そこにある安心
私の大好きな色の瞳をしたその人の優しい微笑みを見ると、途端に胸にあった絶望がスッと消え、代わりに安堵が広がっていくのを感じる。
視界が段々歪んできて、その人の姿がぼやけていく。
一滴、雫が頬を流れると、堰を切ったように次々と涙が溢れ出る。
「リュッ、リュシ」
「初めまして、アイラ様。私はメイドのユンと申します。心を込めて精一杯お世話させて頂きますわ」
しゃくりあげながらも名前を呼ぼうとした涙声は、その人――リュシンさんによって遮られた。
挨拶を口にしながら、一度自分の口に人差し指を立てちらりと扉に視線を向けた後、手を伸ばして優しく私の涙を拭う。
……ああ、そっか。
扉の外には見張りがいる。
もしリュシンさんの名前を呼ぶのを聞かれたら、リュシンさんはここにいられなくなる。
リュシンさんって呼んじゃ、駄目なんだ。
「……ユン、さん……ですね」
「はい。さぁアイラ様、お食事をなさって下さいませ。それが済んだら、少しお眠り下さい。……ずっとベッドにおられたにしては、目の下、薄く隈ができておられますから」
「え……?」
リュシンさんは私の手を引き、テーブルへと連れていく。
それに従ってテーブルにつきながらも、私はリュシンさんに視線を向け続けた。
……鏡は見ていないけど、確かに、隈はできてるんだろう。
昨夜は不安で、怖くて、ろくに眠れなかったし。
でも、『お眠り下さい』って……食事は、昨日から何も食べてないから取りあえず食べるにしても、それが済んだら……ここから逃げるんじゃ、ないの?
そんな物言いたげな視線に気づいたのか、リュシンさんは苦笑して給仕の手を止め、私の手を取った。
手を開かせて、掌に指を走らせる。
私はその様をじっと見つめた。
「……!」
"必ず助ける、でも、少しだけ待ってて"。
そう掌に書かれた言葉に、弾かれたように再びリュシンさんを見上げると、リュシンさんは申し訳なさそうな表情をしていた。
口が動いて、『ごめん』という声なき言葉を紡ぐ。
……そっか、すぐには、ここを出られないんだ。
私を助ける、手順か何かが、あるのかな?
……よくは、わからないけど……でも、リュシンさんが側にいて、必ず助けるって約束してくれるなら、それで十分だ。
信じて、心穏やかにここを出る日を待っていられる。
私は笑顔を作ると、首を振って、『待ちます』と口を動かし、食事を取るべくフォークとナイフを手に取った。