逆転の価値観
気がつくと、やたら広い部屋の、天幕付きのベッドに横になっていた。
体を起こして周囲を見回すと、部屋の隅にいた女性と目が合った。
かなりふっくらした体型に、ぶ……個性的な顔。
彼女はにんまりと――いや、本人はきっとにこりと微笑んでいるつもりなんだろう――笑うと、私の側へと歩み寄って来て、口を開いた。
ここは、私にと宛がわれた部屋らしい。
そして彼女は、私につけられたメイドさんだという事だった。
どうやら私は、あの王様と王子様からされた説明を聞き終わった途端、気を失ったらしい。
恐らく、あまりの内容に脳がキャパオーバーを起こしたのだろう。
メイドさんが部屋を出て行くと、私はふかふかのソファに体を沈めた。
そして深く息を吐き気を落ち着けると、説明された内容を思い返した。
なんとここは、異世界らしい。
ハイデンベルクという世界の、カストール王国。
その王城に、今私はいる。
この世界には極稀に異世界から人が迷い込むらしく、発見された場合は王城で保護する決まりらしい。
これは、異世界人が子をなすと、万能と言っていいほどの優れた才能を持つ子が生まれるらしく、できれば城に出入りする身分ある者と愛を育み、子をなして欲しい、との願いがあるからだという事だった。
その話を聞いた直後、私はあの王子様に『お相手には自分などいかがですか?』という台詞をウインク付きで言われ、ぞぞぞっと悪寒が走り、全身に鳥肌が立った為、全力でお断りをした。
するとあの王様と王子様は、『照れておられるのだな』とか、『恥ずかしがる事はないですぞ』とか、的外れな事を言い出した。
しかし、その台詞は決して、"的外れな事"ではなかったらしい。
驚くべき事に、この世界では、彼らは物凄くモテるイケメンらしいのだ。
この世界でイケメンというのはああいう人らしい。
一番モテるのは、太っててぶさいくな人。
つまり王様のような人。
二番目にモテるのは、ムキムキマッチョでぶさいくな人。
つまり、私を助けてくれた男性のような人。
三番目にモテるのは、背が高く、ひょろりとした色の白い人。
つまり、王子様のような人。
そして、逆にモテないのは、整った顔をした程よく筋肉のついた人。
つまり、私の世界でいうところのイケメン達だった。
あり得ない……。
これは女性も同じらしく、太っててぶさいくな人ほどモテるらしい。
信じられない事に、平凡な顔でちょっとぽっちゃりしている私は、この世界ではかなり可愛い部類に入るらしい。
異世界って、恐ろしい。
私が可愛いって言われた事にも違和感があるし、何よりあれらがイケメンだなんて……。
ウインクした王子様の姿が脳裏に蘇り、私は思わずぶるりと身震いした。
なんか、寒気がする。
ベッドに入って布団にくるまろうかな……。
そう考えて立ち上がるのとほぼ同時に、扉からノックの音がした。
「はっ、はいっ!?」
突然響いたノックの音にビクッと体を震わせ、私は上擦った声で返事を返してしまう。
扉が静かに開かれると、メイドさんが顔を見せた。
「失礼致します。国王陛下がお呼びです。どうか私と一緒においで下さい」
お、王様が……?
またあの太い体と個性的な顔の人と会わなきゃいけないのか……。
……いやいや、駄目だ。
これから全面的にお世話になるんだし、こんな事考えたら失礼だよね、うん。
「わかりました。行きましょう!」
私は王様と会う覚悟を決めると、メイドさんに続いて、部屋を出た。