第25話 黒魔族だから・・・
「うっ・・・、うっ・・・」
「?! リーサっ! 一体どうしたの?」
メリーが叫ぶ。それもそうだ。少し前、「お友達と遊ぶ約束をしたの」と楽しそうに出かけた少女が、まさか泣いて帰ってくるなんて思いもしなかった。
エドとルナが動作をピタリと止め、何か知っているかのように顔を見合わせる。
「・・・。二人とも、何か、知ってるのか?」
「うーん、知ってるって言えば、知ってるよ」
「どういう事だ?」
「多分・・・。紫の目が原因じゃないか?」
メリーがピクリと肩を揺らす。俺たちはとりあえずメリーをソファに座らせて、何があったのか聞いてみた。
「黒魔族とは遊んじゃダメって、言われたってぇ。折角、お友達、出来たのに」
「・・・?」
「えっと・・・。この前、リーサ姉さん、ある子を助けて。友達になったらしいけど」
「リーサお姉ちゃんの目、紫だから。黒魔族だから」
「まだ、黒魔族差別は酷いんだな」
王城に行った時、メリーやリーサの事は何も言われなかった。でも、黒魔族差別が無くなったわけではないのだ。流石に王様はそんな事はしない。けれど・・・、みんな、やっぱり、黒魔族の事を嫌っているんだ。だから、魔王が嫌いだ。
「大丈夫だよ、リーサ。リーサは悪くない」
「でも・・・。酷いよぉ。何でぇ、黒魔族だからってぇ・・・」
メリーが泣くのを堪えるように唇を噛み締めるのを、俺は見逃さなかった。
メリーのせいじゃないのに。メリーだって、何も悪くない。黒魔族の何が悪いんだ・・・。
こんな世の中で良いなんて、思えない。やっぱり、魔王は倒さなくちゃいけない。
「私が黒魔族じゃなかったら、リーサは・・・」
「メリー、それ以上言うな。メリーは悪くない」
「そうだよ。でも、酷いよね。泣いて帰ってきた」
エドとルナがリーサを連れて言った後。リーサは暗い顔をしていた。でも、不思議と泣きそうではなかった。どちらかと言えば、怒っていて、復讐してやると心に誓ったかのようだった。
メリーは俺の肩に頭を乗せて、はぁと溜息をついた。
「分かったよ。ユーリが、魔王を倒すって誓った時の気持ち。私と会えなくなった時の気持ち」
「今までは、分からなかったか?」
「うん。ユーリと会えなくなっても、いつものこと、って思い込もうとしてて、それどころじゃなかった」
「そうか。それは・・・」
「えへへ・・・。多分、現実逃避だよ」
普通は、魔王を倒すって思いには至らないかもしれない。だって、倒せないから王なんだし。
でも、今、リーサが泣いてる。愛娘が泣いてる。悔しくて、でも、行き場は無くて。わけが分からなくなってくると、ぶっ飛んだ答えが出てくる。リーサもメリーも、こんな目に会うのは、魔王のせいだ。それはじきに怒りに変わる。
「魔王、倒すよ。リーサの為に。・・・。ユーリの為でも、私の為でもあるかな」
メリーは、遠い目をし、自分に言い聞かせるようそう言った。
それから少しして、夕食の前。俺の部屋の扉がノックされた。扉を開けると、其処に居たのはリーサ。俺は中に入るよう言って、椅子を指し、俺自身もその近くに座る。
「お父さん。お父さんは、魔王を倒すって、言ってるんだよねぇ?」
「何処で聞いた?」
「それは言えないけれど・・・。あのね、私も一緒に行きたいんだ」
「・・・え? い、いや、危ないぞ? 死ぬかも、しれない」
リーサは真剣な目で俺を見ていた。ふざけているわけじゃなくて、本心から。
「・・・。何で、そう思った?」
「さっきの事。あの子のお母さんは、黒魔族を怖がってた。なんで? 黒魔族を操って街を壊したり、人殺しをする人がいるから。それは誰? 魔王だ。許せないよぉ・・・。折角友達できたのにぃ・・・」
やっぱりこの子も、黒魔族なんだ。紫色の目がギラッと光る。リーサの後ろに、紫の炎が見えた気がした。怒っているはずなのに、何故か、口元は三日月を描く。
「ぜぇったいに、復讐してあげるからねぇ? 黒魔族に手を出したこと、後悔させてあげるよぉ」
「なあ。この中で、俺が魔王を倒す、って言ったら、ついてくるのは誰だ?」
『え?』
「いや・・・。何となく。正直に答えてくれないか?」
夕食の終わりに近い頃。俺が言うと、みんなは首を傾げたり、他の人の顔色を覗っていたりしたけれど、すぐに手を挙げた。みんな、ついてくる、か。
「でも、なんで?」
「いや、ちょっと気になって。そうか。みんな、ついてくる気なのか」
となれば・・・。みんなが死なないよう、鍛え上げるしかない。
次の日、俺たちの家に沢山の人が集まっていた。
「メリッサ御譲様! 助けに参りました!」
『・・・、は?』
どうやら、キングストンの人たちが来たらしい。どうしてかというと・・・。
メリーのお母さんは、他の人たちに具体的な事を伝えなかった。その為、無理やり何処かに連れていかれたのではないかと捜索を始める。すると、なんと宿敵ルーズヴェルトに嫁いだと分かったのだ。
それから、約五年かけ、戦力を整え、メリーを取り返しに来たらしい。何とも馬鹿げた話だ。
「ねえ、どうすればいいと思う?」
「そんなこと言われてもな。だが、このままだと戦争だな」
「えぇ?! それ、本当に言ってるのか?!」
「ああ、エド。残念ながらな」
キングストンとルーズヴェルトの仲の悪さは知っている。昔から領土争いもしていたそうだし。この機会に潰してしまいたいと考えることもあり得る。だからこうして考えているのだ。出来るだけ彼らを刺激しない、が、今すぐここから立ち退いてもらう方法を。
「じゃあ、いっそのこと戦争したらどうだ? 勝ったらもう、向こうも文句言えないぞ?」
「とはいってもな、エド。そう簡単な問題じゃないんだ。相当な死人が出るぞ。魔王戦に向けて、それは避けたい」
「そんな事を言ってられないのが今の状況、でしょう?」
「エディ・・・。やる、か?」
みんなは無言で頷いた。俺だって、この事を考えていなかったわけじゃない。メリーと結婚してから、ずっと、頭の片隅にあった。実際に来て欲しくは、なかったけれど。
となれば宣戦布告から始めるしかない。俺たちは二階のバルコニーに行く。
「メ、メリッサ御譲様!」
「煩いわ、黙って頂戴」
「お、御譲様・・・?」
メリーの表情は冷たかった。今まで、見た事のない表情。怒っているわけではない。とにかく冷たかった。
残念ながら頭のよろしく無い黒魔族の兵士たちは勘違いして受け取った。
「貴様! よくもメリッサ御譲様を洗脳したな!」
「おいおい、何言ってんだよ。俺がどうしてそんな事を?」
「そうでもなければ! ルーズヴェルトなどと・・・」
「今の言葉、訂正なさい。彼は私の素晴らしい夫よ」
表情に、口調。初めて見るメリーの姿に、俺たちは唖然とした。何と声を掛けていいのか分からない。
少なくとも、メリーは御譲様、と呼ばれる存在なのだ。エレナの様な御譲様、ではなく。そして、今のメリーが、おそらく今までのメリーに近いのだろう。
「あなたたちが引かないというのなら、私たちだって容赦はしないわ。戦争よ」
「っ! 御譲様を取り返す為、我々も容赦はしない!」
「あらそう。残念だわ。・・・関係ない人を巻き込むわけにはいかないわ。場所は制限するけれど、よろしいわね?」
なんか、可哀想だよな。こんなメリーしか知らないんだぞ? あの、天然で可愛いメリーを知らないんだからな。それで御譲様は俺たちのものだ、貴様のものではない! と言われてもなぁ。大体、メリーは望んで此処に居る。そう言っても、刺激するだけだな。
「もちろんだ! やはり御譲様はお優しい」
「そんな言葉、聞きたくも無いわ。用が無いなら帰って頂戴。場所は後で通達するわよ」
「なら、一週間以内で頼む」
メリーの言葉には順従な兵士たちは、ぞろぞろと帰っていった。とにかく、俺たちも戦力を整えないといけないな。
「ごめん、私のせいで」
「気にしないで。困った時は助け合わなきゃ!」
「ありがとう。あの人たち、結構強いはずだよ。ちゃんと整えなくっちゃ」
メリーはいつも通りのメリーに戻っていた。さっきまでのが嘘みたい。・・・嘘であって欲しいと思う。あんなメリー、見たくない。
メリーをああ躾けたのは誰なんだろ。ってか、俺には初めて会った時からあの口調だったんだけど、良いのか? ああいう人の前でしか使わなかったのかもしれない。
と言っている場合じゃない。さっさと戦力を整えないと乗りこんできそうだな。宛はあるか?
「えっと、私はお父さんに聞いてみる。エレナはホムンクルス貸してくれるかも」
と、エディ。
「魔界に帰してくれれば、悪魔たちを説得するよ」
と、リリィ。
「俺は父さんに聞いておこう。あと、ユーナと姉さんだな」
そして、子供たちを徹底的に鍛え上げる。一週間以内で何処まで出来るだろうか。急がなくてはいけないな。
俺たちは急いで出かける準備を整えていくのだった。
「全く、何をやっているんだお前は」
「すみません・・・」
「まあ良いだろう。メリッサの母さんに必ず守ると約束した以上、やらないわけにはいかないな」
「ありがとうございます」
父さんはなんだかんだ言っても助けてくれる。でも、いい加減自立せねば。
そんな事を言っていると、姉さんとユーナが来て、協力させてくれ、という。断る事は、出来ない。今はとにかく誰の助けでも借りたいところなのだから。
「ユーリ! お父さんが兵を貸してくれるって。それから、エレナと梓桜、澪桜、奈桜が来てくれるって」
「悪魔の方も問題ないよ、ユーリ様。召喚して」
「俺の方も問題ない。あとは俺たち自身だ」
俺が言うと、みんなは真剣な表情で頷いた。
「絶対勝つぞ!」
『おー!』




