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決着

本日2回目の更新です。

暗闇の中で、ぼんやりと意識が浮上する。

どこか現実味のない場所で、私は何故か淡いオレンジ色の豪華なドレスを着て佇んでいた。


『何故貴様がここにいる!?』


そんな怒号が聞こえて前を向くと、正面には二人の男性。

一人は、まっ黒い鎧を纏いこちらを睨みつける、あの傲慢な騎士、アジャスト・ウルセイル。

もう一人は、私を守るように背に庇い立っている、立派なまっ白い鎧を纏った、リュシンさんだった。


『何故? 俺はこの方の護衛騎士だ。この方の側にいるのは当然だと思うが?』

『くっ……! ……貴様などに、邪魔をされてたまるか! 姫は私のものなのだ! 衛兵、こいつを片づけろ! ここは私の城だ、侵入者を排除するのだ!』

『はっ!』

『……誰が、誰のものだと? ……寝言は寝てから口にして貰おうか……!』


激昂して怒鳴ったアジャスト・ウルセイルの言葉で、衛兵達が一斉にこちらに向かって駆け出した。

対してリュシンさんは怒りを顕にした低い声で小さく呟くと、素早く腰に差した剣を抜き放つ。


『姫、下がっていて下さい。この程度の輩、すぐに片づけます!』


リュシンさんは顔だけで私を振り返りそう言うと、地を蹴り、斬りかかってくる衛兵を瞬く間にその場に沈めていった。

私は呆然とその様子を見て、それからぐるりと周りを見回し、ポンとひとつ、手を打った。


「ああ、これ、夢なんだね」


うんうんと小さく何度も首を縦に振りながら、納得したように呟く。

いや、訳がわからなかったんだ。

立っている場所は知らない所だし、脇にはなんか真っ黒な重苦しい感じのお城があるし、リュシンさんとあの傲慢騎士は見たことない鎧を着て"姫"とか"私の城だ"とか言ってるし。

私はお姫様じゃないし、傲慢騎士は貴族であって王族じゃないからお城を"私の"だなんて言うわけないし。

そっかそっか、夢か、良かった。

………………。

……いや、待って、あんまり良くないかも……?

どうしたの私、何でこんなメルヘンチックな夢見てるの!?

この夢、どう考えても"悪い王様に拐われたお姫様を助けに来た聖騎士様"な光景だよ!?

いや、実際今、現実(リアル)でも似たような状況にはいるけれども!!

だからって自分をお姫様にして、背に庇われながらあの悪者王様(ごうまんきし)聖騎士様(リュシンさん)の直接対決なんて王道(ベタ)な展開を夢に見なくてもいいでしょう!?

起きて、起きよう、今すぐ!!

こんな夢恥ずかしいよ~~!!


★  ☆  ★  ☆  ★


「……ッ!!」


僅かに上下に体を揺らしながら、私は勢いよく目を開けた。

目の前で繰り広げられる二人の激闘を見ながらも必死で念じたのが良かったのか、なんとかあのメルヘンな夢の国から帰って来れたらしい。

ホッと息を吐きながら寝返りを打つと、真っ暗な部屋の中で何かがギラリと鈍く光った。

あれ、何だろう?

慣れない暗闇に目を凝らしてみると、次第に視界がはっきりしてくる。


「!?」


見えているのが何なのかがわかると、私は驚愕に目を見開いた。

私は、まだ夢の中にいるんだろうか……?

目の前には、荒い息を吐きながら壁に背を凭れて立つあの傲慢騎士と、その傲慢騎士の首に剣を突きつけて立つリュシンさんの姿があった。


「……まさかこの私が、貴様などに負けるとはな……」

「俺は隠密部隊の一員なんでね。……他の隊の包囲を抜けてここまで辿り着いたのには賞賛してもいいが、犯罪者を最後まで逃げおおさせる程、うちの隊は甘くない」

「……実力主義の隠密部隊、か。何を馬鹿げた事をと思っていたが……どうやら真実らしいな。くそ、おかげで私の崇高な計画が、水の泡だ」

「何が崇高な計画だ。……アイラさんに害を為した事、牢の中でとくと後悔するといい」

「ふん……」


苦々しげに話す傲慢騎士と、剣を首に突きつけたまま低く鋭い声色で言い放つリュシンさんを見ながら、私は上半身を起こし、首を傾げる。

あれれ?

これ、夢じゃない……?

場にそぐわず、そんな呑気な事をぼんやり考えていると、窓の外から馬の嘶きが聞こえ、次いでバタバタと慌ただしく走る幾つもの足音、そして、バン! と乱暴に扉が開かれる音がした。


「お迎えだ。これで終わりだな、アジャスト・ウルセイル」

「……終わり、か。……あの程度の女を手中にしようとして破滅するとはな。可愛らしい部類には入るものの絶世の美女でもない女の為に狂う人生とは、なんと馬鹿馬鹿しい……。……女、覚えておくがいい。私達この世界の者にとってお前は、異世界の乙女という他には……お前自身には、価値などない。大事に持て囃される為のその看板を、精々大事にする事だな」

「!」


傲慢騎士は口の端を歪めて自嘲気味に笑いながら、真っ直ぐに私を見て言った。

……私自身には、価値がない?

大事に扱われるのは、私が異世界の乙女と呼ばれる存在だから……ただそれだけ?

……いや、たぶん、王様とかには、そうなんだと思う。

それはわかるし、理解できる。

だけど……。


「……それを本気で言っているなら、お前の目は節穴だな。近づく事を許されなかったとはいえ、お前もほぼ行動を共にしていたというのに、お前はアイラさんの何を見ていた? ……それ以上ふざけた事を口にしてアイラさんを傷つける気なら、しばらく声が出せないようにしてやろうか」


私がゆっくりとリュシンさんに視線を移すのと同時に、リュシンさんは更に低い声でそう言って、剣を持つ手を傲慢騎士の首により近づけた。

そうしている間もバタバタと走る音は聞こえ続けて、次第に近くなり、そして。


「ああ、いたいた! 久しぶりアイラさん、大丈夫? リュシンはお疲れ! ……って、おい!? それ首の皮切れてないか!? やり過ぎは駄目だって言われたろリュシン!?」


この部屋の扉が開かれると同時に現れたフェイさんは、私とリュシンさんに軽く声をかけると、慌ててリュシンさんと傲慢騎士の元に駆け寄った。

そんなフェイさんの登場を皮切りに、後ろから次々に騎士様達がなだれ込む。

その様子を横目で見たリュシンさんは舌打ちして、大人しく数歩下がり場所を空けた。


「アジャスト・ウルセイル! 異世界の乙女誘拐並びに監禁の罪で拘束する! 神妙にしろ!!」


騎士様の一人が凛とした声で高々にそう告げると、傲慢騎士は縄を打たれ、何人もの騎士様に囲まれて連れて行かれた。

傲慢騎士と周囲の騎士様が扉の向こうに消えると、傲慢騎士に拘束を告げた騎士様がくるりと振り返って、私に近づき、目の前に膝をつく。


「異世界の乙女、救出が遅くなり大変申し訳ございませんでした。お怪我はございませんか?」

「あっ、だ、大丈夫です……」


心配そうに私を見て謝る騎士様に、私はか細い声で返事を返した。

視線は段々下を向いて、騎士様から自分の膝へと移っていく。

あの傲慢騎士の言葉のせいだろうか、"異世界の乙女"と呼ばれた事が、なんだか嫌だった。


「異世界の乙女? どうか、なさいましたか?」


そんな私の気持ちを知らない騎士様は、戸惑ったように顔を覗きこんでくる。

またも呼ばれた"異世界の乙女"という呼び名に、私は唇を噛む。

この騎士様に悪気がない事はわかっているのに、返事を返す事ができない。


「騎士団長。この方の名前は、アイラ・カガミさんですよ」

「む?」


俯いた視界の端に、リュシンさんの靴が移る。

どうやら私の前、膝まづいた騎士様の隣に移動したらしい。


「アイラさん、あんな奴の言う事を気にする必要はないよ。君に価値がないなんて事はない。なぁ、フェイ?」

「え、勿論だよ。……何、あいつそんな事言ったの? しばらく口をきけないようにしてやれば良かったのに」

「そうしようとしたらお前が止めたんだろう。……ほら、アイラさん、聞いたろう? あんな奴より、俺達の言葉を信じて欲しい」

「リュシンの言う通りだよ。アイラさんの価値は、共に過ごした僕達がよくわかってる。信じて?」

「……リュシンさん、フェイさん……」


二人の言葉に、私は俯いていた顔を上げる。

二人とも、優しい目をして、微笑んでいた。


「さ、帰ろう? あいつの悪あがきのせいで、予定より少し早まったけど」


そう言うと、リュシンさんは腕を伸ばし、私を抱き上げた。


「騎士団長。アイラさんを休ませたいので、お先に失礼します。フェイ、転移」

「了解。失礼します、騎士団長」

「うむ。陛下への報告は任せておけ。異世界の乙女……いや、アイラ様への許しがたい暴言についても、きっちり報告しておこう」

「「 お願いします 」」


二人のその言葉を最後に、私は傲慢騎士の屋敷とお別れして、お城の自分の部屋へと帰った。

部屋に帰れた安堵と二人が言ってくれた言葉の嬉しさが怒濤のように押し寄せて、その夜、私はリュシンさんにしがみつきながら、片手でフェイさんの服を掴んで、眠りにつくまで、決して離さなかった。

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