第12話 修学旅行
特に変わったイベントはもうなかった。長期休暇もシミオンの為に帰宅せず。特に変わりのない毎日を過ごしていたら、いつの間にか三年生になっていた。
・・・いくらなんでも早すぎる? 何のことだ?
「修学旅行だよ、御主人様!」
「ああ、そうだな・・・」
「えぇ?! テンション低い!」
「パクスの外れの観光地ではない所に行くんだってな」
そう。この修学旅行、旅行と銘打っておきながら、実際は訓練。ダンジョンに入るらしい。別に、それだけなら何の問題も無いが、ダンジョン探検の教科の試験も兼ねているし、そのほかの成績にも大きく関わる。これは修学旅行ではない。俺のイメージと完全に違う。
しかも、体育祭なんかは力の差が開き過ぎる為なし。他のクラスの人と関わるのはこの機会のみ。相当狙われる事間違いなし。そして、嫉妬したリリィがコワい。
「はぁ・・・。もう行かなくて良いだろ」
「そんなこと言わないで! 私、ずっと楽しみにしてるんだよ!」
「そうかそうか。ダンジョンに入るんだってな」
「楽しみだなぁ。ダンジョン、まだ入ったことないんだもん」
そんな良いもんじゃないと思うが。どうしてそんなに楽しみなのか分からない。とにかく、準備は早めに済ませなくては。後で慌てるのは嫌だからな。
そんな事を考えつつ、鞄に教科書を詰めて寮に帰る。
「修学旅行、楽しみです!」
「っていうんだよ、ユリエル・・・。何処が楽しみなのかわかんない」
「同じく・・・」
「だ、そうだ、リリィ」
「えぇ?!」
まあ、エレナは小学校にほとんど馴染めていなかった。きっと、修学旅行も楽しくなかったんだろう。その分、友達の居る今が楽しみなのかもしれない。でもリリィはなぁ。あ、でも、リリィも小学校の修学旅行に連れて行ったわけじゃない。じゃあ、エレナと一緒だな。
「とりあえず荷物の準備しようか」
「そうだね。ほら、ユリエル!」
「あ、ああ」
鞄を探して中に荷物を入れる。旅行は明後日から。明日やるんじゃどう考えても遅いな。
にしても、試験になっているんじゃ頑張らないといけないな。錬金の成績が悲惨だから、他で挽回したい。そりゃそうだよな。一番簡単な薬草すら作れない。十回に一回くらいしか成功しない。つまり十回やったら九個毒が出来る。もうどうしようもない。これで成績良くしてなんて言えるはずもない。幾らアンジェリカ先生でも。
とにかく荷物は確認した。問題ない。ってことで、少し教科書を開く。
「あ、この四人でダンジョン入るのか?」
「うん。他の学年は十人一組。当然、それぞれの力に合わせて違うダンジョンに入るんだ」
「確か、行く場所はダンジョンの出来やすい環境らしいですよ。その日のうちに攻略できるダンジョンに行くそうです」
「ふぅん」
よく知ってるな。そう言ったら、リリィに「先生、言ってたよ?」と言われた。そうだったか?
「っと、もう夜ご飯の時間だね。ユリエルくん、教科書置いて」
「ああ。分かってる」
当日。全部で百六十人くらい居るから、一つのバスなんて不可能なわけで。クラスごとってことになっている。俺、エディナ、エレナ、シミオン、リリィ、梓桜、澪桜。それから、エレナの新しいホムンクルス奈桜。年は梓桜と澪桜の間くらい。目の色は右が青で左が茶色。髪の色は当然黒だ。
バスに揺られながら、俺たちは教科書の内容を思い返す。大丈夫だろうか。ダンジョン攻略はあまり得意ではない。って言うか、基本全部苦手だ。
そんな事を言っていてももう遅い。そして、いつの間にか眠っていた。
「御主人様ー。もうすぐ着くよ」
「・・・あ、リリィ。ありがとな」
「エレナ、エディナ起こして」
「はい。エディナ」
って、わ、外の景色が変わってる! ずーっと草原が広がっていて、他には何もない。超田舎だ。
俺たちの学校のある街の結構田舎なんだが、そんなレベルじゃないな。何にもない。学校の方は、まだちょっと行けば駅もあるし、コンビニ位ならある。駅があれば、遠くに行くことも可能だから、そんなに困ることはない、かな。
「これ、何処に泊まるんだ?」
「ダンジョンを探検する人用に集落があるんですよ。ダンジョンって、なんなのか、みなさん分かりますよね?」
「えっと、超大型に分類される魔物だったか?」
「うん。自ら魔物を作って、宝箱置いて、トラップ作るよく分かってない魔物」
そう言えば、何がしたいんだろうな。全く分からん。俺たちにとってはレベル上げと宝さがしで好都合だが。ただ、死人もよく出る。油断すると一瞬でな・・・。
確か、何回か入ると消えて、何処かにまた新しく出現する。難易度はランダム。魔力の濃い場所に多く生息するとか。
「とりあえず、油断しないで頑張りましょう。さて、そろそろ集落が見えてきますよ。ほら、あそこです」
『・・・、ちいさ』
本当に集落だな。で、殆ど冒険者用って感じだ。人はあまり住んでいないみたいだな。
辺りを見回しながら歩いていると、他のバスからも続々と人が降りてくる。これ、結構異質だな。
と思っていたけれど、さらに異質なもの。集落の一番奥に、ドーンと大きなホテル。縦だと目立つから、横に、奥に大きい。
「な、なんだこりゃ・・・」
「異質ですよねぇ、これ。なにせ、うちの学校の為にあるんです。そりゃ馴染むはずも無く」
「そ、そうなんですか・・・」
「とりあえず入りますよ」
普通に大きなホテルだ。荷物を置き、俺たちは指示されたダンジョンへと向かう。
本当に沢山のダンジョンがある。あっちを見ても、こっちを見てもダンジョンの入り口だ。
「さて、私たちが入るのはダンジョンは、難易度高めです。油断は禁物ですよ」
『はい』
アンジェリカ先生は、そう言ってある場所で立ち止まった。目の前には巨木。明らかに木ではない物質で出来た大きな、装飾の施された扉があるから、此処から入るんだろう。
アンジェリカ先生は、その扉にそっと触れようとした。が、触れる前に、何もしていないにもかかわらず扉が開いた。
で、全員が入り終わると、ガシャン、と大きな音を立てて閉まった。急に真っ暗になり、パニックになるエディナとエレナ。アンジェリカ先生が光魔法を唱え、明かりをつける。
「大丈夫ですか?」
「は、はい・・・。びっくりした・・・」
「大丈夫ですか、エレナお嬢様」
「うん、平気」
「では進みましょう。トラップには十分注意、ですよ?」
ダンジョンは生きている。だから、道の形も変わってしまう。つまり、地図は何の役にも立たない。ただ、動きやすいダンジョンとそうでないダンジョンがある。此処は難易度高めと言っていたけれど、攻略が、だろうか。魔物の強さが、だろうか。ちなみに、生息する魔物は変わらない。
「さて。此処のダンジョンは、少し強い魔物が出ます。が、大して問題ではないでしょう。問題は、攻略法。トラップが非常に多く、道もよく動きます。十分注意して動きましょう」
話をしながら歩いていると、向こうから魔物がやってきた。あれは・・・。
「突進百足」
「ですね。赤いので、火でしょう。倒せますね?」
「もちろん。雨」
エディナの魔法で真っ赤な百足は死んだ。火の魔物には、水が効果的だからな。
その後も、歩いても歩いても現れるのは百足。此処は百足の住処か?
水色(氷)のムカデを倒したところで、キャーっ、と悲鳴が聞こえてきた。劈くような高い声。おそらく小さな女の子! 俺たちは一斉に走り出した。当然、トラップには細心の注意を払って。
居た! って言うか、『多分あそこ』だ! ちょっと部屋みたいに広くなった場所。沢山の百足が、その中の一カ所に集まっていく。俺たちは其処に居るであろう女の子を傷付けないよう気をつけながら、全ての百足を追い払った。一瞬アンジェリカ先生が試練として準備したのかと思ったけれど、表情を見る限りそうではないらしい。
「怪我はない?」
「え、あ、あの・・・」
紺色の髪。でも、尖った耳がある。白魔族は、髪の色が薄い事が多いのに。ん、小人も尖ってるっけ?
年はユーナくらいだろう。ユーナは今年、アルファズール武術学院のAクラスに入学した。
その少女は、俺たちを見ると、ぽろぽろと涙を流し始めた。
「・・・。ほら、もう大丈夫だ」
「うっ、うっ・・・」
「大丈夫だよー。ちょっと休もっか」
「は、はい・・・」
俺に続いてリリィが声を掛ける。その女の子は言われるままに部屋の端に行く。
少しして、落ち着いた少女にエディナが声を掛ける。
「大丈夫? 名前はなんて言うの?」
「ディ、ディオネ・・・」
「ディオネちゃんかぁ。良い名前だね。どうしてこんなところに居るの?」
「よく、分からないの」
「え?」
ディオネは、少し俯いて迷ったような表情をした。それから、顔を少し上げて話し始める。
私、白魔族なの。でも、なんでか、目と髪の色が、紺色で・・・。みんな、私のこと、こんな白魔族はおかしい、って言って。家でも、お母さんもお父さんも私の事をぶったりするし・・・。私、何時も一人だった。
それで、小学校を卒業して、私、家出したの。もう、そんな場所には居られなかった。でも、そんなにお金を持っていたわけでもないし、どうしていいのか分からなくて。そうしたら、ローブを被った女の人が近づいて来て、私に言ったの。
「行くところが無いならおいで。紺色の髪の白魔族だからって、見捨てたりはしないわ。私の家には、そんな子が沢山居るの。来てみない?」
私、ついて言っちゃった。どうせ、希望、なかったし。どうでもよかった。ただ、少しでも、信じられるなら。
其処には、お姉さんの言っていた通り、沢山の子供がいた。ちょっと変わった子もいた。みんな、私の事をいじめたりなんかしなかった。
其処で幸せに暮らせるんだろうって思ってたのに、その女の人が病気になったの。私たち、何とか治したくて、頑張って薬を探したの。そうしたら、ダンジョンにあるって。
みんな、怖がって行きたがらなかった。だから、私を含む数人でグループを組んだ。みんなで、薬をとりに行こうって。
でも、気がついたら、私、此処に一人で・・・。どうしていいのかわかんない・・・。
「・・・ん、あ、そっか。薬、取りに来たんだっけ」
「話して思い出した?」
「うん」
「その、一緒に来た子って、何人だ?」
「私を含めて、四人」
それじゃ攻略は厳しいだろう。小学校を卒業しただけの子四人で攻略できるほど、このダンジョンは甘くない。さっきから沢山出る百足も、そんなに弱いわけじゃない。普通の人だったら苦戦するレベルじゃないだろうか。
「グリフィンくんと、セドリックくん、ヘーゼルちゃんと、私」
「特徴は?」
「グリフィンくんは、爪を使う猫獣人。茶色い髪で、尻尾と耳があるの。セドリックくんは、小人。ハンマーを使ってる。ヘーゼルちゃんは黒魔族。濃いグレーの髪をしてるの」
「なるほどな」
とりあえず、ディオネは俺たちと行動する事になった。途中で他の子を見つけたら合流する。そして、最終目標は、この子の探す薬だ。
ってことでまた歩き出す。あ、また百足。リリィがディオネと話しながら魔法を撃った。おお、見事命中。一発で死んだな。
「え、凄い・・・」
「ん、そう? でもご主人様、このまま行くと魔力怪しいかも」
「じゃあ、次からは俺が前に出て倒そう」
「お願いしましょうか。ユリエルさん、頼みましたよ」
「はい」
とはいっても、俺、この辺の敵じゃ遊んでるみたいだしな。とん、と飛んで敵の後ろに回って斬るか、スピードで押し切る。この程度の事、頼まれるほどじゃない。もっと強い敵が大量に来たら話は別だが。
的確に急所を狙って一発で。生物学をしっかりやっておいてよかったと思う。急所は記憶済みだ。
「ごめんなさい、私の為に・・・」
「気にしないで良いんだよ。私たち、どうせ此処を攻略しなきゃだったし」
「・・・。ありがとうございます」
そう、これ、一応試験なんだよな。しっかりやらないと。




