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第38話  赤い剣

「お、お父様。お願いが、あるの」

「ん、なんだ?」

「近くの村に、魔物が出たって、聞いたの・・・。助けに行きたい。けど、私だけじゃ、きっと・・・。無理、なの」

「一緒に行けばいいのか?」

「あ、その・・・。ま、まあ、そう、なの」


 エリーの些細な表情の変化に気づけるようになってきた。それはともかく、今のこの表情。むちゃくちゃ可愛い。ちょっとだけ頬を染めて視線を逸らす。

 にしても、最近よく村が魔物に襲われる事件を聞く。これも魔王のせいなんだろうな。

 珍しいエリーのお願いだ。聞かない訳はない。すぐ其処らしいので、二人で出掛ける事にした。せっかくの休日だが、まあ良いだろう。


「ごめんなさい、珍しくお休みだったのに」

「いや、気にしないで良いぞ。にしても、そんな事聞いてないんだが・・・」

「・・・小さい村まで助けてたら、きりが無い、の」

「そう、か」


 俺の仕事というのは主に人助けになるのだろうか。王城やギルドに寄せられた依頼の内、難しめのものが全て送られてくるらしい。今日は偶々なかったのだ。だから休み。朝七時までに来なかったら無い、らしい。王女・・・、女王様が言っていた。

 まあ、その休みもこうやって出かけているのでは、よほどの物好きを思われるのかもしれない。


 魔物を倒し、些細なお礼を貰って帰ると、ルナがエドと共に家から出てきた。珍しい。

「お父さん! エド兄と草原に魔物退治に行ってくる!」

「行ってらっしゃい。怪我しない様にな」

「ああ! 行ってくる!」


 ルナは人見知りが激しいからあまり家の外に出なかったんだが・・・。最近エドと一緒に出かける事が多い。流石お兄ちゃん、妹が一人で家の外に出られない事に気が付いていたんだろう。ルナも楽しそうだし良いな。


「あぁ、お父さん。お帰りなさぁい」

「ただいま、リーサ。・・・メリーとエディ、リリィにティナは?」

「お母さんとリリィさんは二人でお買い物に行ったよぉ。エディさんはエレナさんの所に遊びに行ったの。ティナさんは庭に居ると思うよぉ」

「ありがとう」

「あ、エリーちゃん、この問題、手伝ってぇ」


 リーサとエリーは何かの本を見ながら話し始めたので、ティナを探しに庭に行く事にした。

 うちの庭は、クリスタによって綺麗に彩られているが、最近はティナもクリスタに教わりつつやるようになってきている。


「ティナ、クリスタ」

「! ユリエル様。御戻りでしたか。気づかず、申しわけございません」

「ユーリさん、お帰りなさい。どうですか、沢山の花が咲いていますよ」


 クリスタは慌てた様子で頭を下げ、ティナは自分たちの育てた花を自慢してくる。同じ状況だというのに、立場と性格によって此処まで違うものか。

「おお、凄い綺麗だな・・・。なんて花だ?」

「全部説明する事は不可能です。ですが・・・。そうですね、此方はハーブコーナーなのですが、今、ハーブティーを入れようと思っていたところです。此方を説明させていただきましょうか」


 そうして、なんて花か、などと訊いた事を後悔する事になる。カモミールやらアップルミントやらペパーミントやらオレガノやら。わけのわからないハーブの名前を聞かされることとなった。

 まあ、その後に飲んだハーブティーはとても美味しかった事は間違いない。エリーも気に入ったようだ。結構飲み物に厳しいんだけどな。今エリーの飲んでいるコーヒーも、さまざまな種類を試してやっと気に入ったものだった。


「美味しい・・・。スッとするの・・・」

「喜んで頂けて光栄です。そうですね、アナとティナ様にも教えておきましょう。私がいなくても、エリー様に入れて差し上げられるよう」

「わぁ、ありがとうございます! 楽しみです」


 ティナは嬉しそうに笑う。釣られてクリスタも微笑んだ。って、え?! クリスタ・・・。エリー並みに表情崩さないのに。珍しいけれど、家族の一員として生活する気になってくれたのかもしれないな。


「あっつい! もう七月? そりゃ暑いよね」

「ただいまー。ん、何飲んでるんだ?」

「ハーブティーです。エド様、ルナ様も試してみますか?」

『お願いします』


 ルナはセーラー服の袖をまくって椅子の背凭れに寄り掛かる。いや、暑いのは分かるけど。まあいつも通りか。エドが笑ってルナの姿勢を直すさせる。ちなみに、戦う時は鎧を着るエドも、普段は俺と同じような格好だ。ティナは相変わらず和服だな。似合っているから、変えられても困るんだが。

 この中で一番涼しそうに見えるのは・・・。リーサだな。袖の無いワンピース。流石にマフラーとマントは外しているし。エリーも結構涼しそう。何となく入院服に似たようなワンピースを好んでいる。


「あ・・・。お母様、帰って来たの」

「なんでだ?」

「この風・・・。お母様、なの」


 そういえば、さっきから涼しい風が部屋に入ってくるが・・・。

 あ、扉の開く音。よく分かったな。魔力とかだろうか? メリーとリリィの声が聞こえる。


「お母様、お帰り、なの。涼しい風、ありがとうなの」

「え? あ、よく気付いたね。外あんまり暑かったから、風冷たくしちゃった」

「そういう事か。エリー凄いな」

「わ、私だってお母さんの魔力位分かるよ!」

 い、いや、ルナ、張り合っても仕方ないから。気持ちは分かるけどな。



「ユーリ、起きて、おーきーてっ!」

「んん・・・。メリー・・・?」

「お父さん来てるよ。ほら、早く」


 時計を見ると朝六時半。面倒だけれど適当に着替え、扉を開けると父さんが居た。知ってたけど。聞いたけど。

「ユリエル。・・・ん、どうかしたか?」

「いえ。なんでもない、です」


 実際、もの凄く機嫌が悪い。というのも、昨日、仕事で少し遠くまで行き、数カ所回ったので、最後の場所の魔物を倒し終わるときにはもう深夜だった。電車はもう無いらしい。

 泊まっていけ、と言われたが、どうやら貧しい村らしく、その上魔物に畑を荒らされ、食糧不足に悩まされていた。そこで、俺を歓迎するのは相当の痛手になるだろう。で。仕方ないから頑張って歩いてきた。街灯は一切無いので、精霊ディーナに手伝って貰い、歩ける程度に明るくして、何とか帰って来たのが昨日、というか今日四時。まあ、これくらいの時間になってしまう事はよくあるし、その事自体はいいのだけれど。さっき寝たというのに起こされたのだ、機嫌が悪いのは当然というか。


「じゃあ、手短に済ますぞ。ほら、これをやる」

「はぁ。なんでこんな時間なんです?」

「俺は今から出掛けるんだ。じゃあ、渡したからな」


 なんだ、剣? なんでこんなものを・・・、ってもう居ないし。なんだよいきなり・・・。

 わけが分からないまま家に入ると、メリーが首を傾げていた。視線は俺の手の中。


「何それ?」

「分からん。今急に渡された。今からどこか行くっていうんで、何も聞く前に消えた」

「そう。珍しいね、剣のプレゼントなんて。しかも、何でも無いのに」

「だよなぁ。凄く不思議」


 とにかく、今は何も考えたくない。全く、なんでこんな時間に来たんだ。もう少し遅ければよかったのに。誰にでも無く文句を言いつつ自分の部屋に戻る。

 この時、俺は剣を鞘から一度も抜かなかったのだ・・・。



「って、はああ?!」

 午前十一時。今起きたところ。誰も起こしに来やしない。気が付いたらこの時間だった。

 で、いま、剣を鞘から抜いて、俺は初めてこの剣の意味を知った。

 ――真っ赤な剣身のバスタードソード。


「なあ、メリー、エディ、リリィ、ティナ! おかしいぞ、これ!」

「あ、ユーリおはよう。どうしたの?」

「な・・・。メリー、見なさい、あの剣」

「え、赤いけど・・・。ユーリ様?」

「も、もしかして・・・」


 一体、何を考えているというのだろう。ま、まさか、今から死ぬつもりだとかいうんじゃないよな?! 出掛けるって、死んでしまう任務に行くとか?! どういう事なんだよ、父さん! 

 凄く綺麗で、切れ味も良さそうな剣だ。だが、そういう問題じゃない。真っ赤な剣身の剣。それは剣神の証だ。この剣を持っているという事は、俺が剣神になるという事で、つまり父さんが剣神の名を俺に譲った事になる。何故?! わけが分からない。それで、死ぬつもりなのかと考えてしまったわけだが。別に、そんな様子は無かったと思うんだよな。あまりよく覚えていないが。


「とりあえず、話した方が良いんじゃないかな、お父さんと」

「いやでも、出掛けるって言ってたんだ。多分、家には居ないぞ」

「うーん、そうね・・・」

 エディが提案してきた。

「じゃあ、こんなのはどうかしら?」



「うおっ?! ああ、ユリエルか、脅かすなよ。一体、何故家に?」

「今晩は、父さん。今朝はどうも。これは一体、どういう事ですかね?」


 現在午後六時。家の前で待ち伏せしていた俺は、真っ赤な剣を父さんに向ける。エディの提案はとってもシンプル。『家の前で待ち伏せしたらどうかしら?』と。で、こういう状態になっている。新しく、まだ何も斬っていない剣。使った事が無いのに、俺にピッタリ合うのがとても不思議なのだが。俺が選んだわけでもないのに。

 ともかく。それを見た父さんは、すっと自分の剣を抜く。ほんのり赤いのは、ふき取りきれなかった血の色。・・・どう見ても、普通の剣だ。


「赤い剣、似合うな。お前が使うのはバスタードソードだろ? 何か問題があったか?」

「そうではなくて! 俺はまだ、父さんに勝った事、無いじゃないですか・・・」

 俺はそっと俯いた。何で、教えてくれないのか。どうして俺に名を譲るのか、教えてくれないと、自信が持てない。


「剣神に一番必要とされているのは『力を何処まで他人の為に仕えるか』だと、俺は思っている」

「え?」

「誰かの為に。それが、一番全力で戦う時に重要になる。お前は、昔の俺よりずっと人助けを行っているようだ」

「だからって・・・!」


 父さんは無言で剣を鞘に仕舞う。そうして、綺麗な封筒をを此方に投げた。

「ま、実際はこれの御蔭だろう。どうだ、満足か?」

「な・・・」


 もう、反論など出来まい。女王様直筆。俺を剣神にして欲しいという手紙だ。理由は女王や、その他諸々、重要人物と面識があるほか、人を助けるための努力を惜しまない人だから、らしい。二つ目はともかく、一つ目はわけが分からない。重要人物って、一体誰だ?


「何だ、知らないのか? ティナはもちろん、メリッサやエディナもだ」

「ど、どういう事です?」

「キングストンも、ベルトワーズも、ルーズヴェルトと同じくらい有名な家。昔は王家に仕えていたんだ。その家の令嬢となれば、重要人物といっても差し支えない」

「は? メリーとエディが?」

「ああ。そのうえ、Sクラス卒業生というだけでアルファズール大陸にとって重要な人物になる。王女様を助けた事もあるだろう? そういう様々なこと、でいいだろう」


 ティナは何となく分かっていたが、メリーもエディも・・・。となれば、取り返そうとしてきたあいつらの気持ちも分かるというか・・・。いや、でも、ルーズヴェルトも同じくらい有名だし・・・。

 と、ともかく、女王様直々となれば断るなんて出来るはずもない。諦めて、この剣は貰う事にした。


「ほら、遅くなると心配するんじゃないか? 早く帰ってやれ」

「あ、そうでした。と、とりあえず、剣神として頑張ります!」

「ああ。じゃあな」


 剣神か・・・。なりたいと思っていたけれど、いざなってみると、別に何でもない。というか、父さんに勝って、奪いたかったのに。なんでこんな事に・・・。ああ、でも、それ目標だったから、もし魔王を倒すぞ、なんて思ってなかったら、目標が無くて、どうしていいのか分からなかったかもしれないな。

 剣神にはなった。なら、次は魔王を倒す事。これが目標になる。なら、今まで以上にもっと鍛えていかないと、か。

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