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ちょっぴりお話できました

スタスタと前を歩いていたリュシン君は、建物を出た少し先の木陰で足を止め、そこに座ると隣をポンポンと叩き、私にも座るように促した。

私は素直に従い、リュシン君の隣に腰を下ろすと、口を開いた。


「この場所は、リュシン君のお気に入りの場所なの?」

「いや、別に。そういうんじゃないけど……ここなら、そうすぐには見つからないから。話をするのにちょうどいいんだ」

「そ、そうなんだ」

「うん」


そう言って笑みを浮かべたリュシン君の顔を直視できず、私は少しだけ視線をずらした。

"見つからないからちょうどいい"って……こんなふうに隠れるようにしてまで、私と話したいって事だよね?

どうしよう、嬉しい~!!

うぅ、顔がにやける……。

って、ダメダメ、浮かれてないでちゃんとお話しなきゃ!

時間は限られてるんだし!


「あっ、あの、それじゃ改めて。私、アイラ・カガミ。十五歳だよ。よろしくね!」

「うん、よろしく。俺はリュシン・レンベール。歳は十六。カストール騎士団、隠密部隊所属の騎士だよ。今年入隊した、新人だけど」

「へぇ、騎士になったばかりなんだね!」


フルネーム、リュシン・レンベール君。

十六歳で、新人騎士、っと。

よし、心のメモ帳にしっかり書き記したよ……って、あれ?

じゅ、十六歳……?


「嘘、歳上!? ご、ごめんなさい!! 私てっきり同い年かと……!! やだどうしよう、君呼びとか、タメ口とかしちゃっ……な、馴れ馴れしかったですよね!? 本当に、ごめんなさい!!」


私は慌てて立ち上がり、リュシン君……じゃなくて、リュシンさんに頭を下げた。

ほ、本当に、どうしよう。

騎士って確か、礼節とか重んじるよね?

理想のイケメンに礼儀知らずとか思われて嫌われでもしたら立ち直れないかも……!!

そんな考えがぐるぐると回り出すと、リュシンさんが軽く首を振ったのが視界の端に映った。


「……別に、構わないよ。俺、よく実年齢より若く見られるし。気にしてないから、顔上げて、座って。でないと見つか」

「リュ~シ~ン~? 俺達は迎えに行けと言ったのに、帰って来ないで、こんな人目のない所に異世界の乙女連れ込んで……何をしてるのかな~?」

「え」


すぐ近くから、リュシンさんの言葉を遮るように聞こえてきた低い声に私は顔を上げ、そちらを見た。

次いで、リュシンさんも同じ方向を向く。

そこには焦げ茶色の髪に朱色の瞳をしたイケメンが、笑みを浮かべて立っていた。

何故か目は笑っておらず、どこか剣呑な光を宿しているが。


「……早かったですね、先輩」


溜め息混じりにリュシンさんがそう言うと、その人は物凄い速さで近づいてきて、リュシンさんの頭をぺしりと叩いた。


「舐めるなリュシン。俺はこれでもお前より隊の在籍は長いんだ。探索も情報収集も、引けは取らないぞ」

「ええ、そのようですね。……仕方ない、戻りましょう、アイラさん」

「え? ……あ、はい……」


立ち上がってそう言うと、リュシンさんは来た時と同様、スタスタと歩き出してしまった。

その後を追うように、私もゆっくりと歩き出す。


「さぁ、戻りましょう異世界の乙女! 隊舎で皆が貴女のお戻りを待っていますから!」

「は、はい」


嬉しそうに笑って私に歩幅を合わせ、隣を歩いてくれるイケメンに返事を返しながらも、私の視線はリュシンさんの背中に向いていた。

……結局、フルネームと年齢しか聞けてないや。

隊舎に戻ったら、またお話できるかなぁ。

もう少し、話したい。

そう思いながら、隠密部隊の隊舎へと戻った私だったが、その後は隠密部隊の皆さんに囲まれ、次から次に話しかけられて、まるで逆ハーレムのような状態になった。

……皆さん、さっきやっていた書類はもう片付いたのかな?

ふと疑問に思って隊長さんがいる机へ視線を向けると、目が合った隊長さんは眉を下げて苦笑した。

な、なんか困った顔のようにも見えるけど……何も言わないって事は、やっぱり皆さん書類は片付いたんだよね?

あれ、そういえば、リュシンさんはどうしたんだろう?

いつの間にか姿が見えないけど……。

リュシンさんの姿を探して周囲を見回してみると、隊員の皆さんの壁の隙間から、机の上に大量に積まれた書類を見つめてげんなりした表情を浮かべているリュシンさんが見えた。

ああ……任務に出てた分、未処理の書類がたくさんあるのかな?

なら、お話したいなんて言ったら、迷惑だよね……。

仕事の邪魔をするわけにはいかないし……我慢しなきゃ。

あんなに書類が溜まってるのに、ちょっぴりとはいえお話してくれただけでも、感謝しないとだよね。

残念だけど、今日はこのまま、他の皆さんとお話しよう……。

そう思った私は気持ちを切り替え、メイドさんが迎えに来るまで、隊員の皆さんと楽しくお喋りした。

時折目が勝手に、リュシンさんの姿を、追ってしまったけれど。

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