第39話 大飢饉と賢音
いや、まさかこんなことになるとは。流石に、俺もどうしようもないな。
アルファズール大陸は、大飢饉の間最中だ。
というのも、何処かで起こった噴火の火山灰? が風に乗ってやって来て、大陸を覆ってしまい、日照時間不足により作物があまり育たなかったらしいのだ。
さて、どうしよう。このままだと冬を乗り越えられそうもない。とはいえ、大陸中凶作となれば、どうする事も出来ないではないか。
「特にヴァナーは酷いです。もう壊滅した農村も沢山あるそうで」
「そうか。それは俺もどうしようもないしな」
「暫くは魔物を狩って生活しなくちゃいけなくなりそうですね」
いや、今までだってそうしていた。が、頻度が違うだろう。それに、値段も一気に上昇すると考えられる。このままだと、大陸が一つダメになる。そんな事ってあるのか?
この大陸で噴火したという情報は無いから、やっぱり他の場所にも大陸があるのだろう。海を渡る術がないもは相変わらずだが。
此処までの大凶作は滅多にない。だから対策法が無い。というか、どう頑張っても無いものは無いのだ、仕方がない。それこそ、海を渡れれば、何処かの大陸に援助を貰う事も可能だろうが。
という頃で、俺と女王様は悩んでいるのだ。このままだと絶対に一揆が起こる。
「・・・実際、もう起きているのです、一揆は。武力で解決してしまいましたが、出来ればそんな事はしたくありません」
「ですよね」
女王様は優しい人だ。だから、この状況を大変辛く思っている。が、解決方法は一向に見つからない。一通り悩んだが結局見つからなかったので、作戦を考えるのがとっても得意なエディに力を借りることにした。
「ああ、そういう事。いいわよ、考えておくわ」
数日後。王城の前に沢山の人が集まった。呼んだわけではない。むしろ来て欲しくなかった。一番心配していたことだったのだから。
だけれど、今はエディの考えた作戦がある。一か八か。
女王様がバルコニーに立つ。いつも煌びやかなドレスではなく、割と地味なドレスを纏って。手には、袋に入ったパンを沢山。
何をするのか。格好でもう分かるだろ。次々に下に居る人たちに向かって投げる。俺たち家族は少し遠くから、その様子を眺める。
「皆さま、分かっています、今、大凶作によって、苦しんでいる事を。ですが、此処にもそれほど多くの食料があるわけではないのです」
そう。みんな、王家は贅沢をしていると思い込んでいるようだが、女王様は出来るだけみんなと同じように、と、其処まで贅沢をしているわけでもない。特に今は、豪華とは言えない食事だが、女王様は
「皆さんはもっと大変な思いをしているでしょう」
というだけだ。
「お願いです。大変な時は、争うのではなく、助け合いましょう。どうか、協力して、この飢饉をを乗り越えましょう!」
エディの作戦とは。
「女王様の本音を言うのよ。ただ、嘘っぽく聞こえても困るわ。その為に幾つか。まず、出来るだけ地味な格好をさせて。で、出来る限りのパンを撒けばいいわ。みんなを助ける気はあるけれど、それが出来ない、って、分かって貰えるんじゃないかしら? それでだめなら、別の作戦を考えるから」
泣きながら叫ぶ女王様の声。それと降ってくるパンに、みんな唖然としている。こんなことになるとは思っていなかったのだろう。一揆は、大抵武力で押さえつけられるものなのだ。その証拠に、みんな武器を持っている。
まあ、女王様が優しい人だという事くらい、みんな知っている。まだ幼いというのに、母親も、父親も亡くなってしまい、たった一人でパクスを動かしていかなければいけない。その責任は、俺たちの想像をはるかに超えるものがあるのだろう。だからこそ、信じてくれる、エディはそういった。今までの行いは、決して無駄ではない、と。
「ありがとうございました、エディナさん。助かりました。・・・私がいけないんです。もっと早くこうなる事を予測して、凶作にならないよう対策をしなくてはいけなかったのです。例えば、強制的に風魔法で晴らす・・・。と他の所に行くだけですから、では、光魔法、日光などは使えたのかもしれません。ですが、魔王の攻撃の対処で手一杯だったもので・・・」
最近魔物が強くなっているのは、全て魔王のせいだと考えてられている。というか、それしかないだろ。魔物の活性化とか、魔王以外に出来るはずがない。女王様はそちらの対応に追われていて、他の事に気を配る余裕がなかったのだろう。その証拠に、最近依頼の紙が多い。俺の方に回ってくる仕事が多いという事は、それほど沢山の魔物が村や町を襲っていたのだろう。
「うう・・・。一体、どうしたらいいのでしょう。このままでは冬を越すことはできません。まだ十一月だというのに・・・」
そのとき、ある人が部屋に入って来た。服装から、此処の使いだろう。女王様は俺とその家族しか部屋に入らないよう言っていたのに、それでも入って来たという事は、随分急用なのだろう。
「女王様! 少し、よろしいでしょうか?」
「えぇ・・・・?!」
「なんてことなの・・・」
パクスにある海。俺が前、一人出来た場所だ。其処に、大きな機械があった。金属で出来ていて、川に渡すボートの様なもの? (あ、波のある海では壊れてしまうが、小さな川に渡す程度のボートなら存在するのだ)だが、もっと大きくて、塔みたいなものがあったり、とにかく大きい。
「あなたが剣神様でしょうか? それと、女王様でいらっしゃいますね?」
「あ、はい」
「私はケント。賢いに音と書いて賢音です」
「・・・名前に漢字」
すぐにエレナの顔が浮かんだが、まあ良いとして。この機械は一体何だ?
「これは軍艦。戦闘用の船です。まあ、ゆっくり話し合いましょう?」
賢音というその人は、和の島から来たと言った。小さな島だが、とても工業技術が発達しているらしい。そこで、このグンカンの製造に成功したらしい。今は空を飛ぶヒコウキの製造を目標としているらしい。
「いや、でも、なんでこんなに軍艦を作るのが難しいのか分かりました。地球よりも波は高いし、魔物は出るし。地球の船じゃ一瞬で壊れそうだ」
「・・・チキュウ?」
「ああいや、何でもないさ。空も凄いですね、風は強いし、恐ろしい鳥の魔物は居るし。これも地球の飛行機だったら一瞬で墜ら・・・。いや、何でもないです」
よく分からないが、彼は今のこの大陸の状況を聞いて、すぐに船を動かして食料を持って来ると言った。
「よく分かりませんが・・・。助けてくれるのであれば、とても嬉しいです。けれど、どうしてでしょう?」
王女様が問う。と、彼は笑って答えた。
「それは当然、魔王討伐に、この国が必要だからですよ。俺は此処に居るから、お前ら、必要のない荷物全部降ろして! それから、往復、出来るな?」
『はい、もちろんです!』
家来たちはすぐに言われたとおり荷物を下ろし、グンカンに乗り込み、そのまま出発してしまった。
賢音は女王様が敬語を使わなくてもいい、と言ったのでニコッと笑って普通に喋り出す。
「さて。此処からが本題なので。俺は、自国では時間を操るもの、なんて呼ばれていたんだけどね、まあ、そんな事は出来ないんだけど。でも、好きな時間に移動する事なら出来るんだ」
・・・、好きな時間に、移動する?
「うん、場所は無理だけど、時間だけなら好きに移動できるんだ。十年後でも、百年前でも、好きなところにね」
「そ、そんな事が出来るんですか?」
「まあね。この国にある預言書、俺が書いたものだって言えば信じるかな」
「本気で言ってます?」
「俺は至って真面目だよ?」
王女様は驚いたようだった。俺も同じだ。ちなみに、一緒に来た俺の家族もみんな驚いている。
彼はそんな俺たちを見て、少し楽しそうに笑うと、話を続ける。
「信じてくれるんだ? まあ、それでね、ずっと昔、ええと、二千年位? 昔はね、沢山の機械が溢れ、魔法を使えない種族の人のみが暮らしてたんだけど、その時起きた天変地異で、殆どの人が死んじゃったんだ。ある日、生き残った人の突然変異で、白魔族の女の子が生まれた。彼女の子孫には、白魔族が沢山居た。そうして、魔法の使える人が増えていった。いつの間にか、魔法が広まっていった」
「そうすると、魔力というものが星に溢れ返り、其処から魔物が生まれる。人間もそれに抗う為、突然変異を繰り返し、人種が変わっていく。そうして、いつの間にか、大陸ごとに人間、白魔族、黒魔即、獣人、小人、巨人が定着したんだ」
「だけど、ある時、黒魔族の王が、星を支配したい、って考えたんだ。これは千年位前。それで、魔王になった。その頃には、船によって沢山の人が大陸を行き来していたから、前はこの大陸にはなんの種族が住んでいる、っていうのがあったんだけど、それがもうほぼ無くなっちゃっていてね、魔王は黒魔族を介して支配する方法を考えたんだ」
「でも、もともと人間の住んでいた大陸、今はアルファズールっていうんだっけ。其処に住んでいた剣神を名乗ってた男の人が、その魔王を倒した。子供の力も封印したから、悪さは出来なくなったんだ。でも、その戦いによって船はみんな壊れちゃうし、造れる人もまずは大陸の復興で、それどころじゃなくなって、船を作る技術が無くなったんだ」
賢音は昔話を、自分で見てきたかのように俺たちに話す。いや、実際見てきたのだろう。楽しそうに語り、終わったらしく、目を開ける。澄んだ、綺麗な目。邪気が全くない。
「ってことで、今やっと船を作る技術が復活した。はい、信じてくれますか?」
「ま、まあ、信じるよ。でも、なんでそれを?」
「簡単だよ。魔王を倒せるのが君、ユリエルくんしかいないからさ。その為には、俺の事を信じて貰うしかない」
魔王・・・。ずっと倒そうとは思っていた。けれど、俺しか倒せない、なんて言われると・・・。燃えるじゃないか。
「分かった。これからよろしく頼みます」
「任せて。一緒に魔王を倒そう」




