、気付いてたんですよ。家の村は、芸妓を育成する為の村なんですけれどね。黒髪が、殆どですから」
「じゃあ、ティナは・・・」
「偶々、王様の目にとまったんです。それで、スカウトを受けて」
芸妓と言えば、祝宴で酒を注いだり、舞を踊る人の事だな。随分前に無くなったと聞いていたが、ある村で残っていたらしい。どうやら、和の国からの移住者たちらしい。
「あても、使おうと思えばでける。やけど・・・。あんまり、似合いまへんでしょ? やから、使わんようにしたはるんや。それに、女王様が、好きな方でええとおっしゃってくれたしな」
昔から、芸妓の中で使われていた言葉。本当は何処かの訛らしいけれど、今は芸妓の言葉として定着しているらしい。
そんな中、ディオネがティナの顔色を覗いつつ言う。
「あ、あの、ごめんなさい。最初、ユリエルさんたちに会った時、御姉様の言ったとおりに伝えておけばよかったんですけれど・・・。上手く真似できないから、何となくで、伝えてしまって。こういう感じだって、言っておけばティナさん・・・」
「あ、ああ、ディオネちゃんは気にしないで良いんですよ。寧ろ、謝りたいです。折角親切心で会わせて下さったのに、こんなことになってしまって」
「い、いえ、そんなこと、お気になさらず!」
このままだと二人とも引かなくて終わらなくなりそうだ。適当なところで切らせておく。
「にしても、ティナ、姉居たのね?」
「はい。特に、言う必要もありませんでしたし」
「まあそうだよね。それに、ティナちゃん、あんまり言いたくなかったでしょ?」
「まあ、それもありますね」
そんな話をしていると、すぐに村の出入り口まで着いた。ディオネとは別れる事になる。
「あ、あの。私、特に何か出来るわけでもありません。でも、その、何かあったら、手伝わせて下さい! なんでもいいんです、恩返しがしたいです」
「・・・。わかった。連絡は・・・」
「携帯電話なら、あります」
ディオネをメールアドレスを交換。ついでに、テルシュさんの事もあり、ティナとも交換。何かあったらと言っても、ディオネが何とか出来る様な問題って何なんだろう。なんだったら呼んでいいのか。
「い、一応、魔法を少し。ええと、後方支援の」
「回復?」
「ええと、連絡系とか、相手の様子を見るとか、そういうのも出来ます」
へえ。結構変わった魔法が使えるんだな。やっぱり、この子の種族が良く分からん。
まあ、それはともかく。ペコっと頭を下げるディオネを見ながら俺たちは家へ向かう。
「あ、お兄ちゃん。このお城、入るの勇気要らない?」
「俺の家だぞ、何で勇気なんか」
「俺ちょっと嫌かも」
「やっぱ、男の子は嫌だと思うんじゃないかな、お兄ちゃん?」
エド、これ嫌だったのか? もっと早く言ってくれよ。
って、そうじゃなくて。なんで家の前にユーナが立ってるんだよ。
「ちょっと良いかな。あ、でも、もう遅くなっちゃったし・・・。うん、じゃ、明日家に来て」
「え? はあ・・・」
「絶対だよ?!」
「保証は出来ない。仕事が入るかもしれないし」
「わかったよ・・・。出来れば来て」
「ああ」
まあ、それなら良いだろう。絶対来て、と言われたら、行けなかった場合が怖い。
何かあったんだろうか、と思った途端、急に色々な考えが廻る。明日絶対来て、なんて言う位だから、結構大きな問題? 何かあったんだろうか・・・。
「ユーリ? どうかしたの?」
「いや・・・。何かあったのかな、って」
「気になるわね。けど、呼ばれたのはユーリだけみたいだし、ついて行かないわよ?」
「ああ、わかった。もし仕事入ったら、みんなだけでも行けるか?」
『うん』
じゃあ、とりあえずは行けそうだな。一体、何なんだろう・・・。




