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お手伝いします!

翌日も、私はメイドさんに連れられ、いそいそと隠密部隊の隊舎へ足を運ぶ。

今日は、リュシンさんとお話ができるといいな。

隊舎に着くと、メイドさんと別れ扉をくぐる。

すると途端に、隊員さん達にキラキラとした目を一斉に向けられた。

うっ、眩しい……!!


「お、おはようございます、皆さん。今日もお邪魔させていただきますね」


私は軽く頭を下げてそう言うと、昨日と同じく、隊長さんの隣にある席に行って、座った。

それを見て、隊員さん達は揃って席から立ち上がる。

しかし、私のほうへと一歩を踏み出そうとした矢先、それよりも早く隊長さんが声を上げた。


「待て! 今日は各自、自分の仕事はきちんと自分でやるように! それが終わらない限りは、異世界の乙女との交流は一切認めないからな! これは隊長命令だ! わかったら席に戻って仕事しろ~」


その言葉にぴたりと動きを止めた隊員さん達は、ガタガタっと音を立てながら席に戻ると、昨日同様、猛然と書類に向かった。

一方私は、隊長さんの言葉に首を傾げた。

"今日は自分の仕事は自分で"って、どうしてそんな事言うんだろう、隊長さん。

皆さん昨日、ちゃんと仕事してたのに。

あ、もしかして。

昨日、戻ってきてからは皆さんずっと私とお話してたけど、実は仕事終わってたわけじゃなくて、残ったものを隊長さんがフォローしたとか?

だとしたら、今の言葉も頷けるし……ってそういえば、隊長さん昨日困った顔してた!

あれってそのせい!?

う、私がこの隠密部隊から護衛選ぶ事にしたせいで、隊長さんに迷惑かけちゃったかな……。


「あ、あの、隊長さん。何かお手伝いする事はありませんか? 皆さんがお仕事終えるまで、私、する事ありませんし。何か私が手伝っても支障ない事があれば、お手伝いします」


もし迷惑かけたなら、その分何かを手伝う事で返さないと!

せっかく出会えた貴重なイケメン集団のいる場所を、出禁にでもされたら困るし!

何しろここの他はゴリラとでっぷりしかいない。

護衛をその中から選ばなきゃならなくなったら、私確実に病む。

精神的に。

そんな思いから、私は隊長さんを見つめて手伝いを申し出た。


「手伝い、ですか。それは有り難いお申し出ですね。では……そうだな……」


隊長さんはにこりと微笑んでそう言うと、言葉を切り、何かを考えながらぐるりと部屋を見回した。

すると、書類に向かっていた皆さんが一斉に顔を上げ、隊長さんに注目する。

そしてその中の一人が、突然バッと手を上げた。


「はい! はい隊長! 俺は今あの男爵とあの男爵とあの子爵の調査結果を纏めてます! 数があります、手伝いが必要です!!」

「な、ずるいぞ! それなら俺だって量がある! 隊長! 俺にこそ必要です!!」

「待てよ、それなら俺だって! 隊長、どうか俺に手伝いの愛の手を!!」

「却下。異世界の乙女とはいえ、調査結果なんてものを見せるわけにいかないだろう。駄目だ」


手を上げた一人を皮切りに、何人かの隊員さんが次々に声を上げたけれど、隊長さんは一言でばっさり切った。

声を上げた隊員さん達は『そんなぁ……』という声を出しがっくりと項垂れる。

すると、別の場所からまた手が上がった。


「なら隊長! 俺に手伝いを! 例の城塞の見取り図製作、あそこ広くて大変なんです!!」

「……お前の頭の中にある城塞の造りを、どうやって異世界の乙女が見取り図に書き出すんだ? 却下」


隊長さんがまたばっさり切ると、同じような事で手伝いを願おうとでもしたのか、数人の隊員さんが項垂れた。

も、もしかして、私が手伝える事って、この部隊にはないんだろうか……。

よ、余計な事、言っちゃったかなぁ?

項垂れる隊員さん達を見て、私は罪悪感を感じ始めた。

けれど次の瞬間、す、と、今度は静かに手が上がった。

手を上げたのは、リュシンさんだった。


「隊長。俺、任務で使用した旅費の計算がまだです」

「お、そうか、旅費か。それなら問題ないな。異世界の乙女……アイラ様。リュシンを手伝って戴けますか?」

「えっ、は、はい!!」


や、やった!

リュシンさんのお手伝い!!

私は喜びを胸に秘め、椅子を持ってリュシンさんの机に移動する。

リュシンさんは椅子を引いて横にずれ、私が机の半分を使えるようにしてくれた。


「あ、ありがとうございます。よろしくお願いします、リュシンさん!」

「こちらこそ。じゃあこれ、使用した金額を記した控え。計算よろしく」

「はい!」

「はいはい、お前ら~。リュシン睨んでる暇があったら手を動かせよ~」

「え?」


リュシンさんに挨拶していた私が、耳に入った隊長さんの言葉に顔を上げると、隊員さん達が全員羨望と憎しみが混じった視線をリュシンさんに向けているのが目に入った。

隊員さん達は私が見ている事に気づくと、曖昧な笑顔を作って書類に視線を戻す。

うわぁ……っ。

昨日囲まれた時は、単に異世界人が珍しいせいかとも思ったけど……これはもう、勘違いでも何でもない。

私は今、確実にイケメンにモテている……!!

ゴリラやでっぷりがモテるという事実から、異世界って恐ろしいと思った事もありました。

けれど、平凡ぽっちゃりな私がイケメンにモテるって……イケメンにモテるって!!

異世界って素晴らしい……!!

私は感動し、目を潤ませた。


「……アイラさん? どうかした? 計算、もし難しいなら、これ使うといいよ」

「あっ……! は、はい、ごめんなさい! ありがとうございます!」


既に書類に向かっていたリュシンさんは、手が止まっている私に気づくと、首を傾げるように下から私を覗き込んだ。

そして、青く透き通った、四角い、平べったい石のような物を差し出してくる。

私はそれを受け取り、お手伝いに集中しなければと意識を書類に向けた。

えっと、これを使って、計算ね。

………………ん?


「あの……リュシンさん? これって、何ですか?」


私はリュシンさんから受け取った何かを手に取り眺めながら尋ねた。


「え……知らない? 計算をする為の魔法具だよ」

「……計算をする為の……魔法具?」


それは、あれですか。

この世界における電卓って事ですか。

これ、数字キーも何もないただの青く透き通った四角い石なんですが……。


「えっと、すみません。こ、これ、どうやって使うのか、教えて貰ってもいいですか?」

「ん、わかった」


負担を減らす為の手伝いのはずなのに使い方を教えるという面倒を増やすとか、申し訳なさ過ぎる。

せめて一度の説明で覚えるべく、私は真剣にリュシンさんの説明を聞いた。

幸い、使い方は、ただ指で石の表面をなぞり、数字と数式を記せば解答が浮き出てくるという簡単なもので、私はホッと胸を撫で下ろしたのだった。

計算を終え、リュシンさんに書類を返すと、リュシンさんは机の引き出しから本を一冊取り出し、『暇潰しにどうぞ』と言って、渡してくれた。

"カストール王国百選"と書かれたその本は、この国の名所や名物、更には数人の美男美女まで紹介されていた。

私は、いつか行ってみたい、食べてみたいな、と興味を惹かれながらページを捲り、時間を潰した。

紹介されてた美男美女は……うん、見ないほうが良かったです……。

私のような価値観の異世界人の為に、今度、不細工な男女を紹介する本を出すといいよ……私、買うから。


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